もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑭ ・・・・・ さざんか

2015-01-09 12:34:39 | E市での記憶
おじいちゃんの庭には
サザンカの木が一本ある。

母屋の近くに立ってるから
花が咲くと、すぐわかる。

でも、この木にいっぱい花がついてるの
アタシはあんまり見たことない。

咲いても、いつもほんの少しだけ。
(アタシがちゃんと見てないのかなあ)


「花は、いちりん、にりんって数えるんよ」って
オダさんが教えてくれた。

いちりん、にりん・・・って
なんか可愛い。鈴の音みたい。

「雪囲い」の竹とワラ縄の間から
緑の葉っぱの蔭になって
花びらがちょっとだけ見えてる・・・

そういうときのサザンカは
雪にこんもり覆われてる庭で
たった一つの「紅い」色。

どんなに小さくても、よく目立つ。

咲いたばっかりのサザンカは
「いちりん」って感じがする。

でも・・・

ほんというと、アタシは
サザンカ、好きかどうかわからない。

花が咲いて、時間がちょっと経つと
花びらは茶色っぽくなって
そのうち下に落ちてしまう。

その色はもう「紅」じゃなくて
もっとナマナマしい
気持ち悪いような色。

たま~にしか見ることないけど
カンゴフさんがノーボンに
取り替えたガーゼ載せて運んでるとき
あんな色してる・・・気がする。

白い雪の上に落ちた血が
時間が経って固まった・・・

そんな感じがして
アタシはサザンカのこと
好きになれないんだと思う。

なんだかお侍さんたちが
木のそばで斬り合いしたみたい・・・

でも、こんなこと誰にも言わない。
ヘンな子って思われるから。


アタシは、夏のサザンカの方が好き。

一年中、葉っぱは緑で
ピカピカ光ってる。

花のついてないサザンカ見て
「いちりん」だけ咲いたときのこと
思い出してるときが、たぶん一番
アタシは好きなんだと思う。



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ねねの日記⑬ ・・・ すいせん・シシマイ・お正月  

2015-01-04 16:03:28 | E市での記憶
お正月の朝起きたら
スイセンの花のにおいがした。

どこからするのかなあ・・・って
家のなか探してみたら
洗面所の鏡の前に
牛乳ビンに2本入ってた。

こんな少しで
こんなに甘~い香り?

