MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2662 少子化問題の特効薬

2024年11月03日 | 社会・経済

 10月29日、三原じゅん子こども政策担当大臣がインタビューに応え、少子化の反転に向け「結婚を希望する若者や子育て世帯をしっかり後押しする」と(総選挙後の臨時国会を前に)改めて決意を示したと時事通信が報じています。

 三原大臣は日本の少子化の要因について、未婚化、晩婚化の影響が大きいと指摘。「自治体が行う結婚希望の実現に向けた取り組みが浸透していないので、支援を強化したい」「結婚を希望する若者や子育て世帯をしっかり後押しする対策に全力を挙げる」と強調したということです。

 これまで「子育て支援」に特化し、注力してきた観のある政府の少子化対策ですが、ここにきてようやく若者の「結婚」に目を向けるようになったということでしょうか。若者の心理状態にも関わる話なので、一連の政策形成に当たってはその規模ばかりでなく、「アイディア」で勝負していく必要を強く感じるところです。

 ともあれ、少子化問題は国の活力の根幹をなす問題であるだけに、喫緊の対策が必要なのはわかります。しかしその一方で、何十年もの時間の中で進んできた(ある種の)社会現象ですから、まずはどこかで「反転」のきっかけを作るところから始める必要があるのも事実でしょう。

 8月9日の経済情報サイト「DIAMOND ONLINE」に、スタイルアクト(株)代表取締役で不動産コンサルタントの沖有人氏が『誰も語らない「少子化問題の特効薬」とは?国の子育て支援など効くはずがない実情』と題する一文を寄せていたので、この機会に一部を紹介しておきたいと思います。

 (出生数と様々なデータとの相関のうち)直近30年の傾向を見ると、出生件数に最も影響するのは婚姻件数だと、沖氏はこの論考の冒頭に触れています。

 婚姻件数と出生件数には、1年のタイムラグをもって強い相関性が見られる。結婚すると避妊することが少なくなり、いわゆる「できちゃった婚」が婚姻の約25%を占めることなどからも、この相関は容易に想像がつくだろうということです。

 実際、「出生件数÷前年の婚姻件数」の数字は、1992年以降1.4~1.6の間で安定しており、直近2年も1.54をキープしていると氏は言います。女性が結婚したら一定数の出産をしているという事実は今でも揺らぐものではなく、経済的な余裕などを考え「出産を控えている」とは言えないというのが、この論考で氏の指摘するところです。

 これはつまり、少子化問題の実態を捉えるために出産適齢期の人にアンケートを取っても、それはあくまで想像の域を出ていないということ。ひとたび産んだら「子はかすがい」の言葉通り、親は何とかして立派に育てようとしているというのが氏の認識です。

 この傾向は地方でも都市部でも同じこと。「出生件数÷前年の婚姻件数」の直近20年平均は、東京都1.23、1都3県(首都圏)1.38で変わっていないし、(全国と比べて若干数値は落ちるが)ほぼ横ばいで近年減っているわけではないと氏はしています。

 (識者や政治家の一部に)「都市部に若者が集まることが少子化の原因」という主張があるが、そもそも都市部は就職先や求人数が多いから若者が集まるので、これを止めることは職業選択の自由の観点からも看過できない。また、都市部における女性の高学歴化や子育てのしにくさ、経済的な負担の大きさで「産み控え」をしているとは(少なくとも端的には)言えないということです。

 合計特殊出生率が、2023年に1.20と過去最低になったというニュースがあったが、実はこれは簡単に予測できた。データを見てわかる通り、この出生率の低下原因は単純に(前年の)婚姻件数の減少が主因であり、婚姻件数が前年比9割になれば、翌年の出生率はほぼ9掛けになると氏は説明しています。

 50歳時の未婚者割合を生涯未婚率というが、2021年には女性が14.6%であるものの今後は急上昇し、25%を覗う展開が予想されている。(したがって)少子化対策の本丸はこの未婚率の上昇を抑えることに尽きるのであり、日本全国どこでも、男女のマッチングを盛んにする仕組みやインセンティブに注力した方がいいというのが氏の提案するところ。

 折しも新型コロナ禍では、自粛要請で結婚式を挙げられない人が続出し、結果、婚姻件数は激減した。女性の出産適齢期が長くない中で、コロナ禍に翻弄されたこの2年の空白を取り戻すため、政府や自治体は今すぐにでもこうした対策を打たなければならないということです。

 本来、コロナ禍の結婚で産まれてきたであろう子どもが産まれないのは、産まれてきた我が子を亡くすのと同じこと。出産後の「子育て支援」に向かいがちな少子化対策は、言わば「頭でっかち」で人間の「本能」を軽んじていると氏はこの論考の最後に話しています。

 進化論のダーウィンは、「生き残る種というのは最も強いものでも最も知性があるものでもなく、変化に対応できたものである」と言っている。私たち人間も動物であり、ご多分に漏れずに進化論の枠組みの中にいる。で、あればこそ、(いくら困難に直面しても)後先を考えずに人を愛し、子どもを愛して努力するであろうことをもっと信じてもいいというのが氏の考えです。

 さて、そうとすれば氏も指摘するように、まずは現代の若い世代にはなかなかハードルが高い(らしい)結婚への道のりを低くすることが、私達「親世代」の唯一できることなのでしょう。そしてそのためには、(これまでのように)「家」だの「世間体」だのつべこべ言っていないで、彼らの背中を積極的に後押しすることが求められているのではないかという気がします。

 選択的夫婦別姓制度の導入もしかり、若者優先の賃上げもしかり、マッチング紺の奨励もしかり。今までのモラルや常識を超えたところで勝負しなければ、効果的な対策とはならないのではないか。

 さらに、本気で出生数の増加を考えるのであれば、(「SEXの奨励」とまではいわないまでも)必要に応じ「お試し婚」など慎重になりすぎた男女の性的なつながりに対する心理的なハードル下げる努力や、学校における性教育の抜本改革などにも、私たちは(開き直って)潔く切り込んでいかなければならないかもしれません。