MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2643 地銀や信用金庫の真価が問われている…という話

2024年09月26日 | 社会・経済

 東京商工リサーチによれば、今年7月の全国倒産件数(負債額1000万円以上)は前年同月比26%増の953件とのこと。原料や人件費の上昇が続く中、価格転嫁力が弱く賃上げ原資を捻出できない小規模企業を中心に淘汰が進んでいるということです。

 倒産に至った理由を見ると、「販売不振」が750件(前年同月570件、31.6%増)で最も多く、全体の81.5%(対前年同月0.2ポイント増)を占めているとのこと。「売掛金回収難」(同2件→6件、200.0%増)や「業界不振」(同1件→5件、400.0%増)を含めた『不況型倒産』の合計は763件(同575件、32.7%増)となり、27カ月連続で前年同月を上回ったとのことでした。

 一方、これらの倒産を態様別にみると、『清算型』倒産が883件(前年同月684件、29.1%増)と全体の96.0%(対前年同月1.6ポイント減)を占めた由。その中でも「破産」が847件(前年同月665件、27.4%増)と最も多く、28カ月連続で前年同月を上回ったとされています。

 経営が破綻状態でありながら(無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」などで存続している)いわゆる「ゾンビ企業」の存在が問題視される中、問題のゼロゼロ融資の返済猶予期間の終了に合わせ「倒産」を選ぶ中小企業が多いということでしょうか。

 淘汰の嵐の中で事業再生を断念し、「破産」を選ぶ経営者たち。もがくこともできずにいきなり「パタッ」と倒れざるを得ないその背景には、一体どのような事情があるのでしょうか。

 昨今の中小企業を巡るこうした状況に関し、8月7日の日本経済新聞に『「あきらめ倒産」最高の9割 1~6月、銀行の支援動機薄く』と題する記事が掲載されていたので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。

 倒産後に事業再生を選べない「あきらめ型」倒産が増えている。2024年上半期に私的整理や民事再生手続きを経ず破産に至った割合は約90.08%と、過去最高を更新したと記事はその冒頭に記しています。

 もちろん、そこには物価高や人手不足で再生を断念せざるを得ない状況があるわけだが、さらに精査していくと、再生を支援する動機づけが薄い金融機関側の事情も見えて来るというのが今回、記事の指摘するところです。

 実際のところ、企業倒産が増勢を強めるなか、事業再生機運は盛り上がっていない。帝国データバンクが法的整理で倒産した負債5億円以上の企業を対象に調べたところ、23年度に主要事業を他社へ譲渡するなどした「事業存続型の倒産」を選んだ企業は157件で、倒産全体に占める割合は33.1%に過ぎなかったと記事はしています。

 これは、前年度に比べると1.5ポイント上がったものの、依然として新型コロナウイルス禍前の19年度(35.7%)や18年度(34.1%)より低く、過去10年間の平均(33.6%)も下回る水準とのこと。そして、このように事業再生を選ばず「破産」を選択するする企業が増えている背景には、金融機関側の事情が透けて見えるというのが記事の見解です。

 コロナ禍で大きく増えたのが、元本の返済と利子の支払いを一定期間免除する実質無利子・無担保のゼロゼロ融資。保証付き融資は通常、融資額の80%を保証協会が肩代わりするのが原則だが、このゼロゼロ融資では特例措置として100%の保証がついたと記事は説明しています。

 一方、これは言い換えれば、万一「貸し倒れ」になっても金融機関の懐は痛まないということ。保証債務残高のうち100%保証が占める割合は22年度に61%と、19年度の23%から大幅に増えており、金融機関にとって企業が存続する限り利払いが入る上、破産しても保証付き融資分は信用保証協会から代位弁済を受けられる。このため、手間をかけて融資先の抜本的な事業再生を支援するよりも破産して元本を回収した方が得策と映るということです。

 例えば、ある地銀関係者は「会社の将来や雇用維持を考えて、悪化の予兆が見え始めた段階から収益性の高い事業を他社に譲渡したり、企業を倒産させて信用コストを積んだりするよりも、返済期限の延長(リスケ)を続けた方が都合がいいと判断するケースも少なくない」と話していると記事は綴られています。

 どうせ「貸し倒れ」となっても信用保証協会が全額代位弁済してくれる。それならば、再生に向けて無駄な努力をするよりも、ズルズルと対応を先延ばしした方が得策ということでしょう。

 「リテールバンク」を標榜し、地域経済を支えていると自負してきた各地の地銀や信用金庫のバンカーたち。しかし今、彼らのプライドとともにその存在意義が問われる局面が、いよいよやってきているということかもしれません。

 記事によれば、収益性がある事業を新たな担い手に引き継いでいくには、早い段階から計画的に再生支援に着手することがカギになる由。東京商工リサーチの坂田芳博氏も、「メインバンクと企業が接点を強め、経営状況を把握しやすくすることで、金融機関が事業再生に向けた選択肢が多い早期の段階から支援に着手することが重要だ」と話しているということです。

 また、こうした状況に関しては、所管官庁である金融庁も、金融機関向けの監督指針を改正し金融機関が経営や事業悪化の予兆を把握した段階で再生支援に取り組むよう求めているとのこと。

 生かすものは生かし、伸ばすものは伸ばす。経営が傾いた中小企業にただ市場からの退場を求めるばかりでは、地域経済が傷つき失うものもきっと多いことでしょう。

 収益性のある技術や雇用を守りながら新陳代謝を進めていくこと。そのためにも、金融機関が平時から融資先企業の事業性やリスクを適切に評価し、早期の支援につなげる重要性が高まっていると記す記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。