MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2003 年金は若い世代の「お手伝い」

2021年10月29日 | 社会・経済


 先日行われた自民党の総裁選挙で候補者となった河野太郎行政改革担当相が、(かねてからの持論として)主張したのが基礎年金の税方式への転換です。河野太郎氏の発信力もあって、この政策提案により、基礎年金の問題が一躍世論の注目を浴びることとなりました。

 一方の政府サイドにおいても、田村憲久厚生労働大臣(当時)が総裁選直前の9月10日の記者会見において、基礎年金の給付水準の低下を抑えるため、次回の年金改革において新たな仕組みを検討することを明らかにしています。

 さて、今回、問題となっている「基礎年金の給付水準低下」とは何なのか。簡単に言ってしまえば、今後の非婚化などにより現役世代の非正規雇用者等が加入している国民年金の給付水準が低下すれば、低年金者の増加により高齢の生活保護受給者が増加しかねないという(きわめて世知辛い)問題です。

 「国民皆年金」を建前とするわが国では、基礎年金は現役時代の所得の多寡にかかわらず、一定年齢以上になれば全国民に支給されることになっています。一方、年金制度は年金保険料を払わない人には給付しないのが原則で、年金保険料の支払い期間が短いと給付額も少なくなることから、生活保護に頼らざるを得ない世帯が増加するのではないかという懸念が生じるというわけです。

 近頃、若い世代を中心に年金制度への不安、不満の声を耳にする機会が増えましたが、果たして日本の年金制度は本当に(保険料を支払うに値する)頼りになる存在なのか。こうした疑問に応え、10月16日のPRESIDENT ONLINEでは「ニコニコ動画」「2ちゃんねる」創設者である西村博之(ひろゆき)氏が、「"年金なんて払うほど損する"と考える人が根本的に間違えていること」と題する興味深い一文を寄せています。

 「どうせ年金はもらえない」「払うほど損をする」現役世代にはそう考えている人が少なくないようだが、実は年金は払っておいたほうが将来トクをする、案外、優秀な金融商品だというのが、このコラムにおけるひろゆき氏の認識です。

 一般的な投資などで貯蓄を増やしていこうとすると、給与から税金を天引きされた残りが原資になる。一方、年金だと、給与から年金の保険料分が控除されるため、少なくとも税金の徴収額が少なくなるため、その分、年金のほうがおトクだと氏話しています。

 また、(計算では)今の若者世代であっても、(少なくとも)支払った分くらいの年金はもらうことができる制度となっている。みずほ総合研究所が出したデータでは、1995年生まれの人が平均余命まで生きた場合、国民年金支給額は支払った分の1.2倍から1.5倍とであり、さらに厚生年金であれば、支払い額の2倍以上を受給することができるということです。

 しかし、(勘違いしないでほしいのは)だからと言って「年金だけで暮らせる」わけではないということ。年金はある程度もらえても、多くの場合、生活費すべてをまかなうほどの額にはならない。それは、そもそも現在の年金は、「高齢者全員の生活を保障する」制度として設計されているわけではないからだというのが氏の見解です。

 もともと日本の年金制度は、将来の自分の分を自分で用意する「積立方式」ではなく、「賦課方式」を取っている。賦課方式とは、お金を稼いでいる現役世代が、年金受給世代の必要とする分を国に納めるという仕組み。つまり、お年寄りが60歳で定年を迎えてからの数年間を暮らせるように、現役世代が「お手伝いする」といった趣旨ものだったと氏はしています。

 しかし、長寿化が進んだ現在では、普通の人でも80歳過ぎまで生きるのは当たり前。年金を受け取る年数が長くなり、長生きすることで年金受給者の絶対数も想定以上に増えている。一方、これから現役世代の人数は減っていくため、(少なくともこのままでは)年金制度が誕生したときのような役割をずっと果たすのが無理なことは誰もが(薄々)感じているとおりだということです。

 日本の人口構成は、1950年頃の理想のピラミッド型から、上から下に向けてだんだん細くなる形に変化している。人口構成を見る限り、今の現役世代が年金受給世代になったときには、もはや資金の出所が足りないのは明らかだとひろゆき氏は指摘しています。政府ももちろん、それはとっくにわかっているので、たびたび年金の受給年齢を引き上げるなどの見直しを行ってきた。一時期メディアなどで話題に上った「老後2000万円問題」は、まさにその典型だということです。

 年金制度に不安はあっても、そこで思考停止していた多くの国民は、ある日突然「老後に夫婦2人が生活していくためには、2000万円の貯金が必要」と言われて大きなショックを受けたようだ。しかし、まともに計算していた人にとっては、「何を今さら」という感じだったに違いないと氏は話しています。

 2000万円という金額は、総務省の「家計調査(2017年)」における高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)をモデルケースに算出されたもの。モデル世帯では、年金を中心とした収入が20万9198円、支出が26万3717円で、毎月約5.5万円の不足が出る。このため、夫婦で30年生きるには、(月5.5万円×12カ月×30年=)1980万円必要だという(計算自体は小学生でもできる)単純なものだということです。

 いずれにしても、年金だけで老後の生活を維持しようという期待は現実離れしたものであり、今の現役世代は(あるいはさらに若い人たちは)、自分の老後のために、徹底した準備を自分で整えなければならないと、ひろゆき氏はここで改めて指摘しています。もっとも、これは日本だけの問題ではない。税金がべらぼうに戦い北欧や中東の豊かな産油国などを除き、世界のどの国に住んでいようと、お金がなければずっと働き続けなければならないのは自明の理だというのが氏の見解です。

 「人生設計」とはよく言ったもの。イソップ童話の「アリとキリギリス」のエピソードも示唆するように、安心できる老後を過ごすためには、人は死ぬまでの人生に思いを馳せ、想像力を逞しくしてリスクをヘッジいていかなければならないということでしょうか。

 年金はあくまで生活の一部を支えてくれるもの。足りない部分は自分たちで用意しなくてはいけない。こうした考え方にシフトして今のうちから備えをしている人だけが、数十年後に幸せな老後生活を送れるだろうとこのコラムを結ぶ氏の厳しい視線を、私も(差し迫った現実問題として)重く受け止めたところです。



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