豚インフルエンザの脅威が日本にも迫って来ていますが,そんな中,帰国した女性や高校生などが感染したのではないかということで,国内関係機関が大パニックを起こしました。
今のところ,いずれも普通のインフルエンザということで問題はありませんでした。
横浜の高校生、新型インフルでないと判明…厚労省(読売新聞) - goo ニュース
今回,別に初めての対応ではないはず
今回の騒動で,厚生労働省や地方自治体は,あたかも「未知の新型ウィルスに対する対応策ができていない」といわんばかりの対応で,急ピッチで対応マニュアルの作成や,物理的な対応の準備などをしています。
しかし,この話,決して今回初めて出てきたことではありません。既に忘れてしまったかもしれませんが,2001年のいわゆる同時多発テロが発生したとき,その後まもなく「生物兵器テロ」の脅威が世界中を襲いました。そうです,「炭疽菌」や,撲滅したはずの「天然痘」がテロで使用されるのではないかという恐怖が世界中を駆けめぐりました。
そして,厚生労働省は,その後すぐに生物テロ対策のマニュアルを作成し,それにあわせて各地方自治体でも対応マニュアルを作成しました。
今回の騒動は,「テロではなく自然発生」という点を除けば,基本的にはすべて同じです。つまり,「水際対策」と,「国内発生時での感染拡大防止」,そして「ワクチン増産など医療体制の充実」です。
このマニュアルどおり対応すれば,今回,日本ではそんなにパニックにならずに行政機関は対応できるはずなのです。しかし,実際は,かなりのドタバタ劇が発生し,しかも国と地方の押し付け合いが始まり,さらには「偏った情報提供」が発生するなど,「変なパニック」が発生しています。
なぜでしょうか?理由は簡単で,「昔作ったマニュアルを活かしていない」ことと,「作ったマニュアルに基づく訓練を全くしていない」こと,そして何よりも「昔作ったマニュアルとは事例が微妙に違うことを理由に対応ができないという融通の利かない危機管理体制」にあるのです。
あのとき,「生物テロの驚異」で日本中を震撼させたはずです。しかし,厚生労働省はもはやそのことを完全に忘れてしまい,完全に場当たり的な対応をしています。また,地方自治体も,「マニュアルがない」ということで,これまた突貫工事的な対応を始めました。
基本的には,生物テロの対応をすれば,理論上は感染拡大は防げます。なによりも,パニックは最小限に防げます(計画が完璧かは別にして。)。しかし,このことに触れる人がほとんどいません。やはり,日本の場合,「危機管理能力の欠如」は否めないでしょう。過去のことはすぐに忘れてしまうのでは,この先思いやられます。
ところで,今回の騒動,個人的には次の対応が問題なのではと思います。
1 発表の内容が詳しすぎる。
2 誘拐報道時のような「報道統制」がないこと(取材を自由にやりすぎる。)。
3 「発熱センター」など今までだれも知らないような情報を急に出してきたこと。
1についてですが,早期発表それ自体は重要かもしれません。
しかし,まだおそれがあるという段階では,日本中に伝えるべきことは,「ある特定地域で感染可能性がある人がいて,現在調査中。」という程度に止め,その人の性別や年齢など個人が特定できる情報は差し控えるべきです。
感染の拡大防止と予防を考えるという観点からすると,可能性という次元での早期発表は当然ありです。しかし,まだ微妙な段階では,まずはその人及びその周辺の調査に止めるべきですから,先の芸能人の結核のような事例でもない限り,事細かに日本中に伝える必要はありません。
むしろ,今のような発表をして,そのまま報道してしまうと,「新型ウィルス上陸」と誤解して広まるおそれがあり,国内でのパニックの誘発や,風評被害など経済上の損失も発生しかねません。また,「無駄な問い合わせ」や「無意味な苦情」が殺到し,通常業務に支障を来すことにもなりかねません。
のみならず,仮にあとで「問題なし」となったとしても,その人は「日本中からレッテル」を貼られかねず,少なくとも調査をした周辺地域の人々からはこの報道を通じて完全に素性が分かってしまうため,その後あらぬ差別を受けかねません。
少なくとも,「あんな騒ぎに巻き込まれたくない」と今回の報道を通じて感じた人もかなりいると思いますが,そうなると,自分が新型ウィルスに感染したかもしれないという症状が発生したとしても,「なるべく穏便に済まそう」と考えて,医療機関等に正確な申告をしないおそれがあります。
そうすると,もし本当に感染していた場合,取り返しがつかないことになります。
2についてですが,高校生の事例では,学校まで取材に行き,記者会見まで開いちゃいました。
