『君戀しやと、呟けど。。。』

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『キスシーン』Ⅵ

2009-12-02 08:39:05 | 連作short/妖婉シリーズ
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『蔵に居つく魑魅魍魎たちが、彼奴を守って育ててたんだ』

 瑠璃が絶句した。
 当然だろう。あの時の俺もそうだったから。
「母ちゃんの戸籍は、事件性から新たに作られたもので、本当の年齢も名前も、いつから蔵にいたのかとかも全然分からなかったって」

 これで此処を嫌がるなら仕方ない。
 それに俺自身を毛嫌いするかもしれない。
 ただ、ちゃんと付き合うなら言わないわけにはいかないから。
「伯母ちゃん、かっこいい~」
「うん。えっ!」
 お前、今、何て言った!?
「伯母ちゃんって、どこか翳があって神秘的で、それでいて綺麗で優しくて前から大好きだったんだよね。そんな過去のある人だったのかぁ。ますます好きになっちゃった」

 興奮して話す瑠璃は、肝心なことが分かってないぞ。
 お袋は『時間を超越した魔物かもしれない』と親父は言った。
 そして俺は、その血を受け継いでいるってことだ。
 嫌われるとかじゃない何かによって、引き裂かれる想い。

 以前、一度だけ告白した女がいた。
 彼女は、あっさりと俺を化け物扱いして離れていった。その時、周りに言い触らしていったから、暫く何処に行くにも魔物扱いだった。
 あれから偽者の恋愛を追うのは止めた。
 真実を話す必要のない、そんな人生を送ると決めたから。

 瑠璃に言ったことは嘘じゃない。本当に、男ができたら離れるつもりでいた。
 ただ忘れるつもりがなかっただけだ。
 一生、逢うことはないだろうけれど。それでいいと本気で思ってた。
 そのために在宅可能な仕事を選び、人との接触を絶った。
 此処に来るのは、今はもう親父と瑠璃のふたりだけだ。

「ちゃんと分かってるよ」
 物思いに浸っていたがために、瑠璃の言葉に反応が遅れた。
「でも…、みっちゃんが怖いとも、魔物じみたとこも感じたことない。そんなの聞かされても、好きなの。嫌いになったりしないもん」
 瑠璃…
「でも、みっちゃんが、その話をして私を遠くにやろうとしてるなら」
 そんな筈ないだろ。
 でも、その言葉は声にならない。
「私は、みっちゃんの言う通りにする」

 俺はそれには答えず、ガラス戸を閉め座敷に戻った。
 それで見上げる瑠璃の隣に座った。

「そばに居て、ずっと。瑠璃が嫌だと思うまで」
 瑠璃は首を横に振る、何度も何度も。そして少しだけ潤んだ瞳で、俺を見上げる。
「絶対離れたりしない。みっちゃんが出ていけって言わない限り」
「魔物の子かもしれないぞ。ずっと生き続けて、瑠璃を離すことなんかないかもしれない」
 そう言ったら、瑠璃は本当に嬉しそうに微笑んだ。

「しよっか」
 今更、何をと聞くほど、初心ではなかったようだ。
 瑠璃は自分から腕を回してきて、頷いた。

                     著作:紫草

                   To be continued.
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