前回に引き続き,政治家の年末年始についてまとめてみます。
4 年始回り
(1) 有権者への戸別訪問
一軒ずつ回り,投票の依頼を行うことは,選挙期間中でなくとも公職選挙法138条に抵触しますので,アウトです。
ならば,投票の依頼ではなく,単に「今年一年お世話になりました。」だけで訪問して回るのはどうなのか,っていうのが問題となりますが,客観的に投票依頼行為とみられるような活動であると,たとえ主観的にそのような意図がなかったとしてもダメです。
例えば,言葉では一切投票依頼をしなかったとしても,選挙ポスターやチラシを配布しながら「選挙近いですねえ。」的なことを言ってみたりすると,それは暗に投票依頼をしていると第三者的に見られても仕方がないので,アウトっていうことになります。また,選挙が来年ある場合に「来年もよろしく」とあいさつするのも,客観的には投票依頼とみられるおそれもありますので,アウトに近いグレーになるでしょう。
(2) 後援会所属者への個別訪問
後援会の会員宅へのあいさつ回りは,「戸別」ではなく「個別」訪問なので,公職選挙法には抵触せず,一応セーフとなります。「戸別」と「個別」の違いは,ざっくりいうと「2軒以上連続して訪問する。」ものが戸別訪問となります。もちろん,「じゃあ,1軒おきに訪問すればセーフなんだ。」っていうのは小学生の理論であり,いうまでもなく戸別訪問になります。一方の「個別」は,特定の家の訪問ということになります。
もちろん,「ならば個別訪問なら何をやっても許される」訳ではなく,ここで投票依頼の話を持ち出すと,事前運動ととらえるためアウトになります。
したがって,個別訪問であっても,そこでできる会話はせいぜい時節のあいさつと世間話程度となります。前述のとおり,「来年もよろしく」は,時期によってはアウトになるかもしれません。
5 政治家宅への訪問客
政治家宅に年始訪問する方も多いかもしれませんが,親族以外の客(有権者)に対し,飲食や酒類を提供すると,これも公職選挙法の利益供与に該当するため,アウトです。
親族以外の客人には,おせちを目の前に水を飲ませろ,っていうことになります。
あれ,あの政治家がよく自宅で新年会やっているってニュース映像が流れるぞ,って思われる方もいるかもしれませんが,あれは前述の「会費制新年会」なので問題ないのです。
6 お歳暮や年始の贈答
政治家が親族以外の人(有権者)に対してお歳暮や年始の贈答をすることは,これも公職選挙法の利益供与になりますので,アウトです。政治家はからっ手ぶらで訪問するしかありません。
また,逆に有権者の方から「お前,手ぶらで来たのか。こういう時は普通何か持ってくるものだろう。」などと言ってお歳暮などを要求することも禁止されております。有権者が求めても,ダメよ~ダメダメ!
7 お年玉
政治家の家族や親族などにお年玉を渡すのはセーフです。
一方,それ以外の客人(有権者の子供など)に対してお年玉を渡すのは,一見すると子供(未成年者)自身は有権者ではないのでセーフとも思えますが,結局その背後に有権者たる親がおり,特にお年玉となると実質的には親のものになることも多い(我が家だけか?)ことからすると,これは有権者への利益供与と判断される恐れも高いため,基本的にはアウトとなるでしょう。
また,仮にグレーであったとしても,常識的にあり得ない金額(例えば,小学生の10万円など)のお年玉を渡せば,それはさすがに利益供与と判断されるので,どのみちアウトとなります。
政治家は,正月は子供から白い目で見られるのが健全な姿なのです。
8 当選御礼や祝賀会等
衆院選が終わりましたが,当選の御礼を言うことや戸別訪問しての御礼,当選祝賀会の開催等は公職選挙法178条すべて禁止されておりますので,形式の如何を問わずアウトとなります。もちろん,落選しても同じです。
ただし,インターネット上で御礼を言うことは,いわゆるネット選挙解禁により,現在はセーフとなっております(公職選挙法178条2号で除外)。
なので,政治家はネット上で丁重に御礼やお詫びのあいさつをしておきながら,一方で直接の対人の席では一切御礼等を言わないという,一見すると義理を欠く態度こそ,公職選挙法が求める姿ということになるのです。
9 初詣
(1) 私人名義による場合
憲法20条で信教の自由もありますので,これはお好きにやってください。
(2) 公人名義かつ公費(税金)を使用する
これは,訴訟にもなっているように,憲法20条3項の政教分離に反するため,アウトとなる可能性が極めて高いです。実際,違憲判決も出ています。
ただし,参加の目的が参拝ではなく,その場所で開催している除夜の鐘やカウントダウンなど,宗教色が限りなく薄れているようなイベントに公人として公費を使って参加するのであれば,おそらくセーフになるでしょう。
ちなみに,この切り分けは結構微妙ですが,最高裁の判例では,宗教行為と言えるか否かは,行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が当該宗教の助長,援助,促進,圧迫,干渉等になるかどうかという視点で判断するとしています(目的効果論。津市地鎮祭事件。)。
したがって,例えば,神社ではない普通の広場で,地元のおじさんが適当にヌシカンさんのスタイルをして,実は普通に酒飲んでいるだけみたいなイベントに政治家が公人として参加するのであれば,そこに宗教的意義もないし,それによって神社を助長などする効果なども全く見られないため,セーフということになると思われます。
(3) 公人名義だが私費を使用する
これは今でも見解が分かれており,グレーと言わざるを得ません。
ただし,前述のとおり,参拝に宗教的意義がなく,かつその効果が宗教の助長等ではないことが明確ならばセーフになるでしょう。
見解の相違はありますが,例えば神社に初詣に行って,お賽銭を投げるくらいであれば,今の日本ではこれは宗教ではなく文化だ,ととらえる人も多いと思いますので,私費であるならセーフになるかもしれません。
いずれにせよ,ここは非常に微妙ですし,一方で公職選挙法とは全く別次元の話です。
(4) 新春祭りの寄付
政治家がお祭りに寄附をすることは,公職選挙法の寄附(199条の2)に該当するため,アウトです。これも,有権者から求めてもダメよ~ダメダメ!
