私がまだサラリーマンだった頃、ある電器電機業界の関連メーカーの設計者でした。製品の設計をするのに一番重要なことは信頼性でした。例え壊れても製品が燃えたりする方向に壊れてはなりません。そういう信頼性の設計を行うことが一番重要でした。
そのため新製品を世に出す時は、設計段階で関連部署の人達が集まって、どういう故障事象があるかということを洗い出す工程がありました。それは数時間で終わるようなものではなく、数日間もかけて、ひたすら故障事象のあり得る可能性のパターンを網羅的に埋めて行くという地道な作業でした。日本の製品の信頼性が高いのは、このような地道な膨大な作業を一つ一つこなしていく日本人の真面目さに寄るのも大きな理由だと思います。
その電器製品で絶対起きてはいけない故障事象をたとえば「製品が燃える」と最初に決定すると、ではどういう条件が重なったら、その製品が燃えるか。という条件を総当たりで洗い出すのです。それは設計の不具合もあれば、製造時の不具合もあるでしょう。ユーザーの想定外の使用方法もあります。こうしてその製品の寿命の中で起こり得る、発火事象のパターンを数日かけて10名以上のチームメンバーで洗い出すのです。
この製品が市場で発火を起こすとしたら、この条件の組み合わせ以外はあり得ない。という条件が、この過程で洗い出されます。この最悪事象が発生しえる条件の組み合わせの全てが解明されれば、もうその製品開発の信頼性検証は半分以上終わったも同然です。
その最悪事象がどういう条件で起こるか、さえ明らかになれば、それを防ぐために、どういう設計をすれないいのか、どういう製造管理をすればいいのか、どういうボタン、どういう形状、どういうマニュアル、どういう注意書きにすてばいいか、そういうこと作業に落とし込めます。
製品が発火するとしたならば、その理由はたった一つです。それはその発火条件が、メーカーが想定外だったからです。想定していたことは起こりません。最悪事象は想定外のことしか起こらないのです。
最悪事象の洗い出しイベントで大切なことは、複数の分野の経験豊富なマスターと呼ばれる大先輩の設計者が同席することでした。
私などの若造は最悪事象の条件はなかなか思いつきません。「ああ、この設計部分は問題ないですね」と先へ急ぎます。しかし重鎮のマスター設計者は違います。
「ちょっと待って。まるぞう君、この部品が○○の時、ユーザーが△△の使い方をして、その時周囲が□□だったらどうかね。」
まさかそんな想定外のことは普通は起こり得ませんよ。というと、この洗い出し工程はどういう組み合わせで最悪事象が起こるという条件を洗い出すのが目的なはずだよ。どんなに確率が低いように思えても、起こり得るのであればそれは書き留めておかなければならないのだよ。きちんと議事録に書いて下さい。そのようにさとされます。
チェっ。面倒くさいなあ。と心の中で思いつつ指摘事項を渋々書き留めます。こんなのただの儀式なんだから、ちゃっちゃっと終わらせればいいのに。こんなのすっ飛ばしたって、私の設計した製品が燃えるわけないのに。そう内心思っておりました。
しかしいろいろな人生の経験をした今、先輩マスター設計者の気持ちが痛いほどよくわかります。彼もまた若い頃から、山ほど厳しい失敗を繰り返してきたことでしょう。泣きの涙で悔やんだ失敗の経験を数多く重ねてきたのでしょう。
経験の浅い若造は最悪事象を想定するのは苦手です。そして顔から火が出るような失敗を繰り返すことで最悪事象の想定引き出しが一つずつ増えていくのでした。
この失敗経験の引き出しの多さこそが、人生の達人係数とも言えると思います。最悪事象を想定する時に、事前に観えるパターンがたくさんある人のことです。
しかし人のせいにする失敗は密度が薄いです。きっと。そんな他人のせいに転嫁する言い訳失敗は百万回繰り返しても、経験値は上がらないです。きっと。多分、悔し涙の失敗こそが自分の引き出しの経験値を上げて行くことができるということです。
その自分に対する悔し涙の数が多ければ多いほど、きっと引き出しの経験値をあげ、自分が観えてくる人生の景色も変わって来るのでしょう。
おひさま、ありがとうございます。
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