limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ①

2018年11月28日 12時23分01秒 | 日記
プロローグ ~ 全てを失った男

「主文、被告人を禁固15年の刑に処する」
地裁の裁判長が重々しく判決文を読み上げ始めた。Kは目を閉じて身じろぎもせずに、被告人席で聞いていた。“Z病院襲撃計画”に端を発した一連の事件は、一応の決着を見る事となった。だが、Kの国選弁護人は苦り切った表情で判決を聴いていた。「これは明らかに“重過ぎよ”控訴すべきだわ!」美貌の弁護人は、歯ぎしりをして悔やんでいた。Kは、これまでに3人の弁護人を「解雇」していた。理由は特になく単に「気にくわなかった」からだ。4人目の国選弁護人が、解雇を免れたのは「女性で、しかも“飛び切りの美人”」だったからに他ならない。取り調べや接見で“完全黙秘”を貫いたKが、唯一まともに口を開いたのが彼女だった。罪人となり全てを失っても“エロ親父”の悪癖だけは治らなかったのだ。美貌の弁護人に入れあげたKは、何でも素直に言う事を聞いた。謝罪文の提出、検察官とのやり取り等に積極的に答える様になった。これも全て「罪状を軽くするため」に他ならなかった。だが、県警での取り調べに対して“完全黙秘”を貫いた事が仇となり、検察側は「禁固18年」を求刑したのだ。美貌の弁護人は「全て未遂に終わっており、刑は重すぎる。情状酌量の余地はある」と必死に反論した。そうした努力は多少の減刑には働いたが、それでも「禁固15年」が言い渡されたのだ。弁護人としては、到底受け入れがたい刑の重さだった。翌日、美貌の弁護人はKに接見して「控訴しましょう!到底受け入れられる刑ではありません!重すぎます!」と訴えた。しかし、Kは「いや、これ以上無駄な抵抗はしない。受け入れる」と控訴断念を告げた。「何故です?!懲役刑にしなくては、道理が通りません!検察の言いなりになるべきでは無いのです!全ては“未遂”に終わっているのに禁固刑なんて、普通ありえません。もう一度戦って減刑を主張すべきです!」弁護人は何としても控訴すべきだと言い放った。だが、Kの目に力は無く「弁護士さん、俺は全てを失ったんだ。帰るべき家も家族も、地位や金もな。俺の時代は終わったのだ。刑務所で静かに余生を送りたいんだ。少なくとも15年は、食うには困らずに済む。これ以上何を望むと言うのか?」と言い視線を逸らした。「俺は負けた。絶対に勝てると信じていたのに、気付いた時には外堀は埋め尽くされ丸裸同然だった。もう、勝ち負けを云々するのはコリゴリなんだ。今日まで、ありがとう。これで俺も安らかな生活を送れる。もう、充分だ!」そう言うと、Kは深々と一礼して接見室から出て行った。「彼にもっと早く巡り逢っていたら、結果は違ったかも知れない。家族にも見放される事はなかったでしょう。全てが遅すぎた。私の力を持ってすれば懲役刑にする事は出来たはずよ。そうすれば、仮釈放で刑期も短縮出来る可能性もあった。悔やまれる案件だわ!」拘置所から去っていく弁護人はそう呟いていた。事務所に戻った弁護人は、Kの“元家族”へ連絡を入れようとした。だが、電話には誰も出ない。「仕方ないわね」彼女は電話を切ってそう呟いた。Kが逮捕されて以降、自宅の家族には“思いもしなかった災厄”が一斉に降りかかった。警察の家宅捜索、取り調べ、近所からの視線、Kの孫達への“イジメ”等々、ありとあらゆる災厄が息つく間もなく続いたのだ。Kは“男の子”に恵まれず、家は次女が婿養子を取って継いでいた。その時に、多額の金をつぎ込んで自宅を「二世帯住宅」へ大改造し、孫にも恵まれていた。池には金魚の大群が泳ぎ、悠々自適な老後を迎えるはずだった。