もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記・24 ・・・・・ おばあちゃんの一日  

2016-07-21 17:30:51 | E市での記憶
おばあちゃんは、いつも
ちょっとよごれたカッポウギつけて
家のあちこちで
なんかかんかしてる。

夏は、庭の畑のところで
ナスビとかキューリとか
トマトなんかの世話もする。

誰かに呼ばれたり
何か取りにいったりするとき
おばあちゃんは縁側を
さささっと走る。

「走ったらダメよ!」って
おかあちゃんに言われてるのに。

おばあちゃんは、ヒザが痛くて
この間、おとうちゃんに
「水をぬいて」もらったんだって。


アタシたちが一緒に住むようになるまで
この家には、レーゾーコも
センタッキもケーコートーも
電気ゴタツも電気ガマも
もしかして、水道のジャグチも
無かったと思う。

ほんとに。

アタシたちが引越ししてきて
電気屋さんが来て
ガス屋さんが来て
大工さんもたくさん来て・・・

ガチャガチャ手でこぐポンプが
ジャグチのついた「水道」になって
「マキのカマド」は「プロパンのコンロ」
茶の間の重たい火鉢のかわりに
赤い光の電気ゴタツ。

アタシたちが元々いた家の
白いレーゾーコと
手でくるくる回すとしぼれる
白いセンタッキも
おかあちゃんがおばあちゃんに
「こうすればいいから使って」。

ケーコートーはなかなか「つかない」けど
ものすごーく明るい。

おばあちゃんは、とっても
便利になったと思う。

でも・・・


おばあちゃんが毎日してることは
あんまりそーゆーのとは
関係なかったのかなあ。

おばあちゃんは、やっぱり
「一日中なんかかんかしてる」人のまま。

廊下の掃除なんかは
住み込みの看護婦さんたちも
手伝ってくれてたけど
細かいコトは大抵
おばあちゃんが一人でしてた。

アタシたちのご飯も
患者さんたちのご飯も
看護婦さんたちのご飯も
ぜ~んぶおばあちゃんが作ってた。


おばあちゃんが
「自分のコト」してるのって
アタシあんまり見たことない。

ミドリヤのおばちゃんと
お芝居とか映画とか
昔は行ってたみたいだったのに
アタシたちが来てからは
行けなくなっちゃったのかなあ。


一度だけ、アタシがテレビの前で
よくわからない昔のお芝居見てたら
通りかかったおあばちゃんが
「ミズタニヤエコやの」って。

「おばあちゃん、好きなん?」

「やっぱりミズタニヤエコが
いっちゃん、品があってええのう」

確かにきれいな人だけど
声はこんなにしゃがれてる・・・

するとおばあちゃんは
「声が玉にキズやけど、の」
だって。


そのときだけ、おばあちゃんは
最後までテレビのお芝居見てた。

まっすぐ前見て
黙ったままで。

アタシは退屈だったけど
他にしたいことなかったし
一緒に白黒のテレビ見てた。

お芝居の幕が下りてきたとき
おばあちゃんは、ハッとなって
夢からさめたみたいな顔した。

で、そそくさと立って
台所の方に行っちゃった。


おばあちゃんがタタミに座って
お昼間テレビ見てるのなんて
それより前も後も、全然見たことない。

あの頃のおばあちゃんは
一日中「お仕事」してる人だった。


アタシたちが、また引っ越して
おばあちゃんは、おじいちゃんと残って
そのあとおじいちゃんが
急に亡くなるまでのこと
アタシはなんにも知らない。

寝たり起きたりのおじいちゃんと
おばあちゃんは二人暮らし。

どんな一日だったのかなあ。

いっぺんくらい
聞いてみれば良かったのに
そんなことカケラも考えなかった。

アタシはアタシで
「自分のコト」に忙しくて
おばあちゃんのこと忘れてた。

それくらい自分が大事なのに
おばあちゃんはそうじゃなかったの?

