新・きものの基

絹や木綿、麻など素材から染織の歴史、技法、デザイン、そしてきものと暮らしの多様な関係までを紹介します!

藍染⑥

2007-07-17 20:47:29 | ゆかた・藍染

藍染■閑話休題①

1反のきものが出来るまでには、実に様々な分野の人々が関わりあっています。例えば、藍染、注染、小紋など欠かせない型染ひとつにしても、型紙を彫る職人さんはもちろんのこと、型地紙といって染の際に伸縮しない、丈夫な型地紙を作る人は欠かせない。さらに型紙を彫る道具も、竹べらや砥石、鋼の定規など様々な道具を使うが、こららの道具を作る人もいなければ型紙は作れない。また型紙を補強する「糸入れ」に使う春繭の生糸や「紗貼り」する紗もなければ作れない。この1つ1つの道具を作る人がいま、生計を立てられずに、或は後継者がいなくて、いなくなっている。

伊勢型紙の縞彫りで人間国宝だった児玉博さん。千筋、万筋など縞を彫らせたらその精緻な技は伝説もの。彫る時は、あて場に座わると、集中して一気に彫り、席を立つことがなかったという。しかし、児玉さんは「型紙はあくまでも染める材料」といっていたそうですが、児玉さんの型紙を染められる職人もまた少なかったそうです。都市伝説の1つかもしれませんが、児玉さんの万筋の型紙を使って染められる職人がいなくて、折角人間国宝に指定された腕を持ちながら、存分に型紙に腕を振るうことが出来ず、生計のために駐車場の職員をやっていた、という話があります。見事な着物を作るため道具1つも最高のレベル、すべての人の技が最高のレベルにないと着物作りは「出来ないチームプレー」で、いまそのチームが急速に組めなくなりつつある。一度失われた技は復活することが至難。一体、どうしらいいのでしょうね。

■月刊アレコレTOPへ

 


藍染⑤

2007-07-15 08:46:05 | ゆかた・藍染

■藍染・星

型染は、何回も型紙を送りながら、連続した模様を作ってゆくために、模様のつなぎ目がずれないように必ず型紙には「星」といわれる目印があります。写真の右上真ん中の丸で囲った点がそうです。これがないと連続模様が出来ないのですが、最近は模様に関係のない「汚れ」と思うお客様もいて、クレームがつくので、仕上げで星を消すようにしているそうですが、どうしても消せないものもあるとか。「うちは江戸時代からのやり方で、江戸の味を再現しているんで、星は消したくないんで、ていねに説明をいただけるようお願いしているんですが、型染を知らない店員さん、お客さんが多くて最近はやりにくいね」と蛙さんボヤくこと。

画像の上の赤い帯の部分は、生地を貼り付けている糊です。糯米(もちごめ)に石灰をいれ、水を加えながら練り上げて団子状にし、2~3時間湯で煮て、更に湯と石灰を加えて練り上げ、糊の硬さを調整し、さらに米ぬか、水に溶かした緋糊(ひこ)という赤い染料を混ぜ、完成です。型紙の質や文様、その日の天気などで糊の硬さを決めるそうです。

この糊を長板に丁寧に引き、そのまま陰干しし、翌日、長板に引いた糊の上に、引き刷毛で水をむらなく引いたら、木綿生地を張り、生地にしわがよらないように長板に張り、型染の準備をします。

型紙は乾燥したままだとシワがよりますので、一晩水につけ、型染の直前に水から引き上げて、板に張り水気を切ります。

型染は、長板の左から右へと順々に型紙を送ってゆきますので、型紙の文様をいかにうまくつないでゆくかが、腕の見せ所です。そのための大事な目印が「星」なのです。

 

■月刊アレコレTOPへ


藍染④

2007-07-14 08:39:33 | ゆかた・藍染

■長板中形・型付

長板中形(ながいたちゅうがた)の「長板」は、布地に糊で型付けする際に用いる反物の半分、約6.5メートルの長さの張板(はりいた)のことで、「中形」は、小紋に対して少し大き目の柄ゆきを指します。しかしいつの間にか、長板中形といえば藍の型染の木綿、ゆかたを意味するようになってきました。

写真は型付(かたづけ)という工程で、板場で長板の表裏に張った生地に、型紙をのせ、箆(へら)で均一に糊を置き、一型おわると次へと柄のつなぎ目をわからないように寸分の狂いもなく型紙を置き、またずらしながら型付し、張板の表が終わると、ひっくり返し、裏も繰り返し型付けして、生地1反を連続模様に仕上げてゆく様子を撮ったものです。この型付が最も熟練の技を必要とされるもので、10年かかってようやく1人前とのこと。この日は土曜日でしたが、アレコレの取材のために職人さんにわざわざ出ていただき、感謝です!蛙さんには現在2人の型付職人さんがいます。

