limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㉟

2018年08月24日 23時03分37秒 | 日記
月曜日、DBは福岡空港へ降り立った。久々の帰国にDBの表情は緩み切っていた。新幹線の切符を買う際「どうせならグリーン車に乗るか」と自分への褒美のつもりで、カネを惜しまなかった。ケチをしなくても「手当」がガッポリ入るのだ。このくらいのは「贅沢」とは思いもしなかった。定刻通り新幹線は東へ向かって走り出した。「おっと、携帯の電源を切りっぱなしだ」DBは携帯を引っ張り出して、電源を入れた。すると、着信履歴がズラリと並んだ。「なんだこりゃ?」ここ3日の間に20件を超す同一着信がある。それは、Kの自宅からだった。「何事だ?」DBは不審に思い、デッキへ移動してKの自宅へ電話を掛けた。するとKの興奮した声が届いた。「DB!!今、どこに居る?」「今、韓国からの帰りで新幹線の中だが、どうした?何かあったのか?」Kは興奮を必死に抑えて「DB!良く聞け!遂に、遂にあの憎らしいヤツの尻尾を掴んだぞ!ヤツの潜伏先が分かったのだ!!」「何!!それは確かか?!」DBは雷に打たれたような衝撃を受けた。「ああ、間違いない!Xが必死に働いた成果が実ったのだ!夕方には居場所を突き止めた書面を持ってくる手筈になっている。今度こそ、捕縛して修行に送り込んでやる!」DBとKには万感の思いが込み上げていた。「Kよ、どうやって突き止めたんだ?!あれだけ手を尽くしても見つからなかったヤツをどうやって燻りだしたんだ?!」DBは不思議そうに言った。「大学病院の搦め手口を当たったのだ!看護師を買収して、転院先を聞き出した。情報は疑う余地はない。100%ヤツはそこに潜んでいる!それで3日前から連絡しようとしていたんだ。喜べDB!今度こそヤツを打ち取れるんだ!我々の勝利は確定した!!早速、祝杯を挙げようじゃないか!!所で、お前の休みは何時だ?」「明日から2週間の休暇だよK!何と言う幸運だろう。俺も早くヤツの潜伏先を聞きたくてウズウズしているよ!当然、すぐに乗り込むんだろうな?!」「いや、偵察をしてからだ。急いては事を仕損ずるからな!どっちにせよ、俺は明日の朝、横浜へ向かう。伊勢佐木町のPホテルを予約してあるんだ。アンタと合流してから、段取りを組もう!ここからは、2人でやらなきゃならん。慎重に計画を練ろうじゃないか!」DBの焦りを抑える様にKは言った。「K殿御自らのご出馬とは、恐れ入る。X達はどうするんだ?手が足りないぞ!」DBはKの言葉に些か驚いた。手は多いに越したことは無いのにどうして?「DBよ、X達には手を引いて貰う事にする。半年前に多大な犠牲を出して、彼らは貶められた。今回の計画にこれ以上加担すれば、X達は失職するよ。彼らには生活が懸かっているし、まだ先の人生がある。俺は会社とは関係ない身分だ。何があっても問題は無い。だが、もし万が一にも失敗した場合を考えると、若いX以下の連中にはリスクを負わせる訳にはいかない!既に危ない橋を幾度も渡らせた。だから、あくまでも主犯は俺で、手を貸すのがDB、アンタの役割だ。いざという時は俺に全てを被せて、アンタも逃げられるように考えを巡らせる必要があるんだ!それが俺の思いだ!」Kはよどみなく話した。「K、命を賭けると言うのか?!」DBは茫然と聞いた。「そうだ。今回に全てを賭ける!恐らく2度とこんなチャンスは無いだろうよ。だからDB、アンタにも腹を括って貰いたい。K一世一代の作戦に乗るには、相応の覚悟がいる。いいな!主犯は俺でアンタは協力しただけだ!そうすれば、逃れる術はある。どうする?DB、乗るかね?」Kは決断を迫った。「勿論、乗る!この機を逃す訳にはいかない。俺も全てを賭けようじゃないかK!」DBは断を下した。「分かった。2人でやろうじゃないか!ヤツを今度こそ殲滅するんだ!」Kも同意した。「ともかく、まずは落ち着いて話す必要がある。明日Pホテルで落ち合おう。まずは、横浜に無事に帰るんだ。」「承知したよ。Pホテルに着いたら連絡を入れてくれ。それまでにすべての仕事を片付けて置くよ」「背中にはくれぐれも用心しろ!明日、Pホテルで待っている。今度こそケリを付けようじゃないか!じゃあ宜しく頼む」電話を切ったDBは気持ちを必死に抑えて座席へ戻った。「今度こそ、決着だ!首を洗って待っていろ!!」高揚感が疲れを吹き飛ばしていた。KとDBは横浜へと急いだのだった。

「ミスターJ、XがKの自宅から戻りました。貴方に話があるそうです!」Kの自宅を監視している監視員からミスターJへ連絡が入った。「すぐに換わりたまえ!X、聞こえるか?Kはどうだった?」「はい、Kは満足そうにブツを受け取りました。そして、明日の朝には出発すると言ってました。宿泊先は、横浜市伊勢佐木町のPホテルです。決着が付くまで自宅には戻らない様です。それと、ここから先は手を引けと言われました。KはDBの援護を受けて、単独で事を起こす気配です!」Xはやや緊張気味だった。「了解した。Xよ、Kの言う通りに君達はもう手を引くんだ!これ以上関わってはならん!ただ、Kから接触があった場合は、私に知らせて欲しい。連絡先は、そこに居る私の仲間から聞いてくれ。後は私達の手で間に合う」「ミスターJ、本当に大丈夫なんですね?」Xが不安そうに尋ねた。「もう、心配はいらない。大丈夫だ。Y副社長は約束を必ず守る方だ。君達は別にやることがあるだろう?本業に専念するのだ。Nデジタルの量産化こそ最大の恩返しになる。君はもう帰りなさい」「分かりました。ミスターJ、成功を祈ります」Xは連絡先を確認すると引き上げて行った。「監視員、君達も引き上げていい。Kの足取りは掴めた。追跡部隊、聞こえるか?Kの行先は聞いた通りだ。君達は、今夜中に出発だ。先回りしてPホテルのラウンジで待機せよ。Y副社長達の部隊との合流については、追って指示する。くれぐれも気付かれることはするな!遠巻きに監視するんだ!」「追跡部隊、了解。追っての指示を待ちます」ミスターJは、各部隊に指示を出し終えると、振り返り別の仲間に声をかけた。「I氏に連絡を付けてくれ。私はAと横浜での部隊展開の打ち合わせがある。Y副社長にも至急知らせなくてはならん!」「分かりました」仲間はすぐにI氏宅へ電話をかけた。ミスターJは、Aとの協議を急ぐべく別の受話器を取り上げた。

