MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2549 日本企業に足りないもの②

2024年02月27日 | 社会・経済

 人口減少に伴い市場が縮小していく中で、日本企業が欧米の企業と伍して戦っていくにはどうしたらよいか。時代を俯瞰した視点によって数々のベストセラーを世に生みだしてきたジャーナリストの河合雅司氏は、経済情報サイト「現代ビジネス」に寄せた論考(『日本は世界から取り残されているか…日本と欧米企業の「利益率」、じつは大きな差があった』2024.1.22)において、「薄利多売」モデルから「厚利少売」モデルへのシフトの必要性を説いています。(「#2548 日本企業に足りないもの ①」2024.2.25から続く )

 大量生産や大量供給を前提とした日本企業は、「厚利少売」モデルへと戦略的に知事む必要がある。そして、そこで最も求められるのは、製品やサービスの「高付加価値化」だというのがこの論考で氏の指摘するところです。

 マーケットが縮小する以上、GDPや売上高が減るのは仕方ない。(そこで)それをカバーするのが、製品やサービス1つあたりの収益性を高めることだと氏は言います。「厚利少売」とは、簡単に言ってしまえば「販売する商品数を少なく抑える分、利益率を大きくして利益を増やすビジネスモデル」のこと。厚利少売のためには、高くても消費者が買いたくなる商品やサービスを生み出すことが必須で、消費者は「どうしても欲しい」と判断すれば、高くても購入するようになるというのが氏の認識です。

 例えば、米国の自動車会社テスラ1台あたりの利益は他社を圧倒している。2022年7~9月期決算だけを見ても、販売台数はトヨタ自動車の8分の1ほどなのに純利益はほぼ同じだと氏は説明しています。

 高性能スポーツカーとして人気の「ポルシェ」についても同じこと。2021年のアウディの販売台数は168万512台で営業利益は55億ユーロ。これに対し、ポルシェは30万1915台で53億ユーロを稼ぎ出しており、ポルシェ1台でアウディを5.4台売ったのと同じ計算だということです。

 ヨーロッパには洋服や化粧品、バッグといったブランド品を製造する企業が多いが、これらも「厚利少売」の好例だとこの論考で氏は解説しています。企業規模をいたずらに拡大するのではなく、自分たちの生産能力の中で「こだわりの品」を作りあげ、利益率の高い商品として維持、提供し続けている。消費者がそこに感じ取る「価値」というのは、現実の商品やサービスに見出される品質ばかりでなく、歴史やイメージ、物語の中にもあるということです。

 一方、日本企業には(いまだ)「よりよいものを、より安く」という価値観をもった企業が多いと氏は指摘しています。

 クオリティーの高いものを割安な価格で提供することで世界を席巻し、技術大国としての地位を築いてきた日本企業。もちろん、人件費が低かった時代にはそれがうまく機能していたが、コンピュータによって制御された工場が新興国に建ち並ぶようになった時点で、このようなビジネスモデルは続けられなくなったというのが氏の見解です。

 ところが、日本企業の多くは人件費を削ってまで(そこに)こだわり続けた。それがゆえに、新規学卒者を非正規雇用にするといった“禁断の手段”に手を染め、さらには正規雇用の若い世代の賃金までを抑制してきたということです。

 (その副作用は大きく)結果として、社会の中に低収入で結婚や出産を諦めざるを得ない若者を大量に生み出したと氏は言います。低所得の若者の増加は住宅や自動車の需要を奪い消費を冷え込ませた。内需型の業種まで負のスパイラルに巻き込み、少子化を引き起こすことによって国内マーケットの縮小を加速に導いたということです。

 「よりよいものを、より安く」といった経営方針だけでなく、最近では、高齢者の増加が薄利多売のビジネスモデルを勢いづかせていると、河合氏はこの論考の最後に指摘しています。

 現役時代に比べると収入が少ない高齢者が国内マーケットの3割を占めるようになり、「値段を高くしたら売れない」という小売業や飲食業は少なくない。年金暮らしの高齢者が増える中、消費者の財布の紐は(そう簡単には)緩まないといったところでしょう。

 とはいえ、国内マーケットの縮小が止まらない以上、数量を稼がないと利益が上がらないというビジネスは続かない。「よりよいものを、より安く」という美徳は素晴らしいが、人口減少社会には合わない考え方。消費者も含め、「よりよいものは、それ相応の価格で」と意識を変えていかなければならないと説く河合氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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