MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2547 金利が上がったら何が起こるのか?

2024年02月23日 | 社会・経済

 アベノミクスの「三本の矢」の中心政策として放たれた「異次元の金融緩和」。およそ11年の月日を経て、日銀はいよいよマイナス金利政策の解除に踏み切るとの観測が強まりつつあるようです。

 昨年末、日銀の植田和男総裁は、「年末から来年にかけてチャレンジング(挑戦的)な状況になる」と国会で発言。「(好循環)実現の角度は少しずつ高まってきている」との認識を示したと伝えられています。

 今年の元旦に発生した能登半島地震による経済活動への影響を考慮しつつも、10年以上にわたって続いてきた「異次元緩和」の出口は、ここきて確実に近づきつつあると言えるでしょう。

 しかしその一方で、日本経済は「金利のない世界」にすっかり浸りきっている様子。もしも、金利がぐいぐいと上がっていく世界が生まれたら、未知の状況に戸惑う若い世代もきっと多いことでしょう。

 もしも金利が上がったら、実際、どのような事態が生まれるのか?12月28日の経済情報サイト「東洋経済ONLINE」に、経済ジャーナリストの岩崎博充氏が『日銀「マイナス金利解除」その後に起こる7変化 我々の生活はどう変わるのか』と題する一文を寄せていたので、ここで少し予習をしておきたいと思います。

 岩崎氏の指摘する一つ目の変化は、(言うまでもなく)「預金金利が上がる」というものです。ある程度金利が上昇することが前提だが、わずかでも預貯金の金利が上昇すれば、大きな金融資産を抱える高齢者が消費の拡大に貢献してくれるかもしれないと氏は話しています。

 当然その一方で株価は下がるが、日本では株式投資をする人が少ないため、圧倒的に多い「預貯金人口」にとってはより大きなメリットが降りかかる。いまや金利を上げたほうが、国民の消費意欲を刺激するかもしれないというのが氏の見解です。

 影響の二つ目は、「住宅ローン金利が上昇する」というもの。いまや利用者の7割が変動金利を選択しているとされる住宅ローン。変動金利でローンを組む人たちにとっては、負担増になる可能性が高いと氏は言います。結果、住宅ローンが高くなることで不動産市場の冷え込みが起こることは、経済の大きな懸念材料になるということです。

 そして、金利上昇の影響の三つ目。それは勿論、「企業の設備投資にマイナスになる」ことだと氏は話しています。

 企業は、設備投資等に必要となる資金を銀行から融資を受けて、設備投資に踏み切っている。ここで金利が上昇すれば、過去の設備投資で融資を受けたローン返済の負担が高くなるため、金融引き締め政策への転換により設備投資を躊躇する企業が増える可能性は高いということです。

 さて、金利上昇の四つ目の影響として岩崎氏が挙げているのが、「株式市場全体は下落するものの、銀行など一部の業種にはプラスなる」という予測です。

 金利の上昇=金融引き締めは、株式市場にとってマイナスに作用する。なので、せっかく上昇トレンドに入った日本株に水を差すことになるかもしれないが、反面、銀行などの金融関連銘柄は上昇する可能性があると氏は説明しています。

 そして、影響の五つ目。それは、「円高が進むことで(再び)デフレに逆戻りする可能性も出てくる」というものです。

 あまりに急激に円高が進んでしまうと輸入物価が下落し、消費者物価指数が再び2%を割り込んでデフレに逆戻りする可能性が出てくる。そうなれば、再び金融緩和に戻らなければならなくなり、ゼロ金利脱却不能になってしまう可能性もあるというのが氏が示す懸念材料です。

 金利を上げるとしても、その幅とタイミングが重要になる。だからこそ、日銀も出口政策への転換に慎重な姿勢を示してきたということでしょう。

 次に、氏が示す金利上昇の六つ目の影響は、「日本銀行のバランスシートが悪化し、円安圧力が高まる」というものです。
 金融緩和時代に大量に購入した日本国債は金利の上昇とともに、日銀にとっては逆ザヤとなる。日銀はバランスシートを常に公開しているために、財務状況の悪化は即座に公開され、日本銀行券=円に対して海外から厳しい目で見られる可能性があると氏は言います。

 場合によっては、国際通貨としての円の地位が下落し、円安がさらに進む可能性もある。いくら「景況感」が上向いても、借金まみれの財政状況では国際的な信用も得られないということでしょう。

 そして、利上げの影響として岩崎氏が最後に挙げたのが、「日本国債格下げの可能性が高まる」というものです。

 金利負担が増え、現在でも年間25兆円超の国債費として、金利や償還費を使っている日本政府の状況は、格付け会社の格下げ圧力にさらされる。日本国債の格付けが現在の「シングルA」から「トリプルB」に下がれば、日本に本社がある銀行や企業も揃って格下げとなり、(海外での資金調達コストが上昇して)デフォルト(債務不履行)懸念も出てくると氏は見ています。

 日本銀行の政策転換がきっかけとなって、最悪のケースを想定すれば、世界を揺るがす経済危機を巻き起こす可能性は依然として残っているということです。

 そして、さらに心配なのは、このまま日銀が金利の正常化をできずに、政府の言いなりになって日本国債を購入し続けることだと氏はこの論考の最後に綴っています。

 金融緩和から脱却できないことが今後も続くようだと、さらなる犠牲を払わなくてはならない。そういう意味では、日銀のゼロ金利脱出が長引けば長引くほど、我々は破綻の準備をしなければならない(かもしれない)というのが、この論考で岩崎氏の指摘するところです。

 氏が様々に懸念を示すように、出口戦略とはことほどかように難しいということなのでしょう。言い換えれば、(他国のように)金融政策にこまごまと手を入れることなく10年以上も引っ張ってきた政治のツケが、いまここに「リスク」として顕在化しているということなのかもしれません。

 いずれにしても、今年の春以降に金融政策が変更なるのはもはや周知の事実のようです。国民も己が資産を守るため、それぞれの対処法を考えておいた方が「身のため」なのだろうなと、岩崎氏の指摘を読んで私も改めて感じたところです。



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