「Iか、なに、Kの宿泊先が分かったのか?!伊勢佐木町のPホテルだな。裏は取れているのか?XにKが漏らしたのか。それなら間違いはあるまい。ミスターJの追跡部隊は先行して今夜出るのか?ホテルのラウンジで合流だな。承知した。お恥ずかしい話だがウチが動員できる部隊は3名だ。貧乏所帯なのでな・・・、これ以上の人員は裂けない。ミスターJの協力を是非とも仰ぎたい。そうか、既に手配にかかっているのだな。ミスターJに礼を伝えておいてくれ!ウチの3名は、全員青いネクタイに黒の折り畳み傘を持って行かせる。パスワードは“アバダンへ行け”だ。そう伝えてくれ。そうだな、DBにも紐は付けておくか・・・、寮の連中に出入りを監視させよう。いよいよ、お出ましか・・・、歓迎会?!明日、社長室で開いてもいいが、君が来ないと意味は無いよ。分かった。後は任せてくれ!直ぐに吉報を届けられるだろう。うむ、ご苦労だった」電話を切ったY副社長は、ぬるくなったコーヒーを飲みながら椅子にもたれかかった。「遠方からの客人が、いよいよお出ましか。盛大に歓迎はしよう。だが、タダでは帰さぬ!縛に付くのはK、DB、お前達だ!」カップを置くとY副社長は背広に袖を通し、官舎へと引き上げて行った。

翌朝、Pホテルのラウンジに3名の男性社員が派遣された。指揮を執るのはY副社長の秘書課長であった。前夜、Y副社長から突然電話で指示を受け、取るものも取り敢えず駆け付けたのである。「青いネクタイに黒の折りたたみ傘を持っていけ!」と言う事と、「“アバダンへ行け”」のパスワードと「ミスターJの部下に会え」だけが手がかりだった。他の2名も「詳しい事は知らない」と言っていた。「誰と会えばいいんだ?」秘書課長は困惑していた。すると、グレーのスーツを着た小柄な目立たない男に声を掛けられた。「すいません、ライターを貸して頂けますか?」男は言った。「ああ、誰かライターを・・・、」と言うと男は小声で「パスワードを教えてください」と囁いた。秘書課長が「アバダンへ行け」と半信半疑で言うと、男は「付いて来て下さい。ここでは話は出来ません。キョロキョロしないで、前だけを見て!部屋へご案内します」と言って、秘書課長達をエレベーターへ乗せた。4階でエレベーターを降りて、ホテルの一室へと案内すると、男は鍵を掛けて慎重に廊下の気配を伺っていた。「貴方は誰です?」秘書課長が誰何すると、男は話始めた。「私の名前は知っていただく必要はありません。私はミスターJの部下です。Y副社長からお聞きになっていると思いますが、みなさんが初動部隊ですね?」「ああ、そう言うことになるのかな?何しろ私達は詳しい事は一切聞かされていないんだ。何をどうするのかね?説明をしてくれないと何も分からない」秘書課長は困惑を隠さない。「それでいいのです。皆さんは詳細を知らなくてもいいのです。私達3名の手助けをしていただければ、それで十分です。まず、皆さんはこの男を知っていますね?」男はDBの写真を配った。「知っている。DB課長だ」「そうです。次にお配りする写真は皆さんが知らない人物です」男はKの写真を配った。「誰なんだね?」「Kと言う悪人です。これから数時間後に、ここへ到着します。皆さんと私達3名の任務は、KとDBがここで合流して、どこへ行くのかを調べ監視する事です。そして、今日の2人の行動について、Y副社長に細大漏らさず報告をしていただく事です」男は事も無げに言ったが、秘書課長達は肝を潰した。「にわか探偵をやるのか?!」「そうです!DBにだけ気を付ければ、そんなに難しいことではありませんよ。ただ、私達は土地勘がありません。地下街や鉄道の駅のホームなど分からない事だらけです。そこで、急遽合同チームを組んで任務を遂行するんです」「つまりこう言う事か?KとDBについては君達がよく知っている。私達は、横浜の街を知り抜いている。水先案内人として君達を誘導し、その結果はY副社長に一から細大漏らさず報告する。そういう事かい?」秘書課長は怪訝そうに尋ねた。「そうです。にわかには信じていただけないのは承知の上です。私達のボス、ミスターJの予想を超えて、Kが素早く行動を始めてしまったために起こったミスマッチですが、何とか切り抜けてY副社長に情報を届けなくてはなりません。これから起こる大事件を食い止めるための第一歩として」男はそう言って地図を広げ始めた。「これから起こる大事件とは何だね?」秘書課長が男に尋ねた。「それは、私も知りません。私の任務は初動の捜査を命じられただけで、事件の詳細を知っているのは限られた人、ごく一部の人々だけです。申し訳ありませんが、お答えしようにも知らない事までは答えられません」「分かった。Y副社長が話さなかったのは、機密が漏れるのを防ぐためだろう。事は私達の想像を超えた事件で、それをY副社長達が全力で阻止するつもりなのだろう。2人共聞いてくれ。我々の働きが事を左右するかも知れないとしたら、大変だがともかくやるしか無い。ミスターJの部下と協力して事に当たろう!Y副社長に選ばれたと言う事が何よりの証拠だ」秘書課長は、事の重要性に気付いた。他の2人も頷いた。「まず、何からかかる?Kとやらの到着の確認か?」「他の2名が既に下でやってますよ。ヤツが着いたら携帯で知らせてきます。それまでに、まずここの周辺の地理を教えてください。中華街へ向かうとしたら、何処を通って行くのですか?」男が問いかける。「そうだな・・・、鉄路ならここからか?車で移動するとしたら、駐車場はここか?」少しづつ地図に書き込みやシールが貼られ、駅の構造や駐車場の位置と構造なども書き込まれていった。新横浜やみなとみらい地区も、次々と同じようなシュミレーションが検討され地図に書き込まれていった。4人の男たちは懸命に検討し、想定し、予測を試みた。ルームサービスで軽食が運ばれてきたところで、少し休憩を取っただけで3時間半はあっという間に過ぎた。そして4時間になろうとする頃、男の携帯が鳴った。「俺だ。来たか!直ぐに写メを取れ!気付かれるなよ!」男はそれだけ言うと携帯を切った。「Kが現れました。いよいよ本番です!」部屋は一瞬にして緊張に包まれた。果たしてこの「にわか探偵チーム」は何を目撃するのか?決死の追跡が始まろうとしていた。

