オルゴールが好きだと言っていた父は
晩年になって、外国のメロディーの入った
大きなオルゴールを買った。
なんていう曲かはわからなかったけれど
父の書斎の「箱型の棚」に置くと
棚が共鳴して、素晴らしい響きになるとわかった。
テーブルに置いて、ふたを開けたときは
ごく普通に「きれいな音色」
でも、棚に置いて開けると、突然
魔法の楽団が現れたみたいになる。
「共鳴ってすごいね」
「音の魔術だね」
姉もわたしも、ただうっとり聞きほれた。
オルゴールの秘密を教えてくれた母は
発見したのは自分と言いたそうだった。
ほんの数分の室内楽。
音の箱をじっと見つめて。
オルゴールを「音匣」と書くと知ってから
あのときの光景が
一枚の静止画になって目に浮かぶ。
あれから40年以上。
今はオルゴールも、あの家もなく
父も母も別世界の人。
姉の声を聞くこともなくなって…
それでも、またいつか
いっしょにあの曲を聴ける日が
来るような気がして、仕方ないのだ。
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