2005年7月にトーダル&WZ-オルキエストラが発表したアルバム。
このシンプルなジャケットデザインをご覧ください。白地にMとWの文字しかありません。
(しかも色の配色と字体がロシアンアヴァンギャルド風、という凝りよう。)
「MW? 何だそりゃ? Man&Womanの略で『男と女』っていう意味のアルバムかい?」
と思われた方もいるかもしれません。
実はそうではなく、「M」はマヤコフスキー、「W」はWZ-オルキエストラの頭文字のことです。
ジャケットの裏を見て初めてアーティスト名などが分かるという仕掛けになっています。
マーサはこのデザイン、トーダルの数々のCDジャケットデザインの中ではベストだと思うのですが、どうでしょう?
しかし、このアルバム、なかなかすぐにCD店で販売されませんでした。なぜかと言うと・・・
まずこのデザインを見てベラルーシのCD店が
「これじゃ何が何だかさっぱり分からない。」
つまり、「売れない。」ということで、店頭販売することを拒否するという、涙のいきさつがあったのです。
さらに「MW」のほうが「月と日」より先に完成したものの、「MW」は特注ジャケットにコストが思いのほかかかって、販売価格が上がってしまい、流通にすぐ乗せられなかった、という事情が当時あったため、「MW」を一般店舗で買うこと
は発表当時できませんでした。
ようやくCD店で販売されるようになったのは「月と日」より後で、しかも初めのうちは、裏ジャケットを表にして店頭に並べられていました。
(でも今は「MW」の認知度が上がり、普通に表を向けて、販売されています。)
「月と日」完成後、私は「MW」をトーダルから直接プレゼントしてもらいました。(サインもしてもらったので、私のお宝。)(^^)
中を開くと、トーダルの坊主頭の白黒写真が出てきてびっくりします。同じ物を見たいという方はこちらを参照してください。
http://westrecords.by/upload/x_photos-todar04.jpg
どうして髪の毛を全部剃ってしまったかというと、マヤコフスキーの真似をしているからなのです。
ちなみに坊主頭のマヤコフスキーの画像はこちらです。興味のある方は両者が似ているかどうか比べてください。(私から見ればどっちも坊主頭じゃないほうがいいよう・・・。)
http://www.tabiken.com/history/doc/R/R193C100.HTM
マヤコフスキー(1893~1930)とは誰なのか?
私がいちいち説明しなくてもご存知の方のほうが多いと思いますが、ロシア革命前後の時代を生きたソビエトを代表する詩人です。詳しくはこちらのサイト等をご参照ください。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/7795/poet20/mayakovskiy/mayakovskiy.html
さて、ソロ活動を開始して5枚目になるこのアルバムですが、トーダル自らが
「自信作です!」
と言うだけあります。
そして初のロシア語で歌っているアルバムです。トーダルと言えば、ベラルーシを代表する、ベラルーシ語で歌うアーティスト、というイメージがとても強かったのですが、この初のロシア語CDの発表に、マスコミはびっくり。
「どうしてまた、今という時期に、ベラルーシ人のあなたがマヤコフスキーの詩に作曲を?!」
といった質問に
「僕はマヤコフスキーのことを天才詩人だと思っています。」
と答えたトーダル。
(ソロ活動4作目アルバム「愛の汽車」は詩人バラドゥリンの詩に作曲していますが、これについても「僕はバラドゥリンのことを天才詩人だと思っています。」とトーダルは語っています。よっぽど天才詩人が好きなんですね。天才の詩でないと、曲をつける気にならないのね。)
もっとも、このアルバムの製作には2年もかかってしまったそうです。
トーダルはマヤコフスキー全集全3巻を読んで、その中から気に入った詩12篇を選び、作曲することにしました。しかし、半分ほど作ったところで、作曲作業が止まってしまい、結局2003年から2005年まで模索が続きました。
マヤコフスキーを日本語訳であるいはロシア語原文で読まれたことのある方は、すぐに分かると思いますが、マヤコフスキーの詩は、歌曲向けではないのです。
私もマヤコフスキー全集全3巻から、トーダル君が選んだ12篇の詩を探してきて読んでみたのですが、いやあ~ベラルーシ語じゃなくて、ロシア語なのに、難しい難しい。
「革命」「苦悩」「愛」「人生」といったテーマの詩が、すごく読みづらい階段状の改行とともに書かれており、マヤコフスキーの開いた口と鋭い眼光が目の前に迫ってくるような気がしてきて、ちょっと読んだだけでどっと疲れます。