なんか、おかあちゃんの香水みたいだけど
ほんとかなあ・・・って思ってたら
「お座敷と玄関に、奥さんがいけてたよ」って 
オダさんが教えてくれた。

奥さんっていうのは
おかあちゃんのこと。

「でも少し残ってたから、もらって
あたしが牛乳瓶にいれておいたんよ」だって。

オダさんは、なぜかわからないけど
ちょっとハズカシソウだった。


お正月の、特に最初の日は
おじいちゃんやおばあちゃんにいろいろ言われる。

お正月は朝寝坊しちゃいけない。
「元旦から朝寝してると、一年中寝坊する」から。

お正月は、なるべく新しいキレイな服を着る。
「そうじゃないと、一年中キタナイ格好になる」から。

アタシは、おねえちゃんとお揃いの
新しい編み込みのセーター着てる。
「雪の結晶の模様だね」って
おねえちゃんが言ってた。

お正月はお餅ついて食べる。
「昔はお米はなかなか食べられんかった」から
・・・みたい。

お正月はイロイロ食べる。
「マメに働けるように黒豆」
「昆布はよろこんぶ言うて、おめでたい」
「数の子は子どもがたくさん」

意味のワカルのもワカラナイのもあるけど
アタシは、甘いおしょうゆつけたお餅と
あとは玉子焼きだけでいいんだけどな~。


お正月は、雪が降ってるのと
降ってないのとで、全然違う。

降ってるときは、コタツに入って
みんなでゲームをしたりする。
普段はあんまり一緒にいないおとうちゃんや
たま~には、おかあちゃんも
一緒に遊んでくれたりする。

なんかすごーく特別な感じ。

いつもは「子どもは風の子。
外出て遊びなさい」って言われるのに
お正月はあんまり言われない。

キレイな格好してないといけないから
外に出て遊んでベタベタになったら
ダメなのかもしれないけど。


雪が降ってないお正月だと
シシマイが来る。

アタシはほんと言うと
シシマイって、ちょっと怖い。

いつだったかヒロちゃんが
「シシマイって、子どものアタマ食べるんだって」
「どんどん家の中、入ってきたりするんだって」
なんて言ってたから。

ほんとかなあ・・・

足は人間の足(たぶん)だけど
顔は違うから・・・

ときどき尺八吹きながら
玄関に来る虚無僧も怖いけど
アレは人間だってことはわかってるから
まだマシだと思う。

アタシはシシマイが一軒一軒廻ってるときは
あんまり近寄らないようにしてる。

でも、一回くらい
う~んと近くから見てみたい気もする。

おばあちゃんは
「昔は正月はマンザイが来て
そりゃあニギヤカやった」って言う。

面白いの?って聞いたら
「もお、オモシレエったらなかった」って。

TVで日曜日にカドザのチュウケイしてて
漫才もよく見るけど「あんなの?」って聞いたら
おばあちゃんは、ちょっと顔をしかめて
「アレたぁちごうて、もっとずっとええ」。