ミスター DB ㉞

2018年08月23日 16時47分34秒 | 日記
週末にも関わらず、I氏は忙しかった。用賀事業所の空調設備更新について、打ち合わせの為に上京する必要があったからだ。そこにもう一つ、Kから押収した「実弾と新兵器」を横浜のY副社長に届ける任務が加わったのだから、昼を食べる間を惜しんでの強行軍をしなくてはならなかった。休日にも関わらずY副社長は、本社デスクで図面を凝視して、最終チェックを行っていた。それは、ベトナム工場の地下倉庫の改築図で、何やら「監獄」さながらの部屋へと倉庫を作り変える為のものだった。「これでいい。まずは合格だ」そうY副社長が呟いた時、ドアをノックする音が鳴った。「Y副社長、工場からI氏が到着されましたが、いかが致しましょう?」秘書が居ないので、呼び出されていた品質保証部長が知らせに来た。「すぐにここへ。君も同席したまえ」Y副社長の言葉に部長は怪訝そうな表情をしたが、I氏を伴ってデスクの前に並んだ。「すまんな。折角の休日だが、これから話す事は非常に重要かつ慎重な対応が求められる事案だ。他言は控えて欲しい」Y副社長の言葉に2人は一瞬身を固くした。「まず、例のブツを見せてくれ、I」スーツケースの奥底からI氏は「実弾と新兵器」を取り出して手渡した。暫くその中身を凝視していたY副社長の顔が強張った。「I、これがもしXの手で悪用されていたらどうなっていたと思う?想像するだけでも恐ろしい。今、私の手元に届かなければ、Kが復権するだけでなくDBも復権し工場は混乱の渦中に墜ちていただろう。所でコイツのマスターは何処にあるんだ?」I氏は静かに「まだ、分かっていません。ミスターJの推測では、Kの懐にある様です。ヤツはメモ魔で常に2冊の手帳を持っていました。その内の古びた黒表紙の手帳が、マスターではないかと言うんです」と報告をした。「これはパソコンで打ち出されているから、KがXに渡すために作成したと言う訳か。何とかマスターを手に入れる手段はないのか?」Y副社長はI氏に聞いた。「Kは肌身離さず持ち歩いている様です。これから手に入れるとすれば、住居侵入を本気で考えるか・・・」「おいおい、こちらが道を踏み外してはいかん!」慌ててY副社長は止めに入る。束の間の無言の後「I、Kは肌身離さず持ち歩いていると言ったな。KがZ病院を襲撃する際も、手荷物の中に入っている確率は高いと見ていいか?」「はい、その可能性はあります。Kの事ですからいつ何時でも使えるように所持して来るでしょう」I氏は断言した。「それならば、Kを捕えればマスターも自ずと手に入るな!それを処分してしまえば、永久に悪魔の手は封じられる!XがKに接触するのはいつだ?」「明後日と聞いています」I氏が答えると「分かった。では、Kに持ってきてもらうとしよう。ここで焦っても仕方ない。全てを台無しにする事は避けなくてはならん。私も正直な話、早く叩き潰したくてウズウズしているのだ。汚点を拭う最大のチャンスなのだから。指揮官である私が理性を抑えなくてはいかんな!I,ご苦労だった。証拠品は確かに受け取った。少し時間は取れるか?」「はい、用賀の方が早く片付いたので、後は帰るだけですが・・・、何か?」I氏がそう言うと「君にも聞いておいて貰いたい事だ。部長、DBはどうなっている?帰国の目途は立ちそうなのか?」「はい、昨日の報告では、今日中にケリが付くと連絡が入っています。後は、量産試験を残すのみです」部長は慌て気味に報告をした。「よろしい、DBを呼び戻す時期が来たな。月曜にDBへ帰国指示を出せ!速やかに横浜本社へ出頭しろ!と伝えるんだ。量産試験は他の者を派遣して行わせるとな。何しろ休暇を与えなくてはならない。速やかに2週間の休暇だ!手当の増額も伝えて置け」「分かりました。最速の便を手配して帰国するように伝えます」部長はすかさずメモを取る。「ここにもメモ魔がいる。善なるメモ魔だからいいが、それと部長、現在交通事故で休職中のSの容態はどうだ?復帰の目途は?」Y副社長が続ける。「はい、そちらも昨日報告が入っています。むち打ちと手足の打撲で済んだのは、不幸中の幸いでしたが、回復は思いの外早く、もう歩いたり手を使うにも支障はないと聞いています。首の方は完璧ではないそうですが、月曜に本社へ顔を出す事になっています」「仕事は出来そうか?」Y副社長が確認を取る。「出張は、まだ無理のようですが、デスクワークはやれると聞いています。いずれにしても月曜に本人に会って確認しないと断言は出来ません」「出社は出来ると言う事か?」「本社へ出てくるのは可能です。DBのサポートは出来るでしょう。本人もあまり長く迷惑はかけたくないと言ってます」部長の報告を聞いたY副社長しばし考えを巡らせていた。そしてこう切り出した。「部長、Sを早期に復帰させたい。再来週ぐらいを目標に。Sが座っていた椅子は現在、DBを置いているがSが勤務可能ならば、復帰を急ぎたいのだ。無論、出張などは当面免除するし治療も継続を認める。DBが帰国して休暇に入ったら、Sを課長職へ戻そう。やはり、Sを置いて他には代えられん!」部長はびっくりして目を剥いた。「確かに、Sを起用するのが最善ですが・・・、無理はさせたくはありません。病み上がりですし・・・」「部長の心配は分かる。だが、事態は大きく動くのだ!DBには異動命令を出さねばならん!SをサポートするためにWを総務から差し向けよう。それで何とか乗り切って貰いたい。済まんが宜しく頼む」「DBはどうされるのですか?」部長が恐る恐る聞くと「ここだ!」と言ってY副社長はデスク上の図面を突いた。「Iは分かっているが、部長には何も知らせていなかったな。この図面はベトナム工場の地下倉庫の改築図だ。ここへDBを異動させる。DBはこれから大罪に加担して逮捕される予定なのだ。もっとも証拠不十分で警察からは釈放されるが、私はDBを解き放つ意思は無い!!この特製の監獄へ送り込む!DBは会社から抹殺するんだ!」I氏と部長は図面を見て顔から血の気が引くのを覚えた。出入口は1か所のみ、三重の鉄格子扉、窓は無くあらゆる場所に監視カメラが据えられるようになっている。地下なので壁や床はコンクリート製、「獄舎」と言うのがぴったりだ。「DBは何の犯罪に手を染めると・・・」部長が問いかけると「君が知っていいのはここまでだ!部長はこれ以上深入りするな!Iよ、どうだDBの新居は?」「快適すぎますね!まかない付きの高級マンションじゃありませんか。リゾートとすればVIPクラスですか?」「その通り。私が贅を尽くしてもてなすのだ!」Y副社長は笑みを浮かべながら答えた。「Iよ、見ての通り準備は着々と進んでいる。後は、客を迎えるだけだ。ミスターJと連携して、お客様を丁重に送り出してくれ。歓迎の用意は済んだ!それから、部長、ここで見聞きした事は他言無用だ!くれぐれも迂闊に動いたり話したりしないでくれ!今回の一件は非常に重要かつ危険な計画だ。素知らぬふりを決め込んでいるんだ!2人共宜しく頼む」「はっ!心得ました!」I氏と部長はY副社長の部屋を辞していった。

