NHKが2022年に行った「“母親にならなければよかった”?女性たちの葛藤6000 人アンケート」(対象:全国の18歳から79歳の母親6,528人)によれば、「母親にならなければ良かった」と思ったことがある女性は32%と、回答の三分の一を占めたとされています。
そう思った理由を聞く設問(複数回答)に対しては、①「自分はよい母親になれないと思うから」が42%、②「子どもを育てる責任が重いから」が40%、③「子どもとのコミュニケーションがうまくいかないから」が39%であった由。一方、「母親にならなければ良かった」という気持ちを口にしたことがあるか…という問いに対しては、「誰にも伝えたことがない」が56%と過半を占め、その理由の1位となったのは「口に出してはいけないことだと思ったから」で、(こちらも過半の)55%の母親がそのように感じていたことがわかります。
育児・子育てに奮闘する中で様々な困難に直面し、子供を産んだことを後悔する母親たち。そしてそう感じたことを「後ろめたく」感じる母親たちが多くいる中、近年では、敢えて「子供を産まない」という選択をする女性も増えているようです。
組織コンサルティング会社の「識学」(東京・品川区)が20〜40代の有職で無子の女性150人に対し「子どもを産む予定の有無」を聞いた(「働く女性のこどもに関する調査」2023.6)ところ、「子どもを産みたいと思わない、産む予定はない」と回答した女性は6割に上ったとのこと。その理由の1位は、「子どもが欲しいと思わないため(34.4%)」、2位は「自由がなくなるため(32.3%)」、3位は「子どもを産む・育てる自信がないため(30.2%)」・「自分自身のために時間を使いたいため(30.2%)」と続いたということです。
また、雑誌「BIGLOBE」が今年2月に全国の18~25歳の未婚の男女800人を対象に行った調査(「子育てに関するZ世代の意識調査」2023.2)における「子どもはほしくない」の回答割合は、男性で51.3%と過半を占め、女性でも40.2%と4割を超えたと伝えられています。そして、その理由として挙げられたのは「お金の問題」が17%と最も多く、「お金の問題以外」の理由としては、①「育てる自信がないから」、②「子どもが好きではない、子どもが苦手だから」、③「自由がなくなるから」などが挙げられていたということです。
一方、人口呼応性の少子高齢化による問題が指摘され、国を挙げた「少子化対策」が声高に進められる昨今、「子供を産む・産まない」は個人の問題と(建前では)言いながら、若い女性に対する「結婚→妊娠」へのプレッシャーは嫌が応にも高まっていることでしょう。
他方、子育てに苦労する母親の姿を見て育ち、自分は「母親にならない」という選択をする女性も増えているとのこと。子育てを終えた上の世代が放つ無責任な言葉の一つ一つが、もっと自由に生きたいと願う(そうした)彼女たちを人知れず傷つけている場合も多いようです。
10月25日の「NHK出版デジタルマガジン」では、フェミニストとして知られる東京大学名誉教授 上野千鶴子氏の近著『マイナーノートで』(NHK出版)を踏まえ、「子を産むエゴイズムと子を産まないエゴイズム、どちらが大きい?」と題する記事を掲載していました。
出産適齢期の女性が子どもを産まないと、「子どもはいつ?」「まだ産まないの?」「いいお医者さまを紹介しようか?」と周囲がいちいちうるさい。「未産」は「未婚」と同じ。いずれは産むもの、結婚するもの、という前提に立っていると、著書で上野氏は語っています。
氏によれば、「母になって一人前」の日本の社会では、結婚しているかどうかよりも、母であるかどうかのほうが女の価値を決めているとのこと。結婚・出産が「女の上がり」であることにいまでも変わりはなく、例えシングルマザーであっても、「母であること」で「女の証明」を済ませたことになるというのが氏の感覚です。
既婚の女が子を産まないと周囲から冷たい目で見られるし、「妊活」しなければ「なぜ努力しないの?」と責められる。親になることが人格的成長と結びつけられてきたために、子のない女はたんに生物学的に欠陥品であるだけでなく、人格的にも欠陥があると思われてきたふしがあると氏は言います。
氏によれば、「子どもを産んで初めて人生の何たるかがわかったわ」と(知ったようなことを)言う女性にもしばしば出会う由。上野氏自身、「子どもを産んだことのないあなたに、女の何がわかるのよ」と正面から難詰された際、「ああ、おそらく多くの人びとが(口には出さないが)そういう目で「おひとりさま」の女を見ているだろう」ことがよくわかったということです。
さて、長い間、(ある意味「無責任」な)男として生きてきてしまった私には、「女は母親になって一人前」といった女性たちの感覚は正直よくわかりませんが、ママ友同士の話などを聞いている限りでも、独身バリキャリに対しての「あの人、ちょっと違うのよね…」という空気は感じるような気がします。
自らの名前を失い、「〇〇ちゃんのママ」として生きる女性たちが幸せであればそれでも良いと思うのですが、社会通念のようなものがそれを(母親となった)彼女たちに強いているとしたら、それはそれで悲しいことでしょう。
それにしても。日本の社会は「母性」をこれほどまでに持ち上げておきながら、(よくもまあ)実際に母になった女には「ペナルティ」と言ってよいほどの犠牲を押しつけつづけているものだと、氏はこの著書で語っています。
氏によれば、OECD諸国のなかでも「子育てを楽しめない」という女性の比率はダントツに高いとのこと。不幸な母に育てられるのは、子どものほうも不幸だということは断言できる。日本の母親が幸福になれば、母になりたいと思う女性も増えるだろうかと話す上野氏の指摘を、私も心して読んだところです。
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