もう一度会ったら、聞いてみたい。
おばあちゃん、なんて言うかなあ・・・





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ねねの日記・23 ・・・・・ おねえちゃんとリコさん

2016-07-17 22:37:22 | E市での記憶
リコさんは、おねえちゃんが
学校に行くようになって
初めてできたお友だちなんだって。

リコさんは、がっちりしてて
アタシやおねえちゃんみたいに
ヒヨヒヨしてない。

一度だけ、おねえちゃんが
リコさんのおうちに連れてってくれた。

リコさんのおうちは
そんなに遠くなかったけど
あんまり行ったことない方だった。

おかあさんは仕事に行ってて
「とうちゃんが寝てるから」って
3人で外で遊んだ。

帰りにちっちゃなお店にはいって
オコノミヤキ食べた。

ヨソで何か食べちゃいけないって
おかあちゃんに言われてたのに
お姉ちゃんがそう言っても
リコさんはずんずん平気だった。

リコさんは自分でさっさと焼いて
アタシは自分で焼けなくて
あとからお店の人が焼いてくれた。

それで帰るのが遅くなって
外はもう真っ暗で
おねえちゃんと一緒だったけど
あたしは怖くて泣きそうだった。

おかあちゃんになんていって
怒られたか、覚えてない。

お金どうやって払ったのかも。
リコさんが払ってくれたのかなあ。


おねえちゃんが3年生になると
リコさんは遊びに来なくなった。

「組が違うようになった」って
おねえちゃんが言った。

それからはリコさんのこと
アタシはあんまりよく知らない。


ある日、おねえちゃんが
おかあちゃんの前で泣いてた。

「なんで行ったげてくれんかったん」

「なんでって・・・」って
おかあちゃんは困ってた。

「リコさんのおかあさん
具合が悪かったのに
リコさん、電話したのに
往診に来てくれんかったって」

おかあちゃんは眉ひそめて

「『かあちゃんオナカ痛い』って
夜中に電話かかってきただけで
そんな大事だとは思えなかったんよ。
朝まで待てそう?って聞いても
うん・・・って言うし」

おねえちゃんは泣きやまない。

「でも・・・でも・・・
あたしの友達のとこなのに」

「そんなこと言ったって」

おかあちゃんはタタミに
坐りなおして

「あのね、リコさんのおかあさんは
胸が痛いって言いたかったんだけど
声が出なくて、リコさんが
おなか痛い?って聞くから
その『痛い』ってとこだけに
『うん』って言ったのね」

