11月20日、与党自民、公明両党と国民民主党は、政府が週内に閣議決定する総合経済対策に、年収103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」の引き上げを盛り込むことで合意したと、大手新聞各紙が報じています。
いわゆる「年収の壁」のひとつとされる103万円の所得税非課税枠。11月21日の日本経済新聞(『国民民主「最賃が根拠」178万円案 自公は物価で反論』)によれば、かつてインフレが定着していた時代には非課税枠は断続的に引き上げられてきた由。しかし、それも1995年が最後で、物価が上がらないこの30年間は103万円のまま据え置かれてきたということです。
今回、国民民主が引き上げ額の根拠として挙げているのは、「最低賃金の上昇率」とのこと。全国加重平均で1995年の611円から2024年に1055円とおよそ1.73倍になっていることを根拠に、非課税枠を73%引き上げ178万円に上げるということのようです。
一方、同記事によれば、政府与党には最低賃金を根拠にする国民民主の主張に疑問を呈す向きも多いとのこと。この30年間の消費者物価の上昇率を踏まえて控除額を算出すると、1.1倍の113万円に過ぎないというのがその根拠で、そのうえ、地方交付税の減少分と合わせると地方で5兆円超、国では2兆円台半ばの減収になるということになれば、抵抗があるのも当然かもしれません。
このような指摘に対し、国民民主の玉木雄一郎代表は22、23年度にそれぞれ11.3兆円、6.9兆円の予算使い残しがあり、税収も想定よりそれぞれ5.9兆円、2.5兆円多かったとし、「予算計上を精緻化すれば7兆円程度の減収への対応は十分可能だ」と話しているということです。
確かに、(ここのところの)補正予算を活用した政府の「経済対策」の杜撰さには目に余るものがあり、結局、基金に積まれたまま放置されている予算が多いことも事実です。しかし、言ってみれば「それはそれ」で、「年収の壁」とは関係のない話。政府の無駄使いが多いことを理由に、給与所得者の所得控除額のみを増やすというのも理屈に合わない話です。
そもそも、誰かの被扶養者であれば、所得があっても税金がかからないこと自体が基本原則に反した話。そのうえ、その所得が一定以内なら扶養者の扶養控除にも影響がないというのでは、孤独な独り者は浮かばれないことでしょう。
「年収の壁」を取り去ることが目的であれば、まず「壁を低くする」ための議論があってしかるべきはず。本来であれば、(このような)専業主婦を優遇する(旧態然とした)制度自体を見直すのが筋なのに、国民民主党の主張を聞いた時に「え、そっち?」と思ったのは私だけではないはずです。
11月21日の日本経済新聞の社説(『「就労の壁」は扶養のあり方から議論を』)は、この「年収の壁」壁をどかす方法は(実は)「2つある」と話しています。
それは、税や保険料を求める年収基準を引き上げるか、(反対に)段差を小さくするために基準を逆に大きく引き下げるか。勿論、国民民主が「手取りを増やす」として求めている「所得税の控除額を103万円から178万円に上げる案」は前者だが、年収基準を上げれば(配偶者の)労働時間は増えるかもしれないが、税優遇の拡大は肝心の「フルタイム就労」を見送る誘因にもなりかねないというのが記事の指摘するところです。
そもそも、「働く配偶者」の今の控除額が妥当なのかどうかも議論すべき。共働き世帯が一般的になった現在、収入を得ている専業主婦らが「基礎控除」と「配偶者控除」という二重の控除を受ける現状は、不公平感を引き起こしていると記事は主張しています。物価動向を踏まえた基礎控除の一定の引き上げには検討の余地があるとしても、実施するなら働く配偶者の控除縮小と一体で行うべきだというのがその根拠です。
もとより、収入に応じて税や保険料を納めるのは社会の基本であるはず。働き方が多様化した時代に求められるのは「就労の選択」をゆがめない制度であり、税も保険料も徴収ラインを大きく下げ働く配偶者の優遇を見直す改革こそが必要だと結ぶ記事の指摘を、私も(大きく)頷きながら読んだところです。