守屋前事務次官夫妻が収賄罪で逮捕されました。
ところで,収賄罪というと「賄賂もらったからでしょう。」という認識は多いかと思いますが,「ところで賄賂ってどういうもの?」とか「賄賂もらっただけで同じ罪になるの」,さらには「公務員じゃないのに賄賂の罪で捕まるの?」などいろいろな疑問をもつ人もいるのではないでしょうか。
そこで,今回は久々のよく分かる(?)シリーズにおいて,収賄罪の概要について説明したいと思います。ただし,中にはいくつか考え方が分かれているものがありますので,ここでは概要の説明という観点から,難しい考え方の違いは特に触れず,基本的には判例の考え方で説明していきたいと思います。
1 収賄罪って何
公務員が,その職務について,賄賂をもらうことをいいます。
ただし,賄賂をもらうという方法にもいろいろな脱法行為があったことなどから,実はかなり罪の種類があります。とりあえず,次のとおりです。
(1) 単純収賄罪
公務員が職務についてとにかく賄賂をもらうことです。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「いつもお世話になってます。これからもよろしくね。」といって渡された現金を受け取る行為があげられます。
(2) 受託収賄罪
公務員が,その職務について賄賂をもらうのですが,その際に請託を受けた場合に適用されます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といって渡された現金を「よしゃ,分かった」といって受け取る行為があげられます。
(3) 事前収賄罪
今は公務員でないものに対し,公務員になった暁にはよろしく頼むといって渡された賄賂をもらうことを言います。
たとえば,市長候補者に対し,道路工事業者が,「市長に当選した暁には,我が社が道路工事を独占できるようにお願いします。」といって渡された現金を,「よっしゃ,任せておけ」といって受け取り,その後晴れて市長に当選した場合があげられます。
(4) 第三者収賄罪
公務員が,その職務に関して,請託を受けて賄賂をもらうが,直接本人がもらわないで第三者に与えるようにした場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といって渡された現金を「よしゃ,分かった。だけど自分が直接もらうとやばいので,私の妻に渡してくれ。」といって事情がよく分からない妻がそれを受け取る行為があげられます。
(5) 加重収賄罪
公務員が,その職務に関して,請託を受けて賄賂をもらい,そのあげくに不正行為をして,または相当な行為をしなかった場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といって渡された現金を「よしゃ,分かった」といって受け取り,そのあげくに入札結果を偽装して,その業者が落札したようにしむけた行為があげられます。
(6) 事後収賄罪
かつて公務員であったものが,在職中に請託を受けて不正行為をしていた場合において,退職後に賄賂をもらった場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といわれて,その通り入札結果を偽装して,その業者が落札したようにしむけた行為を行い,退職後にその業者から「いやあ,助かりました。ありがとうございます。」といって渡された現金をもらう行為があげられます。
(7) あっせん収賄罪
公務員が,請託を受けて賄賂をもらい,他の公務員に対して不正行為をするなどのあっせんをした場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「実は,税金が高いので,安くなるように税務課にお願いできないかなあ。」と依頼し,その依頼を受けて土木課職員が,税務課職員に対し,「あの道路工事業者の税金,安くしてあげてよ」と仲介に入る行為をいいます。
2 賄賂って何?