最初に歯車が狂ったのは、会社を辞めた時だった。だが、致命傷にはならずに済んだ。Kは“企業コンサルタント”として収入を得ることが出来たからだ。だが、その僅か半年後、家族は路頭に迷う事になった。家を継いだ次女の怒りは凄まじく、Kと内儀の離婚手続きを強引に推し進めた。また、婿養子の旦那の実家と掛け合い、戸籍を変える事に躍起になった。彼女にしてみれば、Kの家を継いだ意味が無くなったのだから、仕方なかった。子供に対するイジメや冷淡な仕打ち、近所の好奇の視線は耐え難いモノでしかなかった。自宅は土地諸共売りに出し、婿養子の旦那のツテを頼って県外へと引っ越した。苗字も変えて再起を賭けるしか道は無かった。Kの残した金銭と自宅を売り払った代金で、ローンはどうにか消し止めたが、問題は親父が舞い戻って来る事だった。「もう、あのクソジジイとは関係ありません!誰が接見なんかに出向くもんですか!上申書の提出?!そんな義務あるんですか?こっちは、もう別の苗字に変わっているんです!Kの家は、あのクソジジイでお終いにしたいんです!生みの親でも何でもない、犯罪者に協力する意思は一切ありません!」次女はそう言って弁護人の電話を叩き切った。以後、何度かけても応答は無い。長女の方も同様だった。残る手は、DBの協力を取り付ける事だったが、DBは煙の様に消え失せていた。起訴猶予となり、釈放されてからのDBの足取りは様として掴めなかった。自宅にも会社にもDBが居る痕跡すら残っていなかった。「上の命令で“無期限の謹慎処分”に入っておりまして、私も子細は知らないんですよ」会社の総務部長もDBの居場所を把握していなかった。社長に面会を申し込んでも「海外出張」を理由に断られた。Kは文字通り“孤立無援”に置かれ、世間から抹殺されようとしていた。弁護人は刑務所へ移送され前に何度も接見を申し入れたが、Kは全て拒否して来た。やがて控訴の期限が切れ、Kは刑務所に収監された。だが、美貌の弁護人はKを見放す事はしなかった。手紙を書き、繋がりを続けようとした。彼女を駆り立てたのは「刑期満了後のKの身の振り方」だった。厳しくはあったが、刑期は勤め上げやがては釈放されるだろう。その時に、衣食住に困らない様にする事を彼女は気にかけた。「時が経てば、状況は変わる」彼女はそこに賭けた。Kは、刑務所で剃髪を願い出て、頭を丸めると日々経を唱え、仏典を読み込んだ。謀略に智謀を注ぎ込んだ姿は、もう無かった。独房にはKの唱える経が静かに響いているだけだった。

ハノイ国際空港へ着陸した旅客機から降ろされた車椅子は、あらかじめ用意されていたバンの荷台に固定された。現地には夕闇が迫っていた。「よし、出発だ」Y副社長付きの秘書課長は静かに命を下した。4人の男達は、ベトナムにある現地工場を目指してひた走った。睡眠薬によってDBの意識は無い。だが、万が一を考えて手足は縛られ、アイマスクとヘッドフォンが装着されている。ヘッドフォンからは大音量の演歌が流れていた。やがてバンは、現地工場の正門を通過すると密かに裏手に回った。正門からは仕事を終えた現地社員が帰宅していく真っ最中だ。工場の裏手、設備搬入口付近にバンは横付けされ、車椅子を降ろす作業が始まった。DBが乗った車椅子は酷く重く、4人は汗だくになりながら車椅子をバンから引きずり下ろした。直ぐに車椅子は作業用エレベーターへ移され、地下空間へ降ろされた。地下2階に設えられた“高級リゾートルーム”に車椅子は運び込まれた。4人はDBを車椅子からベッドへ移し替えたが、食用蛙さながらの巨体を運ぶのには、またまた汗だくにならなければいけなかった。アイマスクとヘッドフォンが外され、DBは無造作にベッドに寝かされた。