おかあちゃんは空中を見ている目で
「おなか痛いっていうだけでは
こちらはわからんのよ。
とにかく大変だから来てくれって
言われたらまだしも」

おねえちゃんは
何も言わなくなった。

でも、全然納得してなかったと思う。


リコさんのおかあさんは
朝には亡くなったみたい。

リコさんはおとうさんと
どこかへ引っ越していなくなった。


ずっとずっと後になって
アタシたちも引っ越してしまってから
中学を卒業したリコさんが
「京都のお茶屋さんに就職する」って
おねえちゃんから聞いた。

おねえちゃんは
あんまり言わなかったけど
リコさんとはずっと
おつき合いが続いたらしい。

お茶屋さんに10年くらい勤めた後で
一度うちに遊びに来てくれた。

うちの両親とも普通に話し
居間でみんなでお茶を飲んだ後
挨拶して帰っていった。

大人になったリコさんは
頼りになりそうな女の人だった。

わたしの覚えてるリコさんと
それでもどこか似て見えた。







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ねねの日記・22 ・・・ トーキョー

2016-05-12 08:34:08 | E市での記憶
まだ小さいとき、いっぺんだけ
トーキョーに行ったことある。

おばあちゃんと、おばあちゃんの妹の
「ミドリ屋のおばちゃん」と
おねえちゃんとアタシの4人。

寝台車でおばあちゃんと一緒に寝た。
おねえちゃんはひとりで寝たのに
アタシは「寝相が悪いくて落っこちるからダメ」だって。

アタシは「乗り物に乗ると
すぐ寝る子」って
おかあちゃんに言われる。

赤ちゃんのとき、ユリカゴに乗せて
寝かせたからだって。

寝台車は大きくて
ゴーゴーガッタンする
ユリカゴみたい。

起きてたかったのに
あっという間に寝ちゃった。でも

朝になったらベッドはイスになっちゃって
ぜんぜん面白くなくなった。


ウエノサクラギ町でウグイスダニの
おばあちゃんの「すぐ下」の妹さんの
おうちに行ったの。

アタシは全然知らないヒト。

そこのおとうさんは「職人さん」で
ずっとお仕事する部屋から出てこなくて
アタシは顔も知らない。

でも、おばあちゃんたちオトナは
ものすごーく楽しそうで
みんなずっと、おしゃべりしてた。


女の人たちばっかりで
ありったけのお布団ひいてかけて
み~んなおんなじ部屋で寝た。

どこで寝ても良かったんだよ。

お布団、うちのと全然違って
すごーく重たかった。
みんなアタシの方見て笑って
「埋まらんといてね」って言った。


タカラヅカ、見にいったよ。
アタシの分の席はなくて
かわりばんこに抱っこしてもらった。

遠いところで、白い羽根いっぱいつけて
女の人たちが並んで足をあげてた。
きれ~にそろってた。

途中、タイクツしちゃったけど
キューピーさんたちが出てきて
ヨウチエンか学校みたいな感じで
イロイロあって
最後に水たまりができて
ひとりが「え~ん」て泣いた。
みんなが「どうしたの?」
「もらしちゃったの」って。

おばあちゃんたちが笑って
アタシもおかしくて笑っちゃった。


ハネダで初めて
ヒコーキが飛ぶのも見た。

地面にじっとしてるヒコーキは
すごーく大きいのに
空に上がっていくと、どんどん小さくなって
アタシは「よく見えない」から
すぐにわからなくなっちゃった。
みんなは「まだ見えてる、まだ見えてる」って。


東京タワーも行って
帰り歩いて下りてきたの。

階段下りるたんび
おねえちゃんと下見てた。
はじめは全然変わらなかったけど
いつのまにか家が大きくなってきて
気がついたらもう地面すぐだった。

魔法がとけたみたいで
ちょっとがっかりした。


コーキョも行ったんだけど
もうものすごーく広くって
アタシは歩くのがいやになった。

おばさんとこのおねえさんが
「足がボーになるよねえ」って
抱っこしてくれたんだけど
おねえちゃんは、イトコのミドリさんと
手ぇつないで走ってた。

おねえちゃんはヨウチエンの一番上で
ミドリさんはもう学校行ってる。

一緒に行きたいのに
アタシは行かせてもらえなかった。

なんで? どこにも行ってないから?


ずっとずっと後になって
東京オリンピックのとき・・・

アタシは4年生で
みんな一日中「オリンピック~」で
ミナミハルオのオリンピックの歌が聞こえて
学校のテレビでも見た。

うち帰ってきてからも、もちろん見た。
チャスラフスカよりラチニナの方が
きれいだよねってみんな言った。


「これ、あのトーキョーでやってるんだ」
って、アタシはいつも思った。


トーキョーはとにかく広かった。
「足がボーになる」とこだった。

知らない人が流れてて
どこにいるのかすぐわからなくなって
おうちにたどり着くと
フゥ~って、大息つくとこ。

外国の人たちがいっぱい来て
みんなで跳んだり走ったりしてても
なんか不思議じゃない気がした。


オトナになったら
アタシも行くことあるかなあ。

行くことないような気がしてるけど
・・・わからないよね!