DBは、韓国の工場のクリーンルームでヘタバッテいた。「これで帰国だ!休暇だ!割増手当だ!」ヤツはよろめく様に宿舎へ帰ると、ベッドへダイブして眠りこけた。どの位の時間が経ったのか分からないくらい、いびきを立てて寝入った。やがて、けたたましく電話が鳴り始めた。DBは携帯を探り当て寝ぼけ声で受信ボタンを押した。相手は部長だった。「お休みの処、済まんな。機械の方はケリが付いたそうだね。ご苦労」時計の針は午前10時を指している。ピッタリ10時間眠っていた事になる。「いえ、夕べも日付が変わるまで格闘しておりましたので、寝過ごしました。申し訳ありません」DBは珍しく下手に出た。それ以上に疲れ果てていて気力も失せていた。「済まないが、至急帰国して横浜本社へ出社して欲しいんだが、最短で何時になりそうかね?」部長が誰何している。「明日、一番のフライトだとすると、午後には本社へ出向けますが、まだ量産試験が終わっていません。どうするんですか?」「交代要員は、今日のフライトで向かわせた。君には大至急休暇に入ってもらわなくてはならない。実はY副社長から大目玉を喰らってね。働き過ぎだから至急帰国させろ!との厳命なんだ。特別手当を受け取って2週間の休暇だ。明日、一番のフライトで帰国してくれ。引継ぎは必要ない」部長が妙に急かすので、DBも一瞬「変だ」とは思ったが、帰国命令が降って来たのだ。帰れと言うなら喜ぶべきだ。「承知しました。明日の午後には出社します」と答えつつ表情は満面の笑みがこぼれていた。「ヨッシャー!ここともおさらばだ。超特急で帰るぞー!!」ベッドから跳ね起きたDBは、航空券を手配して荷造りにかかった。やっと帰れるのだ。特別手当も支給されるのだ。「まずは、中華街で一遊びして、ゆっくりと寝るか?!そういえばスナックのボトルがなくなりそうだったな。2本ぐらい入れてやろうじゃないか。ママも喜ぶぞ!」DBは「休暇をどう過ごすか?」で頭が一杯だった。久々のまとまった休暇だ。「誰も俺の邪魔はさせん!」鼻歌交じりに、嬉々として帰国の用意に励んだ。だが、これが「地獄への花道」だとは微塵も思ってはいなかった。翌朝、飛行機の中でDBは「特別手当は20万円は下るまい。いや、30万は来るだろう?!」と皮算用に余念がなかった。しかし、DBは特別手当を使う事もなく国外へ追放される宿命をまだ知らない。天国から地獄へ。真っ逆さまに転げ落ちるのである。

