●ヒアリングで会議室は取調室?
旅費問題等調査委員会は、4月末の発足以来、5月に職員全員を対象とした自己点検方式やその内容確認の方法などを矢継ぎ早に決めていった。6月早々に職員へ順次配布された自己点検表は、6月末を一旦の提出期限としたが、大所帯の出先機関で日常的な管内旅行などにより旅費支給が年間1万件を超える職場はさすがに1か月では点検を終えられず、7月上旬までの猶予を設けるも、結果して我々調査班へ全ての自己点検表の提出が終えたのは7月下旬だったと記憶している。
通常の業務においては、庁内関係部署に対する提出期限が厳守されるほど取りまとめの作業効率が良く、督促の電話さえするのが一般的だが、今回の自己点検表の提出を受け付ける作業は、膨大書類の集積であり、できるだけ少しずつ緩やかに提出されてくることを願っていた。記入すべきが漏れていないか、集計表への転機や計算が誤っていないかなど形式的な点検を行うだけでも結構な時間が費やされる。マンガにでも出てきそうな数十センチにも及ぶ書類の山を左から右へ、そうこうしているとまた左の山が増えて…"賽の河原"状態が続くのであった。
そんな山崩し作業を日々こなしながら、今年は夏休みは取れないのかなあ…などと思っていた8月の初旬、旅費問題等調査委員会の取り決めに基づき「所属長に対するヒアリング」という調査前半の"ハイライト"が訪れた。職員が記載提出した自己点検表を調査班が目を通す中で、疑義が生じた点、とりわけ職員自身に出張の申請や実施の記憶がない事案で、職場としての財源捻出のため旅費が流用された疑いがあるものなどを、職場を管理する所属長へ直接問い質そうというものである。
前回調査においても、各所属からの取りまとめ報告内容を調査員が個別にヒアリングしたというが、結局は甘い詰めに終わり、全容をあぶり出せなかったという痛切な反省がある。今回、全てを明らかにできなければもう次は無い。いつぞや聞いた「刑事事件」というワードが頭によぎる。聴き取りに備える我々調査班のスタッフに追い詰められたような空気が漂う中でヒアリングは始まった。
我々は調査班という独立部隊とはいえ内部調査で信用を落とした県職員の一員。県職員どおしだけでヒアリングするということでは対外的にも"もたない"。所属長ヒアリングは旅費問題等調査委員会の外部委員の立ち会いの下で行われることとなった。8月初旬から9月初旬の一月にわたり、我が執務室たる会議室はさながら「取調室」と化した。要するに「自己点検による報告内容はこれだけだが、隠しているものがあるのではないか、全部吐き出せ」といった様相だ。
300近い所属の管理職から短期間でヒアリングすることから、調査班は総動員で手分けすることとなり、私のような末席主事も所長や次長という職制の高い方々に詰問しなければならない。広い県土に分散する出先機関から集う所属長の中には、旅費不適正支出問題の深刻さを理解し切れていない者もおり、「昔からどこでもやっていたことになんで大騒ぎして攻められるのか」などと、けしからぬ"クドき"も聞かれた。
さらに私のような若造から問い質されるのが面白くないのか、はぐらかしにも似た要領を得ない応答を繰り返したりする所属長もいたが、外部委員の立ち会いは効果てきめんで、ヒアリング会場の雰囲気を引き締め、末席の私を含む我々調査員スタッフの仕事に権威さえ与えてくれるかの様で、ヒアリングは総じて厳かな中で粛々と行い終えることができた。
外部委員は更に積極さを増す。特に職業柄、書面情報の精査から物事の真偽や課題等を見出すことに長けた委員から、調査班による説明や所属長への詰問型ヒアリングへの立ち会い等を通じて、自己点検内容の確認作業に心証を持ちつつも、委員自らも自己点検表を直接精査するべきとの発案があった。
隠し立てすべきなど何も無いという姿勢の県として、委員の意向に全て応じることとなった。さすがに3万人に及ぶ職員全員分は見切れないという中で、組織的な旅費の流用という視点から係長以上の役職者に絞って精査しようということになり、それでも約3500人分に及ぶ膨大な自己点検表を委員毎に担当部局を決めて、旅費支給一件一件の職員による自己点検の記載内容に目を通していただいた。
調査委員会委員による係長以上の役職者の自己点検に係る精査は、やはりやり始めると時間を要し、9月下旬から10月中旬に及んだ。結果は「全体的に自己点検は正確に行われている」と総括された。会計の専門家による精査は我々の予見し得ないような指摘をもたらすのでは…と懸念にも似た気持ちもあったので、結果に安堵できたことはもとより、第三者による直接の精査作業を経たことで調査全体の信頼性の担保を補強できたということを嬉く感じたことが思い出される。
(「人事課行革班6「ヒアリングで会議室は取調室?」編」終わり。「人事課行革班7「宿泊実績調査、増大する業務と動員の果てに」編」に続きます。)
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