もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑤ ・・・ お手伝い

2014-08-15 11:43:51 | E市での記憶
おばあちゃんは一日中
なんやかんやで忙しい。

おねえちゃんやアタシも
いろいろお手伝いをさせられる。

お味噌汁に入れるおミソは
庭の向こうにある「小屋」の
タルの中から出してくる。
(「うちで作ったミソが一番」って
おばあちゃんは言ってる。)

それを、ときどきまとめて
すり鉢とスリコギでスル。

ひとりでスってると
すり鉢がゴロンゴロンなるので
おねえちゃんかアタシが
両手でフチを押さえてないといけない。

だから、おばあちゃんが味噌スリしてるとこを
通りかかると、呼ばれてお手伝いを頼まれる。

でも、まとめてスルのには
時間がすごーくかかるから・・・

アタシは、少しだけなら
すり鉢の中見てるの好きなんだけど
しばらくすると、また遊びに行きたくなる。

ゴザの上に山になったツマミ菜を
ひとつひとつ、根っこをちぎって
ゴミとか枯れた葉っぱとかも取って
きれいにして別の山を作る・・・なんていうのも
あんまり面白くない。

大体、おねえちゃんは
おばあちゃんとおんなじように出来るけど
アタシはなぜか上手にできない。
根っこをちぎると
ツマミ菜がすごーくちっちゃくなって
時々は、クチャクチャになったりする。

だから「もう遊びに行っていいよ」って言われると
やっと終わった~ってホッとする。

なのに・・・次に「手伝って」って言われると
やっぱり嬉しくてスキップしちゃうのは
なぜなんだろな~。

おばあちゃんも
だれかいた方が楽しいのかな。

大人も子どもとおんなじで
ひとりぽっちはキライなのかな~。






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ねねの日記④ ・・・ ミヤモトさんが来た

2014-08-07 15:24:50 | E市での記憶
おじいちゃんとおばあちゃんの家に来たのは
アタシが三つの時だ。

なんで覚えてるかというと
誰かに「いくつ?」って聞かれるたびに
ほかの誰かが、「三つだよね」って言ってたから。

でも、すぐに四つになって
「いくつ?」
「よっつ。」って
自分で答えるようになった。

そのあとかならず
「このまえまで、みっつだった」って
言ってた・・・と思う。


おじいちゃんたちの家は
どこからどこまでがウチなのか
アタシには、よくわからなかった。

おまけに、アタシたちが来てからずっと
家の中がドタバタしてた。

今考えると
おとうちゃんが「カイギョー」するんで
あちこち直してたんだと思う。

男の人たちが何人も出入りして
ノコギリやカンナの音もした。

ある日、もう見に行ってもいいって言われて
広い階段を上がってみたら
二階は、小さなベッドの部屋が
いくつもできてた。

ベッドなんてかっこいい。

アタシもベッドで寝たいって言ったら
ねねちゃんはネゾウが悪いから落ちるって
おかあちゃんもおばあちゃんも笑った。
(なんか、アタシはちょっと傷ついた)

