現在、原則1割となっている75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担について、政府は年収200万円以上の人を対象に、来年10月から2割への引き上げを実施する方向で検討に入ったと大手新聞各紙が伝えています。
後期高齢者の医療費をめぐっては、高齢化の進展に伴って社会保障費が伸び続ける中、現役世代の負担の上昇を抑えるため、今年6月に年収200万円以上の人を対象に窓口負担を2割に引き上げる改正法が成立しました。改正法では引き上げの開始時期を来年10月から半年以内としていましたが、(「どうせやるなら…」ということでしょうか)最も早い10月に引き上げる方針を固めたようです。
報道によれば、この決断により、来年度後半の半年分で現役世代の負担をおよそ300億円、国や自治体の公費負担をおよそ400億円減らすことができるということです。しかし、公明党などを中心に与党内からは、来年夏に参議院選挙が控える中、高齢者に追加の負担を強いるのは急ぐべきではないという意見や、コロナ禍で相次いだ受診控えをさらに招きかねないという意見もさっそく出始めており、今後の議論の行方が注目されるところです。
選挙があるから「後ろ倒しに」という意見には、有権者も随分と舐められたものだと感じますが、こうした(相当に)あからさまな意見が正々堂々と出てくる背景に、いわゆる「シルバー民主主義」の存在があることは否めません。75歳以上と言えば、その多くが戦後の高度成長を背負ってきた昭和一桁世代から、「団塊の世代」と呼ばれる昭和20年代前半に生まれた人々で占められています。経済活動の第一線から離れ、公的年金を受給しながら生活している彼らは現在、どんな暮らしをしているのか。
12月7日の総合情報サイト「幻冬舎GOLD ONLINE」に高齢者の所得に関するデータが整理されていた(「平均年金208万円…正社員だった人々「老後どん詰まり」の悲劇」)ので、この機会に少し紹介しておきたいと思います。
まずは、そもそも日本人全体の所得はいくらなのか。「国民生活基礎調査(2019)」によれば、1世帯当たりの年間の平均所得金額は、「全世帯」の平均が552万3000円で、「高齢者世帯」は312万6000円、「高齢者世帯以外の世帯」では659万3000円、「児童のいる世帯」が745万9000円だということです。
もう少し詳しく、世帯主の年齢ごとに1世帯当たりの平均所得金額をみると、「50~59歳」が756万円と最も高く、「40~49歳」が694万8000円、「30~39歳」614万8000円と続いています。この中で最も低いのは、「29歳以下」の362万6000円。国税庁の発表によると20代前半の平均年収は248万円、20代後半でも344万円ですので、何かと物入りな都会の20代は一人暮らしでも結構しんどいことでしょう。
一方、これらを「1人当たりの所得」でみると、世帯人員1人当たりの平均所得額は最も高いのは「50~59歳」で276万1000円。これに、「60~69歳」の239万5000円、「40~49歳」の217万4000円と続き、最も低いのが「70歳以上」の190万1000円だったとされています。予想どおり、70歳以上の所得の大部分は公的年金で、「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」は 48.4%。約半数の高齢者世帯が、年金以外の収入がない状態で生活していることがわかります。
では、実際の年金受給状況はどうなっているのか。厚生労働省「平成29年 年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)」によれば、その構成割合は男性で「200~300万円」が42.2%、「100~200万円」が30.0%だということです。平均額が最も高いのは80~84歳で、半数以上が「200万円以上」の年金を受給している状況に、(高齢であるほど恵まれている)年金制度の実態が見て取れます。一方、女性では「50~100万円」が40.7%、「100~200万円」が32.4%。平均額が最も高いのは85~89歳で、男性よりは大きく落ちるものの、やはり高齢世代ほど受給額が多い状況は変わりません。
現役時代、正社員中心だった男性の平均年金額は208.4万円。女性の場合は139.3万円だということですので、多くの後期高齢者が現役時代と(金額的には)ほとんど変わらない年金を受け取っていることがわかります。とはいえ、(例えば高齢女性の場合)140万円の年金だけで暮らすのは(例え持ち家があったとしても)かなり難しいと言えるでしょう。これまで、蓄えてきた貯蓄や子供の世話などを受けながらやりくりしている世帯も多いと考えられます。
しかし、これから先も、こうした水準の年金受給額で何とかなるかと言えば、なかなか難しいのが現実のようです。家計計調査より作成された内閣府の経済諮問会議資料によると、現在、直接税や社会保険料等の負担が最も多いのは45~54歳で、実収入のおよそ20%にあたる金額が(給料から)引かれているということです。
2006年時点で勤労者世帯の社会保険料は1ヵ月あたり月4万円程度だったものが、2019年時点では5万5000円にまで跳ね上がっており、時代を追うごとにサラリーマンの手取りは大きく減っています。超少子高齢化社会の日本では、この先、社会保険料や医療費負担が下がることはなさそうなので、老後の貯えにも大きく影響することが予想されるところです。
減る年金と増える社会保険料。(一時期話題になった「老後資金2000万円問題ではありませんが)、さらに国債の大量発行などによって国の財政が(かなり)厳しくなっている現状を考えれば、(これからの世代は)現役時代によほどの資産形成をしておかなければ生活が立ち行かなくなることは火を見るよりも明らかと言えるでしょう。
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