梅が咲き始めて、枯れ色だった街も明るく見えるようになってきました。
あと、一息。
兼題:歩
玉の年動画到来初歩き 楊子
歩合制の不幸抱えて鏡割り 宙虫
〇(ちせい)「不幸」に少し心が動きました。
老舗の歩み変わらない寒仕込み 藤三彩
〇 (多実生) 老舗の酒蔵は寒仕込みの時期、職人の活躍が見えます。
一歩あり飛車切る聡太初景色 瞳人
◎(カンナ)よくできた句だと思います。
○(幹夫)絶景なり!一歩があれば事足れり。全て読み切った藤井聡太8冠だ。
◯(道人)歩のない将棋は負け将棋。飛車を捨てて持ち駒の歩で勝負の藤井八冠とはリアル感あり。気持ちの良い初景色に相応しい場面。
歩が金に成って終盤月冴ゆる 泉
アマチュアは五十歩百歩つくしんぼ カンナ
○(泉)その通りなのですが、五十歩の差が問題です。
宙に浮く朝日に歩く冬の霧 仙翁
散歩する春を数えて回り道 多実生
〇(楊子)いいですね。わたしも路傍に春を見つけながら散歩をしたくなりました。
試歩十歩五十歩百歩日脚伸ぶ 道人
○(宙虫)散歩するたびに春を感じることあります。特に温暖化だろうか。
七日はや歩幅正しく自衛官 幹夫
○(アネモネ)措辞の「歩幅正しく自衛官」がいかにもです。
歩きつつしやぶり三日のあんず飴 アネモネ
◯(吾郎)朱赤の色合いと透明感、そして多幸感溢れる甘さ
早梅の香に葬りへの歩を止める 餡子
◎(道人)梅と墓域はピッタリの組合せ。梅の香に葬儀の歩を止める風情は、喪主の女性であろうか。
◯ (アゼリア) 梅の香りがしてきます。
試歩十歩五十歩百歩日脚伸ぶ 道人
〇(楊子)試歩ということばですべてが表されています。そのあとにつづく言葉もリズミカルで前向きな句になっています。
〇(珠子)私も転倒骨折・車椅子・一か月入院の経験者。試歩はまさに「十歩・五十歩・百歩」でした。季語がぴったりです。
歩行器の髪整えて初電話 あき子
〇(カンナ)説明がない上手い句だと思います。
○(アネモネ)律儀な姿が見えてきます。
〇(めたもん)入院中の句なのでしょうか。顔が見えない電話なのに髪を整えるところに、普通の正月に対する微かな羨望も。
〇(まきえっと)電話にもかかわらず髪整えてが「初」を強調しています。
白杖に合わせる歩幅日脚伸ぶ 珠子
◯(道人)目の不自由な方に寄り添うボランティアだろうか。季語が効いている。
〇(仙翁)優しさがありますね。
初日射すまでひたすらに歩みけり 春生
◎(仙翁)何となく面白く感じました。
〇(ちせい)遠距離を歩き、遂に拝めた初日の出。
人日の風のうずめく歩道橋 まきえっと
◯(吾郎)だんだん利用することが億劫になった歩道橋、たまに上った発見
回廊を折れる禰宜の歩寒に入る めたもん
◎(楊子)そりゃ禰宜も回廊の角では折れるだろう。と、いうツッコミはさておき、速足で曲る禰宜の袴の音も聞こえてきそうです。冬に入るという季語が句を確かなものにしています。説明できない共感があります。
〇(珠子)「回廊を折れる」の当たり前が、「寒に入る」にピタリとはまった気がします。
○(餡子)粛々として凜とした感じが伝わります。
○(卯平)動画を見ているような臨場感。禰宜の姿が明確だ。下五「寒に入る」の季語の位置が禰宜の重厚な動きをクローズアップさせている。映像が明確。
○(藤三彩)禰宜さんの履くのは下駄じゃなくてぽっくりのようななんて言うんだろう
○(宙虫)回廊の床から寒が伝わる。吹きっさらしかも。
◎ (アゼリア) あの装束で寒中に回廊を歩くー考えただけで寒くなります。
湯ざめして歩む気が失せ夜空見る ちせい
二歩の手に告げん寒月にての譜に 吾郎
一歩ずつ前向く被災者冬木の芽 アゼリア
◎(幹夫)新年早々能登半島に震度7の地震が発生した。早期復旧、復興を願う中、「冬木の芽」に春の希望を感じる。
