昨日の続きです。
高張力鋼(特機や民生品に限らず)はインゴットにした後、鍛造や熱処理によって目的の材料強度に調整してから機械加工を経て製造物の部品となります。
鍛造や熱処理は、物の大きさ(厚さと言っても良い)が重要な要素となります。
『焼きを入れる』という言葉がありますが、普段は、他の人に対して怒る雷を落とす、より悪い意味ではリンチにするように使われています。
鉄鋼材料で古来ある言葉で、赤く焼けた鉄鋼部材を、水や油等に浸けて急激に冷却する工程を『焼き入れ』と言い、本来はそこから来ています。
この焼き入れを施すことにより鉄鋼材料は強度が増加するのですが、焼き入れたままでは脆く、それを『焼き戻し』という工程により、適切な強度と靭性に調整します。
このインゴットから鍛錬-熱処理-という一連の製造工程を経て、製品の部材となった時に適切な材料特性(強度や靭性等々)にするように製造されています。
私が論文のテーマにしていた海洋構造物は、物の大きさ(厚さ)が大きいので 焼き入れ時の冷却 や 焼き戻し時の加熱 がし難くいです。
しかし、潜水艦の外壁なら、比較的に薄いので、ある程度冷却-加熱速度を早くすることが出来ます。
溶接というのは溶かす事で部材をくっ付ける工程ですから、『焼き戻し』の後に更に熱を加えて『焼き戻し』のような事をすることになります。
この更に溶接工程は部材の熱履歴の不均一化や不明瞭化を招く工程でもあり、鋼材中に水素の侵入や余計な析出物にも繋がるになるので、非常に高い技術やノウハウが必要になります。
日本の新造潜水艦ならば、建造完成後に最適な材料特性を発揮するように鋼材を作る時点から熱や歪を管理して製造しています。
それに対して、インドネシアの沈没した潜水艦は、製造はドイツで、韓国で近代化の改装工事を受けたとのことです。
改装時の切断や再溶接の時に、船体鋼材(高張力鋼)の熱管理や材料特性の変化をどのくらい考えていたり把握出来ていたのか判らないです。
よく、こんなリスクの高い改装工事を、韓国の造船会社がこういう改装工事を受けたことは、鉄鋼材料を少しでもかじった者としては驚愕してしまいます。
訳のわからない材料を、テキトーに切って張ってくっ付けたようなものです。
海自の『あさしお』は三重神戸で竣工後、AIP推進の実験艦とするため、同じ三重神戸で船体を切断して延長する工事をしています。
あさしおは、自社製造の艦の改造なので、艦の製造履歴や部材の素性などは、基礎データ・資料も十分に有って、慎重に慎重を重ね十分に検討した上で工事を行っているはずです。
鉄鋼でできて溶接構造の船が実用化して以来、水上を航行する船舶では、船体をぶった切って前後の間に延長部を差し込む改装が行われることがあります。
先代の豪華客船クイーンエリザベスⅡは、船体切断をする延長を行い、横浜来迎寺に、延長部分がここかと観た記憶があります。
ただ、水上船舶と潜水艦では要求される材料特性は、より高品質であることを要求されますが、インドネシアの潜水艦では水上船舶と同じ感覚で工事をしてしまったように考えています。
改装の真実は明らかにならないと思うのですが、インドネシアの改装に対する疑念はもっともな事だと感じます。