シニア・ソレイケ

昭和生まれ専科

(第三部) カチカチ山ー最終回

2011-07-24 | 落語、小話、
カチカチ山

エー毎度のお運びありがとうございます。

さて、話しもいよいよ最終局面でございます。
果たして、うまくお噺がつづきますことやら。いささか頼りない気がして落ち着かないのは皆様方の方かと思いますが…エー私の方は全然心配しておりません。どうせうまく落ちなくったって、打ち所が悪くて死ぬなんてェことはありませんから。

エー前回は、シタ切りスズメが悪い色後家さんにとっちめられたところまででしたな。
何しろ歳を取りますってぇと、どうも記憶の方がはっきりしませんで…。

さて、今回のお噺は、叶姉妹のようなナイスバディの後家さんがスズメのお宿から手ぶらで家に帰ってきたところから始まります。

「ちきしょう、あのスズメめ。あたしにゃ何も土産をくれなかったよ。そうだ、隣のばあさんの金銀財宝は、本来あたしがあのスズメからもらう慰謝料だったんだ。だからそれを殺して取ったって悪くはないよ。取られたものを取り返すだけだからね。 だけどナンだねェ。隣にいるババアが死んじゃったら、あたしが真っ先に疑われるね。ナンかうまい手はないかねぇ」後家さんは暫く思案しておりましたが、ハタと手を打ち、胸をブルンと振るわせ「そうだ。あそこはペットショップだから、あそこで売られている狸を買ってきて、ババアを殺させたらよかろう」とよからぬことを思いつきます。

誠にお胸の大きいご婦人というのは、考え方があらぬ方向へ飛躍するようで怖いものです。 わたくしがこうやって長生きできたのも、ひとえにこのような美人に無縁だったからかも知れませんが。 マ、それが良かったかどうかは疑問でもございますが…。

それはさておき、美人後家さんは太郎婆さんの店からタヌキを買ってきて、その狸に婆さんを殺す算段を教えます。

「いいかい。オマイはあの店で売られていて、危うく他の客に狸汁の具として売られるところをあたしが助けてあげたんだよ。その恩を忘れたら犬畜生どころか人間より劣るよ。あの家はお金が一杯あるからサ、婆さんを後ろから棒で殴って殺しちまってお金を持っといで」

この狸もなかなかのタヌキでして、神妙な顔で後家さんの言うこと聞いておりましたが、「そうか、あのペットショップにそんなに金があるんなら、何もシトのためじゃなくて自分のためにやろう。ナーニ、一人殺すのも二人殺すのもおんなじだ」と、どっかのシトとおんなじようことを考え、後家さんが油断して後ろを向いた隙に、そばにあった棒で後家さんの頭を殴り、殺してしまいました。そして太郎婆さんの家に忍び込み、これも棒でひと殴りしましたが、さすがに歳はとっても太郎婆さん、昔はオトコ。血だらけになりながらも、家の外に逃げ出します。

「タスケテクレー」。太郎婆さんは山道を逃げてきましたが、とうとう倒れてしまいました。そこへ丁度、月の国からきたウサギが通りかかります。

太郎婆「もしもし、そこを行くウサギさん。私は元、浦島太郎というものですが、今悪いタヌキに頭を殴られ、出血太郎(多量)で死にます。どうぞ仇を取ってください。お礼にタヌキに盗られた家にあるお宝を全部を差し上げます」

「おいおい、見れば婆さんじゃねぇか。こんな年寄りをいじめやがって。もうチョイ我慢すれば手ぇ出すまでもなく死ぬものを。まぁ、しかし、これも何かの縁だ。よし、分かった。確かにそのタヌキ野郎は俺が仇をとってやるからな。まぁ安心して成仏してくんな」と親切に土に葬って簡単な墓を立ててやります。

その頃、タヌキは太郎婆さんから奪った金で贅沢三昧。イヤ、もう札ビラを切って、若い娘、コスプレ嬢、キャバクラ嬢などを相手に大盤振る舞い。ラブホにも連荘(レンチャン)で泊り込んで遊びまくっております。「今日はキャバクラ、明日はアキバ、間を過ごすは錦糸町」ってなもんです。何しろ金がある上にキンのタマつきですから、少々顔や体形が不細工でもモテルモテル。そこへ月のウサギがやってまいります。

