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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯775 北朝鮮のミサイルを防ぐことはできるのか

2017年04月17日 | 国際・政治


 防衛省のシンクタンクである「防衛研究所」は、先ごろ公表した東アジアの安全保障情勢に関する報告書で、懸念される北朝鮮のミサイル攻撃が核兵器の小型化・弾頭化により日本にとって一層深刻な脅威となりつつあると指摘しています。

 報告書によれば、中距離弾道ミサイル「ノドン」などは発射の兆候を把握することが困難なうえ、射程や飛翔の精度も飛躍的に上がっていると見られています。さらに近年では、固体燃料の使用などによる連続発射能力が大きく向上しており、日本を含む地域と世界の安全保障にとって北朝鮮のミサイルは、一層深刻な脅威となりつつあるということです。

 北朝鮮のミサイル技術の進歩がもたらす我が国への脅威に対し、日本は日本海に展開した艦船からのミサイル攻撃やPAC3と呼ばれる迎撃システムにより対応するとしています。しかし、実際のところ、音速を大きく超えて飛来する(核やサリンを積んだ)ミサイルに、果たしてどこまで対応できるというのでしょうか。

 日本の安全保障に大きな影響を及ぼすこの問題に対し、4月5日の「現代ビジネス・オンライン」では、中日新聞編集委員兼論説委員の半田滋(はんだ・しげる)氏が、「日本の対北朝鮮ミサイル防衛の非現実性」と題する興味深い論評を寄せています。

 改めておさらいをすると、自衛隊が保持する日本のミサイル防衛システムは、飛来する弾道ミサイルをアメリカから導入したイージス護衛艦から発射する艦対空ミサイル「SM3」で迎撃し、そこで討ち漏らしたものについては地上配備の地対空ミサイル「PAC3」で対処するというものです。

 防衛省の説明では、北朝鮮の弾道ミサイルに対しては、海上自衛隊が保有する護衛艦「こんごう型」4隻のうち日本海に配備された2隻がSM3を発射し、上昇中の低速度のうちにこれを打ち落とすとしています。

 半田氏によれば、護衛艦が搭載するSM3は1隻あたり8発だということですので、1発の弾道ミサイルに対し(万全を期すために)2発のSM3を発射するとして、2隻の護衛艦により対処可能な弾道ミサイルは(合計)8発程度という計算になります。

 一方、米国防総省によれば、北朝鮮が保有する(日本まで届く)弾道ミサイルは「スカッドC」(九州北部、中国地方)、「スカッドER」(本州全域)、「ノドン」(日本全域)の三種類で、合計250基以上と考えられているということです。

 つまり、これらが一斉に発射されれば、イージス護衛艦ではたちまち対処不能となり、PAC3が「最後の砦」となるとこの論評で半田氏は指摘しています。

 それでは、最後の頼みの綱となるPAC3の配備状況はどうなっているのでしょうか?

 氏によれば、自衛隊のPAC3保有数は32基ありますが、2基1セットで活用するので防御地点は16ヵ所に限定されるということです。

 防衛計画によれば、そのうちの6基は首都防衛に使われることが決まっており、PAC3で防御できる地域は残り13ヵ所。PAC3の1ヵ所あたりの防御範囲は直径約50キロの範囲に限定されていてそれ以上はミサイルが届かないため、日本海上でSM3に撃ち漏らされれば残りの地域では、(残念ながらなす術もなく)ミサイルの落下を見守るばかりということになります。

 米軍が嘉手納基地に周辺にPAC3を24基配備しているのと比べ、日本列島全体を32基で守ろうというのは破れ傘、いや骨だけの傘で雨をしのごうというのに等しいと、半田氏は現在の日本の(ミサイル防衛の)現状を説明しています。

 半田氏は、このような費用対効果の低さを見込んで、当初、自衛隊の制服組は米国からのミサイル防衛システムの導入に反対したとしています。しかし、(2002年当時の)守屋武昌防衛事務次官は「米国はシステム開発に10兆円かけた。同盟国として支えるのは当然だ」と主張して旗を振り、初期配備に1兆円、その後の改修などを含めれば1兆4000億円にも及ぶ防衛費の追加支出が閣議決定されたということです。

 それでは、こうして防衛システムをすり抜けた北朝鮮のミサイルは、一体どこへ向かうというのか?

 日本列島には、休止中のものも含め、全国に54基の原発があると半田氏は指摘しています。使用済み燃料棒が原発建屋の天井近くに保管されている事実は、東日本大震災の福島第一原発の事故で世界中に知れ渡っており、通常弾頭であっても命中すれば、放射性物質の拡散により大惨事となることは北朝鮮もよく理解しているということです。

 こうした状況を戦略的に鑑みれば、北朝鮮のミサイル攻撃に対抗するために自衛隊の装備体系を攻撃型に変え、北朝鮮のミサイル基地に(先制的に)攻撃を加えられるよう準備を整えるべきとする声があるのも(それはそれで)頷けるところです。

 実際、自民党の安全保障調査会は今年の3月、政府に対し自衛隊の敵基地攻撃能力の早期の保有を求める提言を安倍首相に提出しています。

 しかし、この論評において半田氏は、このような戦略にはその「実効性」に疑問符が付くと敢えて指摘しています。

 2015年以降、北朝鮮では潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発が進み、2016年5月にはSLBMの発射に初めて成功。攻撃能力の多様化と残存性の向上を図っているということです。

 また、北朝鮮のミサイル基地は7割が地下化されており、偵察衛星でも完全には補足できない。山に横穴を空けて移動式の弾道ミサイル発射器を隠した場所もあって、地上部隊の派遣を抜きにすべてのミサイル基地を破壊するのは極めて困難だと氏は説明しています。

 その意味するところは、例え自衛隊が何らかの手段でミサイル発射を阻止するための先制攻撃を加えようと試みても、攻撃目標を探す間に弾道ミサイルは日本列島に飛来しているということです。

 さて、半田氏は、北朝鮮のミサイル攻撃に対し防御の術を持たないこうした日本の現状を考えれば、政府が取れる選択肢はそれほど多くないと指摘しています。

 氏は、北朝鮮への先制攻撃も視野にいれるトランプ政権に対し、外交的アプローチの強化を求めることではないかと改めて指摘しています。オバマ前政権の「戦略的忍耐」を失策と断じるトランプ新政権に対し、北朝鮮との対話に乗り出し核放棄とミサイル開発の中止と引き換えに「平和協定」を結び、北朝鮮に「米国は攻撃しない」という保障を与えるよう説得すべきだということです。

 米国、北朝鮮どちらの国が軍事オプションを選択したとしても、結局、全面戦争に発展することで被害を受けるのは、(少なくとも現時点では)アメリカ本土ではなく日本や韓国も含めた東アジアの国々になるだろうと半田氏は考えています。

 北朝鮮の2百発を超える弾道ミサイルが飛来し、日本が壊滅してしまう恐れが身近に迫っていることを考えれば、政府は(米国に追従するばかりでなく)国民の安全を第一に、ジャパン・ファーストの外交政策を具体的にとるべきではないかとするこの論評における半田氏の指摘を、私も改めて重く受け止めたところです。



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