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ねねの日記・21 おかあちゃんのオシャレ

2016-05-08 12:29:49 | E市での記憶
おかあちゃんは、トーキョーの
デザイナーになる学校に
行ってたんだって。

でもムリヤリお見合いさせられて
おとうちゃんとケッコンした・・・みたい。

ほんとは「ブタイイショウ」か「コドモ服」が
やりたかったって言ってた。

アタシたちがちっちゃいころの服は
全部おかあちゃんが作ってたんだって。

ヒヨコのポケットがついたカーデガンとか
黒いジャンパースカートとか
アタシもなんとなく覚えてる。

ジャンパースカートのむねのポケットに
クジラのししゅうしてくれたの。

みんな「クジラだね」って言うから
おかあちゃんがしてくれたのって言うと
「いいね」とか「かわいいね」って。

ハズカシイけどうれしかった。でも・・・

アタシはほんとはピンクとか赤とか
そんな服がよかったんだけど
おかあちゃんはそーゆうの
大っきらいなんだと思う。

髪の毛のばすのも
「こどもは似合わない」

ちょっとカカトが高い靴も
「足に悪い!」

「みんな着てるのに」って言いたかったけど
おねえちゃんもアタシも言わなかった。

おかあちゃん怒ったらこわいから。


でもね、おかあちゃんは
とってもきれいだと思う。

ヨソユキ着て出かけるときとか
なんかフツーのひとじゃないみたい。

おかあちゃんはお化粧しなくって
着替えの最後に、ちっちゃなビンの
香水をシュッっでおしまい。

「アタシも」「アタシも」って
おねえちゃんと一緒に
ちょっとだけかけてもらうの。

オトナになったみたいで
すごーく嬉しい!

それとね・・・


おかあちゃんはキモノが好き。

たま~にだけど
キモノ着ておでかけするときは
魔法みたいにサササッと着てく。

タトウガミのぺったんこのキモノが
ヒモ2本でおかあちゃんに巻きついて
ちゃんと洋服みたいになって
平ったいオビがこんもり
「お太鼓」になる。

何回見ても不思議。

お祭りとかお正月とかは
おかあちゃんが子どもの頃のキモノ
アタシたちにも着せてくれる。

アタシたちは
今はまだ簡単なオビだけど
もっと大きくなったら
「フクラスズメ」にするんだって。

誰だったかなあ・・・

カンゴフさんも
うちでキモノに着替えるとき
おかあちゃんがオビ結んであげてた。

おかあちゃんのフクラスズメは
フツーのとは違うって
誰かが言ってた。

あたしも早く大きくなって
フツーじゃないフクラスズメで
オトナのキモノ着てみたい。

オトナのキモノは
カタアゲがないんだよ。

知ってた?






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ねねの日記⑳ ・・・ 春が来た!

2016-03-16 14:59:45 | E市での記憶
おばあちゃんたちは、いつも
冬は2月が「いっちゃん寒い」って言う。

アタシたちはこどもだから
雪が降ったら、あとはずうっと
ずっとずっと、寒いまんま。

オトナはちょっと
違うのかなあ。

でも、3月になると
道ばたとか庭とかの雪は
だんだんキタナくなってくる。

なんだか雪が、土に
負けそうになってる感じ。

ときどき新しい雪が降っても
前みたいにキレイには
もうならない。


この前、おねえちゃんと
アカネ川まで遊びにいった。

アカネ川は、カメヤマの向こうがわ。
うちから一番近い川だ。

まだあちこち雪が残ってる。

アタシたちも、アノラック着て
長ぐつはいてる。

でも、お天気がよくて
青空にわた雲が浮かんでて・・・


そのとき、ふわっと
風が吹いた。

わっ!と思った。
みどりっぽいニオイがする!!

