昨年1年を表す漢字が「偽」であったように、耐震強度や耐火性能、数々の食品の偽装など、「誰が見ていなくてもお天道様が見ている」とひたむきに、誠実にものづくりしてきた日本人の信念や誇りが、揺らいできている。いくらものづくりに励んでも、「安いほうがいい」という企業や消費者にそっぽを向かれ、誠実に仕事をすればするほどワーキング・プアになってしまう。大企業から個人商店まで、「安く」の大合唱が地道で、伝統的なものづくりの現場を疲弊、消滅させようとしている。消費者には、無論そんな意識はないが、確実にその片棒を担いでいる。
しかしいま、そんな風潮にストップがかかり始めてきている。一連の偽装問題や低コストや効率を最優先するあまり、地球環境や開発途上国に大きな負荷を与えながら成り立っている我々日本人の暮らしの根源から「安心・安全」が揺らぎ始めてきた深刻さを、消費者が自覚しはじめてきたからだ。企業もその変化を感じ、食の問題では、消費者の信頼を得るために外食産業や食品業界では「原産地表示」、トレーサビリティ(生産履歴管理)を幅広く導入してきている。イオンなどでは消費期限や賞味期限もレジでチェックできるようにするため、医療用医薬品にすでに導入しているバーコードの応用を検討している。インターネットの次は、地球環境にやさしい「クリーン技術」の時代といわれている。様々な分野で人に、地球に、「安全・安心」がテーマになってきました。裏返せば「安さ」に代わり、「安心・安全」を提供することがビジネスになってきた、ということです。フード・マイレージという考え方もその1つです。食材と地球環境との関係を示す指標としてわかりやすいフード・マイレージは、輸入する食品がどれくらいの距離を運ばれてきたか、という単純な指標で、食料輸入量t×輸送距離Kmで求められます。数値が多いほど、CO2の排出、地球温暖化に悪影響を与えるのですが、日本は9,000億t・Kmでダントツ。2位の韓国が約3,170億t・Km、3位アメリカで2,960億t・Km。『安さ』を求めた結果が、フード・マイレージを大きくしてきました。いまや消費の仕方そのものに、地球環境や社会に大きな影響を与えるコトを考慮しながら、賢く消費することが求めれてきました。サッポロビールは「責任品質」と表現していますが、美味しさに環境への配慮を加え、アピールしています。
きものは江戸時代にはすでに確立された社会に、地球に、人に配慮した究極のエコロジー商品ですす。何しろ江戸時代は、太陽エネルギーなど自然の活用と人の力しかなかったのですから。きものは多くの人の手によりつくられてきたものです。でもいまや生活の必需品ではありません。しかし心を豊かに、美しくするチカラがあります。そんなきものだからこそ、安さではなく、人に、社会に、地球環境にやさしいものであることをしっかり明示して、売ってゆきたいものです。きものにふさわしい物語、トレーサビリティを工夫したいものです。