○(泉)大変ですが、少しずつ復興するしかありません。
○(藤三彩)能登半島地震の被災者は雪の中大変。前向きに癒される
〇 (多実生) 元日の地震に能登半島一変、被災者は今を堪える冬木の芽です。
テーマ:干す
寒風に干さるる魚の面構え まきえっと
○(瞳人)うまそうだなあと、思えてしまうのですが
○(幹夫)寒風に荒びながら干される魚のいかつい面構えが見えてきそうだ。
〇(仙翁)どんな面構えか、想像します。
干す知恵は冬を楽しむ保存食 多実生
○(泉)なるほど、「冬を楽しむ」という発想が良いと思います。
亀鳴くや甲羅干す砂浜がない カンナ
庫裏裏の洗濯物と吊り干し菜 アゼリア
○(アネモネ)「庫裏裏」の場所設定がなかなかです。
〇(ちせい)比較して句心が。面白い比較だと思いました。
山颪干大根の枯野色 珠子
手ぬぐひの月に凍てつくスキー宿 アネモネ
○(餡子)確かに。その硬さにびっくりしたものです。振り回したりして巫山戯ました。懐かしい一齣。
◎(吾郎)森閑としたくっきりとした明るさ
◯ (アゼリア) 手ぬぐひ、スキー宿ー懐かしいですね。凍てつくような寒さを思い出しました。
〇(まきえっと)新潟県の浦佐での合宿を思い出しました。雑魚寝だったな。布団がやけに重い時代でした。
「宇宙へは行かぬ」切干戻しつつ 楊子
〇(カンナ)取り合わせが面白いと思います。
◯(道人)難解句だが、宇宙と切干の取合せが魅力。
◎(宙虫)幼い頃に見た漫画や映画で「宇宙に行きたい」と思っていたに違いない。その前に自分の人生が終わりそう。裏腹な気持ちが切干に乗っかる。
からびたはずの地震の手触りみぞれ来る 宙虫
春迎ふ干して一合掛け蕎麦で 瞳人
○(藤三彩)NHKのサラメシにあの人が愛した昼めしの店がある。かけ蕎麦より海老天ぷらや鴨南蛮がいいな。
常盤木に干されて雪の乱反射 めたもん
〇(仙翁)確かに、雪が干されているようにも見えますね。
逗子産干し鱈身体資本指図 吾郎
(選外)(藤三彩)三浦半島の海で鱈が獲れるのか想像してしまうが体が資本というのは現役時代の思いとして伝わる回文。
大根おろす肴にひと品しらす干し 藤三彩
〇 (多実生) しらす干し入り大根下し我が家も定番です。
冬晴に干された社員の奮起かな 泉
干されたる物の影見ゆ室の花 ちせい
◯(吾郎)静かな暖かさ、緩やかな時間経過
〇(めたもん)「干されたる物の影」が何なのか。「室の花」の影を媒介としたなにかに想像を搔き立てられます。
〇(あき子)冬の静けさを室の花が引き立てているように思いました。
◯ (アゼリア) よくあることですが、意外に気付かずにいます。
白首の大根を干す北の窓 仙翁
物干しを残して棄農雪しまく 餡子
〇(珠子)物干しが心に刺さります。私の実家もとうとう棄農。日本の農業はこれからどうなるのでしょう。
◎(あき子)物干しだけが、かつてここに家族の暮しがあったことをを物語ってくれる。
夜の海はコバルトブルー寒天干す 幹夫
〇(ちせい)海にロマンを感じ。リアルな海は別腹なのかもしれません。
留鳥も旅立つ鳥も冬干潟 道人
〇(あき子)冬干潟の、それぞれのドラマを思います。
俎板を干すや六日の石の上 春生
〇(珠子)暮れ・正月と乾くことのなかったまな板を、日当たりいい石の上に干す六日。「六日」のチョイスが微妙で、逆に「やっと」感が出ている気がします。
○(アネモネ)「石の上」の石の姿が見えてきたら更にいい句になると思いました。
◎(餡子)お正月の間、いろいろなお料理に活躍した包丁と俎板。しかし、能登半島の方達は、俎板も使えない状態でしょう。胸が痛みます。
○(幹夫)愈々仕事も始まる意気込みの「六日」が詠まれる。