「マンザイ」にもイロイロあるらしかった。




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ねねの日記⑫ ・・・ は、つ、ゆ、き

2015-01-01 13:52:59 | E市での記憶
桜とか、イチョウの葉っぱがぜ~んぶ落ちて
風がますます冷たくなって

もう「秋」じゃない・・・って
はっきりわかるようになった頃。

朝目が覚めると、きのうまでとは

「空気が違う!」

顔とか、鼻先とかの「冷たさ」の感じも
もう、全然違ってる。

台所のおばあちゃんか
モリシタさんとかオダさんとかが
「おはよう」って言うまえに教えてくれる。

「雪が降ったよ」

わ、わ、わ~~~きゃ~~

おねえちゃんと競争で着替えて
玄関に飛んでいく。

ふんわりした粉を
うす~く撒いたみたいに
道が白い。

「ほんとだ!!」
 
おねえちゃんの口からも
アタシの口からも
機関車の白い煙みたいに
「息」が見える。

大急ぎで長靴はいて
雪の上、歩いてみる。

古い小さくなった長靴だと
すべって転んだりするから
気をつけてそぉ~っと歩く。

人がまだ踏んでないとこ探して
足跡つける競争。

あっという間に
道路は足跡だらけになっちゃって・・・

「はよ、ご飯食べてしまい~」

で、シブシブ
おねえちゃんもアタシも家に入る。

ちょっと苦いカブラのおつゆも
湯気がなんだか、いつもより一杯。
早く外に出たくって
タマゴかけごはんも一生懸命食べる。

でも・・・

アタシたちが学校行くときはもう
道路の雪は消えちゃってる。

どうしてなんだろ。
早すぎるよね。

でもでも、屋根とかゴミ箱とかの
蔭になってるとこにだけ
くっきり白く残ってたりするから・・・

おねえちゃんと「雪」探ししながら
走って学校行く。

会う子みんなに
「雪ふったね~」って言うんだよ。

なんだかみんなも嬉しそう。



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ねねの日記⑪ ・・・ ユミヤのワタアメ 

2014-11-16 19:01:28 | E市での記憶
明日からサンノーさんのお祭りだ。

今日は「ユミヤ」だって
おねえちゃんが言った。

「おねえちゃんとユミヤ行くの」

「ユミヤ?」

「ユ、ミ、ヤ、お祭りの」

「あ・・・ヨミヤ」

ミヤモトさんは笑顔になって
「いいわね~」って言った。

サンノーさんは、家から
わりと近い。

「サンノージンジャ」かと思ったら
「ヒヨシ神社って書いてあったよ」って
おねえちゃんが言ってた。

よくわからないけど
みんなサンノーさんって言うから
いいんだと思う。

サンノーさんのお祭りは
提灯なんかも明るくて、お店も一杯で
すごーくにぎやかな感じ。

カメヤマのふもとの
もうひとつのジンジャのお祭りと
全然ちがう。

ちょっと前、ここへ来てまだ
あんまり経ってない頃
おねえちゃんが
カメヤマさんの方のユミヤに
連れて行ってくれた。

アタシはお祭りってどんなトコか
まだあんまり知らなかったから・・・

おねえちゃんが、もらってきたお小遣いで
「ワタアメ」を買って
ちぎって食べさせてくれたとき
ビックリした。

ワタアメ見たことなかったし
食べたこともなかったから。

どこからかわからないけど
ワタみたいな糸みたいなモノが
少しずつ湧いてきて
いつのまにか「ワタアメ」が出来て・・・
いつまで見てても飽きない感じ。

食べたら甘くて
もうものすごーく美味しかった!!

