■科布(1)
「しなふ」は、古くは志奈布、志那布、さらに科布、榀布、信濃布などの漢字が当てられていますが、「皮がシナシナする」こと、またその皮が白いのでシロから来たといわれていますが、語源はアイヌ語の「結ぶ、縛る、くくる」という言葉から由来し、現代アイヌ語ではニベシニといい、内皮の取れる木という意味があるそうです。九州から北海道まで自生し、特に新潟、山形、福島などの東北の山間部、信濃地方に多い。信濃布という字も当てられるように信濃の地名は、シナノキが多いことに由来するという説もあります。シナノキは日本固有の木で、花や果実は薬用になり、また花からは「しな蜜」と呼ばれる濃厚で甘い良質な蜂蜜が採れます。木材は、柔らかく加工しやすいのでベニヤ板やマッチの軸、経木、エンピツ、下駄、割り箸などに用いられ、日本人には重要な暮らしを支える木でした。
科布は、シナノキの木が水をたっぷりと吸い込んでいる梅雨晴れの頃が剥がしやすいので、山に入り、直径20センチくらいのシナノキを選び、切り倒し、樹皮に縦に裂れ目を入れ、木の枝を削ったものを差し入れ、一気に梢まで剥ぎ、その場で堅い樹皮と内皮に取分けたものを持ち帰り、陰干しします。この内皮が科布の原料となります。更に1日水に浸け、灰汁(あく)を内皮にまぶし、一昼夜灰汁煮をし、柔らかく煮た科布を熱いうちに揉み解し、清流に浸けて灰汁や内皮の汚れを丁寧に洗い流します。次に煮込んで黒ずんだ内皮を米糠に浸けて2~3日醗酵させて漂白し、また清流で洗い流し、陰干しします。この作業を梅雨明けから夏の間におこない、冬まで湿気の少ない囲炉裏の上や屋根裏部屋などに掛け、十分に乾燥させます。
ここまでの手順をまとめると【シナノキの伐採】→【皮はぎ】→【陰干し】→【水浸け】→【灰汁煮】→【シナもみ】→【水洗い】→【シナ浸け】→【水洗い】→【陰干し】となり、この作業に1週間から10日を要します。