一階にもタタミのビョーシツができてて
おかあちゃんとおばあちゃんが
お布団の綿入れをしたり
障子の張り替えをしたりしてた。

ずうっと後になって、おかあちゃんは
「あのときはお金がなかったから
できることは全部自分たちでやった」って
なんだかちょっと、シミジミしたような声で言った。


家の中がなんとなく片付いてきたら
突然、「新しいヒト」が現われた。

朝、アタシがひとりでご飯を食べてたら
丸顔のきれいなオネエサンが来て
向かい側の椅子に坐った。

おかあちゃんも来て
「ミヤモトさんよ。あいさつしなさい」

アタシはおはようって言ったかどうか
覚えてないけど
ミヤモトさんはニコニコして
「ねねちゃん、よろしくね」って言った(と思う)。

一階のビョーシツの隣の小さな部屋は
ミヤモトさんの部屋だから
勝手に開けたり、入ったりしたらいけないって
おかあちゃんは、コワイ顔して言った。

でも、ミヤモトさんは来た早々から
アタシとおねえちゃんを部屋に入れてくれて
ミヤモトさんのきれいな洋服も
さわらせてくれた。

ミヤモトさんのスカートは
おねえちゃんがはいても引きずるくらいで
なんだかお姫さまごっこしてるみたい。

でも、途中でおかあちゃんがトンデ来て
ものすごーく怒られて
もう絶対しちゃダメって言われた。

ミヤモトさんも、あんなに楽しそうに
笑ってアタシたちを見てたのに。

オトナは楽しいことがキライなのかな。

でも、おかあちゃんと違って
ミヤモトさんはいつもニコニコしてる。

アタシはミヤモトさんが
いっぺんで好きになった。


ウチにいる人はこれで
おじいちゃん(としよりセンセ)
おばあちゃん(大奥サン)
おとうちゃん(若センセ)
おかあちゃん(奥さんとか若奥サンとか)
それに、ミヤモトさん(カンゴフさん)

あとはおねえちゃんとアタシ・・・全部で7人。
ここに来る前は4人だったから
だいぶん増えた。

なんだか毎日、新しいお祭りに
おねえちゃんと二人で来てるみたいで
ドキドキする。

いろんなヒトに毎日出会うから
そのたんびにハズカシクテ困るんだけど
おねえちゃんは平気みたい。

アタシは、おねえちゃんの後ばっかりついて歩くって
ヨーチエンのセンセが言ってた。

仕方ないと思う。

おねえちゃんは二つもアタシより
おねえさんなんだから。



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ねねの日記③ ・・・ カメヤマ

2014-08-02 16:20:06 | E市での記憶
カメヤマは「うさぎとカメ」のカメに
形が似てるんだって。
(アタシにはそんな風には見えないけど)

カメヤマには、前は
おねえちゃんたちと行ってた。
ひとりで行ったらダメだって
おかあちゃんが言ってたから。

今はひとりでも行けるけど
アタシは友だちとしか行かない。

おねえちゃんはときどき
ひとりで行ってるみたいだけど。


カメヤマは、学校からは近いけど
うちからだとちょっと遠い。

昔は、上にお城があったんだって。

カナモリナガチカコウって人が
最初のオトノサマだって
センセが言ってた。

でも今はなんにもなくて
石垣みたいなモノがあるだけ。

アタシたちはオモテの道じゃなくて
石垣を登るのがふつう。

オモテの石垣はまだ登りやすいけど
ウラの石垣はくずれかけてたりして
いっぺんもの凄~く怖い目にあった。

そのときは、友だちと一緒だったし
アタシはなんとか上に上がれたけど
おねえちゃんはひとりのときに
もう全然動けなくなって
このまま朝までいるのかなあって
思ったって言ってた。


オモテの道にもコワイとこがある。

みんなが「首つりの木」って呼んでる木の下を
ふつうに歩いて通った人は
朝、首つって死んで見つかるんだって。

だから通るときは、アタマ下げて息も止めて
大急ぎで通らなくちゃいけない。
(アタシも友だちもいつもそうする)

そうやって登ったテッペンは
昔、テンシュカクのあったところで
今は、ススキがいっぱいの野原になってる。

家も学校も遠くに小さくなって
ずっと向こうの山のキワに
大きな夕陽が沈んでくのが見える。

ほんとは夕焼けをゆっくり
見てたりしちゃいけないんだけど
つい、じっと見てしまう。

あっと思ったときには
もうどんどん暗くなっていて
走って帰っても「5時半」には間に合わなくて
おばあちゃんにオコラレル。
(おかあちゃんだと「カミナリ」が落ちる)


