嵐ファン・大人のひとりごと

嵐大好き人間の独りごと&嵐の楽曲から妄想したショートストーリー

妄想ドラマ『スパイラル』 (16)

2011年01月19日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (16)



クランクインの朝、6時に西野が渉を迎えに来た。

最初の撮影は大学のキャンパスでの撮影だ。

車の中で携帯を見ると、美菜からいよいよだねという内容の

メールが来ていた。

早朝のせいか短いメールだったけれど、それでも気持ちは十分に伝わってくる。

渉も楽しんでくるねというメールを返した。

お互いのスケジュールを考えると当分会えそうにないが、

時おり交わすメールと電話の声が渉に力を与えてくれる。



好天に恵まれた朝の空気は、まだひんやりとしていて渉は気を引き締めた。

事前に行った監督とのディスカッションのおかげで、初日の撮影はスムーズだった。

沙織は主演女優だというのに、お昼にはスタッフと一緒にお茶を入れて、

みんなと談笑しながら同じ弁当を食べていた。

気さくで人懐っこい性格は変わっていない様に見える。

渉は沙織の屈託のない笑顔を少し離れて見ていた。

自分に対しても何事もなかったように、以前と変わらない態度だ。

日が経つにつれ、渉の中に残っていた沙織への疑いは薄れていった。

撮影も終盤に入り、沙織が脱ぐことを承知したという、ベッドシーンの撮影日がやってきた。

服を脱ぐまでのシーンはすでに別の日に撮影されていた。

下着の跡が背中に残っているのは嫌だという沙織の希望だった。

さすがにバスローブ姿の沙織に笑顔はなく、緊張の面持ちで監督の指示を聞く。

「綺麗に撮るから心配しなくていいよ」

沙織の硬い表情を見て監督が言った。

バスローブを脱いで渉がベッドに横たわると、沙織がするりと隣に入った。



撮影はワンカットが短く、監督から細かい指示が出された。

しかし、すぐに撮影は中断された。

「ちょっと休憩して続きを撮りましょう」

沙織がセットから姿を消すと、監督が渉を呼び止めた。

「高野君さ、沙織ちゃんとは昔からの友達なんでしょ?」

「昔といっても2年ほど前に舞台で共演してからですけど」

「沙織ちゃん、表情硬いんだよね。ちょっと話して緊張をほぐせないかな?」

「僕がですか?」

「監督の俺が今なんか言うとさ、余計にプレッシャーになるだろう。彼女だって

 脱ぐのは一大決心だったんだろうし、なるべくワンテイクでいい画を撮りたいんだよ」

「わかりました。様子みてきます。僕に何ができるかわからないけど」

渉はスタッフに用意してもらったミルクティを持って、沙織の所へ行った。


「ほら、ミルクティ。今でも好きなんだろ?」

「覚えていてくれたんだ」

「俺も最初は緊張したけど、監督の言うとおりやればいいんだよ。スタッフはかぼちゃだと思って」

沙織は笑ってカップを受け取ると一口飲み、渉から視線を外して言った。

「何言ってんだか。私ね、主役をやらせてもらえるなら、脱ぐのも平気って思ってた。

 原作に添った映画を撮るなら必要なシーンだし、尊敬してる監督だしね。

 でも本当は渉くんと映像に残る仕事をしたかっただけ」

渉は何も言えずに黙って立っていた。

「土壇場になって躊躇するなんて女優としてはだめね。自分でも情けない」

「俺は・・・」

「わかってる。言わないで。困らせるつもりはないの。この映画が終わったら

 きっぱりあきらめるって決めてるの。だからせめて今日だけは好きでいさせて」

いつも明るくてにぎやかな沙織の切羽詰まった言葉に、渉は黙って頷いた。

ほかにどうすることもできなかった。


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妄想ドラマ『スパイラル』 (15)

2011年01月15日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ『スパイラル』 (15)