でも、いつの間にか暗くなってきちゃって
アタシはだんだん怖くなった。

カメヤマさんのユミヤは
お店も提灯や灯籠も少なかったんだと思う。

友だちに会ったりして、おねえちゃんは
まだ遊んでいたそうだったけど
アタシが帰りたいって言い張ったから
あきらめて連れて帰ってくれた。

アタシはみんなに
「ワタアメ」の話をした。

みんなワタアメのことは知ってるみたいで
モリシタさんもオダさんも
「美味しいよね~」って笑ってた。


もっと大きくなってからは
お祭りは、おねえちゃんとじゃなくて
友だちと一緒に行くようになった。

でも、綿あめは
いつも買ってる。

ほんとはアタシも誰かに
綿あめ買ってあげたいな~って思うんだけど
買ってあげられる子いないから・・・

アタシも妹か弟がいれば
良かったのかな~

でも、自分が妹の方が
なんとなくトクな気がするし・・・
やっぱり、いなくて良かったのかな。




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ねねの日記⑩ ・・・・・ えみちゃん

2014-11-07 15:53:13 | E市での記憶
うちはお医者さんで、向かいは
洋服屋さんとパーマ屋さん。

お隣は、貸本屋さんで
10円持ってくとお菓子も買える。

反対がわのお隣はふつうの家。

りんご見つけたとき一緒だった
ヒロちゃんは、その家の子だ。

ヒロちゃんは、うちのおねえちゃんと
同い年のお姉さんがいて
えみちゃんっていう名前だった。

アタシたちがこの家に来てから
最初のうちは、えみちゃんも
みんなと一緒に遊んでた。

えみちゃんは、おねえちゃんより
なんだか静かで、ほっそりしてて
まりつきとかすごく上手。

なんとなくやさしい感じがして
アタシはえみちゃんも好きだった。
よく一緒に遊ぶのは
妹のヒロちゃんの方だったけど。


えみちゃんの家は、最初から
おかあさんがいなかったような気がする。

もしかしたら病気か何か
だったのかもしれないけど。

おばあちゃんとお父さんがいて
お父さんは夜になると
かばん持って帰ってきた(と思う)。

ある晩、そのお父さんがうちの玄関に、
きれいな着物きた女の人を連れてきた。

髪に白い羽根の飾りつけて
女の人はゆっくりお辞儀をした。

そばにはヒロちゃんのおばあちゃんもいて
もっと丁寧にお辞儀していた。

新しいお母さんだって
うちのおばあちゃんは言った。

でも、モリシタさんたちは
「ヒロちゃんは実のお母さんやからいいけど
えみちゃんはかわいそうやね」って。

おばあちゃんに、どうしてえみちゃんだけ
かわいそうなん?って聞いたら
「そんなことはあんまり言われん、言われん」。

結局、教えてくれなかった。

えみちゃんは、だんだん
アタシたちとは遊ばなくなった。


しばらくして、お隣に
男の赤ちゃんが生まれた。

ノリユキっていう名前になったって
ヒロちゃんが言った。
みんなはノリちゃんって呼んだ。

えみちゃんはときどき
ノリちゃんをオンブして外に出てきた。

ノリちゃんが歩けるようになっても
いつもえみちゃんは、そばについてた。

もう、えみちゃんは
アタシたちとは遊ばなかった。

「え~み~ちゃん」って呼びに行っても
玄関まで出て来なくて
えみちゃんのおばあちゃんが
今日は遊べないって言うだけ。

えみちゃんは家の手伝いで忙しいんだって
オトナの人が言ってた気もする。
(アタシの勘違いかもしれないけど)

ノリちゃんが保育園に行くようになると
えみちゃんを見ることもなくなった。


最後に会ったころのえみちゃんの顔は
ビックリするほど色が白かった。
アタシには、なんだか
大事にされてないお人形さんみたいに見えた。


えみちゃん、今、何してるんだろ。
どこかへ行っちゃったのかなあ。

ヒロちゃんもノリちゃんも
ずっとお隣に住んでるのに。

お手伝いで忙しくったって
ちょっとくらい会えるはずなのに。

えみちゃん、どこにいるんだろな~。





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ねねの日記⑨ ・・・ 落しもの見つけた!

2014-11-02 21:03:21 | E市での記憶
学校の裏の方に
すごくきれいなお庭がある。

前に、おねえちゃんが
「ひみつだよ」って教えてくれた。

お庭には、こどもは
入ったらいけないみたい。

探したけど
入り口もなかった。

おねえちゃんが教えてくれたのは
緑の垣根の破れ目だけ。

そこから見えるお庭は
なんだか外国のお城の中みたい。

小川があって
小さなお池もあって
きれいな花が浮かんでて・・・

「あれはスイレンっていうんよ」

おねえちゃんは
なんだか何でも知ってるみたい。

それから後も
アタシはお庭が気になって
ヤッちゃんやヒロちゃんと見に行った。

二人とも「きれえやね~」って言った。

アタシは見てると
なんだかドキドキした。
「こらあ~!」って
誰かに怒られそうな気がして。

何度目か、ヒロちゃんと行ったとき
いつもすわる垣根のそばに
モミガラみたいなのが、山になってた。

一緒に「山」を崩してみたら
大きなリンゴがゴロンって出てきた。

ヒロちゃんもアタシもびっくりした。

「どーする?」って顔で
ヒロちゃんがアタシの方を見る。

どうしよう・・・

このまま持って帰ったら
アタシたち、ドロボウになっちゃうし。

でも、置いていくのは
モッタイナイ気がするし。

二人でしばらく考えたけど
どうしていいかわかんない。

・・・そのとき、突然ひらめいた。

「警察に持って行こう!」

お庭は警察の近くにあって
アタシはこの間、学校から
見学に行ったばっかり。

持ってって、おまわりさんに見せたら
もしかして「あんたたちにあげる」とか
言ってくれるかもしれない。

ヒロちゃんはちょっと困ってたけど
アタシはわしわし歩いていって
警察の玄関はいって
入り口の人に

「このリンゴ、落ちてました」

入り口のおまわりさんは

「あそこの人に言いなさい」

おまわりさんたちが見てる中
知らん顔して歩いて行って
部屋の奥の方で、机に向ってるおじさんに
もう一度言った。

「このリンゴ、道ばたの
モミガラの中にありました」

「ひとつだけ?」

アタシとヒロちゃんがうんって言うと
おじさんは(思った通り!)

「そんなら家に持って帰りなさい」

やった~~!!!