これは,1のような「レッテル」や「風評」の問題を増長させるだけです。のみならず,もし,仮にこの高校生が本当に感染していて,既に学校関係者にも感染させていた場合,どう見ても無防備なスタイルで取材をしていた報道陣が「二次感染」をする可能性があり得ます。すると,気に感染ルートが拡大するおそれが出てきます。少なくとも,報道機関が東京にあるということを考えると,マスコミ関係者自身が連れてきてしまったウィルスにより,一気に都心部にウィルスが蔓延するという巨大なリスクがあります。
これは,生物テロの疑いがある場合も同じです。「マスコミ関係者は感染しない」というルールは,自然界には全く存在しないのです。
したがって,報道機関としては,「誘拐報道のような規制」をするべきでしょう。つまり,国などの最新情報は常時入手する必要があるが,現場の取材は,「プライバシー保護」と「自分が感染して被害を拡大させることの防止」のため,制限するべきです。
3については,「高熱が出ても医者に行くな」という話は,今回初めて聞いた人がほとんどなのではないでしょうか。
これこそ,数年前の生物テロ対策で編み出した「隔離政策」の一環で作られた物なのですが,はっきりいうと「作ること自体に意味がある組織」だったため,なぜか多くの自治体では「極秘組織」になっており,住民に公開されていませんでした。
また,現実問題として,一般の人に発熱の区別なんかつきません。しかも,保健所にあるとなると,自分の住んでいる町にあるとは限らず,実際,そこまで行ける人はごくわずかです。そうなると,やはり,普通は「まず医者」に行くでしょう。
また,「救急車」の利用も想定されます。感染症患者を扱う救急車も現状では皆無なので,この対策も考える必要があります。しかし,この辺りの情報もほとんど公開されていません。したがって,やはり普通に救急車を呼ぶ可能性もあり得るでしょう。
以上が特に気になった点です。
とにかく,「被害を最小限」ということが絶対条件ではありますが,そのためには,ウィルスが出てから騒ぐ」のではなく,日頃から「いくつかの危機管理体制を考える」ということが大切だと思います。そして,一番やってはいけないこと,それは「作りっぱなしにする」ことです。
役所としては,「建物」だけでなく,「計画」も,作るだけで終わり,というスタンスだけはそろそろ止める時期だろうなあ,って思わずに入られません。
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http://184.tea-nifty.com/bousai/2009/05/post-fa6e.html
今のところ,いずれも普通のインフルエンザということで問題はありませんでした。
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今回,別に初めての対応ではないはず
今回の騒動で,厚生労働省や地方自治体は,あたかも「未知の新型ウィルスに対する対応策ができていない」といわんばかりの対応で,急ピッチで対応マニュアルの作成や,物理的な対応の準備などをしています。
しかし,この話,決して今回初めて出てきたことではありません。既に忘れてしまったかもしれませんが,2001年のいわゆる同時多発テロが発生したとき,その後まもなく「生物兵器テロ」の脅威が世界中を襲いました。そうです,「炭疽菌」や,撲滅したはずの「天然痘」がテロで使用されるのではないかという恐怖が世界中を駆けめぐりました。
そして,厚生労働省は,その後すぐに生物テロ対策のマニュアルを作成し,それにあわせて各地方自治体でも対応マニュアルを作成しました。
今回の騒動は,「テロではなく自然発生」という点を除けば,基本的にはすべて同じです。つまり,「水際対策」と,「国内発生時での感染拡大防止」,そして「ワクチン増産など医療体制の充実」です。
このマニュアルどおり対応すれば,今回,日本ではそんなにパニックにならずに行政機関は対応できるはずなのです。しかし,実際は,かなりのドタバタ劇が発生し,しかも国と地方の押し付け合いが始まり,さらには「偏った情報提供」が発生するなど,「変なパニック」が発生しています。
なぜでしょうか?理由は簡単で,「昔作ったマニュアルを活かしていない」ことと,「作ったマニュアルに基づく訓練を全くしていない」こと,そして何よりも「昔作ったマニュアルとは事例が微妙に違うことを理由に対応ができないという融通の利かない危機管理体制」にあるのです。
あのとき,「生物テロの驚異」で日本中を震撼させたはずです。しかし,厚生労働省はもはやそのことを完全に忘れてしまい,完全に場当たり的な対応をしています。また,地方自治体も,「マニュアルがない」ということで,これまた突貫工事的な対応を始めました。