大急ぎで「ねえねえ、今ねえ」って
お姉ちゃんに言いかけたら
おねえちゃんも、おっきな眼で

「みどりの匂い・・・したよねえ」って。


なんか、すごーく嬉しくて
アタシもおねえちゃんも
かけっこみたいに走った。

息が切れてもスキップした。


土手のさくら並木は、全然
つぼみが見えなかったし
つくしもスギナもザッソウも
なあんにもなかったのに。

「みどり」って
どこにあったんだろ。

おねえちゃんは
「あれって春の匂いだよね」って。


うちに帰ってみたら
診察場の窓のそとにできてたツララが
ずいぶんちっちゃくなってた。

ツララの先っぽから
ポチョンポチョン落ちる水とか
キタナくなった庭の雪とかって
アタシはあんまり好きじゃない。

なあんとなくツマラナイ気がする。

「みどりのニオイ」「春の匂い」も
ちょっとヘンなにおいだった。

それなのに・・・

「春」は春ってだけで、もう大笑いして
その辺走りまわりたくなるモンだった。

あのとき、おねえちゃんもアタシも
ちょっとヘンになってたのかも。

匂いだけで「ヘンになっちゃう」ような
モンなのかなあ。

春って。




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ねねの日記⑲ ・・・ モンちゃん

2016-01-02 18:08:50 | E市での記憶
カンゴフさんのモンちゃんは
うちに住んでる人だ。

うちの茶の間の押入れは
右がオダさん、左がモンちゃんので
「あんたたちは絶対開けちゃダメだよ!」って
おかあちゃんに言われた。

夜は、茶の間のチャブダイ片づけて
オダさんとモンちゃんの二人分
おふとんひいて寝てる。

お昼間は、オモテでカンゴフさんやって
夕方になると、二人とも
黒いセイフク着て、カバン持って
電車の駅の方、駆けてくみたい。


モンちゃんが「集金」に行くとき
アタシ、自転車の後ろに
乗せてもらったことがある。

自転車の後ろなんて
初めてだった。

はじめはヨロヨロして
こわかったんだけど
すぐにビュンビュン。

もう、すごーく面白かった。

三ヶ所くらい回って
そのたんびに降りて
モンちゃんが帰ってくるのを
自転車のそばで待ってた。

アタシを乗せてても
モンちゃんは平気そうだった。

ふっくらして
いつも赤いほっぺが
もっと赤くなったけど。

でも、乗せてもらったのは
そのときだけ。

後から、おかあちゃんに
二度とやっちゃいけないって
きつーく言われた。

モンちゃんも、もしかしたら
おこられたのかなあ。

ワルイことしちゃったかなあ。


もっと大きくなってから
モンちゃんのこと、いろいろ聞いた。

「集金にやったら、帰ってこん」って
おばあちゃんが言った。

「河原に寝っころがって
若いもんと一緒に空見てた」って
近所の人から聞いたって。

いいよね、それくらい。
ちゃんと帰ってくるんだし。


モンちゃんは芸者さんの子だって
誰かが言ってた。

お父さんは「ワカラナイ」とか
お母さんは「病気」だとか
その病気がモンちゃんに
「うつってないといいけど」とか。

モンちゃんが中学出てうちに来たのは
そのお母さんに頼まれたからだって。


モンちゃんは、お風呂屋さんに行くと
帰りに、洗面器に山盛り
アイスキャンデー買ってくる。

1本あげるって言われて
おねえちゃんと半分こしたことある。


モンちゃんはいつも
なんだか楽しそう。

「あて、この人がいい」って
雑誌の写真指さして
「サイゴウテルヒコっていうんよ」

アタシがわからないのを見て
「まだ出たばっかりだから」って
ひとりでうなずいてた。

アタシ、モンちゃん
こわくないから好きだった。

あんなオネエサンになりたいなあって
なあんとなく思ってた。








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ねねの日記⑱ ・・・・・ おそらにのれる  

2015-11-29 12:18:06 | E市での記憶
お正月も過ぎて
冬休みも終わって
でも、雪は降ったりやんだり。

ますます寒くなってくる。

降ったばっかりの新しい雪は
ふわふわだったり、サラサラだったり。

そのまんまだときれいだけど
土やなんかがついて
茶色とか黒とか
なんかきたならしくなる。

道端とか校庭とかだと
もう「雪」にみえない。「岩」みたい。


でも、庭のすみで、家の陰になってて
お日さまがあんまり当たらないトコだと
降ったときのまんま残ってる。

アタシたちが歩くと、足あとがつくけど
歩かないトコだと、そのまんま
雪が降るたんび積もってく。

お昼間はちょっと溶けて
夜からはちょっと凍って
で、また降って・・・


今朝、おねえちゃんと
きれいな雪、探してたら
もう・・・ビックリした!

降ったばっかの雪なのに
誰もまだ、踏んでないのに
そのまんま、ずーっと
雪の上を歩けるの!!