シーツをかける前にベルトやボタンが緩められ、不意に動いても問題が出ない様に細工がなされる。その間、秘書課長は何かを水に混ぜていた。「何ですか?」社員の1人が聞くと「赤痢アメーバの乾燥嚢子体だ。コイツに感染すると必ず切れ痔になる。少しはダイエットしてもらわんと、食事代がかさむ」秘書課長はDBの口元へチューブを入れ、少しづつ液体を口に入れた。渇きを感じているらしくDBは無意識に飲み始めた。「潜伏期間はどれくらいですか?」「4~5日だ。睡眠薬が切れてから直ぐに発症するだろう」「死にませんよね?」「大丈夫、下痢で体がへたばるだけだ。治療薬はこれだ。今の内に渡して置く」秘書課長は青いビニール袋を差し出した。「一応、設備の点検をして置いてくれ。金属の類は手の届く範囲には置いてないだろうな!」「はい、どうしても必要な物品は全て溶接してあります。ベッドや机や椅子はダンボール製ですし、テープも金属も使わない組み立て式になってます。最も近い金属類は天井のエアコンですが、高さが4mあります。壁を伝って登ろうにも、手掛かりになる凹みや突起物はありません。我々も試しましたが、とても届く所までは登れません」「シャワーとトイレは?」「シャワーは遠隔操作でしか水が出ません。室内にカランなどはありません。トイレの便座は陶磁器製のものです。こちらも自動で流れる様になっています」「用を足すには紙がいるが、対策は?」「ポケットティシュを用意しました。水に流れるタイプです。トイレットペーパーの芯を与えないためには、これしかありません。不足分は天井の穴から落とします。穴の開閉も遠隔操作です」「食事を出し入れする場所は?」「それも遠隔操作で開閉する扉がここに付いています」場所は唯一の出入口である1面のパーテンションの壁の隅だった。「強引に開けようとすれば、天井からレーザーで撃たれます。火傷程度のダメージですが、充分な恐怖心は植え付けられるかと」「パーテンションと扉はどうなっている?」「内側はCFRP製で引きちぎる事は無理です。その内側は厚さ20cmの鋼鉄です。扉も同様になっています。鍵はレーザーと電子振動の併用式の電磁キーで、外側にしか鍵穴はありません。開閉はスライド式ですが、内側からこじ開けようとしても気圧を抜かないと開かない仕組みになっています」「レーザーは?」「勿論、撃たれます。監視カメラと一体で360度どこからでも攻撃できます。天井に全部で6台。死角はありません」「監視カメラのモニターは?」「事業所長室の奥に設えました。マイクで会話も可能ですが、こちらの正体を見破られない様に電子変声が自動でかかる仕組みです」「今、テストはできるか?」「少々お待ち下さい」そう言うと社員は、外へ出て行った。「マイクテスト、マイクテスト課長ご苦労様です」ノイズ紛いの声が響いた。「聞こえますよ所長。OKです!」「こちらも明瞭に聞こえます。では後程」奇妙な声は途絶えた。「聞こえましたか?」社員が駆け込んで来た。「ああ、ばっちりだ。君はどこへ行ってたんだ?」「内線が設置されているのが、裏の動力室の壁際なんです。そこまで走ってました」「そこまでどの位だ?」「150mぐらいですかね。その間に2か所壁があるので走っても時間がかかります」「外の鉄格子は二重か?」「いえ、三重です。真ん中には200Vの電圧がかかります」「ガスの噴射口は?」「全て天井のエアコンの中です。DBからは見えません。酸素の他に亜酸化窒素も用意してあります」「笑気ガスもか?何のためだ?」「メンテナンスをするには、DBに寝ててもらわなくてなりません。意識を喪失させるには必要でしょう?」「そうだな。さて、そろそろ飲み終わったな。部屋を密閉してモニター室へ案内してもらおうか」「分かりました。おい、密閉だ!」4人は室内から順次出て行く。秘書課長は、DBのネクタイピンとベルトのバックルを切り取ると最後に部屋を出た。「ロックしろ!」微かな機械音が聴こえ入り口が密閉された。鉄格子がスライドして真ん中の鉄格子に電圧がかけられた。“高級リゾートルーム”にはDBだけが残された。4人は地下から出て工場の表側の建屋へ向かった。