アタシとヒロちゃんは
走ってうちに帰った。

ヒロちゃんが持ちたいって言うから
リンゴはヒロちゃんに渡した。

アタシよりひとつ年下のヒロちゃんは
危なっかしくて落っことしそうで
アタシは気が気じゃなかったけど。

うちに着いてから、もう一回
みんなにリンゴの話をした。

みんなが「えらいね」って
ほめてくれた。

りんごは「立派なスターキング」で
おばあちゃんが包丁で切ってくれて
ヒロちゃんと半分こしても、まだ
みんなで食べられるくらい大きかった。

でも・・・

だれにも言わなかったけど・・・

「そうだ、警察に行こう!」って思ったときから
アタシって、もしかして
ちょっとイヤな子かなあ・・・って思った。

リンゴは、思ったとおり
アタシたちのものになったけど
「いい子」のフリしたんやもん。

おまわりさんたちが、みんな
「なんや?あれ」って顔して見てる中
「大丈夫!」って知らん顔できるアタシは
やっぱりちょっと「厚かましい」子なんかも。

リンゴはすごーく美味しいって
みんな言ってくれたけど
アタシは、それほどじゃない気がした。

ほんとはどーしたら良かったのかなあ。

でも、仕方なかったよね。



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ねねの日記⑧ ・・・ クリの木とクリどろぼう

2014-10-29 12:25:01 | E市での記憶
庭のはしっこ
ヘイのすぐそばのクリの木は
毎年たくさんクリがなる。

ヘンテコなネコジャラシみたいなのが
たくさん落ちてて
それがクリの花なんだって
おばあちゃんが言った。

うすみどり色のイガが一杯つくと
台風が来ないといいねって
みんなが言う。

たいていは、台風が来てもなんとかなって
秋には茶色のイガが割れて
地面にイガごと、一杯落ちてくる。

中にクリがあるのが見えるのも
全然見えないのもあるけど
おとなの人たちが拾って
ブリキのバケツに何杯もとれる。

イガを割って、中身だけ出すと
茶色のふつうのクリになる。

イガは乾かすと
よく燃えるんだって。


でも、いっぺんだけだけど
クリがまだ枝にあるうちに
すごい台風が来て
一晩で庭中イガだらけになった。

中のクリも小さくて
なんか茶色くなってなかった。

「みずぼ」って言うんだって。
クリの赤ちゃんらしい。

アタシはいつものクリも好きだけど
「みずぼ」は、ナマでも美味しいから好き。

でも、おばあちゃんは
一つしか食べさせてくれなかった。
「痒うなるでの」だって。

いつもはオトナのクリを
固い皮だけむいて、茹でて食べる。
渋皮がついてて、ちょっと渋い。

でもあんまりたくさんとれるから
固い皮もそのままにして
茹だったのをザルに盛って
みんなで食べたりもする。


ずうっと前、アタシがまだ
ほんとに小さかった頃
おかあちゃんの膝に坐って
ザルのクリを食べたことあった。

オトナがたくさんワイワイしてて
でも、小さな板の間にはクリのザルだけ。

おかあちゃんはそこに坐って
膝の上のアタシが指さしたクリを
手にとって丁寧にむいてくれた。

その時のクリは、どれも水っぽくて
全然美味しくなかったけど
一つだけ真っ黄色で
すごーく美味しかったのがあった。

おかあちゃんはあとで
他のオトナの人たちに
「ねねちゃんのえらんだクリは
すごーく美味しかったよね」って。