ミスター  DB ㉝

2018年08月21日 08時25分28秒 | 日記
週が空けて2日目、K とX が接触を図っていた。

「X、どうだった?看護士ルートで成果はあったか?」Kはせかせかと訪ねる。「ありました!友達の友達が大学病院に勤務している事が判明しました!」Xもやや興奮気味に答えた。「よし!でかした❗それでヤツの転院先の情報は手に入りそうか?」すかさずKが誰何する。「ええ、でも1つ問題がありまして、壁に突き当たってるんです」Xの声が急にトーンダウンした。「なるほど、そうか、お前揺すられたな?看護士に。実弾をよこせか?」Kは鼻で笑う。「その通りです。情報が欲しければ15万円を出せ‼️と言うのです。足下を見られまして。申し訳ありません」Xは悔しさを隠さない。「安心しろ!X、俺は15万円を払う!何としても情報を手に入れるんだ!」Kは即断した。Xは腰を抜かさんばかりに驚いた!Kは実弾を用意すると言うのだ。「X、何の当てもなく探し回ったとすればだ、同じ位のカネは当たり前にかかるよ。それでヤツの所在がわからなかったとすれば、ドブに財布を捨てるに等しい。今、実弾を用意してヤツの所在が確実に分かるなら、カネと時間と手間が省ける以上の効果がある!看護士だって危ない橋を渡るのだから、この位は吹っ掛けてくるさ。俺は20万円と踏んでいた。処が15万円で済むんだろう?上出来だ!」Kはほくそ笑みながらXをなだめた。ついに手掛かりを掴んだのだ。後は偵察と実行計画を練ればいい。「実弾の送金は私がやります。口座も確認してありますから」Xが言うと「分かってるじゃないか❗俺はあくまで黒子でなけりゃならん。だから記録に残るのは避ける必要がある!実弾の送金はお前に任す。指定日は何時だ?」Kはまだ気付いてもいなかったが、用心する気配は見せた。「明後日です」とXが答えると「明日の帰りに俺の家へ来い、実弾と別の新兵器を渡す!それでだな、X、お前を見込んでもう一つ任務を実行して貰いたい!かなり難しいが、俺の新兵器があれば充分に実行可能だ!」Xは「何をするんです?」とKに聞いた。「ヤツの最近の病状を知りたい。どの程度息を吹き返しているか?だ。それが分かれば、こちらも打つ手が広くなる。恐らく、Y副社長は定期的にヤツの病状を確認しているはずだ。そのコピーは、工場に送られて総合保全課のi が保管しているだろう。情報を共有するためにな。そいつを盗み出すんだ!」「しかし、総務への侵入は余程の理由がなくては、困難です。ましてや、書類を持ち出すとすれば、人目を避ける事や鍵をこじ開ける策略がなくては、実行出来ません。それとも何か手があるんですか?」X は凍る思いで問い返した。工場の心臓へ侵入する術などあると言うのか?「俺の新兵器さえあれば何処へでも侵入可能だ!お前、T を知ってるな?今日も納期について詰めをしただろう?T を操ればいいんだ。俺はT を操る操縦装置をお前に渡す。T が見れば何も言わずして、こちらの言うことを聞くはずだ!」Kは自信満々であった。それもそのはず、「操縦装置」とは個人の弱みや失敗や弱点を纏めた「揺すり教本」であった。Kはこれらを駆使して人にタカり、脅し、屈服させてのしあがって行ったのだ。こうした「ネタ」が今、X の手に渡ろうとしているのだ。悪用すれば、X がK2世となり、悪行が蔓延る恐ろしい事態になる。X は「分かりました。T を操って任務を果たして御覧に入れましょう❗お任せ下さい!」と静かに答えた。「よし!任せたぞ!本当ならDB が受け継ぐモノだったが、今となっては後継者はX お前しかおらん!俺の新兵器を駆使して天下を取るがいい!そして我らの復権を図れ‼️」Kは高揚しながら吠えた。X は電話の向こうでガッツポーズを取っていた。「さて、明日、必要なモノを渡す。分かってるだろうが、背中にはくれぐれも気をつけて来い!2週間以内に俺の必要なモノを揃えろ!詳しくは来た時に補足する。ではX 待っているぞ!」「はっ、心得ました!」X は電話を切ると同時に大きなため息を着いた。「何処まで悪事に手を染めればいいんだ?何だかんだ言っても俺はKの駒からは抜けられない。だが、他の仲間達はこれ以上深入りさせないで、手を引かせよう。犠牲者は少ないに越した事はないからな」X の偽らざる本音だった。

K は庭の池のほとりで携帯を操って、DB に知らせようと躍起になっていた。「吉報だ。早く知らせて置かねば!」だが、いくらやってもDB に通じない。「海外へ飛んだか?DB も気の毒だ。だが、それも間もなく終わる!我らが再び栄光を取り戻し、全てが思うがままになる日は目前に見えたのだ!最後に笑うのは俺たちだ‼️」K は勝った事を確信し、1人感慨にふけり、余韻に酔っていた。

それから3日後、工場の最も奥にある「所長専用応接室」に、複数のメンバーが集まっていた。電話会議システムを通じてY副社長も参加していた。初めにK とX の会話が流れて、最新のK の動向を確認した上でi 氏がX に話しかけた。「看護士ルートは、振り込みをしたのか?それとK がよこした新兵器とやらは?」X は神妙に「振り込みはやってません。大学病院の看護士さんとも連絡は取ってないんです。あれは私の出任せでハッタリを掛けただけです。K がよこした実弾と新兵器なるものは、ここにあります」そう言ってX はテーブルの上にK から受け取った物品を並べ、i 氏に差し出した。「そうか、また証拠が増えたな。X よくやった!悪事の片棒を担がせて済まなかったが、君が我慢してくれたお陰で殲滅への歩みが進んだのだよ。感謝する!」電話の向こうからY副社長がX を称え労った。「しかし、2つの文書をK に渡さなくてはなりません。Y副社長、どうやって切り抜けるおつもりですか?」X が不安げに言葉を絞りだした。「ミスターJ 、X へ説明を」i 氏が促した。「X 、君に手渡す予定の文書は、ある意味、本物だ。ただし、作成は私達の仲間が請け負う。Y副社長、A に話は通しました。看護士から手に入れる彼の転院先の情報は、横浜市のZ 病院に関するメモ、総務から手に入れる彼の病状に関する情報は、Z 病院精神科医師からの報告書に決まりました。どちらも法的根拠とはなり得ない、非公式なスタイルにします」ミスターJ はさらりと答えた。「Z 病院か?あそこはよくしっている。毎年、人間ドックを受診しているからな。ミスターJ 、仲間がいるのか?」「ええ、A のご主人が内科部長、ご子息が精神科医として、勤務しています。病棟も閉鎖病棟ですから、申し分なく策を練れます」ミスターJ はさらりと言う。Y 副社長も唸るしかなかった。策略を巡らすには最適な病院だったし、医師2名が協力者である。「ミスターJ 、後は私のさじ加減と言う事だな?」「その通りです。舞台は揃えましたから、存分にされて構いません。A 達も今回に賭けてますから、彼らも全力でサポートしてくれるでしょう」「ミスターJ 、チャンスをありがとう。最高の千秋楽を迎えられそうだ❗その為にはX 、もう一肌脱いで欲しい。K とDB をZ 病院へ向かわせるのだ!これは正義の為の役割だ。さりげなくでいい。K に情報を渡すんだ」Y副社長が改めてX に念を押した。「これが最後だよ。もう、苦しい思いは消えるだろう。お前の手で苦しみを振り払いに行くんだ!後はY 副社長やミスターJ 、私が引き受ける」i氏がX に諭すように 言った。「私と他10名の仲間達は、解放して貰えるんですね?本当に許されるんですね?」X は真剣に聞いた。「今回の働きに免じて、過去は不問にする。地位も回復させる。私が嘘は付かないのは知ってるな?X 安心しろ」Y 副社長が電話の向こうから保証した。「ミスターJ 、K の追跡を頼む。恐らくX から情報を受け取った後はK は単独行動に移るだろう。要所を抑えて私に知らせて欲しい。DB は間もなく帰国させ、休暇を与えて泳がせる。DB の監視はこちらでやるが、K と接触する時期は判断出来ない。そちらからの情報が頼りだ!」「既に鉄のタガを張り巡らしてあります。そちらへ向かった場合は、直ぐに通報しましょう。ヤツは用心はするでしょうが、こちらに包囲されているのは気付いていません。隙は山ほどあります」ミスターJ に続いてi 氏にも指示が飛んだ「K の実弾と新兵器なるモノを届けて貰いたい。週末、横浜へ来れるか?」「用賀に出向く用がありますから、先に伺います。その際に今後のご指示もお聞きしましょう!」「諸君、いよいよ決着の時が来た!ヤツらを殲滅する日は近い!細心の注意を忘れずに、任務を遂行してくれ!勝利は我らの手にある!これが最後の闘いだ‼️」Y 副社長が高らかに宣言し「イエス、サー!」と応接室の皆が応じた。矢は弦を離れた。突き刺さる先には、K 、DB が居る。これが決戦前の最後の謀議だった。



