MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2548 日本企業に足りないもの①

2024年02月25日 | 社会・経済

 今、世界で最も売れているクルマは何なのか。1月14日の日本経済新聞(「Bizランキング」)に掲載されていた車名別自動車販売ランキングによると、2023年上半期の首位は米テスラのEVSUV「モデルY」の59万3097台。そして、2~4位はトヨタ勢で、カローラの38万4851台、RAV4の34万2316台、カムリの31万8871台と続いています。

 結果、ブランド別ではトヨタ自動車が上位を席巻。トップ10のおよそ半数を占める一方で、中国を中心に市場を広げてきた独フォルクスワーゲン(VW)の苦戦が目立つなど、ブランドごとの優勝劣敗も鮮明になりつつあるようです。

 しかしその一方で、企業とすれば「利益」が上がってこそなんぼのもの。ただ台数を売れば良いというものでもありません。たくさんの車を作るにはたくさんの原材料や部品を調達しなければならないし、組み立てのための設備投資も必要で、さらに多くの従業員も抱えていかなければなりません。

 そこで、車を一台売るごとに、各メーカーはどの位の利益を生んでいるのかという話。モータージャーナリストのJUN MASUDA氏によれば、2017年時点の概算で、(高い方から)イタリアのスーパーカー「フェラーリ」で900万円、ドイツのスポーツカー「ポルシェ」で215万円、同じく日本でも人気のドイツの高級車「メルセデス・ベンツ」「BMW」「アウディ」ではそれぞれ110万円程度だということです。

 確かに、都心の一等地にある高級車のディーラーなどには一台数千万円のプライスタグが付いた高級車が飾られており、一流ホテルと見まごうばかりのきらびやかさは、いかにも「儲かってそうだな」という雰囲気を醸し出しています。

 それでは、対する日本のメーカーはどうなのか?MASUDA氏のデータによれば、トヨタでおよそ26万円、三菱は12万円、日産は7万円、最も利益率が低いホンダに至っては、一台売っても5万円の儲けしか生まれていないということです。

 もちろん車一台当たりの価格の違いも大きいのでしょうが、(それにしても)一台売っての儲けが欧州車の10分の1と聞けば、日本車の利幅の薄さが分かります。「薄利多売」という言葉はよく聞きますが、燃料を食わない、故障しないということで世界的に人気の高い日本車を、そこまでして安い価格で売る必要があるのかと感じないわけではありません。

 賃金の低さと共に、世界的に見た生産性の低さが指摘されることの多い昨今の日本企業。一体、何がそうさせているというのでしょうか。1月22日の経済情報サイト「現代ビジネス」に、時代を俯瞰した視点が数々のベストセラーを生んでいるジャーナリストの河合雅司氏が『日本は世界から取り残されているか…日本と欧米企業の「利益率」、じつは大きな差があった』と題する論考を寄せているので、参考までにその一部を残しておきたいと思います。

 マーケットが縮小し続ける人口減少社会に対応するには、「厚利少売」というビジネスモデルへの転換が必要となる。製品やサービスを高価格で設定するには「ブランド力」がモノを言う。実際、築き上げたブランドというのは消費者と企業を強く結ぶツールとして、「価格決定力」を持っていると河合氏はこの論考に記しています。

 一方、ブランドの確立は、マーケットの価格競争からの脱出を可能ともすると河合氏は話しています。近年は外注生産や販売網の多角化で、コストや販売チャンネルの優位性よりも、技術力やブランド力がより重要になってきている。そして、ブランド力をより強化していくためには知的財産を活用したビジネスの積極展開が求められるというのがこの論考における河合氏の認識です。

 氏によれば、この部分における日本企業の劣勢はデータにも顕著に表れているとのこと。製造コストの何倍の価格で販売できているかを示す「マークアップ率」(付加利益率)という指標があるが、日本企業はこれが総じて低いと氏は説明しています。

 経産省の資料(2016年時点の各国比較)によれば、デンマークの2・84倍、スイスの2・72倍、イタリアの2・46倍に対し、日本は約半分の1・33倍に過ぎない。米国(1・78倍)、中国(1・41倍)の後塵を拝し、G7の中で最下位に甘んじているということです。

 河合氏はその理由について、欧米の優良企業が(経営戦略として)知的財産などへの投資などで競争の優位性を確立し製品価値を引き上げてきたのに対し、日本企業がコストダウンの徹底などで利益を確保しようとしてきたところにあると指摘しています。こうしたやり方は、マーケットが縮小する中では利益を得にくく、価格決定権を握ることができなかった。数量が稼げなくなる以上、製品やサービスの価格を安易に下げることができず、結果として市場のイニシアチブを握れなかったということです。

 人口減少社会で企業が生き延びていくためには、「よりよいものは、それ相応の価格で」という消費行動を定着させていかなければならないと氏は改めて指摘しています。

 そのためにも、技術力の高さをブランドとして明確化させることで高い利益率を追求し、それによって企業価値そのものを高めることが必要となる。「商標」はブランドの1つの要素に過ぎず「ブランド」とは、企業や商品の特徴や性質を示す総体のこと。ブランド力が強くなればなるほど消費者への影響力が増し、価値観や嗜好に影響を与えることだって不可能ではないというのが氏の見解です。

 さて、経営者が高齢化して事業承継が難しくなっている企業が増えてきている現在の日本で、長年培われた企業の「強み」を活かせずに解散・廃業してしまうことは、日本経済全体にとっての大きな損失だと、河合氏はこの論考に綴っています。

 買収した企業が、買い取った企業が持っていたさまざまな「強み」を統合、あるいは掛け合わせることで新たな相乗効果を生んだり、さらに企業価値を高めることも期待できる。(であればこそ)「決断するなら早い方がいい」と話す河合氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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