「トーダル、マヤコフスキーの詩に作曲したアルバム作ったんだって。」
と捨平に言ったときの反応は
「そんなの無理だ! マヤコフスキーなんか歌えないよ。」
・・・それぐらい、歌いにくい詩であることが常識の詩人なのです。
しかし、私は「MW」を初めて聴いたとき驚きのあまり、呆然としてしまいました。つまり私は「月と日」を聴いた後で、その前作の「MW」を聴いたことになります。
その最初の感想は(表現が変かもしれないですが)
「トーダルよ、『MW』を作曲した後の『月と日』の編曲作業は、実に簡単だったろう。歌は・・・食事に例えると『MW』はメインディッシュで、『月と日』はデザートのようなものだったろう・・・。」
(ちなみにこの私の感想は「月と日」をトーダルが手抜きして作った、というわけではありません。)
順番どおり「MW」を聴いてから「月と日」を聴いたベラルーシ人リスナーは、トーダルの音楽世界の広さに本当に驚いたと思います。トーダルの手にかかれば、時空も空間を超えるのも軽々です。
トーダル本人には
「『MW』は金字塔的作品だと思います。」
と感想を伝えておきました。
トーダルが今まで発表したアルバムの中で私が一番好きなのは、当然「月と日」なのですが、2位は「MW」ですね。ちなみに3位は「バラード」(2002年発表)。
とにかく「MW」はトーダルの作曲家としての才能にも驚かされたのですが、シンガーとしての才能が最大限に出ているアルバムだと思います。前から
「トーダルって歌うまいよな~」
なんて思いながら、彼の歌を聴いていたのですが、「MW」を聴いたときは
「ええっ、この人ってすっごく歌うまい。」
と改めて思いました。
収録曲はこのとおりです。
(*私はマヤコフスキーの詩の日本語訳をほとんど読んだことがなく、日本では定常となっている作品の題名の日本語訳が分かりませんでした。私なりにタイトルを翻訳しましたが、日本で普通呼ばれている詩のタイトルと異なっている部分が多々あると思いますが、どうかご了承ください。)
・・・・・・・・
トーダル&WZ-オルキエストラ「MW」 (2005年7月19日発表)
1 プロローグ
2 美女たち
3 このように私は
4 モルチャノフの恋人への手紙
5 愛の本質についてパリから同志コストロフへの手紙
6 ペテルブルグについて少し
7 リャザンの男の歌
8 ブロードウエイ
9 ブルックリン・ブリッジ
10 街
11 何について-これについて
12 財務監督官と詩を語る
詩:ウラジーミル・マヤコフスキー
作曲:トーダル(ズィミツェル・バイツュシュケビッチ)
編曲・演奏:WZ-オルキエストラ
・・・・・・・・
12曲の中で私が1番好きなのは7「リャザンの男の歌」ですね。とにかくトーダルの芸の細かさがよく分かります。
1「プロローグ」のトロンボーンとトランペットのメロディーを聴くと、マヤコフスキーが生きていた時代に戻れます。
他にもいろいろ曲について書きたいこともあるのですが、私の評よりも直接このCDを聴いて、トーダルが彼なりに作ったマヤコフスキーの世界に触れることをぜひお勧めします。
マヤコフスキーは革命詩人なので、その作品の多くは読者に対する「メッセージ」「語りかけ」であることが多いのですが、確かに歌っているように思えて、実は「語って」いる作品がこのアルバムにはたくさん収められています。
でも革命を声高に語っている作品ではなく、トーダルの作品「MW」ではあくまでテーマは「人生そのもの」なんだなあ、と感じました。
(おまけ)
このアルバムを初めて聴いたとき、はちの子(最近好きな日本人の歌手:氷川きよし)はまだ3歳だった。
聴いたとたんに彼女は曲に合わせて踊りだした。踊って踊って踊り続けた。
翌日、勝手に自分でCDをプレイヤーにセットして、聴きながらまた踊り始めた。次の日もそのまた次の日も。
1日に「MW」を5回もかけては踊るということをし続けた。これが半年、休みなく続いた・・・。
同じ曲ばかり朝から晩まで聴かされ疲れた両親が、プレイヤーを止めると、怒って殴りかかってきた。(家庭内暴力。)
あまりにもしつこく踊り続けるので、「うちの子は頭がおかしくなったのではないか。」と心配した。
幸い半年後、幼稚園に入園してから
「子供向けに作られたかわいらしい歌もこの世に存在する。」
ことを知り、「MW」を聴く回数は減った。
しかし、6歳になった今も、「MW」が人生で一番好きなアルバムらしく、聴いては新たな創作ダンスを披露してくれている。
どうしてこんなに「MW」が好きなのか?!