ミスター DB ㉜

2018年08月20日 17時20分47秒 | 日記
金曜日の夕方、病室に訪問者が現れた。前回、Kについて知らせに来た看護師さんだった。「明日、Kの配下の者達が病院に来る事が分かりました。貴方が入院している証拠を得るためです。だから、明日は病棟から出ずに立て篭もって下さい。これはミスターJからの伝言です!売店に行くなら今の内に済ませて置いて」「貴方は、ミスターJとどういう関係があるんですか?」私は聞き返した。「遠い昔、私とミスターJは貴方の会社の組合を抑えていたの。組合をひっくり返された後、私は看護師になり今は老年科の副師長をやってるわ。会社のオジサン達も今の私を見破ることは無いでしょうね。安心して、ミスターJが動いている以上心配はいらない。私も院内で見守っている。とにかく明日は病棟から出ない事!そうすればKは手も足も出せないわ」「分かりました。早速買い出しに行ってきます」私はそう言って、財布を取り出した。「私は、Aと言うの。何かあれば呼んでくれればいいわ。明日、明後日は病棟の上に居るから。以外に院内に貴方の味方は多くいるのよ。じゃあお願いね」そう言って彼女は帰って行った。私は売店に行き、2日分の買い物をして病室へ戻った。「籠城戦ですか、兵糧攻めは通用しないが、Kもここには入れない。しびれを切らすのは誰だろう?」私は何が起こっているかは知らなかったが、不安は感じなかった。ミスターJがいずれ私に知らせをよこすと信じて。

Kは、改めて思いを巡らせていた。今までは、関東方面へ私が向かったと言う情報を元にして探索を進めた。だが、あまりにも探す範囲が広大で無駄足ばかりだった。対象を絞る必要があるが、私は何処に潜伏しているのか?「相手はY副社長だ。俺達のウラを突いているに違いない。ひょっとすると足元、大学病院に隠れ失せている事は否定できないな!」Kはうつろ気に呟いた。ただ、気になる事がない訳ではなかった。目の届きやすい範囲にY副社長が匿っている事も否定出来ない。「だとすると、横浜、川崎、町田あたりか?神奈川に絞るべきだな!」だが、まずは大学病院の状況を見極める必要がある。「可能性は低いが、ゼロではない。正面からの突撃は無理だ。搦め手の木戸をこじ開けられれば・・・」その時、電話が鳴った。転げるようにして受話器を掴んだKの耳元にXの声が聞こえて来た。「おう、Xどうだった?」Kは期待を込めて聞いた。「すみません。音沙汰なしです。病棟の入り口とエレベーターホールを中心に監視をしましたが、ヤツの姿は確認できませんでした。明日も張り込んでみますが、病棟に潜入を強行しますか?」Xは結果が出なかった事に対して焦りを滲ませていた。「いや、潜入はマズイ。返って監視が強まるだけだ。それより、仲間内に看護師に繋がっているヤツは居ないか?兄弟、親戚、友人に看護師が居るヤツだ!」Kは興奮しつつXに問うた。「確か2人、友達に看護師をやっているのが居たはずです・・・」「よし、至急そこへ繋ぎを付けろ!看護師繋がりで大学病院へたどり着けるかも知れんし、ウラ情報が取れれば儲けものだ!」Kは興奮していた。Xは「病棟の監視はやりますか?」と聞き返した。「うーん、やるとしても後、半日だろうな。今日で既に逆監視の目が付いている恐れがある。DBの時にやり過ぎたからな!向こうも馬鹿ではない。ともかく半日で撤収しろ!正面はここまでだ。搦め手からの攻撃に期待する」Kはいつになく慎重な姿勢を見せた。「それからなX、横浜近辺の病院のリストを至急揃えてくれ!精神科病棟のある大病院だけでいいから。ひょっとすると我々は、後手を踏み続けている危惧がある!」「分かりました。月曜の夕方までにはお届けに上がります。」Xは神妙に答えた。「看護師の方も出来る限り早く手を付けてくれ。情報が得られるのならば俺は買うぞ!」Kは吠えた。Xは「急いでかかります」と言った。久しぶりのKの咆哮にXも気持ちが高ぶっていた。「1週間以内に成果を出して見せます!」「頼んだぞX!」Kの口元が緩んだ。電話を終えたKは縁側の池に向かった。色とりどりの金魚が泳いでいる自慢の場所だ。「今度こそいぶり出して見せる!ヤツは修行に行くのだ!DBの敵討ち、Kが果たして見せようぞ!!Y副社長、アンタの負けだ!!!」Kは強烈な火の玉と化していた。