「オッ、いたいた。あのタヌキ野郎か。ヨーシ、早速声をかけてやろう」「ヨッ、タヌキのダンナ。様子がいいですヨッ。エーッ。こんなに若い女の子に囲まれてモテモテですねッ。金離れよくて、おまけにこんなでかいモノをぶらさげているんですから、素人さんから玄人さんまで夢中になりますよ。ィヨッ、ニクイね!この後家殺し!」

「オオーツ、ビックリした。『後家殺し』なんて、あんまりホントのこと言うなよ。処で、ナンだお前は?」

「ヘイ、月のカジノからやってきた営業担当部長です」
「何が営業担当ブチョウだァ。ブッチョウ面ぶらさげて。処で何かオレに用か?」
「エエ、エエ、何か八日(ようか)、9日10日というくらいなもんで。実は今、月のカジノじゃァ、お客様還元セールと銘打って、カジノ全店で「大相撲八百長セール」と銘打って絶対勝てる取り組みをご用意しているんですよ。何しろ勝つことが分かっているほうに賭けるんですから負けたくても負けないんです。マ、そんなとこですから、誰でもというわけにはいかない。やはり、一流の紳士で金持ちしか相手にしないんですよ。ダンナは絶対いいカモ、いや、そこにピッタリのお方と思ってお誘いするようなわけでして」
「そうかい?オレがそんなに紳士に見えるかい? そうか、そうか。イヤ、実はナ、もっと刺激的な遊びはないか探していたとこなんだよ。よしッ、それじゃあ一緒に行こうか」ってんで、タヌキは若い女の子を侍らせながらウサギの用意した月ロケットに乗って月のカジノへ向かいます。

「オオーツ、なかなかいいな、このロケットは。天にも上る気持ちだな。ウン。処で俺はナ、月を見ると、その-ゥなんだ、腹鼓を打ちたくなる性分なんだ。ここで腹ツヅミを打たせてもらうぜ。ホレ、ポンポコポンノ・スッポンポン」ロケットの中で大変な騒ぎです。連れてった女達もスッポン、スッポン、スッポンポンとか囃されて本当にスッポンポンになって踊ったりしております。

さて、タヌキは月に着いて「火事の勝勝」と看板の掛かった山深いカジノへつれていかれ、早速「相撲賭博」をやり始めましたが、元々タヌキを懲らしめるのが目的の博打ですから、あっという間に負けがこみます。
そうこうするうちに、素人の悲しさ、タヌキは有り金を巻き上げられます。そこで例に洩れず火星人かバルタン星人の月のヤクザが出てまいります。

「なにぃ?金が無い? ざけんな。マタの間にでかいモンがあるじゃねぇか。お前もタヌキなら、それをキンの茶釜に化けさせてみろ。イヤと抜かしたら泥舟に乗っけて沈めちゃうぞ」と脅され、止む無くあそこを金の茶釜に化けさせたところで、借金のカタにとその部分をひっこ抜かれます。

イヤァ、痛いの痛くないの。タヌキの袋は8畳敷きと申します。私のモノはせいぜいお猪口程度ですが、それを一寸ぶつけても気の遠くなるような痛さですから、8畳分ともなると想像を絶しますな。
さすがの不知火検校みたいなタヌキもタマを抜かれたらタマりません。アッというまに悶絶死でございます。マア、道理で『「タ」ヌキの「マ」ヌケ』といいますから、タとマをヌカれるわけでございます。

そして月ウサギは「婆さん、アンタの仇は討ったぜ。成仏してくれよ。ところでこのキンのタマ茶釜はどうするかな。しかしナンだね。でかい釜の上の端っこにチョコッとちっちゃい注ぎ口がついていて。これは茶釜というより急須だね。タヌキの野郎、デカイ袋を自慢してた割には注ぎ口はチンケだね。イヤ、チンコか。しかし、これだけデカイ水入れがついているとナンにでも使えちゃうね。『万事急須』ってこのことだね」

ウサギは、その茶釜と急須のアイノコみたいなのを「キンがタマる茶釜でお茶を飲みましょう」と銘打って、カジノの縁起物として、これにお茶を入れて売り出したところ大変な評判となり、お客さんはカジノで博打をする前に、先ずこの茶釜風急須のお茶で喉をうるおすようになります。

