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新・きものの基

絹や木綿、麻など素材から染織の歴史、技法、デザイン、そしてきものと暮らしの多様な関係までを紹介します!

注染⑤

2007-06-30 13:12:58 | ゆかた・注染

注染■工程(2)糊置き

糊置きを行う場所を「板場」といいます。型紙は木枠にしっかり留められていて、しかもこの木枠も奥が蝶番で止められているので、1回糊置きするごとに謄写版のように上げ下げしながら糊置きしてゆきます(写真の左側の職人さんが木枠をちょうど上げています)。白生地の上に木枠に固定された型紙を置き、その上から特別に調合された防染糊を大きなヘラで均一に糊置きしてゆきます。(写真右側の職人さんが、型紙の巾大のヘラで糊置きしています。)

糊を置いた生地は、型紙の大きさ通りにきっちりと屏風畳みして重ねてゆきます。特に細かい模様では連続模様が精緻につながるように細心の注意を払いながら白生地をきっちり折り返し、ヘラを動かし、同じように糊置きしてゆきます。型紙大に糊置きされた白生地は屏風折りに畳みながら、さらに防染糊を置いてゆきます。

防染糊は、糯粉(もちこ)と糠、石灰などを調合して作りますが、夏場は糯粉が腐りやすいので、代わりに海草などを混ぜて作るのだそうです。ベテランの職人さんは、1疋で約24~26回糊置きを繰り返しますが、その手はスッスッとためらいもなく動いてゆき、それは見事です。この糊置きの具合により、出来上がりの品質が左右されますので、熟練の高度な職人技が要求されます。糊置きした白生地には、おがくずを振るいかけます。糊が他にくっつかないようにするためと、糊が乾燥し、白生地が反らないようにするためです。

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注染④

2007-06-29 16:18:16 | ゆかた・注染

注染④■工程(1)白生地の下準備

ゆかたの注染の素材はコーマ、特岡、綿麻、紅梅、更に麻や奥州木綿など様々で、最近は織加工を工夫した変わり生地も多くなってきたそうです。しかしひと昔前は、ゆかた生地といえば「特岡」がほとんどでした。「特岡」とは、栃木県真岡市で織られていた「真岡木綿」の略で、目が細かく詰まっていて、やわらかな肌触り、風合いがよく、染め上がりが鮮やかで評判の良質な木綿のことでした。しかしいつのまにか産地ではなく、木綿の生地自体を表す名称になってきてしまい、いまでは真岡で織られていなくても、この糸番手の生地はみんな「特岡」といわれています。

注染の工程としては、先ず問屋さんから支給された白生地を、染め易くするために下ごしらえをします。特殊な溶液に浸し、型紙の大きさに折り畳み、溶液を含んだままの状態で約1日寝かします。東京は2反をいっぺんに染めますので、白生地は疋(反物2反分)で支給されます。大阪では一度に3反、浜松ではなんと一度に6反と、産地により染める量が違いますが、東京は丁寧に作ってゆこうという職人意識が高かったのか、1度に2反の染めですから、型染めとはいえ、厳密に言えばこの世に同じものが2反しかない、ということになります。寝かした白生地は、写真の左手前にあるように丸巻きにして板場に運ばれます。

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注染③

2007-06-28 06:54:31 | ゆかた・注染

注染③■型紙のこと

注染の型紙を彫る人は、今は都内に4人しかいないそうです。型紙というと伊勢の白子の「伊勢型紙」が有名ですが、注染は、伊勢型紙のような精緻な彫りでは、線が細すぎて注染では表現できないので、伊勢型紙よりは、もう少しザックリとした線の太いものです。しかし型紙の作り方は伊勢型紙と全く同じで、薄い和紙を重ね合わせたものに彫り込み、柿渋加工で強度を強め、さらに紗張りして補強します。注染の型紙と伊勢型紙との一番の違いは、大きさ。伊勢型紙の小紋型紙より、注染の型紙はかなり大きく、約1mあります。

伊勢保さんでは、それぞれの問屋さんや発注先などからオリジナルの型紙を預かっていて、その枚数は正確にはわからないそうで、「多分2万枚といったとこか」と結構多くい。しかしその型紙はコンピューターで管理しているわけではなく、注文があると「このあたりにあったな」とすべて職人さんや社長の頭の中にその所在が記憶されています。1年に1回でも使うと頻度にもよりますが10年は持つそうですが、使わないとかえって傷んでしまうとは不思議な話ですね。

「この型紙なんか人気で毎年使われ、けっこう痛んだきているので、2重に紗張りして、補強して使っているんですよ」と、見せて頂いた型紙は薊の柄でした。

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注染②

2007-06-27 19:19:41 | ゆかた・注染

注染②■伊勢保さんのこと

伊勢保(いせやす)染工所は3代続いた注染の染工所で、今4代目が一緒に仕事をしている。しかし、後はいずれも60代のベテランの職人さんばかり。糊置き、土手作り、注染、水洗い、仕上げなど分業化しているので、それぞれの工程で息の合ったパートナーが必要。まして注染は1人前になるのに10年近くかかり、立体的で、やらかな色合いを表現する「濃淡ぼかし」は、頭の中で想像し、絵を描くようにじょうろの染料を手加減ひとつで、色を挿して表現してゆくので、かなりの熟練が必要だそうです。伊勢保さんでも中村新一さんしか、この「濃淡ぼかし」は出来ないそうで、「これからが大変」と少し心配顔の社長。