「驚いたよ!なんてクリアな音声だ!これが盗聴の結果とはとても思えん!」I氏は唸るしかなかった。「Xの奥さんの協力の賜物ですよ。K達も足が付くのを恐れて固定電話で連絡を取っているんです。受信機に直接細工をしてあるのですから、雑音も無いクリアな音声が得られるんです」ミスターJは事も無げに答えた。「これでKの動きは確実に分かるが、Xの方の二重スパイ工作はどうするんだ?」I氏はミスターJに詰め寄った。「もう落ちてますよ」ミスターJは素知らぬ風で答えた。「何、落ちてる?!Xは協力するのか?!」I氏は目をむいた。「そうです。もうY副社長との取引も成立しています。身の保証と貶められた地位の回復を条件にね。他の10名はXが説得して上申書を提出してます。Kは丸裸同然ですよ。本人はまったく気づいてませんが・・・」さらりとミスターJが言うのでI氏は声を失った。「詳しい経緯は私も知りません。しかし、XがKに握られていた弱みについて、Y副社長に全てを話して許しを請い、Y副社長もK・DB殲滅に全面協力をする事を条件に折り合った様です。この間、貴方と電話で話した後、すぐにX宅へ行きましてね、奥さんと説得を試みたんです。ヤツも愚かではありませんから、苦しみから逃れられるなら何でもすると言って同意したんです」「じゃあ今の会話は・・・」I氏は恐る恐る切り出した。「そうです。Xは全てを承知で喋ってますよ。良く聞けば分かりますが、Xは必要な事以外は喋ってませんよね。Kが重要な事を話すようにわざと仕向けるようにしているんです。これを教え込むには少々骨が折れましたが」「そうか!そう言う事か!Kから情報を引き出しやすいように、自分を抑えているのか。Kに喋らせる事で必要な情報を得ていると言う訳か」I氏は何度も頷きながら言った。「だが、看護師ルートはどうする?Kに気取られないように切り抜けるにはどうするつもりだ?」確かにI氏の懸念は的を射ている。だが、ミスターJは動じる事も無く平然と言った「看護師ルートを逆探知した所、大学病院へ繋がっている事は確認しました。Kの見込みは当りでした。しかし、大学病院には爆弾が仕掛けてあります。Kがたどり着くのは、貴方もご存じのAなんです。私とAの関係は説明する必要はありませんよね。Aから得られる情報には、彼が神奈川の病院に潜伏していると言う内容です。Kの目は大学病院から神奈川へと逸れる仕掛けです」「Aとは、懐かしい名前だ。彼女が協力するのか?」「そうです。彼女のご主人とご子息も協力してくれます」「Aの家族まで協力するとは、どういう事だ?」I氏は怪訝な表情を浮かべた。「ご心配なく、Aが手渡す神奈川の病院の情報とは、Aのご主人とご子息が勤務している病院なんです。Y副社長も毎回人間ドックで利用されているこの病院には、閉鎖病棟があるんです。患者との面会には警察の留置場と同じ構造の接見室を利用するしかありません。だからそこを選んだのです。後は接見室を包囲すればいい。Y副社長もご満足そうでしたよ」I氏はまたしても沈黙した。「Aも私もそうですが、昔の恩讐でやってはいません。K・DBのやった事は人の道に外れた行為。そんな奴らがぬくぬくと生きて、彼が一身に負の荷物を背負わされる。こんなことは誰が見てもおかしいことです。ある意味Xも犠牲者です。真面目に一生懸命に生きようとしている中、不条理を盾に崖から転がり落される者がいる。こんなことはもうあってはならない。これきりで終わりにしたい。Aも自分の患者に対して、酷い事を画策するK・DBの非道は自分の手で止めると言ってました。私も彼を救うことで間違いを改めたい、改めて欲しい、その一心でやってるんです。ほかの仲間たちもそうです。悪逆非道を止めるためなら、協力は惜しまない。無理を承知でやってくれる。これは、思想信条を超えた人道支援ですよ」ミスターJはよどみなく話すとI氏に「これを密かにY副社長の元へ届けてください。マスターは私が責任を持って管理します」と言ってテープを差し出した。「これは俺からの報告書と共に極秘に送るよ」I氏は懐にテープをしまい込むと「彼を救う事は会社の使命だ。俺だって悪逆非道を黙認するつもりはないよ」と言ってミスターJと握手を交わした。「今度こそ倒して見せる」二人の共通の目標が決まった。

ミスター DB ㉛

2018年08月17日 22時37分23秒 | 日記
「貴方の身にまた危険が迫っています。近々、ミスターJから通知が入ります。くれぐれも油断しないで下さい!」見知らぬ看護師の女性は、声を潜めて私に告げた。「DBが特攻隊でも率いて来ると言うのですか?」私が問うと「いえ、Kがまた何かを画策している意図を察知したのです。貴方をたまたま見かけた社員が、Kに通報して水面下で不穏な動きを見せ始めています。詳しい事はまだ分かりませんが、いずれ何らかの動きがあるでしょう。貴方は事の次第が分かるまで、周囲に気をつけて❗私がミスターJと貴方を繋ぎます。指示があれば直ぐに知らせに来ますから安心して下さい」そう言うと彼女は病室から出て行った。また、荒波が迫って来る。今度はどうなるのだ?いずれにしても面倒な事が起こりつつあるのは間違いない。


「クソ!また、帰れず仕舞いか!!」岡山駅の新幹線ホームで、携帯を叩き切ったDBは毒づいた。鳥取での案件をようやくにして捩じ伏せ、横浜へ帰るために、岡山駅まで引き返した矢先、本社からの「緊急指令」で福岡空港へ向かう羽目になったからだ。「恐らくは中国だろう。探りを入れるには絶好の機会だ。俺のコネクションを甘く見るなよ❗」DBは、うそぶきつつ西へ向かった。