「私は何も気にしてないから頑張って」

「ありがとう。さすがの余裕ね」

穏やかな口調だがトゲがある。

「渉さんも私も主演なんて初めてだし、飛躍するチャンスだと思うの」

「そうね」

「それからベッドシーンもあるけどごめんね。美菜ちゃんと違って、

 私は脱ぐのはいやだとか言ってられないから」

「別に。仕事だから」

「よかった。友達の彼氏とラブシーンはさすがにやりにくいなって思ってた」

美菜は電話を切りたかったが、渉のことを考えて我慢した。

「美菜ちゃんは友達なんて思ってないか。本当は気がついているんでしょ?」

「何のこと?」

「いいわよ渉くんに言っても」


美菜は沙織の言っていることが、何のことなのかわかっていた。

救急車で運ばれたあの日、沙織が美菜の楽屋に何度も来ていた。

忙しくしていた川崎に代わってコーヒーを入れてくれ、

冷蔵庫に用意してあった美菜用のサンドイッチやクッキーを

テーブルにならべてくれたのも沙織だった。

当日はショックで混乱していたが、後から落ち着いて考えてみると

沙織への疑いは強まるばかりだった。

証拠はない。

それなのに沙織は今頃になって、告白と取れるようなことを言っている。


「きっと渉くんはあなたが言うことを信じてくれるわね。ただ彼のことだから

 苦しむことになるでしょうけど」

すべてを知れば、渉は沙織との共演を拒否するだろう。

でもクランクインは明日だ。

今更、映画をキャンセルすれば渉の今後の仕事どころか、

小さな事務所の存続すら危うくなるかもしれない。

それでなくても週刊誌の件があるから、事を荒立てれば沙織だけではなく

渉も役を降ろされる可能性も高い。

美菜は沙織の意図が読めなくて困惑した。

「どうして今になって、そんなこと話したの」

「どうかしてるわよね私。でも心配しないで。私は渉くんを苦しめたいわけじゃない。
 
 彼には幸せでいてもらいたいのよ。でもあなたじゃ彼を幸せにできない。

 あなたじゃ嫌なの。綺麗で頭もよくて仕事にもめぐまれて、なんでも持ってるのに

 あの人まで」

「表から見えるだけがすべてじゃない」

「あなたなりの苦労があったって言いたいのよね」

「私を陥れてもあなたは幸せにはなれない」

「わかってる。どうするかはあなたに任せる」

突然電話は切れた。


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妄想ドラマ『スパイラル』 (14)

2011年01月10日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ『スパイラル』 (14)



夜になって美菜から渉に電話がかかってきたが、

美菜はまだ何も知らなかった。

そして渉の主演が決まったことを聞き、純粋に喜んでくれた。

「俺は、美菜と他の誰かでやるんだと思ってた」

「そう?私は渉さんは外せないと思ってたよ。だってラブストーリーだもん。

 見に来るのは大半が女性でしょう。渉さんを見たいはず」

少し迷ったが、渉は率直に聞いてみた。

「ヒロインは沙織だよ。嫌じゃない?」

「そうね、舞台も映画も沙織さんに持っていかれちゃったって世間は思うかもしれない。

 でも私は来期の連ドラ決まってるし、まだ秘密なんだけど別の映画のオファーも来てるの。

 だから心配しないで。凹んでいる暇はないから」

「ならいいんだ。変なこと言ってごめん」

「でもほんとはちょっとだけ妬ける」

「ほんとに?」

「嘘よ。共演者に嫉妬してたら仕事できないでしょ。お互いね」

美菜はそう言って笑った。

本当は沙織のことが嫌いだと言えるものなら言いたい。

しかし今そんなことを言えば、共演しなくてはいけない渉を重い気持ちにさせるだけだ。

美菜は沙織を頭から追い払った。

渉にはベストな状態で撮影に臨んでもらいたい。

渉も沙織を疑ったことや、自分への気持ちを告白されたことは黙っていた。

今は沙織と映画をやるしかないのだから。


最終的に発表されたキャストは、主演の二人以外に舞台のメンバーは一人もいなかった。

脇役クラスの中堅の役者なかで、過去にやった特定の役のイメージがついてない者と、

最近注目され始めた若手とが選ばれた。

そして、新しい台本が渉に渡された。

以前にもらったものより原作のイメージに近く書き直されている。

主人公の二人が大学生から30歳までを演じるのは同じだったが、

大きな違いは最初の台本には無かったベッドシーンがある。

どんな撮り方をするのかは監督次第だ。

クランクインまで時間はなかったが、それでも翌日から渉は体を作り始めた。

ミュージカルのためにダンスで鍛えた体は、そのままでいいと監督に言われたが、

映像となって残ると思うと、自分がベストだと思える状態にしないと気が済まなかった。

そして、沙織との個人的な感情のいきさつは、クランクアップを迎えるまで忘れることにした。

すべては映画の撮影が終わってからはっきりさせようと思う。

渉の知っている2年前の沙織はもういないことを、渉はまだ知らずにいた。



「久しぶり。ごめんね、今度も私が美菜ちゃんの役取っちゃったみたいになって」

沙織から美菜に電話がかかってきたのは、クランクインの前日だった。

 
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妄想ドラマ『スパイラル』 (13)

2011年01月05日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (13)




