MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2661 地元を離れていく娘たち(その2)

2024年11月01日 | 社会・経済

 「東京一極集中」の弊害が叫ばれる中、東京都に入ってきた人数と、出ていった人数の差は年々増加の傾向を見せています。

 内訳を性別で見ると、2021年の転入者は男性が22万2220人で女性が19万7947人、一方の転出者は男性が22万3564人で女性は19万1170人(総務省「人口移動報告」)である由。つまり、男性が1344人の転入増、女性は6777人の転入増となり、東京の「転入超過」は女性の流入によって支えられていることがわかります。

 そこで、東京に転入した女性の年齢層を見てみると、20代が半数を超える52.8%に上ったほか、30代が18.8%と、20代・30代で実に70%以上を占めている実態が浮かび上がります。

 それではなぜ、こうした特定年齢の女性たちが、集中して大都会東京に集まってくるのでしょうか。結婚問題に詳しいコラムニストの荒川和久氏が、8月21日のニュース情報サイト「Yahoo news」に、『「地元の若い女性の流出が止まらない」と嘆く前に地方が考えないといけない視点』と題する論考を寄せていたので、参考までに小欄にその一部を残しておきたいと思います。

 少子化問題の原因として、「東京への女性人口一極集中」を挙げる人は多い。確かに、都道府県間の人口移動のほとんどは20代の若者で占められており、その中には多くの女性が含まれている。このため、日本の少子化は「東京が20代の独身女性を全国から集めておきながら、未婚化で東京の出生率は全国最下位だからだ」…と結論づけたいのもわからないではないと、氏はこの論考の冒頭に綴っています。

 しかし、冷静にデータを紐解けば、別に東京だけに女性の人口が集中しているわけではない。正しく言えば、20代の女性は(男性もだが)、都市部に集中的に移動するものだというのがこの論考における氏の認識です。

 総務省の人口推計統計により2000年以降の女性の転入超過数の推移を見ると、確かに東京都の転入超過は多いが、他の政令都市全体もほぼ東京都と同じくらいの転入超過で推移している。日本全国津々浦々から東京だけに女性が移動しているわけではなく、地方においては、その地方の近場の大都市(九州なら福岡市、東北なら仙台市など)へ大きく移動していると氏はしています。

 なぜ、女性が大都市へ移動するかといえば、10~20代に限れば、ほぼ仕事や学業のためと言える。逆に言えば、流出が多い自治体というのは「魅力的な仕事(やが学校)がない」場所だというのが氏の指摘するところです。

 地方の自治体にとって、こうして毎年のように若者が流出することは深刻な問題となろう。ただでさえ、出生数が減っているこのご時世、20代女性が地域からいなくなることは婚姻数の低下にも影響すると氏は言います。

 しかし、(言っては何だが)だからといって、「地元の若者が出て行ってしまうような東京や大都市が問題だ」と責任を転化したところで、問題は何も解決しないというのが氏の考えるところ。どんなに(大都市に出て行く若者を)地元に縛り付けたくても、江戸時代の箱根の関所のように、「出女」の取り締まりを行うわけにもいかないだろうということです。

 因みに、個別に見れば、特に九州の佐賀、長崎、鹿児島、中国地方の島根、山口あたりが地元から出て行く割合も高く、出て行ったきり戻ってこない割合も高い。同じく、東北の岩手、秋田、福島も出て行ったきりの割合が多いと氏は説明しています。

 逆に、富山、石川、福井などの北陸三県、静岡、沖縄などは、出て行ったきりの割合よりもUターンしてくる割合の方が高いとのこと。一度は東京に出ていったものの、「都会暮らしはもう十分」「やっぱり地元が一番」と、故郷へ帰る選択をする若者が多い地域だということです。

 加えて、地域の人口や活気を保つには、最初から都会に出ることを選ばず、出生地に居続ける若者たちの存在も重要になるのは当然のこと。氏によれば、こうして(ある意味)「生まれ故郷として愛されている地元」の第1位は愛知県、2位は沖縄県、3位が北海道の順番だということです。

 北海道と愛知は、出生地に居続ける割合も高いが、エリア内で見れば、札幌と名古屋という大都市への転出率もそれなりに高い。一方、沖縄は、一旦圏外転出はするもののUターン率が全国1位だということです。

 さて、こうした状況に、自治体としては「どうしたら地元から若者の人口流出を防げるか」という対策に集中しがちだが、東京などの大都会に憧れて出て行く若者は何をしたって「出て行きたい」のだから、彼らを気持ちよく送ってあげることも(また)大切だと氏はここで話しています。

 間違っても「東京なんかに出て行ってもロクなことにならない」などとネガティブな情報を植え付け、若者を地元に縛り付けようなどと考えてはいけない。一旦出て行ったとしても、また戻りたい場所であり続けることこそが重要だというのが氏の見解です。

 そして、さらに自治体が注力すべきこととして、氏は「それでも地元に残る(残ってくれる)若者に対して地元は何ができるか」を整理することを挙げています。東京などの大都会との比較して、「あいつら、ずるい」と言うばかりでは未来はない。ずっと居続けてくれる人とUターンしてくれる人合わせて6割というのをまずひとつの目標ラインと定め、地元ならでは「できること」を是非考えてもらいたいということです。

 近年では、公費から(移転費用などの)手厚い補助金などを出し、新しく移住してくれる人を増やそうという取り組みも盛んに行われていると聞く。しかし、新たなふるさともをもめる人たちに対し、金銭的インセンティブを付けければいいというものもない(だろう)と氏は最後に話しています。

 大切なのは、その土地の魅力をアップさせ、それをきちんと伝えること。結局のところ地域の未来は、「地元に生まれ、地元に居続ける人たちがどれだけしあわせそうか」にかかっていると話す荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。