全然、足がズボッといかない。
全然、ゴボッたりしない。

「え~~!どーしてぇ~~?」


もう面白くって、おねえちゃんといっしょに
そのへん、ずーっと歩いて遊んだ。
慣れてきたら鬼ごっこもした。


でも、お日さまが当たり始めたら
足あとがつくみたいになってきて

ズボッ。「あ、長靴抜けなくなった・・・」

で、やめて家にはいった。


日曜で、おかあちゃんがいたから
「雪の上、そのまま歩けたよ!」って言ったら

「ああ、ソレ『おそらにのれる』っていうのよ」


「オソラニノレル?」「おそらにのれる・・・」

キャッ、「お空に乗れる」んだあ。


おかあちゃんは、前に
おばあちゃんに聞いたんだって。

おねえちゃんとそのまま
おばあちゃん探しにいって
台所で見つけて、聞いてみた。

「ああ、おそらにのれるんやの」

おばあちゃんは、サササッと
なんでもないみたいに言う。

「ホントに『おそらにのれる』っていうの?」

おばあちゃんは何度も小さくうなずいて

「なぁんもない田んぼの上、朝だけ
おそらにのれるようになるしの」

「おばあちゃんも遊んだ?」

おばあちゃんはちょっと笑って
小さな声で

「おもっしぇかったのぉ」だって。


でも、「おそらにのれる」日は
その冬は、あのとき一度だけだった。

アタシはもういっぺん
降ったばっかりの雪の上
走ってみたかったんだけどな~。

おばあちゃんみたいに
「なぁんもない田んぼの上」だったら
もっと良かったんだけどな。





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ねねの日記⑰ ・・・・・ おとうちゃんのカマクラ   

2015-02-07 13:48:25 | E市での記憶
オダさんは
雪かきが好きみたい。

ときどき、スコップで雪あけたあと
小さなカマクラ作ってくれる。

雪だるまなんて
もっとしょっちゅう。

道路と玄関の前の雪かきで
どこの家の前も
あけた雪が山になるけど
うちは、救急車が来たりするから
玄関の前は、ひろ~く空けとかないと
いけないんだって。

患者さんは、タンカにのって
来ることもあるし。

でも、雪かきはけっこう
大変なのかも。

アタシなんか
あんまりさせてもらえない。

オトナの力じゃないと
「かえってジャマになる」みたい。

「子どもは遊ぶのが仕事」って
おばあちゃんも言ってた。


雪がたくさん降るようになると
屋根の上に積もったのも
降ろさなきゃいけなくなる。

アタシも一度くらい
二階の屋根に上がってみたいけど
もう、ぜーったいダメって言われる。

一階の屋根なら
二階の窓から出れば行ける。

でも、それくらいでもおかあちゃんに
死ぬほど怒られそうな感じ。

高いとこ、アタシ好きなのになあ。

屋根雪を降ろすときは
庭に近い方の屋根は庭へ
道路に近い方はそのまま
道路に向かって放り投げる。

だから屋根雪降ろしてるの見たら
歩いてるときでも「通りま~す」って
大きな声で言ったりする。

気がついてもらえないまま
頭の上から、雪の塊が降ってきたりすると
大ケガするからって学校でも言われた。

大声で言ったのに、聞こえてなくて
そのときは空からの雪も降ってて
屋根からのは、そんなに
大きいカタマリじゃなかったのに
ホネが折れて、傘がダメになっちゃったこともある。

でも、ほんとにたくさん雪が降る年だと
「サンパチのゴーセツ」とかいって
もうしょっちゅう「屋根雪降ろし」にあう。

だって、きのう降ろして
すっきりペッタンコになった屋根に
次の日にはまた1メートルほど
積もってたりするから。

庭も道路の両側も
一階は雪の壁になっちゃう。

道の真ん中は歩けるんだけど
そこもだんだん、狭く高くなって
歩いてても上がったり下がったり。

すべる長靴だと
怖くて歩けない。

道路が元々はどんなんだったかも
全然思い出せなくなっちゃう感じ。

お向かいのヤッちゃんの家なんて
このごろは二階の窓から
出入りしてる。

診察場の軒先のツララも
ものすごく長く太くなる。
さわっても、もうビクともしない。


そんな冬の日曜日、朝から
庭の方でおとうちゃんの声がした。

一階の窓なんて開けられないし
開けられても、雪囲いがしてあるから
庭は全然見えないし・・・

で、おねえちゃんと二階に上がって
窓を開けてみたら
なんと!おとうちゃんが
雪でいっぱいの庭に出てた。

おとうちゃんは
大きなカマクラのそばで
嬉しそうに笑ってた。

アタシが見たこともないような
ほんとに大きなカマクラ。

おねえちゃんと一緒に大声出して

「どうやってそこまで行ったの~?」

おとうちゃんも大声で

「君たちのいるとこからだよ~」

え~~~~!!!