そんな中、酔狂なシトも居るモンで、ある日このキン茶釜を買いたいという人が現れました。

「これこれ、その方が、あのキンのタマる急須風茶釜の持ち主か。実は、拙者はさる藩の家老じゃが、殿があのヘンテコな急須茶釜が欲しいとおおせられての。拙者としてはお止めしたのじゃが、是非にも買い求めたいと言われる。ついては、あの急須の値は如何ほどかな?」

「ヘッ?あの急須をですか? マ、そりゃぁ売らないこともありませんけどね。チョットお高いですけど、いいですか? ヘッ、ありゃぁ、何しろキンでできてますからね。やはりお支払いも金(キン)ということで如何でしょう? マ、そうですね、あの急須茶釜に入る金の量と同量ということで如何でしょう」
「ウウム、その方なかなか商売がうまいの。しかし、殿がいたくお気に入られているので致し方あるまい。よし、それではそれで手を打つが、一体どれほどの金が入るのじゃ?」
「ハイ、1升ほど入ると思います。
「何故、1升と分かるのじゃ?」
「ハイ、『急須に1升を得た』と申します」

(第二部) 下きりスズメの部

2011-07-16 | 落語、小話、
エー毎度のお運びありがとうございます。

エー、さて今回は、タマ手箱を開けた浦島太郎がおばあさんになったところからお噺が始まります。

エー、おばあさんになった太郎は、その後、流れ流れて陸奥の国に行き、そこでペットショップを開きウサギや亀を販売しながら余生を送るようになりました。
そして、その隣には、歳の頃なら28-9で、影もピンク色をしてるというくらい色気たっぷりな若後家さんが住んでおりました。

ある日、帝の勘気を蒙り都落ちしてきた、つまり左遷された藤原の左近衛中将実方(さねかた)というお公家様が、この陸奥の国へとやってまいります。 この実方というお方は大変和歌の道に秀でたお方でございますが、なかなか色の道にも達者で、一説には色恋沙汰で都から放逐されたという噂もございます。また、死後スズメとなって都へ帰ったという逸話もございます。

「あーぁ、まったく陸奥ッてとこはホントに田舎だね。山じゃ狐にだまされて道に迷うわ、さっきは猫に折角昼餉(ひるげ)に食しようと思った焼き魚を取られるわ。 ンとに『狐にゃだまされ猫にゃとられ ニャンでコンなにへまだろう』って麻呂のことだね。 それにしても昨日は疲れたね。あの花魁もなかなかオツなもんでしたよ。 『アナタに見しょとて結うたる髪を 夜中に乱すもまたアナタ』ってなことを言われてついつい長居をしてしまいましたョ。 『ゆうべしたのが今朝まで痛い 二度とするまい箱枕』なんてネ。それにしても腹がへったな。そうだ、そこの家で何か食べさせてもらおう」と、丁度目に入った若後家さんの家にのそりと入ります。この後家さん、亭主をナニで衰弱死させたというウワサがあるくらいのシトですから、ご主人が居なくなってイライラしており扱いもつっけんどんです。

「許せよ。何か食するものは無いかな。麻呂は藤原の左近衛中将実方である」
「何だィ。エー?売れ残りの内裏雛(だいりびな)みたいなのっぺりしたのが入って来たよ。冗談じゃないよ。エー、家(うち)にゃぁ季節はずれの雛壇に供えるものはないよ。あっちへ行った、行った、シッ シッ」


「見た目はそそるもんがあるのに乱暴なオンナじゃな。しかし、腹がへったナ。それでは隣のペットショップの老婆の所へ行ってみよう。老婆ならやさしいじゃろう。老婆心というくらいだからな」
「これこれ、麻呂は腹がへりま(練馬)の大根じゃが、ナにか食するものを所望じゃ」
「これはこれは、まずいシャレでうまいことをおっしゃるお方でございますね。難儀でございましょう。ここは都と違ってフランス料理やイタリアン、マンカン全席などはありませんが、桃の節句が過ぎたばかり。丁度余った桃がありますので、これでもお召上りください」と太郎ばあさんが大きな桃を差し上げました。
「ヘェーなんだね。随分と落差があるね。ま、しかし食いもンがあるだけマシだ」「ムシャムシャ。ムムッ、なかなかの美味じゃ。誉めてとらすぞ」
「ハハァー恐れ入ります。で、お公家様はこれからどちらへ?」
「ウム、麻呂は帝のご命令でこれからさらにみちのくの奥の奥のどんづまりまで一人で行かねばならぬのじゃ。つまり、『みちのくのくのくの一人旅』じゃな。ついては、もし麻呂の身に何かあれば、これも何かの縁じゃ。きっと何かに化けてそちの家に帰って参るぞ」。 帰ってきてもらっても困りますが、そこは数百年も生きた太郎ばあさん、如才なく「あぁあぁ、それはそれはお難儀なことでございますね。えぇえぇいつでもお帰りください」と送り出した。

