6月上旬時点の数字で世界中で1億7000万人以上が罹患し、約370万人の命を奪っている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、どのような経緯、経路で人間へと広がっていったのか。
アメリカのバイデン大統領は5月26日、政府情報機関に対し、動物からの感染からウイルス研究ラボからの検体流出まで、様々な可能性を詳しく調査し感染拡大の原因を90日以内に究明するよう指示したと、多くの米国メディアが伝えています。
これまで、新型コロナウイルスの起源について行われた唯一の公式な調査は、世界に向けて大きく報道された世界保健機関(WHO)によるものです。
この調査では、国際的な研究者のチームが中国を訪れ最初のアウトブレイクをもたらした可能性がある4つの可能性を調査しました。しかし、3月30日に公表された報告書を読む限り、ウイルスの発生原因についてはほとんど解明することはできなかったようです。
因みに、調査に当たってWHOが想定した4つの可能性と、調査の結果下された評価は、
① 自然宿主である動物から直接人間へ感染した →「可能性がある~可能性が高い」
② 中間宿主の動物を介して人間へ感染した →「可能性が高い~非常に可能性が高い」
③ 冷蔵・冷凍食品から持ち込まれた →「可能性がある」
④ 研究所から流出した →「極めて可能性が低い」
というものでした。
そもそも、2003年に流行したSARSを引き起こしたウイルスを含め、人間に感染するコロナウイルスのほとんどが動物由来であることはこれまでの研究で分かっています。今回、WHOにより宿主と目されているのがコウモリなのは、新型コロナウイルスと遺伝的に近いウイルスをコウモリが保有しているためだということです。
そうなると、次の問題は、コウモリから人間にどうやって感染したのかということ。そこで最も議論を呼んでいる仮説は、コウモリのコロナウイルスを研究している武漢の研究所からウイルスが漏れたというものです。
流出事故説には、「研究者が実験室で誤って感染した」という説と、「研究者が人工的に作りだしていた」という説の2つのバージョンがあって、トランプ前大統領が主張していた後者の説は今のところ研究者たちによってはっきり否定されているようです。
現在、世界で流行している新型コロナウイルスは、遺伝学的に見て自然に発生したウイルスであることは間違いなく、よってWHOは「ウイルスが誤って漏れた」説を検証し、その結果が前述の「極めて可能性が低い」というものだったということです。
しかし、その後の5月23日に、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「武漢ウイルス研究所の研究者3人が、2019年11月に病院で治療を受けた」という情報を報じると、世界の世論の風向きは大きく変わりました。
初期感染者情報を含め、具体的なデータの提出と追加調査の実施を拒否した中国に対し、日米を含む14カ国は共同声明を出して懸念を表明。中国が専門家に完全なデータを提供するよう要請するとともに、WHOに対しても公平な立場からの実態の把握を強く求めることとなりました。
米バイデン大統領も5月26日の声明で、調査に当たっている情報機関のうちの二つの部門が動物由来説に、一つが研究所流出説に傾いていると説明したと報じられています。
一方、中国外務省の趙立堅副報道局長は翌5月27日の記者会見で、「米国には事実を無視して再調査を繰り返し求める者がいる」とし、米国はコロナを利用して(中国に)汚名を着せようとしている」と反発したと報じられています。
(いつものように)感情的な強い言葉を重ねる中国政府は、「教師爺(教師面した)」「居高臨下(上から目線)」の欧米諸国の一方的な被害者という立ち位置を崩すつもりはなさそうです。
さて、疑惑の矛先が向けられた中国としては、自国がすでに乗り越えた「コロナ騒ぎ」にはもうかかわりたくない、世界から非難されたり賠償を求められたりすることのないよう静かに姿勢を低くしていたいというところでしょう。
しかし、新型コロナウイルスへの感染が中国の武漢で始まったのは世界中が知っている事実であり、その当事者として、中国には原因や経路を明らかにする責任があるのは言うまでもありません。また、そうした身を切る作業が、これから先の新たな感染症の発生を防ぐことにもつながっていくと考えられるところです。
利害が異なる国際社会において大国としてどのようにふるまうのか。「好感度を上げよう」と国民に呼びかけるのもいいかもしれませんが、全世界が注目する問題にしっかり向き合い期待に応えることがことこそが、中国の信頼とイメージアップにつながるのではないかと、改めて感じるところです。
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