■月刊アレコレTOPへ


藍染③

2007-07-08 17:16:56 | ゆかた・藍染

■藍染・叺(かます)

写真は、蒅(すくも)が入っている「叺(かます)」。叺は、稲藁で作った袋で、通気性があり、こうやって天井近くの湿気のない場所に置いておけば、すくもを長く保存できる。社長の大澤さんのはなしでは「すくもは、むしろ寝かした方が発色がよくなる」とのことで、その年にできたすくもを直ぐに使うわけではないそうです。

蛙印染織工芸の社長・大澤さんは昭和63年に名古屋の徳川美術館に収蔵されていた「家康公の藍染小袖」の復元プロジェクトにも参加した藍染の第一人者。NHKでも「ジャパン・ブルー/青の文化と家康小袖の再現」というタイトルで放送され、本も出ているのでご記憶の方もいるかもしれませんが、「400年も前に染め、実際に家康公が袖を通した藍染の辻が花の小袖を見たとき、身が震えましたね。まるで昨日染めたかのように、しっかりした色調で、確かな輝きをもった藍の温かさがあった」と語る大澤さん。当時の話をするとまた思いが甦るのか、少し興奮気味。しかし蛙さんは博識な方で、あちらこちら飛びながら、興味深い話を聞かせてくれ、またその話が面白い。しかし、このままでは話だけで終わってしまいそうなので、藍甕のある染め場に移動。

ふと壁を見ると神棚の脇に紙の振袖が祀ってある。聞くと「紺姫さま」というそうで、昔から藍の染め場にはある守り本尊。裾が藍色に染まっているのは、毎年正月、初染めの時に良い藍が染まりますようにと祈りつつ染め、奉納するのだそうですが、「今年は、紺姫さまを染めなかったな…」と蛙さんはポツリ。昔は、紺姫さまが焼餅を焼くからと、女性は藍甕のある染め場には上がれなかったそうですが、いまは女性もOK。

大澤さんのとこは、長板中形で、糊を伏せた布を藍甕に浸して染める「表紺屋(おもてこんや)」ですが、糸を染める紺屋は「綛紺屋(かせこんや)、糸紺屋」というのだそうです。蛙さんのところは、藍甕が32個。大規模な表紺屋で「江戸の色を守ろうと」親子2代で、日々藍染めに挑戦しているそうです。

■月刊アレコレTOPへ



藍染②

2007-07-05 07:58:19 | ゆかた・藍染

藍染■すくも

藍染めは、古代から世界中で様々な植物、例えばインドではインジゴの語源になったインド原産のマメ科の「インド藍」やヨーロッパではアブラナ科の「大青」、中米諸国、ジャワ、アフリカでは「なんばんこまつなぎ」、そして沖縄ではキツネノマゴ科の「琉球藍」。そして日本では中国或はインドシナを原産とするタデ科の1年草植物「蓼藍」を原料として藍染めします。

藍葉、藍種は古来からは解毒剤、解熱剤、虫除けなど漢方薬として珍重され、藍葉の96%は漢方薬の原料として使われ、染料としてはわずか4%でした。染料としての藍は江戸時代、阿波藩が藩の重要な財源として藍作りを奨励、育成、庇護してきましたので、その品質と量で「藍といえば阿波藍と染料界を風靡してきました。しかし明治中期、化学染料が輸入されると減退の一途をたどり、一時期、絶滅の危機さえ迎えました。現在、阿波天然藍を製造しているのは、佐藤昭人さんはじめ、わずか4人で、年間に生産される藍染めの原料の「つくも」はわずか500俵(1俵は約56Kg)足らず。それを全国にいる藍染職人、16人で分けて使うのだそうです。

藍は3月に種をまき、7、8月に刈り取り、乾燥させ、5㎝ほどに刻み、葉藍を作ります。この葉藍に水を混ぜ合わせながら、1mくらいの山に積上げ、むしろをかけ発酵させます。その後5日ごとに100日、水をかけ、葉藍の山を崩しては、再び積上げる「切り返し」を23,24回繰り返し行い、ようやく12月に「すくも」が完成し、出荷します。「すくも」はワインなどと同じように、年によって出来不出来があるそうです。また発酵温度が微妙で、「切り返し」を行う時期には、職人さんも気温を気にしながら、寒暖により夜中でも起きて「切り替えし」を行うそうです。写真は、そうやって丹精込めて作られた「すくも」、藍染めの原料です。触った感じは、ちょうど紅茶のような感じでした。

