MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1903 コロナウイルスの起源と中国への不信感 ②

2021年07月13日 | 国際・政治


 折しも、中国共産党創立100年の節目を迎え、人民に対して共産党一党支配の正当性を高らかに奉じ他国の圧力を容認しない姿勢をアピールする習近平指導部において、コロナウイルスの起源に関して国際社会が中国に向ける疑念はまさに「目の上のたん瘤」と言えるのかもしれません。

 サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、「新型コロナウイルス起源解明の更なる調査を行わない場合中国は国際社会で孤立に直面する」と述べたことについて、中国外交部(外務省)の趙立堅報道官は6月21日、「米国の発言は露骨な恐喝であり脅迫だ。中国は強い不満と断固たる反対を表明する。」と語気強く反発したと伝えられています。

 「感染拡大が発生して以来、中国は終始開かれた透明性ある姿勢で感染防止・抑制や診療に関する経験を余すところなく各国と共有してきた」(だからWHOの調査団も受け入れてきたじゃないか…)というのが中国の公式な見解です。
 趙報道官が発した「米側が再三にわたり中国のイメージを損ない、中国を攻撃するのは、中国の発展を抑え込むため」「自らの不十分な新型コロナ対策の責任を転嫁するために他ならない」という言葉が意味しているのは、国際社会化が向ける疑惑の解消に今後中国は一切応えるつもりはないという強い意思の表れなのでしょう。

 新型コロナウイルスの起源に対する中国のこうした強硬な姿勢に関し、6月30日の「Newsweek(日本版)」に米国の評論誌「フォーリン・ポリシー」の副編集長であるジェームズ・パーマー氏が、「隠したいことだらけの中国、ウイルス起源の調査には二度と協力しない」と題する興味深い論考を寄せているので、(ここで)紹介しておきたいと思います。

 (米バイデン政権が繰り返し言うように)新型コロナウイルスの起源調査への協力が中国にとって最も利益になるものだとしても、中国が調査に応じることはないだろう。それは、(例え新型コロナが武漢ウイルス研究所と無関係でも)現場レベルから最高指導部まで、中国の当局者には隠したいことが山ほどあるからだとパーマー氏はこの論考に綴っています。

 2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行後に講じた各種の予防措置を考えれば、新たなウイルスが中国で出現する事態すらあってはならないことだった。なので、(忘れている人もいるかもしれないが)中国は研究所からの流出説だけでなく、中国が新型コロナの発生源であること自体を否定していると氏は指摘しています。

 勿論、どんな国でも世界的大惨事の責任は負いたくない。国際社会の中でも特に「体面」を気にする中国当局は、昨年3月には、早くもアメリカが新型コロナの起源だという説を喧伝していたほどだということです。
 しかし、(中国にとっては遺憾なことに)欧米の科学者による新たな研究では、中国当局の主張と裏腹に、武漢で野生動物が大量販売されていたことが判明した。武漢の地方政府が初期の流行の抑え込みに失敗し、適切な対応が遅れた一因がおそらく国家の指導部にあることも、中国が認めたくない問題だったと氏は説明しています。

 実のところ、中国政府は、新型コロナの発生源を把握していない可能性が高いというのが、この論考におけるパーマー氏の見解です。
 新型コロナのパンデミック以前、中国政府はウイグル人弾圧や言論統制に注力しており、農村部の保健や野生生物に関する規制は野放し状態だった。そんな中、もしも研究所で事故があったのなら、研究所の関係者は外国だけでなく、国内当局の目からも隠そうとしたはずだということです。

 現在、米中関係は過去数十年間で最悪の状態で、しかも、習近平国家主席の下では政治的弾圧が日常化している。こうした状況では、トップの絶対的な承認がない限り、特にアメリカが加わる国際調査にゴーサインを出す当局者はいないというのが氏の認識です。
 新型コロナをめぐる政治的動機に満ちた言説のせいで、北京の共産党指導部からそうした承認が下りる可能性は限りなくゼロに近い。中国の世論も調査協力を支持していない現状を考えれば、研究所からの流出説に基づく非難が中国の一般市民の目にどう映るか考えてみる必要があるということです。
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 中国当局があくまで主張するのは、新型コロナ感染症はアメリカ由来の冷凍食品から武漢に持ち込まれtたものだということ。中国は被害者にもかかわらず、人民は共産党の指導の下に苦しい行動規制に耐え世界で最も早く感染症を克服した。中国が開発したワクチンが世界の貧しい国々にも提供され世界の人々を救っているという当局の主張を、14億の中国人民の大半が信じていることでしょう。

 しかし現実の世界では、パンデミックにちぐはぐな対応をし国際社会での説明責任を拒絶する中国は今、うまく対応した国に非難の矛先を向けているとパーマー氏はこの論考の最後に記しています。

 何事も中国が一番、中国共産党は世界の指導者でありその指導には間違いないという(ある種の)「無謬性」や「中華思想」を捨てない限り、(共産党指導部の意図に反し)中国が国際社会で理解され信頼を得ることは今後も難しいのではないかと、私も改めて感じたところです。



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