「Kの元配下に不穏な動きがある?それは何だ?」Y副社長は電話口で真顔で聞き入っている。電話は「ミスターJ」からの通報だった。私を大学病院で見かけたと言う話が、Kの耳に入り元配下が密かに動いている事が「ミスターJ」の監視網に掛かったと言うのだ。「ミスターJ、阻止もしくは撹乱はできそうか?今が一番の正念場だ。無事に救い出すためにも、時間稼ぎは必須だ❗何としても迷惑は掛けられない」Y副社長は不安を隠さなかった。「この際、あらゆる手を尽くして欲しい。後の始末は、私が引き受ける。何とか叩き潰しに掛かってくれたまえ。iにも情報は流れているんだな?済まんが宜しく頼む。DBは、私に任せてくれていい。手出しはさせん。また、状況は知らせてくれ。分かった。では」電話を切ったY副社長は、部下を集めて次々に指示を与え、毅然として言った「今度こそKもDBも根こそぎ切り捨てる。私を甘く見た報いだ❗」

「韓国?今さら何で出向く必要があるんです?」DBは品質保証部長に携帯で噛みついた。福岡空港で落ち合った部下から、指令と航空券を受け取ったものの、納得が行かないDBはぶちギレかかっていた。部長は必死にDBをなだめ透かしにかかる。「Y副社長直々のご指名なんだ。あの設備に関しては君以外に適任者がいない。中国へ移管するに当たり、問題を解決出来るのは、メーカーと君の協力が不可欠なんだ」「しかし、事は1週間で片付く様な生易しいもんじゃありません。1カ月はかかります。それに私の休暇の件はどうなるんですか?もう2週間ぶっ通しですよ❗私をともかく横浜へ戻して、他の誰かを行かせられないんですか?」ヤツも苛立ちを隠さない。だが、部長は「君しか出来ないから」と譲らない。あまり上司の心情を悪くするのも得策では無い。DBは遂に折れて、韓国へ飛んだ。「帰国したら2週間の休暇と手当の増額」が条件だった。電話を終えて、DBの出国を確認した部長は、Y副社長へ連絡を入れた。「ご指示の件、手配を終えました。2カ月は戻しません」「よし、何があってもヤツを帰国させるな❗抜かりは無いな?」Y副社長は念を押す。部長は「メーカーには徹底的に時間をかけるように指示しました。簡単には帰れません」と答えた。「よろしい。DBからの連絡はのらりくらりで頼む」Y副社長は電話を切り、独り言を言う「まずは一手、次はどう出るK ?❗」

ミスターJとi氏は、自宅の固定電話で「方策」について協議していた。「Kの動きはまだ分かりませんが、元配下の連中が大学病院へ探りを入れる準備を始めているのは、分かっています。彼が見つかったのは偶然です。Kは半信半疑の域を出ていないでしょう。だから、配下の連中が大学病院へ行くのでしょう」ミスターJは落ち着き払っている。「まだKが諦めていなかったのは分かるが、動いている連中はどの程度の人数なんだ?ヤツらは解体させられて処罰を食っている。今度、垣根を越えたら首切りだぞ!Kも元配下も正気か?」i氏は半ばあきれ果てていた。「前回の一件で唯一、処罰を免れたXを覚えていますか?ヤツが八方に働きかけて10名を呼び戻す事に成功しています。今、大幅に生産が遅延しているNデジタルの量産に不可欠だと主張して。ですから、11名が再集結してうごめいているんです。これにKを加えると12名になります。手強いヤツらばかりですよ」i氏は「信じられんが、いつの間にこんな所帯を作り上げたんだ?人事に関してはXだけでは覆す事はできんぞ!誰がバックに居るんだ?」とミスターJに誰何した。「恐らく、組合でしょう。Xは役員です。各事業部に掛け合う機会は多いし、Nデジタルの問題は全社的な事案になってます。これを盾にとれば、抜け道はいくらでも用意できますし、本部から本社へ話を持ち込むルートもある。組合を後ろ楯にする手口はKの入れ知恵でしょう」「分かった。その手口ならあり得ない事でも無いな。で、どうする?下手に動いては彼に危害が及びかねない。だが、何も手を打たなければ、Kの思うがままだ。どうすればいい?」i氏も困惑を隠さない。「一つ試して見たい手はあります」ミスターJは言った。「KとXの間にはスキがあります。Kは退職してますから、直接的なものが見えない。どうしてもXを経由するしかないんです。もし、仮にKとXの間に楔を打ち込めれば、撹乱する事は可能ですし、詳しい手の内が覗けます」「どうやって楔を打ち込むんだ?」半信半疑でi氏は聞き返す。「Xの奥さんは今パートでウチの工場に来てますよね?彼女の職場には私達に協力してくれる社員が数名居ます。これが何を意味するか?はお分かりでしょう?」「まさか、本気か?」i氏は絶句した。「そうです。奥さんにスパイ活動を依頼するんです!」「それだけじゃないな!まだ、あるんだろう?」i氏は半ば呆れつつ聞いた。「Xを二重スパイに仕立てます!身の保護と10名の部下の地位の保証をエサにして。Kはともかく彼らには生活がかかってます。もうこれ以上の転落は避けたいはずですから、食いついては来ると思いますよ!」「もう、始めてるのか?」i氏が聞くとミスターJは「察しが早い。既に奥さんは落としてあります。Xも時間の問題です」と答えた。「そうすると、Kにはどんな情報が行くんだ?ヤツとDBを根こそぎ一掃するのがY副社長の目的だぞ!」i氏は心配しつつ聞くと「そこが私の腕の見せ所ですよ。Xから流れる偽物の情報によって、ヤツらは破滅するんです。無論、貴方にも手伝っていただく必要性がありますが、構想は固まりつつあります。Y副社長の承認さえ得られれば、シナリオを演じるだけでヤツらは破滅です」「分かった。存分にやってくれ!俺の演目はちゃんと教えてくれよな。これからY副社長に説明するんだろう?俺はすべて了解済みだと伝えてくれ!また、何かあれば電話をくれ」i氏は電話を切り、ふと考えにふけった。Xを二重スパイに仕立てるとは、壮大な話だ。だが、Y副社長にして見れば、KもDBも仇敵である。「本気を出されたと言う訳か、久し振りだ。あの方の本気程恐ろしいものはない!」ミスターJとどう言った話が展開しているのか? i氏は興味津々と想像を巡らせると同時に底知れぬ恐怖の結末を感じていた。