藍染■閑話休題①
1反のきものが出来るまでには、実に様々な分野の人々が関わりあっています。例えば、藍染、注染、小紋など欠かせない型染ひとつにしても、型紙を彫る職人さんはもちろんのこと、型地紙といって染の際に伸縮しない、丈夫な型地紙を作る人は欠かせない。さらに型紙を彫る道具も、竹べらや砥石、鋼の定規など様々な道具を使うが、こららの道具を作る人もいなければ型紙は作れない。また型紙を補強する「糸入れ」に使う春繭の生糸や「紗貼り」する紗もなければ作れない。この1つ1つの道具を作る人がいま、生計を立てられずに、或は後継者がいなくて、いなくなっている。
伊勢型紙の縞彫りで人間国宝だった児玉博さん。千筋、万筋など縞を彫らせたらその精緻な技は伝説もの。彫る時は、あて場に座わると、集中して一気に彫り、席を立つことがなかったという。しかし、児玉さんは「型紙はあくまでも染める材料」といっていたそうですが、児玉さんの型紙を染められる職人もまた少なかったそうです。都市伝説の1つかもしれませんが、児玉さんの万筋の型紙を使って染められる職人がいなくて、折角人間国宝に指定された腕を持ちながら、存分に型紙に腕を振るうことが出来ず、生計のために駐車場の職員をやっていた、という話があります。見事な着物を作るため道具1つも最高のレベル、すべての人の技が最高のレベルにないと着物作りは「出来ないチームプレー」で、いまそのチームが急速に組めなくなりつつある。一度失われた技は復活することが至難。一体、どうしらいいのでしょうね。