昔は同じ柄を100反、200反と注文頂き、はかどったけれど、最近は1柄で10反とか、20反と数量が減り、しかも変わり生地を使うものが多くなってきたので、型紙や染料を小まめに交換し、大変になってきた。しかもお客様や販売担当者も機械プリントの均一なパキッとしたものをきれいなものと思っているので、我々から言わせれば平板で味のなものしか知らないので、注染の折り目のかすかな「かすれ」や手作業ならではの温かな濃淡の味わいを分かってくれず、不良品のようにいってくるのには困った。そこで最近は、染工所まで来て頂き、実際に作る工程を見て頂き、勉強して頂くようにしているそうです。そうすると俄然、商品の理解が違ってくるので、注染のことをお客様に自信を持ってお話頂けるようで、クレームはゼロになるそうです。「お似合いですよ」というだけでは、お客様に信頼されませんものね。販売員さんだけでなく、お客様もきもののこと、もっと勉強するべきですよね。お互いに高いレベルの厳しい目が、益々いい商品を作り出してゆくように思います。

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注染①

2007-06-27 07:30:15 | ゆかた・注染

注染①■注いで染める

注染(ちゅうせん)は、ゆかたの代表的な染色技法の1つです。江戸天保年間(1832~1841年)にはその原型が開発されたといわれていますが、現在の注染は、明治中期に東京で長板中形のゆかたが大流行し、これに対抗するために大阪の手拭業者が手拭染めを工夫改良して開発されたのが「注染」です。その後、明治から大正にかけて東京や浜松の職人が多く大阪に技術取得に訪れ、更に型紙や染色台などの改良が加えられ、現在の注染が確立しました。

注染は、糊を置いて畳んだ生地に、熱した染料を文字通り“注いで染める”もので、それまでゆかたの染色技法の主流だった「長板中形染め」をしのぐ合理的な染色技法で、長板が1日に十五反なら、注染だと百五十反はいけるというもので、あっという間に大正期にはゆかた染めの主流となりました。東京のゆかた製造販売元・三勝㈱の清水敬三郎専務取締役―ゆかたの生き字引のような方で、「長板中形染め」の人間国宝・清水幸太郎さんのご子息ですが、注染の普及により、お父さんから「これからは、長い経験と熟練が必要な長板中形染めの職人では、食ってゆけないから」といわれ、お父さんは3人のご子息のうち2人を別の道に進ませ、末っ子の清水専務だけを当時天野半七商店と言われていた、木綿、長板中形を専門にしていた現在の三勝㈱に入社させたそうです。

それくらい注染は東京の職人に衝撃をもたらせた画期的な染色技法でしたが、現在では都内で4軒、関東近県でも10軒しか注染を扱う染工所はなくなってしまったそうです。今回は、アレコレの読者と一緒に東京の川向こう、新小岩にある伊勢保染工所にお伺いし、実際に注染の仕事場を見せていただきましたので、注染のゆかたができるまでをご紹介します。

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染工所を訪ねて

2007-06-23 20:16:11 | ゆかた・注染

アレコレのインフォーメイションで注染と藍染めの工房をご一緒に見学に行きませんか?とご案内したところ5名の読者が参加。今日ご一緒に新小岩、草加と電車を乗り継いで、工房見学に行ってきました。前の日が雨模様だったのでお天気を心配したのですが、梅雨の合間の快晴で、どちらの工房もクーラーなどあるはずもなく、汗だくになりながらの見学。

写真は、最初にお伺いした注染の伊勢保染工所の2階の畳み部屋。多分染め上がったものを仕上げ整理したり、打ち合わせに使う部屋だと思うのですが、その欄間、なんと本物のプロペラです。先代が大の飛行機好きで、やっとのことで手に入れたプロペラを何とかしようと考え、欄間に使ったというわけ。長板中形が東京のゆかた染めの本流だった時に、いちはやく注染を取り入れたのは、なかなかの先見の明があったわけで、多分先代は、時勢に敏感なモダンボーイだったんでしょうね。

ちょうど見学を終えた時がお昼時になるので、職人さんがとっている弁当と同じものをお願いしていたのですが、これが好評。ご飯はご飯だけで保温されていて、おかずは別の弁当ケースに煮付け、カツ煮、おしたし、おしんこ…など、これがボリュームもあり、味付けもおいしくて、お値段聞いてびっくり。なんと390円。すごさに、感激。また取引先でもなく、見学者にどちらもお茶など用意いただき、社長自ら丁寧に、しかも熱心に説明いただき、本当に恐縮、感謝、恐縮でした。ありがとうございました。

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