基本的には,生物テロの対応をすれば,理論上は感染拡大は防げます。なによりも,パニックは最小限に防げます(計画が完璧かは別にして。)。しかし,このことに触れる人がほとんどいません。やはり,日本の場合,「危機管理能力の欠如」は否めないでしょう。過去のことはすぐに忘れてしまうのでは,この先思いやられます。
ところで,今回の騒動,個人的には次の対応が問題なのではと思います。
1 発表の内容が詳しすぎる。
2 誘拐報道時のような「報道統制」がないこと(取材を自由にやりすぎる。)。
3 「発熱センター」など今までだれも知らないような情報を急に出してきたこと。
1についてですが,早期発表それ自体は重要かもしれません。
しかし,まだおそれがあるという段階では,日本中に伝えるべきことは,「ある特定地域で感染可能性がある人がいて,現在調査中。」という程度に止め,その人の性別や年齢など個人が特定できる情報は差し控えるべきです。
感染の拡大防止と予防を考えるという観点からすると,可能性という次元での早期発表は当然ありです。しかし,まだ微妙な段階では,まずはその人及びその周辺の調査に止めるべきですから,先の芸能人の結核のような事例でもない限り,事細かに日本中に伝える必要はありません。
むしろ,今のような発表をして,そのまま報道してしまうと,「新型ウィルス上陸」と誤解して広まるおそれがあり,国内でのパニックの誘発や,風評被害など経済上の損失も発生しかねません。また,「無駄な問い合わせ」や「無意味な苦情」が殺到し,通常業務に支障を来すことにもなりかねません。
のみならず,仮にあとで「問題なし」となったとしても,その人は「日本中からレッテル」を貼られかねず,少なくとも調査をした周辺地域の人々からはこの報道を通じて完全に素性が分かってしまうため,その後あらぬ差別を受けかねません。
少なくとも,「あんな騒ぎに巻き込まれたくない」と今回の報道を通じて感じた人もかなりいると思いますが,そうなると,自分が新型ウィルスに感染したかもしれないという症状が発生したとしても,「なるべく穏便に済まそう」と考えて,医療機関等に正確な申告をしないおそれがあります。
そうすると,もし本当に感染していた場合,取り返しがつかないことになります。
2についてですが,高校生の事例では,学校まで取材に行き,記者会見まで開いちゃいました。
これは,1のような「レッテル」や「風評」の問題を増長させるだけです。のみならず,もし,仮にこの高校生が本当に感染していて,既に学校関係者にも感染させていた場合,どう見ても無防備なスタイルで取材をしていた報道陣が「二次感染」をする可能性があり得ます。すると,気に感染ルートが拡大するおそれが出てきます。少なくとも,報道機関が東京にあるということを考えると,マスコミ関係者自身が連れてきてしまったウィルスにより,一気に都心部にウィルスが蔓延するという巨大なリスクがあります。
これは,生物テロの疑いがある場合も同じです。「マスコミ関係者は感染しない」というルールは,自然界には全く存在しないのです。
したがって,報道機関としては,「誘拐報道のような規制」をするべきでしょう。つまり,国などの最新情報は常時入手する必要があるが,現場の取材は,「プライバシー保護」と「自分が感染して被害を拡大させることの防止」のため,制限するべきです。
3については,「高熱が出ても医者に行くな」という話は,今回初めて聞いた人がほとんどなのではないでしょうか。
これこそ,数年前の生物テロ対策で編み出した「隔離政策」の一環で作られた物なのですが,はっきりいうと「作ること自体に意味がある組織」だったため,なぜか多くの自治体では「極秘組織」になっており,住民に公開されていませんでした。
また,現実問題として,一般の人に発熱の区別なんかつきません。しかも,保健所にあるとなると,自分の住んでいる町にあるとは限らず,実際,そこまで行ける人はごくわずかです。そうなると,やはり,普通は「まず医者」に行くでしょう。
また,「救急車」の利用も想定されます。感染症患者を扱う救急車も現状では皆無なので,この対策も考える必要があります。しかし,この辺りの情報もほとんど公開されていません。したがって,やはり普通に救急車を呼ぶ可能性もあり得るでしょう。
以上が特に気になった点です。
とにかく,「被害を最小限」ということが絶対条件ではありますが,そのためには,ウィルスが出てから騒ぐ」のではなく,日頃から「いくつかの危機管理体制を考える」ということが大切だと思います。そして,一番やってはいけないこと,それは「作りっぱなしにする」ことです。
役所としては,「建物」だけでなく,「計画」も,作るだけで終わり,というスタンスだけはそろそろ止める時期だろうなあ,って思わずに入られません。
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