賄賂とは,金銭に限らず,不正の報酬としての一切の利益をいいます。したがって,現金はもちろんのこと,およそ人の需要や欲望を満たす利益であれば何でも賄賂となります。
例えば,旅行券,芝居チケットはもちろん,飲食やゴルフ接待,さらには風俗店の接待や一般女性を情交目的で紹介するなども賄賂になります。
ここで問題となってくるのが,「謝礼」と「賄賂」の境界線です。
我が国では,伝統的には冠婚葬祭時にいくらか包むという風習があります。これがすべて賄賂となるのかどうか争いがあるところです。
これについては,「社会通例上相当と認められる範囲では賄賂にならない」といわれています。
例えば,公立学校の先生が何人かの生徒に対して授業外に補習授業を実施し,その親が先生に対して謝礼として数万円の商品券を渡した場合,これは社会的に相当といえるために賄賂にならないとしています(ただし,教育委員会の方針ではこのような行為もよろしくないといっていますが,それは別の話です。)。
長くなりそうなので,続きは次回に。
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ところで,収賄罪というと「賄賂もらったからでしょう。」という認識は多いかと思いますが,「ところで賄賂ってどういうもの?」とか「賄賂もらっただけで同じ罪になるの」,さらには「公務員じゃないのに賄賂の罪で捕まるの?」などいろいろな疑問をもつ人もいるのではないでしょうか。
そこで,今回は久々のよく分かる(?)シリーズにおいて,収賄罪の概要について説明したいと思います。ただし,中にはいくつか考え方が分かれているものがありますので,ここでは概要の説明という観点から,難しい考え方の違いは特に触れず,基本的には判例の考え方で説明していきたいと思います。
1 収賄罪って何
公務員が,その職務について,賄賂をもらうことをいいます。
ただし,賄賂をもらうという方法にもいろいろな脱法行為があったことなどから,実はかなり罪の種類があります。とりあえず,次のとおりです。
(1) 単純収賄罪
公務員が職務についてとにかく賄賂をもらうことです。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「いつもお世話になってます。これからもよろしくね。」といって渡された現金を受け取る行為があげられます。
(2) 受託収賄罪
公務員が,その職務について賄賂をもらうのですが,その際に請託を受けた場合に適用されます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といって渡された現金を「よしゃ,分かった」といって受け取る行為があげられます。
(3) 事前収賄罪
今は公務員でないものに対し,公務員になった暁にはよろしく頼むといって渡された賄賂をもらうことを言います。
たとえば,市長候補者に対し,道路工事業者が,「市長に当選した暁には,我が社が道路工事を独占できるようにお願いします。」といって渡された現金を,「よっしゃ,任せておけ」といって受け取り,その後晴れて市長に当選した場合があげられます。
(4) 第三者収賄罪
公務員が,その職務に関して,請託を受けて賄賂をもらうが,直接本人がもらわないで第三者に与えるようにした場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といって渡された現金を「よしゃ,分かった。だけど自分が直接もらうとやばいので,私の妻に渡してくれ。」といって事情がよく分からない妻がそれを受け取る行為があげられます。
(5) 加重収賄罪
公務員が,その職務に関して,請託を受けて賄賂をもらい,そのあげくに不正行為をして,または相当な行為をしなかった場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といって渡された現金を「よしゃ,分かった」といって受け取り,そのあげくに入札結果を偽装して,その業者が落札したようにしむけた行為があげられます。
(6) 事後収賄罪
かつて公務員であったものが,在職中に請託を受けて不正行為をしていた場合において,退職後に賄賂をもらった場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「今度の道路工事,是非とも我が社にお願いします。」といわれて,その通り入札結果を偽装して,その業者が落札したようにしむけた行為を行い,退職後にその業者から「いやあ,助かりました。ありがとうございます。」といって渡された現金をもらう行為があげられます。
(7) あっせん収賄罪
公務員が,請託を受けて賄賂をもらい,他の公務員に対して不正行為をするなどのあっせんをした場合をいいます。
例えば,土木課の職員に対し,道路工事業者が,「実は,税金が高いので,安くなるように税務課にお願いできないかなあ。」と依頼し,その依頼を受けて土木課職員が,税務課職員に対し,「あの道路工事業者の税金,安くしてあげてよ」と仲介に入る行為をいいます。
2 賄賂って何?
賄賂とは,金銭に限らず,不正の報酬としての一切の利益をいいます。したがって,現金はもちろんのこと,およそ人の需要や欲望を満たす利益であれば何でも賄賂となります。
例えば,旅行券,芝居チケットはもちろん,飲食やゴルフ接待,さらには風俗店の接待や一般女性を情交目的で紹介するなども賄賂になります。
ここで問題となってくるのが,「謝礼」と「賄賂」の境界線です。
我が国では,伝統的には冠婚葬祭時にいくらか包むという風習があります。これがすべて賄賂となるのかどうか争いがあるところです。
これについては,「社会通例上相当と認められる範囲では賄賂にならない」といわれています。
例えば,公立学校の先生が何人かの生徒に対して授業外に補習授業を実施し,その親が先生に対して謝礼として数万円の商品券を渡した場合,これは社会的に相当といえるために賄賂にならないとしています(ただし,教育委員会の方針ではこのような行為もよろしくないといっていますが,それは別の話です。)。
長くなりそうなので,続きは次回に。
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