MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2604 定額減税と特別徴収

2024年07月03日 | 社会・経済

  業種による税金の不公平を象徴する表現として、「クロヨン(9:6:4)」とか「トーゴーサンピン(10:5:3:1)」といった言葉を耳にしたことのある人も多いでしょう。

 ここで言う「クロヨン(9:6:4)」とは、課税庁による所得捕捉率の業種間格差指す言葉。実際の所得を10として、そのうち税務署などが把握しているのは①サラリーマンなどの給与所得は9割、②自営業者などの事業所得は6割、③農業や水産業などでは4割といった、「相場観」を示しています。

 一方の「トーゴーサンピン(10:5:3:1)」は、こちらも税務署が把握している所得の割合を指すもの。①すべてを把握されているサラリーマンは10割、②自営業者などの事業所得は5割、③農業や水産業を営む事業者は3割、そして昨今政治資金パーティなどで話題となった政治家の所得は1割しか把握されていないという実態を示す言葉として広く知られています。

 とはいえ、いずれの場合も1円単位でつまびらかにされ、逃げ隠れできないのがサラリーマンの給与所得であることに変わりはありません。そして、それを支えているのが、(給与支給の段階で事業主が税額を源泉徴収するという)日本独特の「特別徴収制度」にあることに異論はないでしょう。

 一方、昨年11月に政府が閣議決定した「総合経済対策」に鳴り物入りで盛り込まれたのが、(国民1人当たり4万円を減税する)という「定額減税」というもの。ネット上で「増税メガネ」などと揶揄され続けてきた岸田首相と自民党政権の、起死回生をねらった打開策です。

 とはいえ、その内容は一年限りの単発減税で、支持率回復の意図があまりに見え見えなだけに、政治的な「人気取り」として評判は芳しくありません。「バラマキ」との批判が高まる中、国民に減税を実感してもらうことを目的に、給与明細に減額を明記するよう事業主に求めたことで、政権はさらに評判を落としたようです。

 そうした中、6月5日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に、経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が『定額減税を、給与明細に「明記させたい」政府の「屈折した思い」』と題する一文を寄せていたので、参考までにその概要を小欄に残しておきたいと思います。

 政府が6月に実施する定額減税について、給与明細に明記するよう求めたことが波紋を呼んでいる。企業側は「手間がかかる」として反発しているが、この話は、企業に税務を代行させるという源泉徴収の仕組みに起因したものであり、戦後日本の税制や国民の税に対する無関心と密接に関係していると、加谷氏はこの論考に綴っています。

 氏によれば、終戦後、日本は占領したアメリカ軍(GHQ)から、直接税を中心とした税制に改めるべきとの指摘を受けた(シャウプ勧告)とのこと。この指摘は、国民が税について理解し、納税者としての意識を高め、民主主義を推進する必要があるとの観点で行われたものだと氏は説明しています。

 しかし、日本政府は一連の勧告を全て受け入れることはしなかった。戦費調達のために導入した源泉徴収制度をそのまま残す形で、現在の税制を作り上げたということです。

 (戦前から続くこの)源泉徴収制度は、国民がいくら必要経費を使ったのかにかかわらず、一方的に所得の源泉(給与など)から税金を差し引くというもの。(実態よりも)効率を重視した、税の徴収を最優先した仕組みだと氏はここで指摘しています。

 サラリーマンの場合、一定金額が経費であると見なされ給与所得控除が適用されるが、その金額について納税者自らが調整することはできない。加えて、税額の計算や納付といった業務は全て企業が代行する仕組みなので、政府は真水(税金)だけを手にできる算段だということです。

 この仕組みの問題点は、納税者は給与明細を通じて税額を知ることはできるものの、(自身で申告は行わないので)税に対する強い関心がなければ自身がいくら税金を払っているのか分からないという状況に陥りがちなことだと氏は言います

 政府がアメリカの意向を無視して源泉徴収制度を維持したのは、戦後の貧しい時代において税収確保を優先するためだったと思われる。しかし、現在も当該制度を残しているのは、あえて国民に納税者意識を植え付けないためだと指摘する声もあるということです。

 本当のところはわからないが、企業に税務を丸投げする制度が存在することで、国民の税に対する認識が薄くなっているのは間違いないというのが、この問題に対する加谷氏の見解です。政府としては、国民が税に対して無関心であることは好都合なはず。しかし今になって、(定額減税をやるから)税金について意識してほしいというのはもはや笑い話だということです。

 この際、シャウプ勧告における本来の趣旨にのっとり、全員が確定申告するようにすれば、定額減税の効果について国民は強く実感するはず。しかし、もしそのようなことをすれば納税者意識が一気に高まり、政府の予算には国民から厳しい目が向けられることになるだろうと氏は話しています。

 その意味では、今回の定額減税をきっかけに、日本の所得税の在り方についてゼロベースで議論してみるのもいいかもしれない。もっとも、アメリカのような確定申告制度に移行するには、国民の側にも(それなりの)覚悟が要るというのが氏の認識です。

 現制度において政府は、源泉徴収制度で強制的に税金を差し引く代わりに、「給与所得控除」や「基礎控除」「配偶者控除」など多数の減税措置を提供してきた。つまり源泉徴収を実施する代わりに、実質的な所得税額はかなり低く抑えられてきたと氏は話しています。

 そもそも、平安時代の昔から「泣くこと地頭にはかなわない」と口にしてはばからなかった日本人のこと。(嫌も応もなく)お上によって召し上げられるのが「税」であり、残った給料こそが「稼ぎ」だという感覚もあるのでしょう。

 一方、欧米各国尿のように、サラリーマンも含め全員が確定申告をするになれば、厳密に認められた経費しか控除できなくなるのもまだ事実。その際、国民は改めて税金の高さに驚くかもしれないと話す加谷氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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