あれは,あれで良いのかなPART2

世の中の様々なニュースをばっさり斬ってみます。
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裁判所<議会っていう訳にはいかない

2009年11月28日 21時53分43秒 | 地方自治
神戸市が外郭団体に支出した補助金が違法であるなどとして市長らに返還を求めるように訴えた住民訴訟の控訴審判決で,大阪高裁は,1審判決に引き続き,違法支出と認定し,55億円を市長や外郭団体に請求する旨言い渡しました。神戸市は,1審判決後に請求権をすべて放棄する旨の条例を制定したことから請求権は存在しないと主張しましたが,大阪高裁は住民訴訟制度を根底から否定するものであるなどとの理由から当該条例の効力を否定しました。
神戸市側は上告をする方針とのことで,今後,最高裁で一定の判断が下される見込みとなります。

神戸市に55億円返還求めるよう命令=外郭団体人件費訴訟-大阪高裁(時事通信) - goo ニュース

議会は決して万能ではない

この問題,実は神戸市以外でも全国各地で発生しており,総務省も地方自治法改正も視野においた検討を行っているところでした。
住民訴訟を提起しやすくなったことや,住民の権利意識が高まったことから,自治体の支出に対する目が厳しくなりました。そして,その結果,住民訴訟で住民側が勝訴し,自治体が首長等に対して返還請求をしなければならないという判決が増えてきました。
通常の裁判なら,この判決により最悪強制執行までできる状態になります。つまり,判決に従わざるを得ないはずです。
ところが,地方自治体にはウルトラCがありました。それは,議会による権利放棄です(地方自治法96条1項10号)。つまり,判決により,自治体は首長に対して返還請求権という権利を有しているわけですが,議会が多数決で「まあ,そんな返還請求権,ちゃらにしましょうや。」と決めれば,すべてがパーになるのです。
そうです,この条項を使えば,裁判所の判決を紙くずに変えてしまう魔法をかけられるのです。ってことは,もっといえば,「議会が与党の首長は,結局どんな違法支出をしても恐くない」ってことになるのです。なぜなら,住民訴訟で負けたとしても,議会で負けをチャラにできるからです。
そうなると,もはや「裁判所<議会」となり,多数決の横暴を防げなくなります。

今回の高裁判決は,こうした横暴自体を真っ向から否定しました。
通常,議会の議決は民意を忠実に反映したもとして扱われますから,裁判所も議決を否定することはなかなかできません。
しかし,今回の場合は,さすがに民意の反映っていう単純な理論で議決を優先してしまうと,住民訴訟制度自体がないがしろになるっていうことが明かです。
そこで,大阪高裁は,まず「どのように議決をしたか」という点に注目しました。ここで,民意が本当に反映された議論をされていたのであれば,裁判所も「それなら仕方がない」っていう判断をしたと思います。
ところが,今回の神戸市の場合,市長や外郭団体の資力調査を一切行わないことや,それを放棄すると市の財政にどのような影響を与えるかなども一切考慮していないことから,「そんないい加減に放棄するような議決は,さすがに民意を反映させたとはいえないだろう。」ということで,「議決に合理的理由はない」と認定しました。
その上で,「裁判所の判決が出たのに,市長に対して請求権を行使しないなんて,裁判所なめとんのか,こら」っていう思いがでたのでしょうか,「請求しないということは,住民訴訟制度を根底から否定するものだ。」と判断し,「議決権の濫用」と認定しました。

この高裁判決は,当然の法理だと思います。確かに,議会の議決は民意が反映されるものですから,たとえ裁判であったとしても,やたらと議決を否定するわけには行かないでしょう。これが簡単にできてしまったら,逆に「多数意見がないがしろにされる」っていうことになるからです。
しかし,多数決だから少数者の権利を奪っていいということはありません。そうした少数者の権利を保護するのが裁判所ですから,住民訴訟においても当然,裁判所はそうした視点で判断をしているわけです。
それを,再度多数決で否決できてしまうのであれば,それはもはや少数者の権利を保護する手段が存在しないことになり,多数決の横暴を容認せざるを得ません。もっというと,地方自治体では,「強い者にしたがっておけば,何でもあり。はむかうと,ろくな目に遭わないだけ」っていう弱肉強食の構造を無条件に容認することになりかねません。
そもそも,地方自治法でフォローするべき内容であったのですが,おそらく総務省も法改正の際,まさか自治体がそんな姑息な手段に出ることまで想定していなかったのでしょう。

また,この判決理論をもう少し検証すると,権利放棄に関する議決以外でも,「いい加減な議決」については,「検討不足で議決の濫用」と認定される可能性があります。つまり,議員も,これからは「単純に賛成」ではなく,「しっかり検討し,その結果を議会できちんと残す」ということをしなければ,裁判所に全否定される可能性もあり得るのです。つまり,「バカは議員になれない。」かもしれません。

いずれにせよ,これは最高裁で判断される可能性が高くなりました。全国で似たような議決をして安心している首長も,これでしばらくはゆっくり眠れない夜を過ごすことになるでしょう。でも,自業自得かもしれません。
最高裁の判断を待ちたいものです。

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