時の栞

何を見て、何を思い、どう表現したのか。
私の欠片であるコトバで綴った、私自身の栞です。

プリンセス・トヨトミ * 万城目 学

2009-08-11 18:37:05 | 読了備忘録
「鴨川ホルモー」では京都、「鹿男あをによし」では奈良、「プリンセス・トヨトミ」は大阪という関西三都物語。

万城目さんのことだから「鴨川ホルモー」や「鹿男あをによし」のキテレツな面白さの流れで、どんだけ抱腹絶倒なお話になるのかと期待して読むと、うーん、となってしまうかもしれません。

とまぁ、こう書くと、あまり面白くはないのかと思われるかもしれませんが、そんなことはなく、やはり万城目さんならではの発想が光る壮大なファンタジーであり、登場人物への優しい視点も増してますが、ただ、これを機に、だんだん真面目な作風に変わっていくのかなぁと感じさせるものがありました。

そもそも歴史小説を書きたくて小説を書きはじめただけに、登場人物も歴史上の人物の名前がつけられ、小説の核となる秘密にかかわるように配置されていることも面白いし、赤く燃える大阪城は、夏の陣で真田軍が編成した赤備(あかぞなえ)からイメージしたのだろうかと想像して楽しかったです。

ガイドブックのようだったり、東京駅や日本銀行・本店などを設計した辰野金吾に代表される近代建築の薀蓄部分は良く書き込んである分、じれったさを覚えることもありましたが、大阪の歴史と街並み、大阪人の気質、父と子の絆などを丁寧に織り込み、面白いながらも心にじんわりとあたたかいものが溢れる作品でした。

読みながら、登場人物の一人、女子になりたい中学生の大輔を通して描きたいものは、何だろうと考えていましたが、セーラー服を着たがる大輔が自分のことを最後まで“僕”と言っていることから性同一性障害への偏見に対する批判などでは無く、「真田家」の長男であるという設定からして、守るべきものの為に毅然として立ち向かう強さを持つこと、その象徴としてではないかという気がしました。

その肉付けとなるのが、歴史であり、大阪という人情の町であり、父と子の絆であり、路地や商店街など、ご近所同士のつながりであり、幼馴染の女の子なのかなぁと。

個人的には会計検査院の調査官・松平の最後の決断には同意できませんが、ま、小説だし、万城目さんだし、ってことで。

これまた続編を読みたくなる一冊でした。


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