読書感想日記

最近読んだ本の感想

「雷電本紀」 飯嶋 和一 著

2009-10-25 01:10:17 | 歴史物
 強すぎる者は、いつの時代でも、とかく妬まれてしまう。
 特に、国技であるこの競技が、見せ物的要素の強かった当時では、なおのこと。
 だが、この強者は、神聖な場所での戦いだからこそ、決して手を抜いたり、勝敗を申し合わせたりすることなく、全力で戦っているだけなのだ。
 一方で、慢心に陥ることもなく、普段は全く飾らず、決して驕ることのない彼。
 天災が続いたためだけでなく、藩の愚かな政治のせいで、疲れ切ってかろうじて日々を生き延びている民衆に接する彼の姿は、本当に頼もしく、思わず涙がこぼれてしまいそうになりました。
 貧しい人々が彼に寄せる期待、いや、彼を神のように崇める重圧をものともせず、彼は、自分を必要としている人々の思いをしっかりと受け止めて孤軍奮闘し、やがて、その世界の一時代を築いていきます。
 ところが、彼は、そして彼を慕う人々が、次第に当時の権謀術数にまみれた政治の渦に巻き込まれてしまう…
 この話しは、私には、今の日本と似ているように思えてなりません。
 優秀な選手だと思うと、一斉に皆が注目するため、選手に期待というよりもプレッシャーをかけてしまう一方で、ひがみや妬みを抱き、つぶしてしまおうとする者たちも現れる。
 とあるスポーツに関する報道は、我が国の優秀な選手を応援するように見せかけて、実は欠点ばかりをあげつらう一方、某国の選手のことは、どこまでも賞賛を惜しまないように思えてならない…
 果たして、現在、表情で勝敗を決めるスポーツなんて、あるのだろうか…
 足下の技術で評価されるスポーツなのに、常に高得点を得ている特定の選手に限って、演技の放映は、ほとんど上半身や表情を中心にされている…足下のスロー再生映像なんか、見た覚えがない。これは、なぜなのか?
 今日の某テレビ局の放映では、メンタルがとても大切なスポーツであるにもかかわらず、失意の底にいる選手に対してインタビューを遠慮するどころか、全く何の配慮もしないのか、あるいは故意なのか、応援の言葉をかけるように見せかけて、選手が一番触れられたくない部分について、何度も無神経な質問を浴びせかけては答えを求め、選手を涙ぐませてしまう始末…
 そんな報道がまかり通る国では、選手は息がつまってしまい、いや、優秀な人材はみな、そのうちに他の国へ行ってしまうのではないだろうか…
 協会をはじめとした関係者の人々よ、日本の宝であるまだ若い選手を、ぜひ守ってあげて下さい。
 話しは変わりますが、前の与党に対しては、ワイドショーでさえもが重箱の隅をつつくように、必要以上に批判ばかりしていたのに対して、今の与党の不利な事柄については、ニュースでさえもが、ほとんど触れない…例えば新型インフルエンザ対策が、考えられないほど後手にまわっている状態に陥っているのに、ましてや追加の対策費が廃止されるかもしれないのに、ただ淡々と、幼い子どもの命が失われたニュースを伝えるだけなんて…
 我が国のマスコミの報道は、最近ひどく偏っていませんか…
 日本の国民よ、もっと賢くなりましょう。
 日本国民は、素直すぎです。何でもかんでも信用しすぎです。そして勉強不足です。
 自分から本当に正しい情報を知る努力をしなければ、それほど遠くない日に、日本という国がなくなってしまう、それは言い過ぎとしても、自分の意見を自由に表現できない国になってしまうように思えてなりません。
 こんな時代にこそ、雷電のような人が現れてほしい、と願わずにいられません。
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「こちらの事情」 森 浩美 著 双葉社

2009-10-20 00:36:57 | 小説
 家族をテーマにした暖かく素敵な短編が、いくつもちりばめられています。
 電車で読んでいることも忘れて、涙腺を緩めてしまいそうになることも…
 特に、人の手はふたつしかないのだから、多くのことを抱えることはできない…という話しには、もう、アイドルグループが、以前歌っていた歌の歌詞ではありませんが、私の心の柔らかい場所をグッと締め付けられました。
 どのお話しも、ごく自然に、あなたは家族を大切にしていますか、と問いかけてきます。
 私は、これまでの自分が恥ずかしくなり、何度も視線を外してしまいましたが、それでもこの本は、私の心を優しく包みこんでくれ、この本に出会えてよかった、という思いで読み終えました。
 勉強不足でお恥ずかしいのですが、著者は、この本より以前に「家族の言い訳」という本を出版されていることを後で知り、順番は逆になってしまいますが、是非、その本もできるだけ早い機会に、読ませていただきたい、と思っています。
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「職ニ斃レシト雖モ」 片山 利子 著 展転社

2009-10-10 01:26:32 | 歴史物
 緒に就いたばかりの国産兵器の性能向上という、重大な任務。
 そのために集められたのは、自分の任務に誇りを持ち、人格、能力ともに優秀なスタッフ。
 そこは、十分な訓練もできないほど、常に修理を要する稚拙な設備に囲まれ、精一杯頑張っても正当な評価を受けないような、誰もが敬遠する劣悪な勤務環境だった。
 それでも、そんなことなど全く意に介さず、どんな状況下に陥っても、ただ黙々と自分の任務に取り組み、限界に挑戦する彼らの姿に対して、私という者の器は、何と小さいのだろう…と恥ずかしくてたまりません。
 更に、彼らをまとめる佐久間大尉からは、常に責任を負う幹部というものの姿を見せていただきました。
 そして私自身も、彼らとともに、次第に息もできないほどに胸が苦しくなっていく錯覚に陥り、そんな中で、果たして私は、最期まで自分の責任を果たすことができるだろうか…自分を支えてくれる人々に対して、一体私は何ができるだろうか…そして、家族への愛は本物だろうか…と朦朧としている自分自身に問いかけましたが、答えは返ってきませんでした…
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「地獄番 鬼蜘蛛日記」 斎樹 真琴 著 講談社

2009-10-04 23:16:01 | 小説
 はじめのページをめくった瞬間、私の目の前には、異様な世界が広がっていた。
人間の意思の中で最も強く、深いもの、それは怨念でしょう。
 その怨念に満ちあふれ、そこにいる者すべてが怨念に囚われた世界…
 自ら、そこで生きることを望んだ主人公だったが、そこを彷徨ううちに、怨念に囚われている者の、本当の心を感じられるようになり、そして…
 私は、登場する者たちこそ、人間本来の姿なのではないか、と感じました。
 努力もしないで、神も仏もないものか…と嘆いてばかりの私は、間違いなくこの世界に行くことになるのでしょう。
 でも、本当に、どう考えてみても、理不尽なことってありませんか…

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