■月刊アレコレTOPへ


 
 


藍染①

2007-07-04 21:37:19 | ゆかた・藍染

■藍染 蛙さん

注染の伊勢保染工所を尋ねた後、草加の蛙印染織工芸へ。みんな到着して、社屋のいり口にある看板の「蛙印」を見て、文字通り素直に読んだらいいのか分からず、首をかしげながら2階へ。社長さんのお話では素直に「かえるじるし」でいいんだそうです。先代の社長が工房がある場所が「柳之宮」なので、小野道風の故事に習い、柳の枝に跳びつこうと何度も試みる蛙にちなんで、しゃれでつけたそうです。

しかし、写真の藍甕の渦、見事でしょ。3代目が、藍甕のご機嫌を伺うためにかき棒で攪拌している様子を撮ったですが、(撮ったのは、私ではなくアラレですが…)、見ていて惚れ惚れしてしまいました。藍の様子はご機嫌のようで、人で言えば青年期だそうです。一番渦が深いときは、甕の底が見えるんです。少しもこぼさず、プロの技はすごいものですね。

■月刊アレコレTOPへ


注染⑨

2007-07-03 18:31:34 | ゆかた・注染

天日の場合、天候によって乾かないこともあるので、生産量にも関わってしまい、なかなか大変です。この日は落語家の文珍さんの手拭いが干されていました。今年は晴天が続き、仕事がはかどるとのこと。6月も末になるとゆかたはひと段落だそうです。もっと追加が出てくるといいのですがね、とは社長の言葉でした。

■月刊アレコレTOPへ


注染⑧

2007-07-02 22:20:55 | ゆかた・注染

注染⑧■工程(5)洗う、干す、整理する

 染め上がると空気にさらしながら、出来上がりを瞬時にして目でチェツクしてゆきます。そのあと、余分な染料と糊を落とすため、生地を水洗いします。昔は川の水で流していましたが、公害問題なども考慮し、今は工場の中で、勢いよく洗い流して、しっかりと水洗いした生地を、遠心分離機で脱水し、長いまま上から吊るします。室内の乾燥設備または天日で乾かします。

■月刊アレコレTOPへ


注染⑦

2007-07-01 22:13:19 | ゆかた・注染

注染⑦■工程(4)染める

注染のよさは、ピンポイントで色を差すことが出来ること。そのため染めるスペースに合わせて、大小さまざまなヤカンを使い分けます。また写真では分からないのですが、染料を差しては足でぺタルを踏み、コンプレッサーを作動させて、余分な染料を吸引し、下まで染料を浸透させます。昭和初期に電動のコンプレッサーが使われる前は、ふいごを使ったり、なんと人が吹いたりしていたそうです。このため裏地にまでくっきり色柄が出ます。これは、注染の特徴の1つです。片面を染め終わると、今度は裏返してもう1度同じ作業をします。そのため染め上がりは、裏表がなくしっかり染まります。

■月刊アレコレTOPへ


注染⑥

2007-07-01 19:31:35 | ゆかた・注染

注染⑥■工程(3)土手作り、染色

「板場」で糊置きされた白生地は、染め場に移され、ゴム枠で固定され、染める模様の周囲を防染糊で土手のように染料が流れ出さないように囲います。これを「土手作り」といいます。写真は手拭いですが、絵柄を大きく囲い込んでいるのがお分かりになると思います。この囲んだ土手の中に、両手に持ったヤカンからそれぞれ染料を注ぎ込みます。土手1個が1種類の色になります。両手で持つのは、そのほうが早く染められるからで、2色の場合は、それぞれの手に違う色のヤカンを持ちます。多く色を使う場合は、それぞれの部分にどの色を差すか間違えないように、写真のように職人さんの前に見本が貼ります。

注染には、【一色染】【差分染】【細川染】【ハメ細川染】の4種類の染め方があります。【一色染】は、一枚型で柄全体を紺白、或は白紺など1色で染め上げます。主に細かい模様や、連続している模様、密度の濃い模様を作ります。【差分染】は、一枚の型紙を使用して、多色を使って染める方法です。写真の手拭いは、【差分染】です。一度にたくさんの色を使い分けることが出来ます。また同じ型紙を使い、差す色を変えることによって同柄で配色違い、印象の違うものを染めることも出来ます。【細川染】は、2枚の型紙を使い、同じ工程を2回行う染色方法です。模様をより複雑に、立体的に表現できます。【ハメ細川染】は、細川染とほぼ同じ2回行う染色方法ですが、細川染より更に複雑な柄を表現したい時に使います。糊置き、染色でより高度な技が求められます。

■月刊アレコレTOPへ