カメヤマは、春がきれい。

桜も咲くけど、それよりあと
あちこちに咲くヤマブキが好き。

花のかたちは桜みたいで
色は濃い黄色。
細い枝は硬いけど
アタシたちでもなんとか折れる。

でもうちに持って帰っても
朝になると、花びらはぜ~んぶ散ってる。
毎年、いっつもそうだから
ほんとは折っちゃいけないんだと思う。


カメヤマのふもとには「しょーず」があって
いつもモコモコ水が湧いてる。

まあるいコンクリの場所いっぱいに
水が貯まってあふれてるけど
モコモコしてるところの水はいつでも
飲んでいいっておばあちゃんが言った。

がけを上がりそこねたときは
そこで手と顔洗って
しっかりすくって飲んでから帰った。

おねえちゃんもきっとそうしたと思う。
おねえちゃんが、朝まで帰れなくならなくて
ほんとに良かった。

でも、おねえちゃんはどうして
ひとりで遊びに行くんだろ。

アタシがいるとジャマなのかなあ。
ひとりでがけ登っても
面白くないんじゃないかなあ。

オコラレルのも
ひとりじゃない方がいいのに。
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ねねの日記② ・・・ おじいちゃんの庭

2014-08-01 08:54:01 | E市での記憶
おじいちゃんの庭は、ちょっと歩きにくい。

飛び石って、ひとつに2歩だとチョコマカするし
ひとつ1歩で歩くと、すごーく大またになって
やっぱり歩きにくい。

デコボコした石段もあって
その上のとこに、背の高~い石と
太った低い石がならんでる。

太った石は
おねえちゃんより太ってる。
上のはじっこにはちっちゃな穴が2つ。

「上から雨水がポトンポトン落ちて
少しずつ穴が深くなる」んだって。

「水の力は大したモンじゃ」って
おじいちゃんは言ってたけど
水で石に穴あくなんて、ホントかなあ。

背の高い石は
おねえちゃんより背が高い。

アタシはひとりでは
上に登って坐れない。
(おねえちゃんは坐れる)

石段のちかくに
こんもり大きなツツジが3つ。
「上に大の字になって寝てみたい」って
だれかが言ってた。

隅っこには、リュウノヒゲ。
少しくらいなら、オママゴトのとき
むしって使ってもいいって
おばあちゃんが言ってた。


おじいちゃんとニワシさんが作った庭で
一番背が高いのは、3本あるヒノキ。

ヒノキの皮はラクにむしれそうなのに
やってみるとなかなかできない。

でも、アタシはヒノキが好き。
ヒノキの匂いも好き。

下から見上げると
ずうっと高いところに葉っぱが見える。
そのまた上を、雲が動いて行ったりする。

ヒノキの葉っぱは、ふつうの葉っぱと違ってて
乾かさなくてもよく燃える。

まえにヒノキとカシの木をニワシさんがサンパツしたとき
落ちた枝とか葉っぱとかを
おじいちゃんがたき火で燃やした。

葉っぱって、枯れないと燃えないのかと思ってたけど
カシの葉っぱはナントカ燃えた。
ヒノキは、すごーくよく燃えた。

息を吹き込んでやると、メリメリメリ・・・
奥で炎が赤くなって、外は灰になっても
中の方はしっかり燃えてるのがわかる。

それ見て、おじいちゃんは
「だから山火事はコワイ」って言った。

でも、アタシは
ヒノキの葉っぱの燃える音も好き。
なんだか気持ちのいい音だから。


おねえちゃんが生まれたときに、おじいちゃんは
アンズの木を植えたんだって。

アンズの木はすくすく大きくなって
実がいっぱいなったりする。

アタシのときは、小さなヒノキを植えたんだけど
そっちはあんまり大きくなってない。
この間の冬、大雪で折れて
前より背が小さくなって
やっぱりアタシより背が低いまま。
(アンズはあんなに大きいのに)

でも、おばあちゃんは
アンズはモモちゃんの木
ヒノキはねねちゃんの木って言ってる。


アタシの木も、そのうち大きくなるのかなあ。

もしかして、あの大きい3本のヒノキも
だれかの木なのかなあ。

○○ちゃんの木って、だれも言わないけど
もしそうなら、アタシのヒノキも
あれぐらい大きくなるかも。

そうなったら嬉しいな。


今からおねえちゃんと亀山行くから
今日はここまで。いってきまーす。

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