週刊誌には、渉のマンションから出てきた二人の写真が掲載されていた。

コートの襟を立て、目深に帽子をかぶった美菜は、深夜ということもあって

彼女をよく知る人にしか、本人だと認識できないようなものだった。

舞台をきっかけに二人が付き合いだした、という事実が書かれていた。

他には渉と美菜のこれまでの経歴や舞台の内容、美菜が体調不良で途中降板したこと、

そして美菜の代役となった沙織も素晴らしかったことなどに触れている。

渉は事務所に行く車の中で、西野が買ってきてくれた週刊誌に目を通した。

「特に嘘は書かれてないみたいだけど?」

西野が言った。

「そうだね」

「悪意をもって書かれたものじゃなくてよかったよ。人気が出ると

 どこかで足を引っ張りたがるやつが出てくるものだからね」

「気を付けていたつもりだったのに。でも美菜が傷つくようなことは書かれてなくてホッとした」

「小田中プロの対応だけど、交際を認めるんじゃないかな。二人とも大人なんだしね」


事務所に着くと、社長の笹川が待っていた。

その表情は予想に反して険しい。

「映画の製作発表が延期になった。キャスティングも白紙だ」

「どうしてですか?別に何も悪いことしたわけでもないのに」

西野が驚いて笹川に詰め寄った。

「そうだけどラブストーリーだからね。本当の恋人同士がラブシーンをやったんじゃ

 観客もしらけるだろうってことだ」

「じゃ、小田中プロは交際を否定しないってことなんですね」

「ああ、事実を否定したって二人が別れる気がないのなら、

 嘘をついても仕方ないって小田中さんが」

西野が渉を見た。

渉の言葉を待っている。

「別れるつもりはありません。僕たちは真剣ですから。社長には申し訳ないけど

 仕事は次のチャンスを待ちます」

「まぁ話題作の主演だったから正直言って残念だけど、他にもいろいろオファーは来ている。心配するな」

「すみません」

「美菜ちゃんは、自分が降りるって小田中さんに言ったらしいよ」

「えっ」

「もちろん、今回の映画は億単位のプロジェクトだから、さすがに美菜ちゃんの気持ちでキャスティングを

 決めたりはできないけどね。ただそこまで彼女が言った気持ちは汲んでやれよ」

渉は複雑だった。

美菜の自分を思う気持ちが嬉しい反面、そんなことを言わせてしまったことが情けなかった。

そしてやりきれない苛立ちが心を重くした。


その日のうちに、小田中プロとオフィスMKからマスコミ向けに、

渉と美菜はいいお付き合いをさせていただいています。

温かく見守ってくださいという内容のメールが送られた。

そして、しばらくはいろいろ聞かれるだろうが、笑顔で応えるだけで何も言うなと笹川は言った。

たぶん、小田中に指示されたのだろう。


ワイドショーなどでは、憶測であれこれ言われるかもしれないが、それも少しの間のことだと思う。

公表したことで二人の気持ちが楽になれそうなのも嬉しかった。

渉はすべてはこれでよかったのだという気がする。

そして観客の反応を直に感じられる舞台へ、また戻れるのではないかとも考えていた。

ところが三日後、西野から思いがけない連絡がきた。


「映画のキャスティングが決まったよ。やっぱり渉が主演だって」

西野は興奮した声だ。

「聞いてる?来週には正式に発表になるよ。撮影のスケジュールを遅らせるわけにはいかないらしい」

「でも」

「ヒロインは新田沙織ちゃんだって」

「沙織?どうして・・・」


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妄想ドラマ『スパイラル』 (12)

2010年12月28日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (12)