おかあちゃんがアタシの方見て
笑って言ったから
アタシはすごーくうれしくて
後からおんなじことを
何度もおかあちゃんに言った。

おかあちゃんは
そのたんびに笑った。


でも、クリのせいで
おかあちゃんのカミナリが
落ちたこともある。

近所の男の子たちが
クリどろぼうに来たとき。

うちのクリはとりにくい方だと思う。

友だちが肩車して、ヘイの外から
うーんと手をのばして
やっと枝に届くくらい。

それに、すぐに見つかっちゃう。

1回目はあっという間に
みんな逃げちゃった。

でも、2回目は
向かいのパーマやさんの男の子だけ
顔がわかっちゃったから
おかあちゃんは、パーマやさんに
「文句を言いに」行ったらしい。

帰ってきてから、おかあちゃんは
「取らせて下さいって言えば
いくらでも取らせてあげるのに
コソコソ持って行こうとするから」だって。

でも、アタシのそばでモリシタさんは
「コッソリ取るのが面白いのよね」って
ちっちゃな声で言った。

モリシタさんはクリどろぼう見て
なんだか楽しそうだった。

アタシはお母ちゃんのカミナリのすごさを
男の子たちは知らなかったんだと思う。

それからはクリ泥棒は
うちには来なくなった。




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ねねの日記⑦ ・・・ かめやま座のドドンパ~♪  

2014-10-19 15:14:09 | E市での記憶
おじいちゃんの蔵の向こうに
カメヤマザが見える。

カメヤマザは
3つある映画館のひとつ。

いっつもなんかかんか
音楽が鳴ってる。

風が吹くと、音楽は
大きくなったり小さくなったり。
ときどきはヘンになったりする。

このごろは、ずうっと
「ドドンパ~~ドドンパ~♪」。

「ドドンパってなに?」って
モリシタさんに聞いてみた。

モリシタさんは、ミヤモトさんよりあとに
うちに来たカンゴフさんだ。

ミヤモトさんよりオシャベリで
オトナの人は「モンちゃん」って呼んでる。

「今、かめやま座でやってる
東京ドドンパ娘の歌やわ。
ドドンパっていう踊りもあるんかも」。

こんどのお休みに
見にいくって言ってた。

でも、いくらはやってても
一日中っていうのは
ちょっと鳴らしすぎだと思う。

「ドドンパ」のこと
最初、おじいちゃんに聞いてみたら
「あれはパンパンの唄じゃ」。

「パンパンってなに?」って聞きたかったけど
おじいちゃんのきげんが悪かったから
やめといた。

あとで、こんどは
オダさんに聞いてみた。

「ねえ、パンパンってなに?」

オダさんはモリシタさんと仲良しで
いつも一緒にいるカンゴフさん。

でも、オダさんは困ったみたい。

「えっ?」ってビックリして
ちょっと赤くなって
すぐにどっかに行っちゃった。

オダさんもモリシタさんも
「中学出たばっかり」で
「スミコミでガッコに通ってる」んだって
おばあちゃんが言ってた。

「スミコミ」だから、夜はうちの茶の間で
お布団ひいて寝てるんだって。

とーきょードドンパむすめ
二人で見にいくのかなあ。

アタシもおねえちゃんと
行けたらいいのに。

アタシもドドンパ
踊ってみたい。
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ねねの日々⑥ ・・・ カミサマがいっぱい

