MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1426 日韓対立がもたらすもの

2019年08月12日 | 国際・政治


 調査会社の韓国ギャラップが、7月9~11日にかけて韓国内で1005人の韓国人を対象に行ったアンケート調査の結果が伝えられています。

 「最近の韓日間紛争の責任が韓国政府と日本政府のどちらにあるか」と聞いたところ、「日本政府にある」との回答が61%、「韓国政府にある」が17%、「双方にある」が13%で、9%は回答を見送ったということです。

 また、日本製品への不買運動に対しては、67%が「参加の意向がある」と答え、「参加しない」との回答は27%と3割を切っている状況です。

 さらに、「日本」という国に対する感情については、「好感が持てる」との回答は12%にとどまり、「好感が持てない」とした人は77%に達したとされています。

 そうした中、8月2日に韓国への輸出管理を厳しくした日本に対し、韓国は政府、メディアが一体となって猛反発しており、韓国内では政府に先導される形で日本製品の不買運動もさらに広がっています。

 8月2日の国民向けの生放送で「加害者である日本が盗人猛々しくむしろ大口をたたく状況を決して座視しない」と強い言葉で日本を非難した文在寅大統領には、もはや日本との関係改善を指向する意思はないようにも見受けられます。

 慰安婦問題、レーダー照射問題、徴用工問題と悪化の一途をたどる日韓関係は何故ここまでこじれるに至ったのか。そして日韓の関係悪化は東アジアの安全保障や経済に何をもたらすのか。

 泥沼化する日韓関係に関し、8月10日の日経新聞の経済コラム「オピニオン」に、同社コメンテーターの秋田浩之氏が「日韓対立で失うもの 漁夫の利は中朝に」と題する論考を寄せています。

 韓国の反発の引き金となった日本の輸出管理の強化について、国際社会では「日本が韓国に言うことを聞かせるため強硬に転じた」と受け止められているようだが、現実は逆ではないかというのが秋田氏の認識です。

 舞台裏をのぞけば、日本はむしろ追い込まれ、本来は避けたかった「劇薬」を使わざるを得なくなったというのが実態に近いと、氏はこの論考に記しています。

 大戦中の強制労働をめぐり、日本企業に賠償を命じる韓国大法院(最高裁)の判決が出たのが2018年10月。請求権問題の最終解決をうたった日韓請求権協定が覆されかねないとして日本は再三協議を求めたが、韓国政府は三権分立を盾に対策を打たなかった。

 日本政府関係者らによると、それでも首相官邸は当初、報復とみられる強硬措置はできれば避けたいのが本音だった氏は説明しています。

 来年の東京五輪を控え韓国からの訪日ブームに水を差したくないうえ、消費増税後の景気への影響も懸念されていた。しかし、このままでは韓国で差し押さえられた日本企業の資産が売却されかねないため、最後の手段として「報復措置」に踏み切ったということです。

 つまり、問題の本質は、なぜその前に韓国政府を動かし、協議のテーブルに着かせられなかったのかにあると氏は言います。その理由は様々だが、突きつめれば(そこには)韓国からみた日本の「価値」が下がったことが大きいというのが、この論考における秋田氏の見解です。

 日本の当局者や韓国専門家によれば、次の3つの構造変化が韓国における日本の価値の低下を招いていると秋田氏はここで指摘しています。

 第1は、中国の台頭だと秋田氏は言います。

 韓国の輸出に占める依存度は、2018年には中国(26.8%)が日本(5%)、米国(12%)を大きく引き離すまでに高まった。経済面における中国の重要性が日本をはるかにしのぐようになり、国内に「日本にあまり遠慮しなくても良いという空気が生まれている」(日韓外交筋)ということです。

 第2の理由は、北朝鮮の核武装が進むにつれ、日韓の対北路線の方向が正反対になってしまったことだと氏は指摘しています。

 日本は核の脅威に対応するため、(米国と組んで)北朝鮮を封じ込める方向に動く。一方の韓国は核戦争を防ぐことを最優先し、北朝鮮との融和をさらに急ぐようになる。

 つまり、いちばん肝心な対北政策で日韓は戦略が大きく割れており、韓国にすれば、南北融和を応援してくれる中国の方が日本より大切な協力相手になるということです。

 そして、第3は、韓国の内政にあると秋田氏は説明しています。

 世代交代と民主化が進むにつれ、韓国内では軍事政権が1965年に結んだ日韓請求権協定は不平等と考える世論が広がっている。歴史問題が両国の土台を弱めているというよりも、こうした構造変化によって土台が弱まったから、歴史問題にも火が付きやすくなっているということです。

 感情的なヒートアップが続く日韓の対立状況に「即効薬」はない。これ以上、事態を悪くしないためには対症療法に努めるしかないというのが、現状に対する秋田氏の認識です。

 日本政府が進めるべきは、(まずは)韓国の国民に直接、発信する体制を強めることだと氏は言います。

 韓国内には、「行きすぎた反日」と距離を置く世論もある。韓国ギャラップの調査でも、「日本」への好感度は10%台に下がったが、「日本人」については「好感が持てる」が41%で「好感が持てない」(43%)と並んでいる。また、ソウル市中区が今週、日本製品不買を呼びかける旗を掲げたところ、国民から批判が殺到し撤去を強いられる騒ぎもあったということです。

 さらに、政府レベルでは、日米韓対話をもっと増やすべきだというのが秋田氏の主張するところです。

 これは、米国を「重し」に使い、韓国がこれ以上、対北朝鮮・中国政策で違った方向に傾くのを防ぐため。日韓の亀裂が深まれば米国のアジア戦略にも響くし、長い目で見れば、韓国による偏った対中貿易依存度を改め、韓国を引き戻す必要もあると氏は説明しています。

 歴史や領土問題のトゲが深く刺さった日韓が、緊密な友好国に転じるのは、そう簡単なものではないと秋田氏は考えています。

 だとしても、せめて安定した「ふつうの関係」になれないものか。もしも、このまま日韓の反目した関係が続けば、漁夫の利を得るのは日米韓を分断したい北朝鮮と、北東アジアを自分の勢力圏に染めたい中国になるということです。

 トランプ政権のアメリカが東アジアで(ある意味)好き勝手に振舞う中、両国を隔てる日本海の海上では反目する日本と韓国を牽制しようと(領空侵犯や弾道ミサイル発射など)中国や北朝鮮、ロシアまでもが次々と揺さぶりかけてきています。

 それは、最終的に日韓の国益にもならないはず。嫌いだからといって引っ越すことまままならない「隣人」であればこそ、(お互いに意地を張るばかりでなく)時代に上手く「折り合い」を付けていくことが大切だということでしょう。




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