MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2362 若い女性に見限られないために

2023年02月12日 | 社会・経済

 厚生労働省が12月20日に発表した人口動態統計の速報値によると、2022年1月から10月までの出生数は66万9871人で、前年同期に比べて3万3827人減少。このままのペースでいけば、2021年の81万1622人を大きく下回り80万人を割り込むことが確実視されています。

 1970年代には200万人を超えていたが年間の出生数。その数は2016年に100万人を割り込み、さらに減少ピッチを早めおり、もはや(これまでのような)一般的な「少子化対策」では追い付かない状況にあるのは明らかです。

 こうした状況を踏まえ 岸田文雄首相は年頭の会見において「異次元の少子化対策」に取り組む姿勢を打ち出しています。関係府省庁による新たな検討会を設置し有識者などの意見を聞いて、3月末をめどにたたき台をまとめるということです。

 その皮切りとして政府は2023年度から、18歳未満の子供がいる世帯が東京圏から地方移住した場合に支給される「移住支援金」(100万円)の加算額を、現在の子1人当たり最大30万円から100万円に増額すると発表しています。

 「少子化が進む地方の現状に配慮した」と政府は胸を張りますが、子連れの移住にもれなく200万円を支給するというこの政策が、本当に人口の流出に悩む地方部の希望をつなぎとめることに繋がるのか。

 12月2日のウェブメディア「OTEMOTO」が、『出生数80万人割れの衝撃。地方の少子化対策はここがズレている』と題するニッセイ基礎研究所研究員の天野馨南子氏へのインタビュー記事を掲載しているので、(参考までに)この機会に紹介しておきたいと思います。

 人口減少に悩む多くの地方で、転出数のほうが転入数を超える形で人口が減り続けている。しかも、この転出超過をしている人たちの大多数が、(将来子どもを産み育てる可能性のある)若い女性たちだと天野氏はこの記事で話しています。

 子どもを産むか産まないかは勿論個人の自由である。しかし、少子化対策を謳う立場にある人たちが(若い世代の女性たちが子供を産む前に地元から大量に出て行っている)現実にしっかりと目を向けなければ、もはやその地域に未来はないというのが氏の認識です。

 「社会減」についてデータを追っていくと、2010年から2019年の10年間で、47都道府県のうちの37エリアで、男女ともに転出が転入を上回る「転出超過」(純減)となっている(「住民基本台帳」)。女性が純減したエリアは38エリアにのぼり、うち35エリアで女性の純減数が男性の純減数を上回っていると氏は言います。

 全体では、女性のほうが男性の1.3倍、転出超過となっている。中でも石川県は女性の転出超過が男性の4.6倍、富山県は3.9倍に及び、女性の転出超過がとりわけ深刻な状態にあるということです。

 この数字は、(この地域には)男性に比べて女性のほうが地元にいづらい何かがある、ということを明確に示唆しているというのが氏の見解です。北陸地方は県民の幸福度がダントツに高いことで知られる地域。2020年の都道府県別の幸福度ランキングでは福井県が1位、富山県は2位、石川県は4位だったということです。

 幸福度ランキングの母数は、そのエリアに住んでいる人。そのエリアに残っている(満足している人)しか母数にならないという「母集団バイアス」も考慮する必要があると氏はしています。

 思えば、同地域は多世帯居住の割合や家族構成員の数が全国で最も多く、(隣近所の)地域の結びつきが強い濃密な共同体が特徴です。もしも、そうした人間関係が(住民たちの高い幸福度と裏腹に)若い女性たちの流出を招いているとすれば、(それはそれで)皮肉な理由と言えるでしょう。

 こうした状況に対し天野氏は、「私は、女性の転出超過が多いエリアほど、幸福度が高くなる傾向があるとみています」と答えています。地域の人々が「暮らしやすい」と感じる保守的な社会風土が、「街を出よう」と決断する若い女性の背中を押しているのかもしれません。

 因みに、2021年に女性が転出超過だった38エリアを詳しく分析したところ、女性の純減数が多い年齢は22歳が抜きん出て多く、次に18歳か20歳がくるとのこと。これは大学卒業、高校卒業、専門学校卒業のタイミングとぴったり合っており、女性たちが就職したいと思えるような魅力的な職場が地元にないことを示しているというのが氏の指摘するところです。

 こうした状況を客観的に捉えれば、そうした中で自治体が子育てや妊活、不妊治療の支援を充実させるばかりでは、「女性は結婚して産むことが当たり前」だというメッセージしか伝わらないだろうと、天野氏はインタビューに答えています。

 ダイバーシティに関する教育が進む中で、一律の価値観や一定の家族の形を提示されると、それが合わない人はおろか、合う人であっても閉塞感を感じて転出していきたくなるということです。

 それでは、人口流出に悩む自治体はどうすればよいのか。選ばれる地方になるためには、雇用の状況を見直さなければいけないと氏はここで話しています。人口を再生産する可能性を秘めた人たちに地元に残ってもらいたいなら、その人たちが働ける場所を提供できているかどうか。実は人口問題は労働問題として考えていく必要があるというのが氏の指摘するところです。

 いまの40代50代が就職活動をしたころは買い手市場だったこともあり、管理職層は、企業が選ぶほうだという感覚のままでいる。しかし、売り手市場となった現在では、地元の企業は自分に合わないと思ったら就活生は、さっさと見切りをつけて別のエリアに就職すると氏は言います。

 受有に動く多様な価値観をもつ人々に選ばれるためには、寛容性への理解においてシビアな感覚が必要となる。なので、各自治体は、バイアスのかかった少子化対策をいつまでも続けるのではなく、まずは企業の管理職層の啓発をしていく必要があるということです。

 女性を中心とした若い世代を、地域としてどのようにつなぎとめていくか。地方の雇用環境をつくる人たちが家族観や労働の価値観をアップデートをして行動に移さない限り、人口流出を止めることはできないだろうとコメントを結ぶ天野氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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