映画の主演が決まり、年が明けると渉のもとへも台本が届けられた。

制作発表やポスター撮り、撮影の日程などが決まっていく。

渉は複雑な気持ちでいた。

美菜と恋愛映画を撮るのだ。

本当の恋愛関係にある美菜と恋人の役を演じる。

それがいったいどんなことなのか想像がつかない。

うっかり素の自分の表情が出てしまうことはないだろうか。

美菜はプライベートと演技は別だと割り切っている。

女優という看板を掲げたときの美菜は強い。

そしてその強さも自分だけに見せてくれる弱さもどちらも愛おしかった。

渉はもうひとつ気がかりなことがあった。

舞台の時、どうして美菜がソバの成分が含まれた何かを口にしてしまったのか、

結局分からないままだということだ。

その話に触れると美菜が不安がるので避けていたが、何かの手違いだったと

割り切ることはできなかったし、沙織のことも気になっていた。


マスコミに映画の制作とキャスティングが公表される予定の2日前、

休みで家にいた渉の携帯が鳴った。

マネージャーの西野からだった。

「渉、いきなりこんなこと聞きにくいけど・・・美菜ちゃんと特別な関係なの?」

「言わなくちゃいけない?」

「ああ、実は明日発売の週刊誌に二人が付き合ってるって記事が載る」

突然のことに渉はしばらく声が出なかった。

「写真もあるらしい」

「どんな写真?」

「それは見てないからわからないけど」

「美菜と付き合ってるよ。本気で」

「そっか。記事を見てから対応を決めるから、勝手になにか答えちゃだめだよ」

「ばれたんなら、俺は付き合ってるって言いたい。別に悪いことしてるわけじゃないし」

「わかってる。でも今はだめだ。映画のこともあるし、美菜ちゃんサイドの都合もある」

渉は週刊誌の記事が事実だけ書かれたものであることを願った。

仕事で出会って、付き合いだした。

それだけのことだ。

お互い、やましいことは何もない。

「明日は僕が迎えに行くから。テレビ局へ行く前に事務所で社長と打ち合わせすることになってる」

「わかった」

「それから、わかってるとは思うけどしばらく美菜ちゃんとは・・・」

人のいい西野の気の毒そうな声に、渉は明るく答えた。

「大丈夫だよ、しばらく会うのは控える。こんなことも覚悟の上さ。一応芸能人だから」

舞台以来、渉を取り巻く環境は目に見えて変わり始めていた。


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妄想ドラマ『スパイラル』 (11)

2010年12月23日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ『スパイラル』 (11)



