『君戀しやと、呟けど。。。』

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続編『謎』 (小題:図書館)

2013-07-26 13:59:40 | ニコタ創作
 今週のお題・別館サークル~みよ~の続編です。
カテゴリー;Novel

『朝と夜にはできなくて、昼には寝ながらでも、できちゃうことってなんだ』

 志水槇は小さく呟いた。
 その言葉を向かいに座る同級生、今枝旭が拾ってくれる。
「昼寝だろ。何だ、眠いのか」
 時刻は昼寝というより、夕寝か。確かに図書館は静かで空調もほどよく効いていて、寝たら気持ちよさそうだ。
「違うよ。あの子に出したなぞなぞだ」
 旭は、したり顔で頷いた。
「俺が届けたんだ。上手くいっただろ」
「あ、あの後、自分で会いに行った」
 そう言うと、意味深な目つきを見せてきた――。

 あの子に気付いたのは、高校二年の夏休みだ。同じ学校だなと思うことはあっても顔の判別までは簡単にできない。
 ただ、あの子は同じ電車で何度も席を譲っていた。
 譲る相手に分かるように席を立つこともあれば、いかにも次の駅で降りるという感じで離れる時もある。
 同じ学校の制服を着てるのに、次の駅に用事でもあるのかと思って見ているとやはり降りることはなく、そこで初めて席を譲ったんだと分かった。同じような光景を幾度も見ていたら、いつの間にか顔を覚えてしまった。
 そんなことが続いて、新学期が始まると同じ電車だと気付いた。なのに消える。
 駅から学校までの道のりで、彼女に遇うことはなかった。

 とある早朝、校庭の隅にクラブ顧問の教師を見つけた。少し話していると、彼女が現れつい名前を聞いてしまう。
「愛川こふねだよ。何だ、お前が女の子に興味持つなんて珍しいな」
 先生に突かれながら、そんなんじゃないと否定するものの、名前を聞いた段階でそれは言い訳にもなってなかった。
 聞けば苦労をしてる子なのだと知った。だからこそ電車での動きになるのかと思い至り何となく目を離せなくなった。

 その話を旭にすると、カードを書けと言われたんだ。
 気になる後輩の話に、最初に乗ったのは旭の筈だった――。

 槇と旭は休日の部活動後、学校にほど近い図書館に通うのが日課になっていた。午後七時の閉館までいるのだが、意外と進まないものだなと思う。
 仕方がないか。夏のインハイが終わるまでは練習もあるし退部もしない。男子バレー部は数年ぶりにインハイ出場を果たし最高に盛り上がっていて、このまま初戦突破を目指している。
 それが終わると本格的に受験勉強に入る。二人は一般受験組だ。旭は実業団からのオファーもあったけれど、大学に進みたいからと断った。

 少しでもやり始めようと言ったのは槇の方だ。学年トップの旭とは違う。自分はコツコツ勉強しないと、きっと駄目なタイプだろう。
 そして始めた図書館通いだが、模試の結果の出る前だから闇雲に勉強しているようで手応えが得られない。
 そんな時の、息抜きのような話題の一つだ。
 彼女、愛川こふねという一年下の女の子を知っているかと聞いたことから始まった話だった。

「それにしてもカードって何だよって思ったけれどな」
 旭は趣味で手品をするから、そこから出た言葉だったんだろうが、まさか本当に書かされるとは思わなかった。
「またまた~ 槇も最初はノッたくせに。でもやっぱ自分で告白しようと思ったわけだ」
「違うよ。なぞなぞを出してきただけ。メアドと番号だけはどさくさ紛れにゲットしてきたけど」
 返信なかったら脈はないな、とぼやいた。
 その時、サイレントになっているスマホがメール受信の点滅をしていることに気が付いた。

 タイトルには【お昼寝】とある。彼女だ。
 慌ててメールを開く。

――今枝先輩が言ってくれなければ、きっと分かりませんでした。私ってなぞなぞとか全然分からないんです。

「どうしたんだ」
 突然立ち上がった槇は、旭の問いには答えず彼女の姿を捜していた。
 そして自習コーナーの一番端のテーブルに彼女の後ろ姿を見つけ足を向ける。
 たぶん旭は気付いたのだろう。
「受験生が恋しちゃいけないって法律はないからさ。上手くいくことを祈っててやるよ」
 小声で届く言葉に、歩きながら振り返り莫迦と唇で形だけ返した。

「愛川さん、少し外に出て話そう」
 図書館の自習コーナーでは、どんなにひそひそ話しても全部筒抜けになりそうだ。彼女の荷物を旭に預け、並んで外に出る。
 夏休みに入ったばかりとはいえ、すでに梅雨も明けているから夕方の時刻でもかなり蒸し暑く感じる。
 図書館の影になる処まで移動して、向かい合う。
「俺、志水槇です。知ってると思うけれど」
 そこで言葉を切った。小さく頷く姿は、すでに恋しちゃってる身には可愛いとしか思えない。
「俺、受験生だし、遊びに行くとかできないと思うけれど。時々でいいから図書館とかスタバとかでさ、会って話さないか」
 なる程。
 これが清水の舞台から飛び降りるってヤツなんだな。生まれて初めての告白は、たぶん女嫌いで通っていた自分としては、まさに飛び降りた感じなんだけど分かってもらえるかな。

 こふねは暫く何も言わずに、槇の顔を見ていた。
 それこそ穴の開くほど、という表現を思い浮かべてしまうほど、じっと見られている。
「どうして私のことを知っているんですか」
 彼女からの最初の言葉は、槇の問いに対してのものじゃなかった。

 槇は正直に教師から聞いたことを伝えた。
 母親の違う弟妹がいること。父を亡くし、今は継母の実家に一緒に住んでいること。そして高校を出たら家を出て働くと言ってること。
 先生が話していないことも沢山ある筈だ。でも、いつも一人でいるこふねに誰でもいいから友だちができたらいいと常々思っていたそうだ。だからこそ、槇に教えてくれたのだろう。何せ彼女の担任でもある。
 彼女が再び小さく頷いた。
「勝手なことしてごめんね。ストーカーみたいだよね。断ってくれていいから、返事だけ聞かせてくれる?」
 普段はぶっきら棒に話す槇だが、これ以上はないってくらい優しく言ってみた。

 えっ。
 えっえっ、どうして泣くの~

 狼狽える。
 思いっきり、狼狽えてます。人生始まって以来の狼狽です。
 とりあえずハンカチを出してみる。昨日取り替えておいてよかった、何て不謹慎なことも思いながら、かける言葉をみつけられずにいた。

 受け取ってくれたハンカチで顔を覆うと、暫くじっとしている。
 落ち着いただろうか。でも、もう怖くて声をかけられない。

「先輩。好きになったのは、私の方が先ですよ。だって入学したその日のうちに先輩のこと見つけたんですから」
 ハンカチは洗って返すと、彼女のポケットに仕舞われた。
「先輩は新入生の入場を仕切っていました。声がね、似てたんです」
「誰と」
 何となく答えは分かっていたが、尋ねた。
「父です」
 やっぱり。でも、お蔭でこふねの記憶に残ったならラッキーだったな。

「よろしくお願いします」
 突然、頭を下げられた。
「でも、なぞなぞは勘弁して下さい」
 そう言って笑った彼女に何となく意地悪してみたくなる。

『ある処では四季が秋→春→夏→冬の順でやってくるんだ。そこは何処だ』
 げっ、と今時の女の子らしい声を出す。そのまま早々に白旗をあげるだろう、こふねを想像し眺めた――。
【了】 著 作:紫 草 

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