さて、旅路を急ぐ実方中将。どうにも体の具合が悪くなりとうとう山道で動けなくなりました。
「あーあぁ麻呂もとうとうみちのくのみちばたで死ぬのか。今ごろ帝はどうしているだろうか。 麻呂のことを思い出してくれるかなぁ。時世の句でも読むか。『帝(みかど)はいまごろ醒めてか寝てか 思いだしてか 忘れてか…』これじゃまるで都都逸だよ。そうだ、スズメになって都へ帰ろう」。と決定してこの世を去りました。そのとき口から3条のうっすらとした煙が出たとみるとそれはスズメに変わり都めざして南へと飛び立ちました。

さて、その実方スズメですが本体が病気だったところに糖尿病の気がありましたものですから、とても都まで体が持たず、以前世話になった太郎ばあさんのところに緊急着陸いたしました。
太郎ばあさん「おや、まあ、可愛いスズメだこと。それにしても随分とのっぺりして。これは前に立ち寄られたお公家さんの生まれ変わりに違いない。お気の毒にお亡くなりになったんだね。これも何かの縁、以前にもカメを助けていい思いをしたことがあったから、1度あることは3度あるという。今度はこのお公家スズメに親切にしてあげよう。また、何かいいことがあるかもしれない」。どうも人間の品格というのは何年経っても直らないようで。
「さあ、スズメさん、おなかも空いただろう?ン、ヤキトリでも鳥雑炊でも作ってあげるよ。ナニ、食い合わせがよくない? そうかもね。まあ、ゆっくりしていきなさい。着ているおべべも大分汚くなったね。着替えは持ってないの? ナニ? 着たきりスズメでこれしかない? 間違いないわねェ。それじゃぁね、わたしが布団の切れっ端で着物を縫ってあげよう」

いろいろと親切にしているうちに、実方スズメもすっかり元気になりました。元気を回復するとこの実方スズメ、出自は公家で女を追っかけるのが仕事みたいなものでしたので、やはり体力がつくと精力もついてくる。ついつい昔のクセでお隣の色気たっぷりの若後家さんに言い寄ったりするようになります。

この実方スズメ、なかなかの手管の持ち主で、まっすぐ後家に言い寄らず、桃をくれた太郎ばあさんにまとわりついて、後家さんをじらします。「浮気スズメは後家さんじらし、梅干さけて桃(モモ)に鳴く」なんてネ。そうこうするうちに後家さんも実方スズメに餌を与えたりするようになり、だんだん深い仲となっていきます。つまり、若いスズメですな。

しかし、実方スズメは何しろオンナに目が無い方ですから、後家さんだけでは満足できず、そのうちに里の若いオンナ達にも手を出すようになった。何しろ本人は空を飛べますので何時でも何処でも好きなところへいける。そんな若いツバメならぬ若いスズメであちこち飛び回っているうちに元の後家さんをないがしろにするようになってしまいました。「あついあついと言われた仲も 三月せぬ間に秋(飽き)が来る」というように、段々二人の間も冷えてまいります。

ある日、里のオンナと逢っているところを後家さんに踏み込まれます。
「アンタ! 私というものがありながら、また浮気して。エーッ、この間は何て言ったィ。『すずめ百までワシャ99まで 共に白髪の生えるまで』なんて言っておきながら。 クヤシーッ、おのれ、こうしてくれる!!」と持ってきたハサミで実方スズメのアソコをチョッキンと切り取ってしまった。それ以来、スズメは自分の一物を探して「チョンチョン」と鳴くようになったということでございます。マ、あまりアテにはなりませんが。しかし、これがホントの「下切りスズメ」でございます。