「大事な話があるんだ」

「舞台が終わってからじゃだめなの?」

「ひとつだけ聞きたいことがある」

渉の真剣な様子に何かを感じて、沙織は一緒にいた共演者の女の子とマネージャーに

席をはずしてくれるように言った。


「聞きたいことってなに?」

「単刀直入に言うよ。君は美菜に何をした?」

「なんの話?」

「美菜が舞台の稽古に来た頃、沙織は俺に言ったよね。美菜は精神的に不安定だって。

 それに沢渡さんから、美菜の代役に備えてくれって言われたとも」

「何が言いたいの?」

「美菜のことも沢渡さんの話も嘘だった。そして美菜と仲良くなった君は美菜が

 重度のソバアレルギーだってことも知っていたんだろう?」

「あなたの言ってることが良くわからない」

「美菜は過労じゃなくて、ソバアレルギーで呼吸困難になって救急車で運ばれたんだ」

「私を疑っているの?ヒロインをやりたいから美菜ちゃんに何かしたって思ってるのね」

見る見るうちに沙織の目に涙が溜まって溢れそうになる。

「ひどい・・・」

唇を噛んで涙をこらえ、沙織は渉の目をまっすぐに見た。

澄んだ瞳は自分を信じてくれと訴えている。

渉は自分がとんでもない間違いを犯しているのではないかと焦った。

「じゃあ、なぜあんな嘘を?」

「私だって女優よ。ヒロインをやりたかった。渉くんとやりたかったの。美菜ちゃんが来るまでの

 代役だってわかってたけど諦めきれなくて。

 ひとりでヒロインになりきってるところを渉くんに見られて、なんだか恥ずかしくてみじめになった。
 
 だからとっさに出まかせを言ったの」

渉は混乱して何も言えなかった。

さっきまでの確信がグラグラと揺るぎ始めた。

「美菜ちゃんが舞台を降りることになって、正直嬉しかった。チャンスだと思った。

 仲間なのに最低よね。でも私は美菜ちゃんに何もしていない。信じて・・・」

とうとう沙織の目から涙が溢れて頬を伝った。



誰かがドアをノックした。

渉が返事をすると、ドアが少しだけ開いてもうすぐ1ベルが鳴ることを告げた。

「メイクを直すから先に言って」

沙織に言われて渉は楽屋を出た。

何が真実なのかわからない。

沙織を信じたい気持ちと、疑う気持ちが螺旋を描いて絡まったままほどけない。

しかし、今考えるべきことはこれから幕を開ける舞台のことだ。

舞台への入り口に続く廊下をゆっくりと歩きながら、渉は大きく深呼吸をした。

やがていつもどおり幕が開き、何事もなかったように渉と沙織は迫真の演技で

観客を魅了した。


「会えない時間もずっとあなたのことを思っていたの。記憶の中のあなたの姿と声が

 今まで私をささえてくれた」

突然、沙織が台本にはない台詞を言った。

舞台の流れの中で自然な言葉だったが、渉はそれが自分にむけられた沙織の気持ちだと分かった。

仕事最優先で頑張ってきた日々の中で、置き去りにしてきた過去のふたり。

お互いの気持ちに気づいていながら、前には進むことなく終わった。

だが終わったと思っていたのは渉だけだったのだ。

演出通り、駆け寄って抱きしめながら、渉は切なかった。

ずっと渉のことを思っていたのに、友人として振る舞ってきた沙織。

その沙織を疑ってしまったことを後悔した。

再会を喜び合うシーンなのに、見つめあった沙織の瞳はどこか悲しげで

渉の胸を締め付けた。

二人の唇が近づいたところで舞台は暗転となり、渉が腕を緩めたとき

沙織がそっと渉の唇に触れた。

それは一瞬のことで、舞台転換のためふたりは急いで移動した。


渉は沙織を疑ったことを謝りたかった。

しかし、沙織が渉を避けているのか、すべての公演が終わるまで、

二人で話をするチャンスはなかった。


時間が経つにつれ、渉の中に沙織を信じきれない気持ちが再び湧いてきた。

舞台の打ち上げの席で渉が沙織と話す機会がやっと訪れた。

「私の疑いは晴れたの?それともまだ?」

「君を信じたいと思ってる」

「信じたい・・・かなり傷ついてるよ私」

「沙織・・・」

「ずっと好きだった人に疑われてるなんてね」

周りの目を気にしているのか、沙織は微笑みながらさらりと言った。

打ち上げ会場はスタッフたちの出し物に歓声が上がった。

だれも二人に気を留める者はいない

「心配しないで。知ってるから。美菜ちゃんって渉くんのこと話すときは

 すごく嬉しそうなんだもの。すぐに分かった。彼女、大事にしてあげてね」

言葉を失っている渉を置いて、沙織は笑い興じている女性陣の輪に入っていった。


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妄想ドラマ『スパイラル』 (10)

2010年12月18日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ『スパイラル』 (10)



千秋楽を含め残り3公演となった。

舞台にかかわる人の中に美菜を傷つけた人間がいるかもしれないと思うと、

渉はやりきれなかった。

みんなこの舞台のためにベストを尽くしているし、その笑顔に隠れた闇があるようには見えない。

人を疑うのは気持ちを重くしたが、それでもひとたび舞台の幕が開けば

すべてを忘れて役になりきった。

代役の沙織の評判もよかった。

そして人々の興味は美菜と沙織を比べることへ移りつつあった。

舞台の原作となった携帯小説のファンが、ネット上でヒロインに美菜と沙織の

どちらがふさわしいか意見を戦わせ始めたのだ。



その日は演出の沢渡が顔を出していた。

「なんか幕が開いてからはあっという間だったね。あと3日で終わりだ。稽古を始めた当初は

 どうなることかと思ったけど、いい舞台になったよ。美菜ちゃんや沙織も期待に応えてくれたけど、

 僕はやっぱり渉の力だと思ってるよ」

そう言って沢渡は嬉しそうに渉の肩を叩いた。

「美菜ちゃんは残念だったけど、今回は沙織に助けられたよ。彼女が自分にやらせてくれって

 言ってきた時は正直迷ったけど、沙織に賭けてみて正解だった。皮肉なことに突然の交代劇のせいで

 世間に一段と注目されることになったしね」

「彼女からやらせてくれって?」

「ああ、代役で稽古してたから台詞は入ってるし、毎日美菜ちゃんの芝居は見ていたから

 大丈夫だってね。沙織もたいしたもんだよ。自分ならこうするっていう目で

 美菜の芝居をみていたんだろうな」

「沢渡さんがもしもの時は沙織に代役をやらせるつもりでいたんじゃないんですか?」

「もしもの時ってなに?そんなこと心配してたら全員ダブルキャストにしなくちゃ」

「あ、そうですよね」

渉はなにか黒いものが一瞬にして胸の中に広がって、息苦しさを覚えた。

「映画決まったんだってね。楽しみにしてるよ」

「ありがとうございます」

沢渡が楽屋を出ていくと、渉の頭に沙織の言葉が繰り返し蘇った。

3か月前、確かに沙織は美菜の降板を渉にほのめかした。

あの時、沢渡の指示だと言っていたのは嘘だったことになる。


「もうすぐ時間だよ」

西野に声をかけられて、渉は我に返った。

「そんな怖い顔して、どうした?」

西野の言葉には答えずに渉は楽屋を飛び出すと、沙織の楽屋へ向かった。


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妄想ドラマ『スパイラル』 (9)

2010年12月14日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ 『スパイラル』 (9)




夜になって美菜から電話があった。

渉には美菜が無理に明るい声で話しているように思えて仕方がない。

すっかり元気になったこと、舞台を休むことになってとても悔しいことを一方的に話し、

そして渉に謝って電話は切れた。

渉はすぐに自分からかけなおした。


「今から会おう」

「でも渉さんは明日も舞台だし・・・」

「今会いたいんだ。顔を見ないと心配だから」

「私なら大丈夫」

「川崎さんから事情は聞いた。どうして俺にまで元気なふりをするの?

