少し前の調査になりますが、2022年の10月に弁護士ドットコム株式会社が雇用労働者767人を対象に行った調査によれば、職場に「働かないおじさん(おばさん)」が「いる」と回答した人は58.7%。(面白いことに)「自分がそうだ」という自覚アリの回答も4.2%あり、合計では6割を超えていたということです。
因みに、「働かないおじさん(おばさん)」の実態についての設問に対する回答は、「いつもパソコンを眺めているだけ」「時代遅れのプランを裏付けもなく非論理的に主張する」「いつも仕方ない感を出していて、人に仕事を任せる」などと辛辣そのもの。彼らの分まで仕事を押し付けられる若い人たちの、きびしい視線が目に浮かびます。
一方、「自分がそうだ」と回答した人からは、「やってもやらなくても、給料はさほど変わらない」「そろそろ若い者に仕事を任せて、自分はルーティンワークに徹したい」などの回答があった由。いくら頑張っても、給料や待遇で評価されなければやる意味がないと考える年配社員の諦念も、(同じ世代の人間として)わからないではありません。
どこの職場でも見かける「やる気」のないおじさんたち。そんな話に「耳が痛いな」と感じた人もきっと多いことでしょう。10月29日のビジネス情報サイト「現代ビジネス」に、リクルートワークス研究所研究員の坂本貴志(さかもと・たかし)氏が、『なぜ日本で「働かないおじさん」が大量発生するのか…意外と知らない「シンプルな理由」』と題する一文を掲載していたので、その内容をちょっと覗いてみたいと思います。
実のところ、定年後の問題は、定年前から既に始まっていると坂本氏はこの論考の冒頭に記しています。例えば管理職に就く人の実態を見ると、部長職については、30代後半から少しずつ増え始め、若い人では40代前半から後半にかけてその職に就く。そして、部長職の構成比率は50代前半で26.6%、50代後半で26.9%と50代でピークを打った後に急速に減少し、60代前半には8.8%、60代後半には2.7%まで数を減らすということです。
特に、大企業においては、部長職にまで上り詰めることができる人は同期の中でもごく一部。そして、その(ごく一部の)人も年齢を重ねる中でその役職を降りることを余儀なくされる。課長職ではさらに状況は厳しく、60代前半でその職に就いている人はわずかに2.9%。60代後半はそれも0.5%に落ち込むなど、50代後半以降、多くの人は役職定年や定年を経験して役職をはく奪されると氏は説明しています。
60歳を過ぎて、部下を多数有する常勤の役職者で居続けることが、多くの日本企業で不可能になっている現実は、こうした数字が物語っているところ。なぜ日本企業では、年齢によって役職を引き下げるのか。氏はその理由の一つとして、多くの企業で中高年が急速に増える中で、現場で顧客の最前線に立って成果を生み出すプレイヤーが不足し、管理だけを行う人材へのニーズが低下していることを挙げています。
年齢構成のひずみの拡大に応じて、企業としても役職適齢期を迎えている中堅層を十分に処遇しきれなくなっている。もちろん、これまで企業のために尽くしてくれた従業員に対して職位で報いることができなければ、中堅層のモチベーション維持に困難が生じるのも「致し方ない」というのが氏の見解です。
定年前の中高年のモチベーションの低下が問題視されて久しい。しかしその一方で、近年では一社員として現場で利益を上げ続けられる社員であれば年齢にかかわらず確保したいというニーズも、企業内において急速に高まっていると氏は指摘しています。「働かないおじさん」問題などが話題になることがあるが、中高年の仕事観に何が起きているのか。
落ち込みの谷が最も深いのが50代前半。この年齢になるとこれまで価値の源泉であった「高い収入や栄誉」の因子得点もマイナスとなり、自分がなぜいまの仕事をしているのか、その価値を見失ってしまうと氏は言います。
定年が迫り、役職定年を迎える頃、これからの職業人生において何を目標にしていけばいいのか迷う経験をする人は少なくないとのこと。そう言えば私の周辺でも、50代になろうとするタイミングで早期退職を決意したり、すっかりやる気をなくしたりしていた同世代の姿をよく見かけました。
データから明らかになるのは、50代が大きな転機になるということ。定年後をどうするかは、50代の(ターニングポイントを)どう生きるか…という問題であるかもしれないとこの論考を結ぶ坂本氏の指摘を、私も少し寂しい気持ちで読んだところです。
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