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村田喜代子『姉の島』~年齢を重ねること

2021-06-30 | 2022夏まで ~本~
おはようございます。
村田喜代子氏の最新刊『姉の島』(朝日新聞社)を読み終えました。
本日は、どうぞ、その感想文に、おつきあいくださいませ。


一昨年に、村田氏の『飛族』(文藝春秋)を読み、すっかり魅了されました。
孤島で、「今が一番いい」と、一人暮らしを続ける高齢女性を
主人公に据えた小説でした。

続けて、『エリザベスの友達』(新潮社)を読み、
認知症の高齢女性の夢の世界をさまよって・・・

実際は、挫折した小説もあるもののw
村田喜代子氏の新作を待ちかねていました。


最近、80代の実母、93歳の義両親と、高齢者三人に振り回され、
気づけば、わたしたちもアラカン夫婦、
ますます、(否応なく!)年をとることについて考える機会が増えています。




そんなときに、待ちに待った、村田氏の新刊でした!

本作『姉の島』は・・・
一瞬、『飛族』の続編かと思ってしまいました。
舞台が、海に囲まれた島だからです。

(よく読めば、『飛族』は長崎の国境の島、『姉の島』は五島と、
はっきり書かれていました)


主人公のミツルは、今も海女として生き、この春の彼岸に
「倍暦」をもらいました。

「倍暦」とは、85歳まで仕事をやりきった海女を、
退役海女と見なし、年齢を倍に数える、しきたりです。
85歳のミツルは170歳になります。

この倍暦、
遠い遠い昔、「記紀」の頃、神功皇后が、三韓征伐の際、
水先案内をした海女へ、お礼に与えたのが始まりだと・・・

こうして、倍暦をもらった海女は、「姉さん」と呼ばれ・・・
現在も、ミツルを含め4人の「姉さん」が健在・・・
だからタイトルは「姉の島」なのです。




神功皇后による「倍暦」の由来は、最初の章に語られます。
読み終えた今、最初に出てきた意味がわかりました。
物語の重要なモチーフなのです!

85歳のミツルは、終戦の翌年の春に、13歳でした。
ある日、アメリカに接収された日本海軍の潜水艦20隻以上が
ミツルの暮らす島の沖合で爆破処理されています。

ところが、ミツルも周囲も、全く、そのことに気づきませんでした。
これも重要な伏線になります。
さらに、その近くでは、遣唐船の時代から、沈没船が絶えなかったとも・・・

また、ミツルの三人の兄は出征し、それぞれ海で亡くなりました。

ミツルは考えます。

「まだ若い三人の兄だちの亡骸がこの海に沈んだ。
苦しんで死んでいった者たちは...この業の海に沈んでいった気がしてならん...水に入るとあたしは悲しい気持ちになっていく」67頁

ミツルだけではなく、長く海女を続けてきた女達は、
水の中で、「船幽霊」にも出会っています・・・
そのたび互いに「霊(たま)出せ 霊出せ!」と唱え合うのです。

そうして・・・
ミツルは、昭和21年に沈められた潜水艦に出会い・・・やがて・・・



ああ、ネタバレになりそうなので、難しい!

とにかく・・・

遣唐船、南蛮船、太平洋戦争のゼロ戦に、潜水艦・・・
一方でカムチャッカの天皇海山と、
ミツルの思考は、時の流れも、地形も自由に越えて広がっていくのです。

それは、もちろん、作者の村田喜代子氏の世界。
1945年生まれの村田氏は、75歳を越えられています。
それでいて縦横無尽なイメージで、読者を引きずり込む、この筆力!

アラカンなんて申す、アタクシなぞは、まだまだだと笑われそうです。
(いや、呆れられる!?)



高齢者、認知症、国境の孤島で一人暮らし・・・
一般的に言ったら、マイナスイメージで語られがち・・・

けれども、村田小説を読むと、
当事者たちは、どこ吹く風、しっかり生きています。
そこに、わたしは、驚かされ、感嘆し、励まされているのです。

人生の大先輩のうえ、サバイバーでいらっしゃるだけに、
村田氏の世界が、いっそう、勇気づけてくれるのでしょう。

高齢の親のことでは、気持ちが沈みがちな昨今・・・
けれど、それは、コチラが勝手に落ち込んでいるだけで、
本人達は、いたって幸せなのではないだろうか・・・

年齢を重ねることは、当事者にしてみれば、そう悪くないのかも・・・
村田喜代子・小説を読むたびに、こう思えることが、
アラカン女にとっては何よりなのかも知れません。


(2019年夏撮影)


なお・・・
拙ブログでは、ネタバレを恐れ、登場する潜水艦については控えましたが、
一つだけ。

昭和20年に爆破された、潜水艦・伊号は、人間魚雷・回天を載せており、
中には、長崎への原爆をテニアンへ運んだ軍艦・インディアナポリスを
沈めた艇もあったと・・・

数年前、山口を旅した折、「回天の島・大津島」へ足を延ばし
回天記念館の館長さんに島を案内していただきました。
回天のことを考えると、今も、胸がうずきます。

それだけに、最終章の展開は、何やら救われたような・・・

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長々とおつきあいいただき、どうもありがとうございました。

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