 俺は美菜の支えにはならない?」

返事がない。

美菜が電話の向こうで声を殺して泣いている気配がする。

「30分で行く。マンションの下についたらまた電話するから」

渉は上着を羽織ると、車のキーを握りしめて地下の駐車場へ急いだ。


美菜のマンションから少し離れたパーキングに車を置き、

足早に美菜のマンションへ向かった。

深夜の街は幹線道路から外れると人通りはなかった。

それでも渉はキャップを目深にかぶり、周りを気にしながら歩いた。

美菜に聞いていた目印のカフェの角を曲がると、ビルの陰から美菜が姿を現した。

「美菜、こんなところで待ってたの?」

「渉さん、初めてだからわからないかもと思って」

「誰かに見られるとまずい。行こう」

渉は美菜の手を取りたい気持ちを抑え、少し離れて歩いた。


マンションのドアを閉めた途端に渉は美菜を抱きしめた。

言葉は一言も交わさず、ただしっかりと抱きしめた。

伝えたかったたくさんの思いは言葉にするには多すぎる。

抱き合ってお互いの存在を確かめあっていると、思いはそれぞれの胸に流れ込んで

言葉にする必要を感じない。

しばらくすると渉は体を離し、美菜に微笑みかけて言った。

「お邪魔します」

美菜も微笑んで言った。

「どうぞ、お上がりください」


美菜の部屋は落ち着いた淡いグリーンとクリーム色を基調としたシンプルな内装だった。

その中にポップな小物がアクセントになっている。

渉がパステルカラーのクッションが並んだソファに座ると、美菜が聞いた。

「何か飲む?」

「アルコールがいいな。あればだけど」

「じゃあ、いただきもののワインあるから開けようか?」

「いいね」

美菜がスナック菓子と冷蔵庫にあったチーズを小さなテーブルに並べ、

渉がワインの栓を抜いた。

共演した芸能人との楽しいエピソードや子供のころの夢などを取り留めもなく話した。

しかし、渉が舞台のことに触れた途端、美菜の表情は暗くなった。

「私、怖い」

「怖い?」

「私、自分では気づかずに誰かに憎まれるようなことしたのかな・・・」

「大丈夫だよ。美菜はいい子だ。それは俺が一番よく知ってる」

「きっと私がなんだかうっかりしてたんだと思う。あの日はいろんなことがあって

 バタバタしてたし。ちょっと気持ちも高ぶっていたの」

「忙しすぎたから、少しゆっくりすればいいよ。そんな時間も必要だろ?」

渉は美菜の肩を抱き寄せると、優しく髪を撫でた。




寝たのは2時間くらいだったが、渉はスッキリとした気分だった。

隣に美菜の寝息を感じながら、しばらくベッドの中であれこれと考えた。

もし、誰かが故意に美菜を陥れたのなら、その誰かはアレルギーのことを知っている。

そして美菜の楽屋に出入りができた。

当然、顔見知りということになる。

なにかの間違いであってほしい。

しかし、美菜のことをよくわかっている川崎がそうは思っていないことが

渉の気持ちを暗くした。


目的はなんだろう。

美菜は誤解されやすいタイプだが、人に恨まれるようなことができる人間ではない。

人気を妬んだ嫌がらせだろうか。

それとも美菜を舞台から降ろしたかった?

そこまで考えて、渉は自分の胸の奥に感じている不安を払いのけた。


ベッドからそっと抜け出したつもりだったが、美菜が目を覚ました。

「もう行くの?」

「ああ、人通りが少ないうちに行くよ」

「私たちが普通の会社員とかだったら、一緒に朝ごはん食べて出かけられるのにね」

「いつか時期が来たらそうできるようにしよう」

「えっ?」

「俺たちはなにも悪いことをしてるわけじゃないだろう?仕事終わったら電話する」

渉の言葉を聞いて、美菜はいつもの笑顔になった。




その日の舞台を無事に終えて渉が楽屋に戻ると西野が嬉しそうに迎えてくれた。

「どうしたの?いいことあった?」

「高野渉、初主演映画決定!」

「俺が?」

「そう。今やってる舞台を映画化するそうなんだ。社長はだいぶ前に小田中さんから

 話を聞いてたらしいよ。舞台の評判次第で、渉に映画もやってもらうかどうか決めたいって」

「相手役は?」

「そりゃ美菜ちゃんでしょ。小田中さんの秘蔵っ子だからね」

「そうなんだ」

「なんかすごいやり手のプロデューサーと小田中さんが組んでるらしいよ」

「小田中プロが出資するってこと?」

「だろうね」

映画は今までに何本か出演したがたいした役ではなかった。

主演と聞いて嬉しかったが、今の渉は手放しでは喜べなかった。

川崎はどんな態度に出るのだろうか。

美菜は大丈夫だろうか。

一瞬のうちにいろんな思いが渦巻いた。


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妄想ドラマ『スパイラル』 (8)