シタを切られたスズメは恥ずかしくてこのままでは都へ帰ることもできませんので、チョンチョンと泣く泣く、スズメのお宿のある新潟の方へと飛んでまいります。

さあ、太郎ばあさんはそんなこと知らないから急に居なくなってしまった実方スズメを探し廻ります。「スズメのお宿は何処じゃ」と言ってあちこち竹をたたいて探します。これはなんです。昔から梅にウグイス、スズメには竹と相場が決まっております。「雪をかぶって寝ている竹を 来ては雀がゆりおこす」という位ですからナ。

そしてようやく太郎ばあさんが実方スズメのお宿を探し当てると、実方スズメもすっかり感激して大歓待です。太郎ばあさんもすっかり喜び、「ヘェー、 スズメの隠れ里ってのは結構不便だと思ったけどなかなかいい所だねェ」「はい、スズメば都(住めば都)というくらいですから」

さて、太郎ばあさんはそこで、実方スズメ達から下にもおかない接待を受けまして帰りには大きなつづらを土産に持って帰ります。
「あヤァー、またもらっちゃたよ。お土産を。前には開けたらケブが出て、ばあさんになっちゃったから、こんど開けたら灰になっちゃうんじゃないかねェ。ケブが出て灰になるなんて世話ないねぇ」なんてェことをつぶやいていましたが、どうも中が気になってしょうがない。じゃあ、ちょこっとだけ見ようと恐る恐るつづらの蓋を開けると中にあったのは…

ちゃんと入っていました。大判小判に金銀財宝が。ザックザックと。そして太郎おばあさんは、大金持ちとなりました。めでたし、めでたしィ。

イヤ、 まだ終わりではございません。続きがございます。

これを見た隣の若後家さん。「チキショー。あのスズメめ。アタシというものがありながら、あんなババアに土産をくれて。そうだ、アタシにも慰謝料ってのを請求する権利があるって誰かが言っていたョ。こうなりゃ、アタシもスズメのお宿に乗り込んでお土産をふんだくってこよう。四の五の抜かしたら、前はシタを切ったから今度は上のシタを切るぞと脅してやろう」 思うやいなや、流石ご婦人だけありまして直ぐに行動に移ります。先ず、隣の太郎ばあさんからスズメのお宿の場所を聞き出し、竹をたたきながらスズメのお宿に向かいます。

さて、若後家さんに乗り込まれた実方スズメも困ってしまいましたが、何しろ頭に来るとナンデモ切っちゃう相手だから怖い。ともかく、この若後家さんの我ままを聞いて一応歓待いたします。
さて、そろそろ頃合というときに、この後家さん「あーぁ、そろそろ家にも帰らなくちゃいけないいんだよ。そう言えば隣のばあさんは何か結構なお土産を貰ったそうじゃないかェ。アタシも土産はそんなもんでいいよ。エッ?ナニ?もうお土産はない?冗談じゃぁないよ。子供の使いじゃあるまいし、手ぶらで帰れるか!」と実方スズメの首根っこを押さえつけ頭をポカポカ殴りつけました。堪らず実方スズメは泣き出し「ひぇー許してください。今出せるのはこれだけです」
「なんだそれは?」
「ハイ、スズメの涙です」

これにて「下切りスズメの項」読み終わりといたします。

(第1部)浦島太郎の部 

2011-06-29 | 落語、小話、
エー毎度のお運びありがとうございます。

エー噺家というのも、これで結構大変な商売でございまして。
知恵はたいして要らないんですが知識は持ってなきゃぁいけない。それもガッコーや本なんかでおせぇてくんない知識ってぇんですから、仕入れるところは限られている。昔は遊郭なんぞという、エー誠に結構な勉強場所があったんですが、今はそういうところもない。 わたくしなんぞも、もう少し早く生まれていたら、それこそそこで徹夜で猛勉したでしょうが。

ま、そんなわけで昨今の噺家もネタを作る人間も大変でございます。
エー、そこで今回は趣向を変えて、人様のお作りになったお噺しをワタクシ風に変えて皆様にお出ししようと思います。 
趣向を変えて」というと聞こえはよろしいですが、何のことはない、ネタが途切れただけで。マ、言うなれば盗作。最近では「パクリ」とも申します。「パク・リ」と言っても韓国のお人の名前ではございません。

