MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯776 北朝鮮の未来と大国の思惑

2017年04月18日 | 国際・政治


 米トランプ大統領によるシリアへのミサイル攻撃の決断に、北朝鮮の核開発や弾道ミサイル配備をめぐる東アジアの情勢は風雲急を告げています。

 4月16日の金日成主席誕生105周年記念日に合わせ、金正恩朝鮮労働党委員長率いる北朝鮮が核実験や長距離ミサイルの発射実験など何らかの軍事的な示威行動に走るのではないかとの懸念の下、米国は原子力空母カール・ビンソンを中心とする海軍打撃群を北朝鮮付近の海域に展開させています。

 トランプ米大統領は、核・ミサイル開発を繰り返す北朝鮮への圧力強化を巡って中国の協力を強く求めており、4月13日には自身のツイッターに「もし中国が北朝鮮を対処できなければ米国が行う」と投稿して、単独行動も辞さない考えを国際社会に示しています。

 また、同日の米NBCテレビは複数の米情報当局者の話として、北朝鮮が6回目の核実験を強行しようとした場合に備え、米軍が通常兵器による「先制攻撃」を行う準備に入ったと報じています。近海に配置したイージス駆逐艦から巡航ミサイル「トマホーク」を発射できる体制を整えているほか、米領グアムの基地では重爆撃機も出撃態勢にあるということです。

 こうした状況の中、(北朝鮮の動きへの懸念が高まった)4月16日の日本経済新聞は、編集委員の大石格(おおいし・いたる)氏による「北朝鮮は中国の手で」と題する大変興味深い論評記事を掲載しています。

 氏はこの記事において、現在、北朝鮮へにらみを利かせている米空母カール・ビンソンは、日本とは浅からぬ因縁があると振り返っています。

 氏によれば、横須賀を母港とする空母インディペンデンスが1998年に退役する際、後継にいったん内定したのがこのカール・ビンソンだったということです。1982年3月に就役した同空母は、インド洋から中東にかけての紛争地帯の最前線に配備されデザートフォックス作戦などの数々の実戦に参加した(映画「トップガン」などでも有名な)歴戦の強者です。

 ところが、当時の日本では「原子力空母の初の常駐」に反対する社民党が政権の一翼を担っていたため、(米国の配慮で)蒸気タービンで動く1961年就役の通常型のキティホークに急遽差し替えられたということです。

 因みに、その後、キティホークは老骨にむち打って2008年まで働き続け、原子力空母ジョージ・ワシントンに後を引き継ぎましたが、その際日本は既に自公政権になっており、(米海軍に通常型空母が残っていなかったこともあって)結果として「すんなり」と配備が決まったということです。

 いずれにしても、日本の安全保障に重大な影響を与える局面で、そのカール・ビンソンが助っ人としてやって来ているのは、20年前を振り返ると感慨深いと、大石氏はこの論評に記しています。

 さて、こうして(役者がそろい)米・中・朝の思惑が緊張感を増し神経戦の趣を呈する中、果たして米朝開戦はあるのかないのか。外交筋ばかりでなく、世間の目下の関心事がその1点にあるのは事実でしょう。

 大石氏はここで、トランプ大統領が強硬策に出る場合の選択肢は
(1) カール・ビンソンを中核とする機動部隊による先制攻撃
(2) 特殊部隊による金正恩委員長の殺害
(3) 在韓米軍への核兵器の再配備
の3つに集約されると、端的に指摘しています。

 しかし、これらの作戦にはそれぞれにリスクが伴い、(1)(2)は標的を破壊・殺害できなかったときの北朝鮮の反撃の程度が読めないし、(3)では即効性に乏しいということです。

 それでは、米国はどう動くのか?

 大石氏は、あくまでも「噂話」としながらも、次のような戦略の存在の可能性を示しています。

 北朝鮮の核・ミサイル開発がさらに進めば、金正恩委員長は遠からず米本土に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を撃ち込めるようになる。これに対し、日米は経済制裁を強めてきましたが、中国の経済支援が止まらない限り北朝鮮は屈しないことは両国もよく分かっています。

 そこで、米国は中国に対し、国連決議に基づく対北朝制裁の徹底を求めている訳ですが、一方の中国にとって、北朝鮮が崩壊し半島が米主導で統一されれば米軍がのど元まで迫ることを考えれば、それが最も避けたいシナリオであるのは言うまでもありません。

 こうした状況を踏まえ、トランプ大統領は(このタイミングで)習近平国家主席にシリア攻撃というムチを見せる一方、「貿易交渉で譲ってもよい」とアメも出したというのが、米国が採った昨今の北朝鮮戦略に対する大石氏の認識です。

 しかし、もしも中国が米国の提案に乗って北朝鮮への制裁を強めれば、中朝の距離が広りタガが外れて開き直った北朝鮮が一段と暴走する可能性も否定できません。

 ところが、こうした矛盾を解決する方法が(ひとつ)存在すると、大石氏はこの論評で指摘しています。トランプ政権は発足直後、中国に「朝鮮半島の北半分は好きにしてよい」と伝えた。これが氏が聞き込んだ「噂」の正体だということです。

 例えば、クーデターが起こり金政権が倒れたとすればどうなるのか。

 米国にはハードルが高い金委員長の排除も、北朝鮮軍にパイプがある中国ならば手の打ちようがあるでしょう。場合によっては、身の安全を保障することを条件に、委員長に亡命を促すことなども可能かもしれません。

 また、その経過の中で(北朝鮮国内などが)少々混乱したとても、米国が介入して来ないことがわかっていれば、中国は安心してその収拾を図ることができると大石氏は説明しています。

 (厳しい言いぶりですが)朝鮮半島の統一は韓国にとっては悲願かもしれないけれど、米国、特にアメリカファーストを掲げるトランプ政権にとってはそれも交渉材料の一つに過ぎず、所詮は「ひとごと」だと大石氏は言い切ります。領地安堵で中国に汚れ役をさせることで(北朝鮮の暴走が)うまく収まれば、こんなに楽な話はないということです。

 一方、氏によれば、この「噂」には続きがあるということです。

 このような米中の取引の噂を(まことしやかな話として)聞きつけた金正恩委員長は、中国が自分の代わりに担ぎやすい兄の正男氏を直ちに殺させた。正男氏は「5年前から狙われていた」と報じられているが、なぜこのタイミングで、なぜあれほど乱暴な手口で行われたかを考えれば、こちらの説明の方が(ずっと)しっくりくるという指摘です。

 大石氏の論評からは、噂の出所や真偽のほどは判りませんが、そのように考えれば(ストーリーとしては)確かにつじつまが合うと言えるでしょう。

 こうした話を 「荒唐無稽」と一笑に付すのは簡単です。しかし、いまや世界の二大大国となった米・中は「敵同士」との思い込みを(一度)捨てれば、見える構図は自ずと違ってくると大石氏は言います。

 想定外の出来事が次々と起こる現在の国際社会を考えれば、「現実世界はスパイ小説よりもはるかに複雑なはずだ」とこの記事を結ぶ氏の指摘を、(ある意味「できすぎた話」ではありますが)私も大変興味深く受け止めた所です。




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