2010年12月07日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ 『スパイラル』 (8)





千秋楽まで残りの公演は沙織がヒロインを演じることになった。

翌日の公演後に、美菜のマネージャーの川崎が渉の楽屋に顔を出した。

突然美菜が降板することになった事態を、共演者達に詫びるために来たのだ。

渉はそんなことより美菜のことを聞きたかった。


「それで美菜ちゃんの具合はどう?」

先に聞いたのは西野だった。

「もうすっかり元気なんだけど」

「それは良かった。でも舞台には復帰しないんだね」

「ちょっと精神的なショックもあるみたいなんです。呼吸困難で意識不明になったんで」

「そっかそんなに大変なことになってたんだ。でも原因はわかったんでしょ?」

「美菜はソバアレルギーなんです。普段から食べ物には注意してたんだけど、

 気づかずに口にしてしまったみたいです。私が付いていながらほんとにし訳ありませんでした」

川崎は深々とお辞儀をした後、楽屋を後にした。


渉もすぐに楽屋を出て、通用口へ向かう川崎を呼び止めた。

「きっとあなたが追いかけてくると思った」

「どうして?」

渉が尋ねると、川崎は美菜の携帯を見せた。

「救急車騒ぎで、美菜の携帯を楽屋に置いたままだったの。あなたからのメールが来てる」

「見たんですか?」

「もちろん、メールを開いてはいないわよ。そんなことしたら美菜の信用なくすから」

「でも誰から来てるかはチェックした」

「そうね」

「それで美菜はどうなんですか?」

「美菜はあまり話したがらないかもしれないから、教えてあげるわね。彼女は重いソバアレルギーで

 差し入れなんかの食べ物も原材料を全部私がチェックしているの。特に舞台が始まってからは、

 大丈夫だとはっきりわかっているものしか口にしていない。もちろん、あの日もね」

「じゃ、どうして・・・」

「それがわからないから怖いのよ」

「気づかずに口に入ったのは確かなわけだし、美菜の思い違いとか?」

「それはないわね。あの子のプロ意識は相当なものよ。舞台の前にうっかり初めての物を口にするなんて

 考えられない。ただあの日は楽屋を訪ねてきたお客様も多かったし、衣装の直しとかもあって、

 いろんな人が出入りしてた」

「まさか誰かが・・・そう思ってるんですか?」

川崎はその問いには答えなかった。

「高野さん、私の忠告覚えてる?」

「覚えてますよ」

「だったら・・・」

言いかけて、川崎は手にした美菜の携帯を見た。

たぶん電話の履歴も見たのだろう。

渉は二人の間に立ちはだかろうとする川崎に憤りを覚えた。

「僕は傷つくことなんて怖くないし、あなたが言う通りになるとも思ってない」

すると川崎は苦笑して言った。

「高野さんって意外に一途なのね。若いって羨ましい」

そして渉に背を向けて出口へ歩き出した。


  ----------つづく-------- 9話へ 1話から読みたい方はこちら


さてさて、年内に完結させられる自信がなくて焦ってます

なんかモロ怪しい人とか思い浮かびますが、そういったミステリーではありません。

だってそんな頭脳は持ち合わせていないもん

ではまた


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妄想ドラマ『スパイラル』 (7)

2010年12月02日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ 『スパイラル』 (7)