「宴たけなわの所、恐縮ですが、ここでみなさんにお知らせがあります!」F坊がマイクを手に叫ぶ。「なんだ?」「早くしろ!」メンバーからはブーイングが飛んでくる。「本日、Kの判決が確定しました!禁固15年の刑であります。みなさん盛大なる拍手をお送り下さい!」「ウォー!!」場は一気に盛り上がった。みんなハイタッチやビールを一気飲みして歓声を上げる。「懲役でなく禁固刑になった事に意味がある。これでヤツが娑婆に出られる日は無くなったな!」ミスターJはウイスキーをロックで飲んでいる。「でも、DBはどうするの?結局、起訴猶予になったんでしょ?」ミセスAは心配顔だ。「大丈夫ですよ、DBは“高級リゾートルーム”に幽閉されてます。あっちも当分は日本に戻れませんよ!」N坊がジョッキを片手に言う。「そうだな、今頃ちょうど“入居”して1ヶ月。刑務所より酷い仕打ちをうけとるだろう」ミスターJは鼻先で笑った。今日は、ミスターJ達の「打ち上げパーティー」が開かれていた。各部隊のメンバーやリーダーやN坊とF坊達はみんな“平素の職業”を持っている。仕事の都合をやりくりして集まるには、1ヶ月を要したのである。「勝つべくして勝った。しかも県警に恩を売っての大勝利だ!」ミスターJの一声で始まった宴は最高潮に盛り上がっていた。青竜会を叩き潰し、Kは刑務所へ、DBは“高級リゾートルーム”へ移送され日本には居ない。またしてもミスターJの作戦は成功したのだ。「これで“彼”の安全度も上がりましたね。ミセスA、“彼”の容態は?」“スナイパー”が聞いて来た。「そっちは順調そのもの。このまま経過が順調なら、桜と共に退院ってとこかしら?」「変な気を起こしませんよね?」「なにを?」「ミセスAお得意の“あれ”ですよ!」「野暮な事はしないわ!“彼”の周りは常に女の子輪で鉄壁のガードが出来てるわ!」「スゲェ!」F坊が目を丸くする。「ともかく、私の管理下にあるんだから、もう危険はないわ!」ミセスAは断言した。「当面、“彼”を外部から脅かす存在は消えた。だが、正念場はこれからかも知れない」ミスターJはポツリと言った。「KとDB以外に誰が居るんです?」リーダーが不審そうに聞く。「1度は投降したが、まだ“彼”を付け狙った連中は社内に健在だ。油断はできない」ミスターJは静かに答えた。「Xを始めとする1派は“完全に平定されていない”まだまだ、山あり谷ありだよ」「でも、最大の禍根は除去しました。後はモグラたたきでいいんじゃないですか?」「私の考えすぎだといいが、可能性はゼロではない。これからも注意深く見守っていくしかあるまい」ミスターJはグラスを傾けた。「さて、みなさん。今次作戦のMVPを発表したいと思います!」N坊がマイクを取っていた。「俺だー」「いや、お前じゃねーの?」会場は益々盛り上がっていた。嵐の前の静けさの中ミスターJ達は今宵ばかりは気を抜いていた。だが、確実に次なる危機は迫っていた。それは遠く南米で起こった津波の様なものだった。やがては海を越えて日本へ激突する。今は数メートルに過ぎないが、海底の地形によっては大きな脅威となる。予兆は既に起こっていたが、まだ気づく者は居ない。アリの開けた穴から堤が崩れる様に、また大嵐が襲って来るとは誰も予想していなかった。

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