◎(卯平)六日の季語をどう観賞するか。一般的に七日までを松の内だとすると、最終日の七日前日がこの六日。この季語への感覚をどう受け取るかでこの句への迫り方は異なるであろう。七日でもなく、四日でもない六日。非常に微細な感覚がこの季語にある。「俎板」とこの「六日」の間に流るる詩情。そこには松の内から平常に帰る時間的流れと同時に「ハレ」から「ケ」への帰納がある。「俎板」と言う「モノ」がその展開を示している。更に「石の上」と言う措辞。この措辞で詠み手の心象が更に景として具体化されている。「干す」と言う行為に詠み手の新しい年に向かって行く決意も読み取れる。中七「や」も効果的。特選は動かない。
○(宙虫)六日の石の上が説得力ある。冬日の暖かさと一区切りする正月への安堵感。
◎(まきえっと)新年の行事が終わってひと段落した様子が伝わってきます。「六日」がいいですね。
悴める月下の魚の一夜干し あき子
○(卯平)「月下」の位置をどう捉えるか。「魚の一夜干し」の景と「月下」の景とのシンクロは納得する。しかし「悴める」と「月下」には近似感覚。このようにこの句を分析してみたが中七下五の景のリアルさは明確で動かない。上五の「悴める」で一気に読み下すまでには至らないが、全体としての詩情は揺るがない。
○(藤三彩)酒の肴に焼いてみたい
雑詠
マフラーを若く結んで喪の帰り めたもん
○(餡子)マフラーの巻き方には、いろいろとあるようですね。私なぞは、おばちゃん巻きかできませんが、この方はお洒落に素敵に結んで、矢張りお洒落な故人を偲ばれたのでしょう。
◯(吾郎)若く結んで──が明るい
〇(あき子)「若く」と気持ちを切り替えて、明日に向かっていくのでしょう。
◯ (アゼリア) 若く結ぶってどういう結び方か興味があります。
〇(まきえっと)まだまだ元気で頑張ろうという思いでしょうか?
ミケの耳ぴくりメールの賀状くる 楊子
○(卯平)面白い句。「ミケ」がこの句の眼目だ。詠み手の若々しい感覚が伝わる。映像的にも共感出来る。
〇(めたもん)「ミケの耳ぴくり」がメールの受信に反応したのでしょうか。賀状に相応しいうきうきとしたリアリティーがあります。
○(宙虫)現代的な句。多分、これからこういう句が溢れるんだろうと思う。
寒の雨いい人連れてもっと降れ あき子
◎(瞳人)務めを抜け出して、フェスティバルホールへ生を見に行ったのは、もう45年も前のことになります…
○(餡子)八代亜紀さんの「雨の慕情」の一節を巧みにいれて追悼句。私も好きな歌手でした。あのハスキーな声がいいですね。合掌。
◎(藤三彩)八代亜紀『雨の慕情』を聴いている。いい人連れてこい。合掌
冬ざれや日本の低い投票率 泉
〇 (多実生) 日本の投票率の低さは定着、国が平和の裏返しかも知れません。
左義長や闇安らかに横たはり 春生
○(卯平)左義長の炎の影としての闇。左義長の勢いが「動」であれば、その炎の影の闇は「静」。その対比が明確。視点の発見。現場での体感がなければこの句へは辿り着かない。「句の現場」の強さ。机上ではこの句には至らない。
◎(ちせい)闇が擬人化されているようにも、闇のおかげで人間が安らっているようにも感じられ佳句だと思いました。
殺生の世を美しく冬牡丹 道人
〇(めたもん)上五、中七の措辞が冬牡丹に掛かるようで、切れているようで。どちらとも読めるようになっているところが上手い。
雪兎盆に残れる目が二つ 幹夫
〇(あき子)楽しさと単純な残酷さが、表現されています。
大寒か病も今や緩解だ 吾郎
◎(珠子)「大寒か」とつぶやく言葉に複雑な思いが込められています。「大寒や」では表せない来し方を思う気持ち。
○(泉)見事な回文俳句だと思います。
◯(道人)大寒に緩解とは語呂も良くリズムもいい。とにもかくめでたい回文句。