エーお噺は、山東京伝という東京が江戸と言った頃の戯作者が書いた「桃太郎発端話説(ハナシ)」を脚色したものでございます。

エーこのお噺は少々長くなりますので、3羽完結ということにいたします。エッ? 「3話」の字が違うって? いえいえこれも洒落のうちです。マ、お聞きください。

エー昔々、丹後の国に浦島太郎という西田敏行みたいな釣りバカがおりました。ある日太郎が漁から帰る道すがら子供達が大きな亀を捕まえて遊んでいるのを見つけました。

太郎「あーぁ、今日も釣れなかったなぁ。日も暮れて山の向こうに月がかかってらぁ。夏だってのにもうススキも生えて。これがホントのボウズだよ。オッ、餓鬼どもが大きな亀を捕まえてらぁ。あれを売り飛ばしたら結構いい値段で売れるだろう。いや、鍋にしてもいいな。精もつくだろうから」
太郎「オイオイ、お前達。亀は万年の命と言ってナ、生き物のうちで一番長生きするもんだ。ナァ、そんな長い命を捕まえて食っちまうなんてとんでもねぇことだ。おじさんが大事に育ててやるから、こっちへよこしナ」ってんで取り上げちゃった。どっちがとんでもないやつか分かったもんじゃぁない。

そしてその亀を家に持ってきて、さて亀鍋にでもしようかと思っていたら亀が急に泣き出したので驚いた太郎は事情を聞いてみた。
太郎「オイオイ、そんなに泣いていたってわからねェや。ナァお前も見たとこ随分歳をくっているようだが、何でこんなとこまで来たんだ?
カメ「ヘイ、私はクラブ竜宮城の客引きなんですが、陸(おか)に客引きに来たところ悪いウサギと逢いましてネ。ヘイ、それが何しろ口から先に生まれたような口のうまい奴でして何しろ口が三つくっついているほどの奴で」
太郎「マァ、兎口というくらいだからな。ま、シャレはいいや。それでどうしたい?」
カメ「ヘイ、そいつが言うには、『オレは、月から来たウサギの観光ガイドで、地球観光に沢山の金持ちを連れてきたんだ。まあ。客も大体あちこち見飽きたから、そのクラブ竜宮へお客を連れて行ってもいいが、タダってわけにゃぁいかねぇや。なあ、こうしよう。大したこたァない。向こうのお山の麓までお前が先に着いたらご褒美にお客を連れていこうじゃねえか』と言うじゃあありませんか。昔、アッシのオヤジがウサギと競走して勝ったと聞いていたんで、シメコのウサギと話にのりましたが、ウサギの奴、『まあ、その前にお前も海から来て腹が減ってるだろう。どうだ、ひとっ走り前にこの餅を食っていきねぇ。なぁ、これは月で搗いてきた餅だ。(謡いながら)月で搗(つ)き立て、今着(つ)きたてよ、この餅食ったらツキが付(つ)く』ってな歌かなんか歌うもんで、ついそれを貰って食べたんですが、これがアンタ、南蛮渡来の眠り薬入り。ぐっすり寝てしまい、そこを子供達に掴まったという次第で。江戸の敵を長崎でってことを言いますが、まさかこんな近い丹後で討たれるとは思いもしませんでした」
太郎「そうか。まぁ、聞いてみれば可哀相な話だな。それで、そのぅクラブ「竜宮城」ってのは面白いのかい?」
カメ「ヘイ、そりゃあもう。世界中の風俗が集まってこの世の極楽。最近では「カリブの海賊」もすっかりここが気に入って入りびたり。「カリブのフーゾク」って改名したくらいで。もし助けてくれたらお礼に、ダンナを竜宮城へご案内しますよ。ダンナのように様子のいいお客さんなら直ぐにNo.1ホステスの乙姫さんの間夫になれますよ」
太郎「エッ、本当かい。じゃ、行くか」なんて、アブみたいな顔をして連れて行ってもらった。

太郎「ヘェーすごいねぇ。歌舞伎町と中州を合わせたようだね。鯨の絵がかかってるね。高給クラブ「潮吹き」ってか。間違いねぇや。居酒屋があるね。なに?ワカメ酒あります?へぇーいいねェ。 ここは小屋掛けの見世物かい?なになに、看板は「8人芸処・イレポン・ダシポン・アシハポン」? これってフランス語かい? 蛸が一人で、体中の穴に手ェ突っ込んでマッサージくれるゥ?気色悪いね。オッ、こっちは懐かしい温泉マークじゃねぇか。屋号が「元祖、さかさクラゲ」ナール。こんなとこに居たらホントに溺れるね。エッ、なんかワラみたいのがあっちこっちにおいてあるがなんだい。エッ 女に溺れそうになったら掴まる?へぇー溺れるものはワラでも掴むっていうが、そんな溺れ方してみたいね」