美菜の代役を沙織が務めることに不満な客がいれば、チケットの払い戻しに応じることになった。

渉は空席が目立つ公演になれば沙織が辛いだろうと思う。

沙織だってそこそこの知名度はあったが、美菜とは比べ物にならない。

そして沢渡がこういう日が来るかもしれないと予測していたことが不思議だった。

沙織は沢渡から美菜は精神的に不安定というようなことを聞いていたようだが、

渉は美菜に、少しも危うい気配を感じたことがなかった。

確かに人の気持ちを敏感に読み取る繊細な心を持っているために、

傷つくことも多いだろうが、だからと言って精神的に弱いという感じでもない。

しかしいくら考えたところで答えが出るはずもなかった。

今自分にできることは今日の舞台を楽しみにして来てくれる観客を失望させないことだ。

沢渡は沙織と絡むシーンがあるキャストは、速やかに準備をして舞台へ集合するように言った。


支度が終わり舞台へ行くと沢渡が待っていた。

「渉、頼むよ。沙織のことだから心配はしてないんだけど、ぶっつけ本番だからね」

「はい」

「心配するな、美菜ちゃんは大丈夫だって。さっき小田中さんから連絡来たよ」

「いったいどうしたんですか?」

「詳しいことはまだわからないけど、2,3日入院して検査することになるかもしれない。

 美菜ちゃんが復帰できるまでは沙織に頑張ってもらうしかないからね」

話している間に、沢渡に呼ばれたほかのキャストも支度を終えて集まってきた。

そして昨日まで美菜が着ていた衣装に身を包んだ沙織が現れた。

美菜とは違う楚々とした美しさにみんなが目を見張った。

「沙織が出るシーンだけ通します。時間がないから動きと段取りの確認を中心に一回だけね。

 それから沙織の役は無くして、その台詞は山川くんに言ってもらいます。じゃ始めよう」

立ち稽古に入ってしばらくは沙織が美菜の代役で稽古をしていたこともあって、すべては

驚くほどスムーズに流れた。

沙織は台詞も完璧に覚えていて、沢渡がプロンプターをつけるというのを断った。

「出来すぎだろ。こうなることをひそかに狙ってたんじゃないの」

2ソデの陰で誰かがつぶやく声が渉の耳に入った。

たぶんスタッフだろう。

渉は、そうじゃない、沢渡さんに前もって言われていたんだと

沙織を弁護したい気持ちに駆られた。


「開場10分前です」

スタッフの声が響いた。

「じゃ、みんな沙織を援護してやってくれ。僕はみんなを信頼しているよ」

沢渡の言葉にみんなが力強く返事をした。

舞台の上にはみんなでこの事態を乗り越えようという一体感が生まれていた。

そこには緊張感を楽しんでいるような空気さえも漂っている。


緞帳が下り、一旦みんなは楽屋に引き上げた。

渉だけが沙織に付き合ってぎりぎりまで立ち位置の確認をしていた。

「よろしくお願いします」

楽屋に戻る前に沙織が真剣な顔で渉に頭を下げた。

「こちらこそよろしく」

「美菜ちゃんとは違う、私なりのヒロインを演じるつもり」

「うん。俺も沙織と新しい芝居をやるつもりで臨むよ」

沙織は渉の目を見て黙って頷いた。


話題の舞台であることと、せっかく足を運んだということもあって、

美菜が出ないことがわかってもチケットを払い戻した客はわずかだった。

そしてそのチケットも当日券を求める人々が争うように買った。

突然の代役だったが、観客の大きな拍手と幾度ものカーテンコールの後、舞台は幕を閉じた。

やり遂げた満足感で頬を上気させている沙織はハッとするほど綺麗だった。

「素晴らしかったよ沙織」

沢渡が舞台のソデで両手を広げて沙織を迎えた。

「渉もさすがだよ。高野渉の才能を思い知らされた」

みんなが次々と握手を交わした。


楽屋の前で西野が待っていた。

興奮が醒めて急に美菜のことが思い出され渉の胸を苦しくした。

「すごい拍手だったね」

「ああ」

「どうした?元気ないじゃない」

「さすがに疲れたかな」

「これで明日も沙織ちゃんで大丈夫だな」

「美菜は?」

「大丈夫だよ。もう落ち着いてるって」

「何が起こったのかちゃんと説明してよ。川崎さんと話したんじゃないの?」

「そうだな渉には言っておかなくちゃね。ただし口外はしないで。表向きは過労だってことにするそうだから」

「わかった」

「川崎さんはたまたま楽屋にいなくて、一緒にいたメイクさんの話だと

 美菜ちゃんはいつもと変わらず元気そうだったのに、急に顔色悪くなってソファに

 倒れこんだと思ったら呼吸困難になって、慌てて救急車呼んだって」

「原因は何?」

「それは検査しないとわからないけど、何かのアレルギーらしいよ」

「美菜はアレルギー体質だったってこと?」

「そうだろうね。とにかく重大な病気とかじゃないから、症状が治まればすぐに復帰できるんじゃないかな」

渉は着替えてメイクを落とすと、元気になったら連絡してと美菜にメールを送った。

その日のうちに返事が来るかもしれないと期待していたが、翌日になっても返事は来なかった。


  ---------つづく-------8話へ

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