子どもだから、マヤコフスキーの難しい歌詞の意味が分かっているとは思えない。
きっと曲のほうに秘密があるのだろう。しかし、はっきりした理由は作曲したトーダル本人にも不明。
(CD「MW」はヨーロッパ輸入雑貨店Vesna!のネットショッピングで購入できます。詳しくはこちら。)
http://vesna-ltd.com/shop/mato.html
このシンプルなジャケットデザインをご覧ください。白地にMとWの文字しかありません。
(しかも色の配色と字体がロシアンアヴァンギャルド風、という凝りよう。)
「MW? 何だそりゃ? Man&Womanの略で『男と女』っていう意味のアルバムかい?」
と思われた方もいるかもしれません。
実はそうではなく、「M」はマヤコフスキー、「W」はWZ-オルキエストラの頭文字のことです。
ジャケットの裏を見て初めてアーティスト名などが分かるという仕掛けになっています。
マーサはこのデザイン、トーダルの数々のCDジャケットデザインの中ではベストだと思うのですが、どうでしょう?
しかし、このアルバム、なかなかすぐにCD店で販売されませんでした。なぜかと言うと・・・
まずこのデザインを見てベラルーシのCD店が
「これじゃ何が何だかさっぱり分からない。」
つまり、「売れない。」ということで、店頭販売することを拒否するという、涙のいきさつがあったのです。
さらに「MW」のほうが「月と日」より先に完成したものの、「MW」は特注ジャケットにコストが思いのほかかかって、販売価格が上がってしまい、流通にすぐ乗せられなかった、という事情が当時あったため、「MW」を一般店舗で買うこと
は発表当時できませんでした。
ようやくCD店で販売されるようになったのは「月と日」より後で、しかも初めのうちは、裏ジャケットを表にして店頭に並べられていました。
(でも今は「MW」の認知度が上がり、普通に表を向けて、販売されています。)
「月と日」完成後、私は「MW」をトーダルから直接プレゼントしてもらいました。(サインもしてもらったので、私のお宝。)(^^)
中を開くと、トーダルの坊主頭の白黒写真が出てきてびっくりします。同じ物を見たいという方はこちらを参照してください。
http://westrecords.by/upload/x_photos-todar04.jpg
どうして髪の毛を全部剃ってしまったかというと、マヤコフスキーの真似をしているからなのです。
ちなみに坊主頭のマヤコフスキーの画像はこちらです。興味のある方は両者が似ているかどうか比べてください。(私から見ればどっちも坊主頭じゃないほうがいいよう・・・。)
http://www.tabiken.com/history/doc/R/R193C100.HTM
マヤコフスキー(1893~1930)とは誰なのか?
私がいちいち説明しなくてもご存知の方のほうが多いと思いますが、ロシア革命前後の時代を生きたソビエトを代表する詩人です。詳しくはこちらのサイト等をご参照ください。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/7795/poet20/mayakovskiy/mayakovskiy.html
さて、ソロ活動を開始して5枚目になるこのアルバムですが、トーダル自らが
「自信作です!」
と言うだけあります。
そして初のロシア語で歌っているアルバムです。トーダルと言えば、ベラルーシを代表する、ベラルーシ語で歌うアーティスト、というイメージがとても強かったのですが、この初のロシア語CDの発表に、マスコミはびっくり。
「どうしてまた、今という時期に、ベラルーシ人のあなたがマヤコフスキーの詩に作曲を?!」
といった質問に
「僕はマヤコフスキーのことを天才詩人だと思っています。」
と答えたトーダル。
(ソロ活動4作目アルバム「愛の汽車」は詩人バラドゥリンの詩に作曲していますが、これについても「僕はバラドゥリンのことを天才詩人だと思っています。」とトーダルは語っています。よっぽど天才詩人が好きなんですね。天才の詩でないと、曲をつける気にならないのね。)
もっとも、このアルバムの製作には2年もかかってしまったそうです。
トーダルはマヤコフスキー全集全3巻を読んで、その中から気に入った詩12篇を選び、作曲することにしました。しかし、半分ほど作ったところで、作曲作業が止まってしまい、結局2003年から2005年まで模索が続きました。
マヤコフスキーを日本語訳であるいはロシア語原文で読まれたことのある方は、すぐに分かると思いますが、マヤコフスキーの詩は、歌曲向けではないのです。
私もマヤコフスキー全集全3巻から、トーダル君が選んだ12篇の詩を探してきて読んでみたのですが、いやあ~ベラルーシ語じゃなくて、ロシア語なのに、難しい難しい。
「革命」「苦悩」「愛」「人生」といったテーマの詩が、すごく読みづらい階段状の改行とともに書かれており、マヤコフスキーの開いた口と鋭い眼光が目の前に迫ってくるような気がしてきて、ちょっと読んだだけでどっと疲れます。