〇(めたもん)回文でここまで詠むことができるのかと驚きます。言葉(語彙)というものの不思議さを感じる一句。
〇(仙翁)大寒に、緩解ですか。良かったですね。
〇(まきえっと)立春になれば病も癒えるでしょう。
脱脂粉乳あかぎれ痛い記憶 藤三彩
○(瞳人)ブギウギのころは、子どもでしたね
鳥打ちを斜めにギャバン老の春 瞳人
〇(楊子)いいではないですか。おしゃれをいたしましょう。
○(幹夫)粋な御仁だ。
◯(道人)こういう粋な老を目指したいものだ。
天災に人災凍り割れる道 仙翁
◯(吾郎)被災映像に唖然──羽田は人災だ
〇(あき子)何度も天災を経験してるのに、人災が起こるこの国の不条理。
冬うらら引っ越しの荷に棹二本 餡子
〇(楊子)さて、目の付け所がいいですね。説明は要らない句です。
〇(カンナ)俳句らしい俳句だと思います。
○(アネモネ)物干しざおでしょうか。きちんと景をとらえていると思いました。
○(宙虫)核家族化やおひとり様が増えて棹二本も珍しいのかも。お日様も一緒に引っ越すような感覚がある。
〇(ちせい)リアルな視点、写生があると思いました。
寒に入る大鍋しまう棚の奥 まきえっと
○(瞳人)小鍋立てというのがありまして、それはこれから…
○(餡子)お客様の多かったお正月。重箱なども、もとの戸棚にしまって、ホッとした感じが分かります。
◎ (多実生) 私の育った頃の生家は当時自給自足で、味噌も醤油も母が作っていました。寒の今頃庭の隅の急造の竈で、大きな釜で大量の大豆を時間をかけて煮ていました。その他材料は麦と塩と麹でした。あの大釜は他に使える代物ではなく母が何処から持って来て何処で保管していたかも判りません。ただ、味噌小屋と証する湿っぽい部屋には二年物三年物の味噌、醤油の大樽が並んでいた記憶は今でも鮮明です。
墓を守る長兄の威儀雪月夜 珠子
○(泉)長兄が家の墓を守る。この様な習慣も減っていくでしょう。
○(藤三彩)今の世相は「墓仕舞い」と言われる。少子化、長男がいない。
◯ (アゼリア) 墓を守る人を、墓守と言っています。どうでも良いようで、大切なことと思います。墓を守り,先祖に守られていると考えています。
放屁して風寒々と浅草寺 アネモネ
〇(楊子)行きつけの浅草寺の雰囲気がよく表れています。日常なのですね。
〇(カンナ)上五が中々。
〇 (多実生) 落語にありました。賽銭泥棒が仁王様に踏みつけられて放屁し、仁王(匂う)か? の下げ。
冬野菜箸とレンゲでとりまくり ちせい
蜂の巣をつついたようなお正月 カンナ
○(瞳人)阪神を骨身に知るこちらとしては、能登が気の毒で…
〇(珠子)それをひとは「幸せ」と呼ぶのでしょう。大変お疲れさまでした。
落暉して急に寒気が攻めて来る 多実生
〇(仙翁)日が落ちると、寒くなりますね。
老人会の偉丈夫五人薬喰い アゼリア
○(瞳人)どこへ行っても、変わらないものですね、人というものは
〇(カンナ)季語が利いていると思います。
◎(アネモネ)なかなかの老人力。そのエネルギー源は「薬喰い」でしたか!
◎(泉)老いてますます盛ん。結構なことです。
臘梅の空はやさしい海と会う 宙虫
○(幹夫)一幅の絵のような景だ。
○(卯平)一読して景が明確。詠み手の力が抜けた衒いのない句。蝋梅の景が「やさしい」を導いている。
◎(めたもん)蝋梅の匂いが空を越えて海まで届く。繊細な優しさがスケール大きく詠まれています。
〇(まきえっと)先日、蝋梅の咲いているのに出会い、思わず鼻を近づけてしまいました。
☆☆次回をお楽しみ。
暖冬だと思っていたら、今朝の広島は平野部でも雪が積もりました。それでも晴天なのだから、つくづく恵まれている、と思います。春の雪と言っても良いのかも知れません。