カメ「ダンナ、ダンナ。ここが「クラブ竜宮城」ですよ。今、チーママの乙姫さんを呼んできますからね」
乙姫「マァ、うちのカメを助けていただいたとか。それはそれは大変お世話になりました。このカメは草深い、いえ海深い田舎から出てきたアタクシのかわいい弟です。それに見れば見るほどいいオトコ。昔ココに居座っていた南亭気楽とかいうモノ書きもイイオトコだったけど、貴方様の方がずっと素晴らしいですわ。何日でもいいですから、是非お泊りになってくださいませ」
というわけで、太郎はそこに居つづけることになりました。

さぁ、毎日毎日贅沢三昧。何時も乙姫さんを先頭に女達がつきっきりで面倒をみてくれる。中には尼さんホステスなんてぇのが来る。
太郎「オウ、なんだね。アマさんてェから、歌麿の絵に出てくるような長い黒髪を垂らした海女かと思ったら坊主の尼さんかい。おどろいたね。エッ昔は海女でアワビを獲ろう思って潜ったら、ここのポン引きに赤貝と間違えられて捕まえられてそのままここここに来た?ヘェーそうかいそうかい。まあ、何だな。「尼さん抱けばホントに可愛い。どこがケツやらアタマやら」って言うからな。まぁ一杯ついでくんな。なにどうしてついでくんないんだい。つぎたくない? じゃ、いいや。エッついでくれる。これがホントの「尼の酌」(天邪鬼(あまのじゃく))だね。

そんな毎日が3年も続きますと流石の太郎も飽きてまいります。
太郎「なぁ乙姫ョ、オレはお前といるときが一番楽しい。『一人笑うて暮らそうよりも二人涙で暮らしたい』と何時も思っていたんだが、どうも最近はクニに残してきた両親のことが心にかかる。ついては、チョット帰ってこようと思うんだ」
乙姫「そうですか。『たとえ姑が鬼でも蛇でもぬしを育てた親じゃもの』と申します。貴方様が親のために帰るというのを止めたらそれこそ親不孝。どうぞ一度お帰りになり是非また戻ってきてください。そして今度帰ってきたときは必ず子供を作りましょう。そのときまで貴方様の玉を私にお預けください。その代わり預かり証としてタマ手箱をさしあげますが、お帰りになるまでに開けたらいけませんよ」
今や帰りたい一心の太郎は
太郎「おういいともよ。『楽は苦の種 苦は楽の種 二人してやる人の種』ってェからな。それじゃあ、オレのタマはここにおいて行くからナ。帰ったらまた二人して使おうな。 オーシ、それじゃあ達者でなぁ。また南亭気楽なんてプレーボーイが来たって相手にすんじゃないぞぉ」って、カメに乗ってもと来た陸を目指して帰ります。

さて、浜に上がってみると廻りは全然知らない人ばかり。また、様子もおかしい。見慣れた藁葺き屋根の家はなく、服装も違っております。近くの人に聞いてみると誰も太郎の家のことを知らない。
近くに見えた寺の住職に聞いてみると、どうもあれから数百年経ったような話でした。
「あーぁ、驚いたね。どうも。チョット3年ほど空けている間に数百年も経っちゃったよ。魚を釣りたくても漁業組合に入れって言われるし、飯を食うにも金が要るというし。 竜宮城は良かったね。『喜びクラブ』もあったし、金が無くても首領様とかいう人が食わせてくれたし。まるで今の北朝鮮だね。それはそれとして腹が減ったな。食うもんはないし。そうだ、乙姫が持たせてくれた玉手箱ってのがあるね。開けちゃいけないなんて変なこと言っていたが、多分、こういうときに開けろというサインだね。きっと。と言いながら玉手箱を開けますと中からスーッと3条のけぶりが出てまいります。太郎は乙姫さんのところへ大事な玉を預けてきたため、
「ありゃぁ。ばあさんになっちまったよ」