アメリカ合衆国の大統領選挙が11月5日に投開票され、(御存じのとおり)共和党候補のドナルド・トランプ前大統領の当選が伝えられる結果となりました。
勝敗の決め手となったのは、激戦州と言われてきた7州のうち、5州でトランプ候補の勝利が確実となったこと。パンデミック後のインフレや混乱する国際情勢の中で、(米国民の)なかなか成果を出せなかった民主党バイデン政権への落胆と、ある意味「何をしでかすかわからない」トランプ前大統領への期待の高さがうかがわれるところです。
民主党のハリス副大統領は投票日から一夜明けて支持者らを前に演説し、「われわれの望む結果にはならなかった。しかし、受け入れなければならない」と述べ自身の敗北を認めたとされています。今後は来年1月のトランプ政権発足に向け、政策の継続と転換、そしてそのスケジュールが明らかにされていくことでしょう。
それにしても、つい最近まで「ハリス有利」と伝えられ勢いをみせていた民主党のカマラ・ハリス副大統領に対し、選挙期間終盤一気に巻き返しを図り勝利を手にしたトランプ前大統領。アメリカというのは不思議な国だな…と思うのは、なぜ荒唐無稽で言いたい放題、お騒がせ者の彼を、多くの人々がこれほどまでに熱狂的に支持するのかというところです。
(日本人にとって)極めて率直なこうした疑問に対し、11月7日の読売新聞が、同紙アメリカ総局長の今井隆氏による『なぜハリス氏はトランプ氏に敗れたのか…「唯一無二」に打ち勝てず、多様性に忌避感も』と題する論考記事を掲載していたので、参考までにその一部を残しておきたいと思います。
米共和党のトランプ前大統領は、2020年大統領選の後、民主主義の根幹たる平和な政権移行に背を向け四つの事件で起訴された人物である。それにもかかわらず、民主党のハリス副大統領はなぜ敗北を喫したのか?今井氏はその理由として、(まず何よりも)ハリス氏が「個」の力でトランプ氏に太刀打ちできなかったことを挙げています。
トランプ氏は希代のポピュリストであり、良くも悪くも唯一無二の存在といえる。一方のハリス氏の副大統領としての評価は低く、バイデン政権の負のイメージを引きずり、終盤戦で支持は頭打ちになった。また、個性としての「優等生で失敗を恐れるタイプ」という印象もぬぐえなかったということです。
さらに、有権者の関心が高い経済政策についても、米国民の間に浸透しなかったと氏は続けます。彼女は選挙戦において、誰もが成功のチャンスを得られる「機会の経済」を掲げ、新規事業の設立への税額控除拡充などをうたった。しかしそれ自体が、近年の高学歴なリベラル派が好む「機会の平等があれば、努力をする人は成功できる」というメッセージとして伝わったと氏はしています。
(言っては何だが)米国民の誰もがハリス氏のように努力の才能があるわけではない。こうした主張は、インフレ(物価上昇)にあえぐ黒人やヒスパニックらの支持にはつながらず、「自らが勝てば米国を裕福にする」というトランプ氏の単純なメッセージの方が訴求力が高かったということです。
また、ハリス氏の纏ったリベラル過ぎるイメージも、最後まで払拭できなかったと今井氏は指摘しています。
トランプ陣営は終盤、ハリス氏が心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」の受刑者の性別適合医療に、公費投入を認めると発言した過去の映像をテレビ広告で執拗に流した。米国の多様な社会を「行き過ぎ」と感じる有権者は地方を中心に多く、また、黒人かつアジア系の女性という多様性を体現するハリス氏の存在そのものが、(保守層ばかりでなく)無党派層の一部に忌避された面も否めないということです。
米国ではいまだに女性大統領が誕生した例はない。世界最強を誇る米軍の最高司令官を務める大統領職には、「強さ」を求める有権者は今でも多いと氏はこの論考の最後に話しています。
結局、(米国民が求めているのは「強い父親」で)「ガラスの天井」と呼ばれる目に見えない障壁に、ハリス氏もまたはね返されたということなのでしょうか。少なくとも、分断の中にあえぐ現在のアメリカが求めているのが(一か八かの)「劇薬」であることは、今回の選挙の結果が証明しているように感じます。