2014-09-28 11:45:36 | E市での記憶
おじいちゃんとおばあちゃんのいる
この家に来てから
「神サマ」がどんどん増えた。

水道のある流しにも
庭の井戸のポンプにも
「水の神サマ」がいる。

だから、蛇口はちゃんと閉める。

ポンプも、遊びでフザケて
ガシャコンしちゃいけない。

タタミの縁とか、敷居の角っこにも
何かの神サマがいるらしい。

「神サンがいるから
角ん所をまたいだらあかん」とか
おばあちゃんはけっこうウルサイ。

お便所にも「神サン」はいる。

「モノを投げ込んだり捨てたりしたら
神サンが怒る」って、おじいちゃんも言ってた。

ご飯粒の中にもいるみたい。

「ひと粒のお米ができるにも1年かかる。
だからソマツにしたらアカン」って
これは、おじいちゃんもおばあちゃんも
いっつも言ってる。

タタミにご飯粒をこぼしたら
一粒一粒、拾って食べさせられる。

おねえちゃんは少ないから早いけど
アタシは時々、たくさんこぼして
拾うの、おばあちゃんに手伝ってもらう。

でも、そういう時に
おばあちゃんは怒らない。

「あ~ハナが咲いた、咲いた。明日はお天気やの」
って笑ってる。


この間、まだフトンが上げてないときに
おねえちゃんと部屋で追いかけっこになったら
「布団踏んだらあかん」って
おばあちゃんに叱られた。

もしかしてフトンの神サマもいるのかと思って
聞いてみると、おばあちゃんはちょっと困って
「布団踏むモンでない」って
もういっぺん言った。

たぶん「フトンの神サマ」は
いないんだと思う。

「枕も足で蹴ったらアカン」って言われたけど
そっちも神サマじゃなくて
「蹴ったら足がクサル」からだそーだ。


「神サマがいる」んじゃなくて
「神サマ」ソノモノなのもある。

朝日が上がるとき
おばあちゃんは手を合わせて
小さな声で「ナマンダブナマンダブ」。

夜、廊下でお月さまを見かけても
やっぱり手を合わせて拝んでる。


「仏サマ」とか「神サマ」とかの
形をしてなくても、おばあちゃんはいつも
神サン、仏サンに囲まれてるみたい。

なんだか不思議。

「死んで極楽に行ったら、仏さんのそばで
おんなじハスのウテナに坐って
もうなんも心配はなくなる」って。

ウテナって何?って聞きたかったけど
なんとなく聞きそびれた。
おばあちゃんがいつもと違う
オゴソカな顔してたから。

「死んだら、死んだ人にもまた会える」って。

神サン、仏サンと一緒にいるとき
おばあちゃんはなんかシアワセそう。

おとうちゃんは、神サン仏サンが
あんまり好きじゃないみたい。

「全然理屈にもなんにもなってない」って
いつか言ってたことがある。

おとうちゃんは「シューキョー」は
キライなのかもしれない。

でも、アタシは
おばあちゃんのシアワセそうな顔は
きっと好きなんだと思う。

「シューキョー」ってなんだか
よくわからないけど。
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ねねの日記⑤ ・・・ お手伝い

2014-08-15 11:43:51 | E市での記憶
おばあちゃんは一日中
なんやかんやで忙しい。

おねえちゃんやアタシも
いろいろお手伝いをさせられる。

お味噌汁に入れるおミソは
庭の向こうにある「小屋」の
タルの中から出してくる。
(「うちで作ったミソが一番」って
おばあちゃんは言ってる。)

それを、ときどきまとめて
すり鉢とスリコギでスル。

ひとりでスってると
すり鉢がゴロンゴロンなるので
おねえちゃんかアタシが
両手でフチを押さえてないといけない。

だから、おばあちゃんが味噌スリしてるとこを
通りかかると、呼ばれてお手伝いを頼まれる。

でも、まとめてスルのには
時間がすごーくかかるから・・・

アタシは、少しだけなら
すり鉢の中見てるの好きなんだけど
しばらくすると、また遊びに行きたくなる。

ゴザの上に山になったツマミ菜を
ひとつひとつ、根っこをちぎって
ゴミとか枯れた葉っぱとかも取って
きれいにして別の山を作る・・・なんていうのも
あんまり面白くない。

大体、おねえちゃんは
おばあちゃんとおんなじように出来るけど
アタシはなぜか上手にできない。
根っこをちぎると
ツマミ菜がすごーくちっちゃくなって
時々は、クチャクチャになったりする。

だから「もう遊びに行っていいよ」って言われると
やっと終わった~ってホッとする。

なのに・・・次に「手伝って」って言われると
やっぱり嬉しくてスキップしちゃうのは
なぜなんだろな~。

おばあちゃんも
だれかいた方が楽しいのかな。

大人も子どもとおんなじで
ひとりぽっちはキライなのかな~。






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