オトナはいいなあ。
二階の窓から出てもいいんだあ。

「カマクラ、おっきいね~」

「そうかい?」

おとうちゃんは不思議そう。

「こんなもんだよ。すぐ出来る」だって。


おとうちゃんが、そのあとどこから
うちに入ったのか、アタシは知らない。

二階の窓からは、飛び降りられても
上がってくるのは無理だと思った。

それに・・・きっとまた
「患者さん」が来ちゃったんだと思う。

でも、それから何日も
アタシはそのカマクラで遊んだ。
お友だちとママゴトもした。

カマクラはなかなか
融けなかった。


おとうちゃんがカマクラ作ってくれたのは
そのとき一度だけだったけど
あたしはちゃ~んと覚えてる。




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ねねの日記⑯ ・・・ なぜ? どーして?

2015-01-13 14:28:31 | E市での記憶
「聞きたがりのねねコ」って
この前、おとうちゃんが言ってた。

「とにかく、何言っても
『なぜ?』って聞き返してくるからなあ」

おとうちゃんは笑ってたけど
でもちょっと、困ってるみたいな
もしかしたら、ちょっと迷惑そうな?顔だったから
なんかアタシも・・・困っちゃった。

どのこと、言ってるのかなあ。

そういえば、昨日の夕方
おとうちゃんだけ
早めに晩御飯食べてるとき
テレビでお相撲やってて・・・

アタシはいつも不思議だったから
聞いてみたんだ。

「おすもうさんは、なんでマワシしてんの?」

おとうちゃんは、なんかすごーく考え込んで
「・・・昔はだれでもしてたんだよ」

よけいにワカラナクなった。

みんなあんなカッコして
道歩いたり、ご飯食べたりしてたの?

で、つい聞いちゃった。

「どーして?」

おとうちゃんはもっと考え込んで
「とにかく・・・無いとつかんで
相手を投げられないだろ?」

「ウワテナゲとか
シタテナゲとかっていうの?」

おとうちゃんは嬉しそうに
「そう!そういうの」

ふ~ん。

「じゃあ、ウワテってなに?」

おとうちゃんんはまたか・・・って顔。

「お相撲さんは、向かい合って組んだとき
片手は上、片手は下側になるんだよ」
「で、上になったほうの手で投げるのが『上手投げ』」

う~ん・・・「上」?「下」?

