MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#1894 予算の使い残しは問題か?

2021年07月04日 | 社会・経済


 新型コロナウイルスの感染拡大と経済への影響を受けて、2020年春から積み増してきた国の補正予算73兆円のうち、半分近い約30兆円が使い残されていることがわかったと6月24日の日本経済新聞が伝えています。

 コロナ関連予算のうち家計や企業への支払いを確認できたのは約35兆円と名目国内総生産(GDP)の7%程度で、GDPの13%を支出した米国と比べ財政出動の効果が限られる展開となっていると記事はしています。
危機脱却へ財政ニーズが強い時にもかかわらず、認められた予算枠の実に4割を使い残す異例の事態は、日本のコロナ対応の機能不全ぶりを映し出しているというのが記事の指摘するところです。

 確かにコロナ感染症の影響で多くの人々が経済的に苦境に立たされる中、国民一人あたりに約30万円を配れるほどの多額の予算が手つかずでただ保管されているとすれば、無駄の誹りを免れることはできません。
 政府がきちんと政策を立て、ビジョンを持って予算を配ることができていない現実は、確かに危機感の欠如と言ってもよいでしょう。

 この補正予算は、6月の記者会見で当時の安倍首相が、「GDPの4割に上る世界最大規模の230兆円の経済対策で日本経済を守り抜く」と打ち出したものの一部です。多くの国民がダメージを受ける中、他国と比べて支援が遅れている現実は、日本の経済回復の遅れとして顕在化しつつあるのかもしれません。

 しかし、ワクチンの接種がそれでも着実に進んでいる現在の状況を冷静に考えると、予算を使いきれなかったのにも(それなりの)理由があるはず。「そもそも必要な予算であったのか」について、この際、しっかり見直してみる良い機会ではないかと考えることもできます。
 せっかく残っているのなら、もっと有効な使い道があるのではないか。7月3日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」は、そうした視点から「予算使い残しは問題か」と題する興味深い一文を掲載しています。

 コロナ対策として積み上げられた国の予算73兆円のうち、コロナ禍で困窮する家計や事業者への給付金の予算執行は順調に進んでいる。一方、使い残しが目立っているのはGoToトラベルやGoToイートなど「消費活性化策」だと筆者はこのコラムに記しています。
 昨年7月に始まった国内旅行の宿泊費を国が補助するGoToトラベル事業は、コロナ感染が収束しない中で実施する事業として当初から疑問が持たれていた。GoTo事業は感染再拡大を受けて昨年末に停止しており、予算の使い残しはむしろ当然だというのが筆者の認識です。

 問題は、国の財政がコロナ禍の局面変化に応じて柔軟かつ効率的に対応できたかという点にある。個人向けの1人10万円の特別定額給付金は、すべての人にばらまくのではなく真に生活に困窮した人に手厚く配るべきだった。生活に困っていない人にまで一律に配ったことで、給付金の多くが貯蓄として家計に積み上がったと筆者は指摘しています。

 GoTo事業の教訓から明らかなように、感染収束が見えないなかでの消費刺激や観光支援策は本当に必要だったのか。むしろ、予算をその時点で組み換え、ワクチンの確保や医療提供体制の拡充に資金を振り向けるべきだったというのが筆者の意見です。
 今回、米国政府が行ったコロナ対策で、最も成功したのはコロナワクチンの早期開発を支援する「ワープスピード作戦」だったと筆者は言います。急がば回れで財政資金で需要を刺激するよりも、経済再開につながるワクチン開発を最優先したことが早期の経済回復につながったということです。

 日本でもワクチン接種がようやく進み始めているが、停止中のGoTo事業をこのまま継続するかどうかの議論も必要だと筆者はしています。
 ワクチン接種が進み感染拡大がおさまれば、黙っていても皆、旅行や外食に出かけるだろう。その段階で国が補助金を出す必要が本当にあるのだろうか。わざわざそんなことをしなくとも、既に家計に滞留している巨額の預貯金が動き出すに違いないというのが筆者の予想するところです。

 確かに、一度予算をつけたからといって、GoTo事業をこのまま消化する必要はもはやあまり感じません。もしも、飲食や宿泊・旅行業を支援したいのであれば、新しい生活様式に合った形でより多くのお客様を受け入れられるよう、疲弊した事業者を支援する方向にシフトすべきとも考えます。

 役所というのは不思議なもので、(状況は刻一刻と変わっているのに)いったん決められた予算は意地でも「消化」しようと励むもの。
 国会で認められた予算であっても既得権扱いせず、この際、状況変化に応じた機動的な予算編成と執行で傷ついた業界の復興・回復につなげたいと考えるコラムの指摘を、私も興味深く読んだところです。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