「トーダル、マヤコフスキーの詩に作曲したアルバム作ったんだって。」
と捨平に言ったときの反応は
「そんなの無理だ! マヤコフスキーなんか歌えないよ。」
・・・それぐらい、歌いにくい詩であることが常識の詩人なのです。
しかし、私は「MW」を初めて聴いたとき驚きのあまり、呆然としてしまいました。つまり私は「月と日」を聴いた後で、その前作の「MW」を聴いたことになります。
その最初の感想は(表現が変かもしれないですが)
「トーダルよ、『MW』を作曲した後の『月と日』の編曲作業は、実に簡単だったろう。歌は・・・食事に例えると『MW』はメインディッシュで、『月と日』はデザートのようなものだったろう・・・。」
(ちなみにこの私の感想は「月と日」をトーダルが手抜きして作った、というわけではありません。)
順番どおり「MW」を聴いてから「月と日」を聴いたベラルーシ人リスナーは、トーダルの音楽世界の広さに本当に驚いたと思います。トーダルの手にかかれば、時空も空間を超えるのも軽々です。
トーダル本人には
「『MW』は金字塔的作品だと思います。」
と感想を伝えておきました。
トーダルが今まで発表したアルバムの中で私が一番好きなのは、当然「月と日」なのですが、2位は「MW」ですね。ちなみに3位は「バラード」(2002年発表)。
とにかく「MW」はトーダルの作曲家としての才能にも驚かされたのですが、シンガーとしての才能が最大限に出ているアルバムだと思います。前から
「トーダルって歌うまいよな~」
なんて思いながら、彼の歌を聴いていたのですが、「MW」を聴いたときは
「ええっ、この人ってすっごく歌うまい。」
と改めて思いました。
収録曲はこのとおりです。
(*私はマヤコフスキーの詩の日本語訳をほとんど読んだことがなく、日本では定常となっている作品の題名の日本語訳が分かりませんでした。私なりにタイトルを翻訳しましたが、日本で普通呼ばれている詩のタイトルと異なっている部分が多々あると思いますが、どうかご了承ください。)
・・・・・・・・
トーダル&WZ-オルキエストラ「MW」 (2005年7月19日発表)
1 プロローグ
2 美女たち
3 このように私は
4 モルチャノフの恋人への手紙
5 愛の本質についてパリから同志コストロフへの手紙
6 ペテルブルグについて少し
7 リャザンの男の歌
8 ブロードウエイ
9 ブルックリン・ブリッジ
10 街
11 何について-これについて
12 財務監督官と詩を語る
詩:ウラジーミル・マヤコフスキー
作曲:トーダル(ズィミツェル・バイツュシュケビッチ)
編曲・演奏:WZ-オルキエストラ
・・・・・・・・
12曲の中で私が1番好きなのは7「リャザンの男の歌」ですね。とにかくトーダルの芸の細かさがよく分かります。
1「プロローグ」のトロンボーンとトランペットのメロディーを聴くと、マヤコフスキーが生きていた時代に戻れます。
他にもいろいろ曲について書きたいこともあるのですが、私の評よりも直接このCDを聴いて、トーダルが彼なりに作ったマヤコフスキーの世界に触れることをぜひお勧めします。
マヤコフスキーは革命詩人なので、その作品の多くは読者に対する「メッセージ」「語りかけ」であることが多いのですが、確かに歌っているように思えて、実は「語って」いる作品がこのアルバムにはたくさん収められています。
でも革命を声高に語っている作品ではなく、トーダルの作品「MW」ではあくまでテーマは「人生そのもの」なんだなあ、と感じました。
(おまけ)
このアルバムを初めて聴いたとき、はちの子(最近好きな日本人の歌手:氷川きよし)はまだ3歳だった。
聴いたとたんに彼女は曲に合わせて踊りだした。踊って踊って踊り続けた。
翌日、勝手に自分でCDをプレイヤーにセットして、聴きながらまた踊り始めた。次の日もそのまた次の日も。
1日に「MW」を5回もかけては踊るということをし続けた。これが半年、休みなく続いた・・・。
同じ曲ばかり朝から晩まで聴かされ疲れた両親が、プレイヤーを止めると、怒って殴りかかってきた。(家庭内暴力。)
あまりにもしつこく踊り続けるので、「うちの子は頭がおかしくなったのではないか。」と心配した。
幸い半年後、幼稚園に入園してから
「子供向けに作られたかわいらしい歌もこの世に存在する。」
ことを知り、「MW」を聴く回数は減った。
しかし、6歳になった今も、「MW」が人生で一番好きなアルバムらしく、聴いては新たな創作ダンスを披露してくれている。
どうしてこんなに「MW」が好きなのか?!
子どもだから、マヤコフスキーの難しい歌詞の意味が分かっているとは思えない。
きっと曲のほうに秘密があるのだろう。しかし、はっきりした理由は作曲したトーダル本人にも不明。
(CD「MW」はヨーロッパ輸入雑貨店Vesna!のネットショッピングで購入できます。詳しくはこちら。)
http://vesna-ltd.com/shop/mato.html