「上ってどっち?」

「上は上」

ワカラナイ。

あ、もしかして・・・

「外側と内側のこと?」

おとうちゃんはまた喜んで
「そう!『上』は外側。『下』が内側」

ふ~ん。

「じゃあ、どーして『上』手投げなの。
『外』じゃなくて」

おとうちゃんは小さな声で
「どう言ったらいいんだろ・・・」


そこへ、おかあちゃんが来たから
おとうちゃんはそっち向いて

「この年頃だけなんだろうけど
なんで、なんでってキリがない」

おとうちゃんは笑ってたんだけど
おかあちゃんはウルサそうに
顔をシカメて、早口に

「そんな真剣に答えなくていいのよ」

「いや~オレも子どもの頃
いちいち聞くんで困ったらしいから」

おかあちゃんは「あーそーですか」みたいな顔で
ナントカさんが来られましたよ・・・
とかなんとか言って
あっという間に居なくなった。

おとうちゃんもご飯食べるのやめて
ドッコイショって、
診察場の方に行っちゃった。


アタシはそのまま
ひとりでお相撲見てたんだけど・・・

もしかして、おとうちゃんも
お相撲もっと見たかったのかも。

ご飯もあんまり食べられなかったし。

アタシがジャマしたのかなあ。

大体いつも、アタシは
聞いたことゆっくり考えないで
「じゃあドーシテ・・・」って
次の不思議が浮かんじゃう。

で、そのまま次を訊いちゃうから・・・

前に、近所の散髪屋さんでも
若い男のひとが、アタシの散髪しながら

「よく喋るね」

アタシはすごーくハズカシくて
そのあとはひと言も喋らなかった(と思う)。

でも、ちょっと経つと
元に戻っちゃうんだよね。

おとうちゃんにも散髪屋さんにも
アタシ悪いことしちゃんたのかも。

でも、「聞きたがり」も「オシャベリ」も
直らないみたいな気がするし・・・

仕方ないよね。




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ねねの日記⑮ ・・・ シノクラさんの雪 

2015-01-10 12:32:30 | E市での記憶
お正月が過ぎて
でも、まだ学校はお休みの頃
おじいちゃんが
シノクラさんに連れてってくれた。

おじいちゃんは、あんまり
アタシたちと出歩いたりしない。

大体、あんまり
家から外にも出ない・・・と思う。

だからおねえちゃんと三人で
遠くの神社にお参りに行くなんて
とっても珍しい。

シノクラさんに行くのも
アタシは初めて。

どこにあるのかも知らないから
行ってみてちょっとビックリした。

とにかく「遠い」。

歩いても歩いても
なかなか着かない。

サンノウさんや
カメヤマさんよりずっと遠くて
アタシはちょっと
歩くのに飽きてきた。

そのうちに
前を歩いてたおじいちゃんが
振り返ってアタシたちの方を見た。

遠くにちっちゃく
神社のトリイが見える。

わ~あとちょっと。

でも、トリイが近づいて来るほど
雪がだんだん深くなって・・・

トリイの下をくぐったら
とうとう「道」が無くなっちゃった。


雪の中の「道」っていうのは
誰かが歩いたあとにできるんだけど
トリイの向こうは、まだ
誰も歩いてないみたい。

雪がもうちょっと少なかったら
「わ~い、いちば~ん」って
おねえちゃんと競争して歩くんだけど
長靴の高さより、積もってる雪の方が
ずっと高いから・・・

歩こうとしても
ずぼっ、ずぼって
ゴボってばっかし。

長靴の中に雪が入って
脱いで、はらっても
だんだん靴下がぬれてきて・・・

とにかくおじいちゃんの足跡の上を
気をつけて歩く。

でも、おじいちゃんは背が高いし
オトナだから一歩が大きい。
アタシが真似して歩くのは無理みたい。

やっぱり、あちこち
ゴボリながら歩く。

おじいちゃんが急に振り向いて
「そこはアカン」。

木の枝にこんもり雪が乗ってて
落ちてきたら危ないってこと・・・みたい。

そういえば、シノクラさんの木は
どれもモノ凄く太い。

トリイを過ぎてから
ずっと足元ばっかり見てたけど
周りを見たら
雪が積もった木がいっぱい。

見上げても、空が見えないくらい
どの木もみんな高かった。


なんとか神社にたどり着く。

呼んでもだれも出て来ない。

どうするんやろ・・・って思ったけど
オジイチャンは全然困らなくて
すたすた中に入ってく。

廊下の途中でカンヌシさんに出会うと
おじいちゃんは笑顔になって
「おめでとうございます」とか
平気で普通にあいさつしてた。


カンヌシさんにオハライしてもらって
うちに帰る頃には
ちょっとだけお日さまも出てきて
景色が全然違って見えた。

来るときの神社の森は
なんだか夜だったみたいな気がして。

白と黒と緑しかなかったからかなあ。
アタシはちょっと怖かった。

大きな木が、雪をかぶって
じわじわ押し寄せて来るみたいな気がした。

でも今、お日さまの光があたってると
雪はなんだか「白」じゃなくて「金色」。
木の「緑」も「黒」も、
おんなじように輝いて見える。

空の色も明るくなって
ほんのちょっとだけ「青」も見える。

長靴の中は冷たかったけど
アタシはなんとなく嬉しくなって
元気出して歩いて帰った。

おじいちゃんは、やっぱり
なんでもないみたいな顔してた。





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