窓の向うに見えるもの――。
それは、ママの造ったコスモス畑。
昨日までのこの景色と、今日見ているこの景色。
同じようで同じじゃない。
だって、私が違うから。
昨日の私と、今日の私。同じ私でも同じじゃない。
だって昨日までの私は、恋を知らなかったもん。
人を好きになることを知らない。
ときめきも知らない。
目が合っただけで、世界の全てがピンク色の染まるなんて。
そんなこと、全然知らない。
だから今見えてるこのコスモスも、私が知ってるものじゃない。
花を見て綺麗だなんて、莫迦みたいだと思ってた。
みんなが言う可愛いものを、ホントに可愛いと思ったこともなかった。
なのに今は、みんなの言ってたことがよく分かる。
恋をしたら、変わる。
彼氏ができたら、解る。
そうなんだろうな。
だって、たった一度目が合っただけの人、好きになっちゃったんだもん。
そしたら世界が変わったの。
親の言うことも、先生の言うことも素直に聞けた。
これが恋をするということ…
これが優しくなれるということ…
だから、このコスモスが綺麗だなって思う私は、きっと変わった後の私。
「おかえり」のママの言葉に、「ただいま」を言うことが自然に思えた私。
驚いたようなママの顔を見て、もう何年も“ただいま”を言ってなかったことに気が付いた。
ママ。
ごめんね。
でも今なら分かる。
私の反抗期、長かったね。
もう大丈夫。
だって同じ電車に乗った彼に、ごっつい鎧を取ってもらったから。
あの人…
同じ町に住んでるのかなぁ。
また逢えるかな。
逢えると、いいな…。
それで一言でいいから、話したい。
電車の急ブレーキに、体が持っていかれそうになった。あの時、あの人が支えてくれた。
うわっ! 思い出しただけでも、顔から火が出そう。
それから、
「大丈夫か?」
って、声をかけてくれた。
それなのに、ありがとうの言えなかった私…。
情けない、なんて初めて思った。
『私なら大丈夫。そういう場面になったら、ちゃんとできるもん』
ずっと、そう言って我が儘を通してきた。
結局、全然できてなかった。
もの凄いブレーキに悲鳴が上がり、どこにも摑まっていなかった私は前の人に向かって倒れそうになった。
その時、後ろからグイっと抱きとめられた。
あの人は吊り革一本に右手を預け、自分と私の体を守ってくれた。
あの時、私はどうしただろう。
彼の顔をじろじろ見ていたんじゃなかったかなあ。
それとも、すぐに視線を逸らしたっけ。
憶えてない。
でも、これだけは解る。
今のままじゃ駄目なんだということ。
あの時の私は、もういない。
だから、も一度チャンスが欲しい。
こんな時、どうすればいいのかな。
クリスマス前にカードを出せば、届く物とは違うから。
だから、分からない。いつも欲しいものは、ネダレばパパが買ってくれた。
だから、分からない。他に誰も思いつかない。
だから、お願いします。
神様、私にチャンスを下さい。
窓から見えるコスモスが風になびいて、本当に綺麗なことが分かった――。
【了】
著作:紫草
それは、ママの造ったコスモス畑。
昨日までのこの景色と、今日見ているこの景色。
同じようで同じじゃない。
だって、私が違うから。
昨日の私と、今日の私。同じ私でも同じじゃない。
だって昨日までの私は、恋を知らなかったもん。
人を好きになることを知らない。
ときめきも知らない。
目が合っただけで、世界の全てがピンク色の染まるなんて。
そんなこと、全然知らない。
だから今見えてるこのコスモスも、私が知ってるものじゃない。
花を見て綺麗だなんて、莫迦みたいだと思ってた。
みんなが言う可愛いものを、ホントに可愛いと思ったこともなかった。
なのに今は、みんなの言ってたことがよく分かる。
恋をしたら、変わる。
彼氏ができたら、解る。
そうなんだろうな。
だって、たった一度目が合っただけの人、好きになっちゃったんだもん。
そしたら世界が変わったの。
親の言うことも、先生の言うことも素直に聞けた。
これが恋をするということ…
これが優しくなれるということ…
だから、このコスモスが綺麗だなって思う私は、きっと変わった後の私。
「おかえり」のママの言葉に、「ただいま」を言うことが自然に思えた私。
驚いたようなママの顔を見て、もう何年も“ただいま”を言ってなかったことに気が付いた。
ママ。
ごめんね。
でも今なら分かる。
私の反抗期、長かったね。
もう大丈夫。
だって同じ電車に乗った彼に、ごっつい鎧を取ってもらったから。
あの人…
同じ町に住んでるのかなぁ。
また逢えるかな。
逢えると、いいな…。
それで一言でいいから、話したい。
電車の急ブレーキに、体が持っていかれそうになった。あの時、あの人が支えてくれた。
うわっ! 思い出しただけでも、顔から火が出そう。
それから、
「大丈夫か?」
って、声をかけてくれた。
それなのに、ありがとうの言えなかった私…。
情けない、なんて初めて思った。
『私なら大丈夫。そういう場面になったら、ちゃんとできるもん』
ずっと、そう言って我が儘を通してきた。
結局、全然できてなかった。
もの凄いブレーキに悲鳴が上がり、どこにも摑まっていなかった私は前の人に向かって倒れそうになった。
その時、後ろからグイっと抱きとめられた。
あの人は吊り革一本に右手を預け、自分と私の体を守ってくれた。
あの時、私はどうしただろう。
彼の顔をじろじろ見ていたんじゃなかったかなあ。
それとも、すぐに視線を逸らしたっけ。
憶えてない。
でも、これだけは解る。
今のままじゃ駄目なんだということ。
あの時の私は、もういない。
だから、も一度チャンスが欲しい。
こんな時、どうすればいいのかな。
クリスマス前にカードを出せば、届く物とは違うから。
だから、分からない。いつも欲しいものは、ネダレばパパが買ってくれた。
だから、分からない。他に誰も思いつかない。
だから、お願いします。
神様、私にチャンスを下さい。
窓から見えるコスモスが風になびいて、本当に綺麗なことが分かった――。
【了】
著作:紫草