政治家は,新春祭りにもからっ手ぶらでいかなければならないのです。
以上2回に渡って,年末年始における政治家のやっていいこと,悪いことについて説明しました。
活字にすると,非常に通常社会とかけ離れているというか,不義理というか,なんか実情にマッチしていないと感じる部分も多いかと思いますが,この制度趣旨の根底にあるのは,「お金のかからない,きれいで公平公正な選挙の実現」にあります。かつての選挙では,いろんな手段による買収が横行し,そのたびに逃げ道が用意されていたことから,徐々に逃げ道をなくすようにしてきており,それが現在の公職選挙法の規定につながっています。
もちろん,今でもまだまだ逃げ道はありますし,逆にその目的だとしても現実とアンマッチという部分もありますから,今後もっともっと見直す必要があるのは事実です。
とはいえ,少なくとも,同じ土俵で競争するのが公正な選挙でもありますから,政治家はこれをきちんと守ることが最低条件になります。それとともに,有権者もこうしたルールをきっちり理解し,今後政治家を選挙で判断する際の一助にしてもらえればと思います。
一方,政治家の皆様も,抜け道を探そうという姑息なことを考えず,法に従って公明正大に活動をしてもらえればと思います。
そんなわけで,少し早いですが,よいお年を。
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4 年始回り
(1) 有権者への戸別訪問
一軒ずつ回り,投票の依頼を行うことは,選挙期間中でなくとも公職選挙法138条に抵触しますので,アウトです。
ならば,投票の依頼ではなく,単に「今年一年お世話になりました。」だけで訪問して回るのはどうなのか,っていうのが問題となりますが,客観的に投票依頼行為とみられるような活動であると,たとえ主観的にそのような意図がなかったとしてもダメです。
例えば,言葉では一切投票依頼をしなかったとしても,選挙ポスターやチラシを配布しながら「選挙近いですねえ。」的なことを言ってみたりすると,それは暗に投票依頼をしていると第三者的に見られても仕方がないので,アウトっていうことになります。また,選挙が来年ある場合に「来年もよろしく」とあいさつするのも,客観的には投票依頼とみられるおそれもありますので,アウトに近いグレーになるでしょう。
(2) 後援会所属者への個別訪問
後援会の会員宅へのあいさつ回りは,「戸別」ではなく「個別」訪問なので,公職選挙法には抵触せず,一応セーフとなります。「戸別」と「個別」の違いは,ざっくりいうと「2軒以上連続して訪問する。」ものが戸別訪問となります。もちろん,「じゃあ,1軒おきに訪問すればセーフなんだ。」っていうのは小学生の理論であり,いうまでもなく戸別訪問になります。一方の「個別」は,特定の家の訪問ということになります。
もちろん,「ならば個別訪問なら何をやっても許される」訳ではなく,ここで投票依頼の話を持ち出すと,事前運動ととらえるためアウトになります。
したがって,個別訪問であっても,そこでできる会話はせいぜい時節のあいさつと世間話程度となります。前述のとおり,「来年もよろしく」は,時期によってはアウトになるかもしれません。
5 政治家宅への訪問客
政治家宅に年始訪問する方も多いかもしれませんが,親族以外の客(有権者)に対し,飲食や酒類を提供すると,これも公職選挙法の利益供与に該当するため,アウトです。
親族以外の客人には,おせちを目の前に水を飲ませろ,っていうことになります。
あれ,あの政治家がよく自宅で新年会やっているってニュース映像が流れるぞ,って思われる方もいるかもしれませんが,あれは前述の「会費制新年会」なので問題ないのです。
6 お歳暮や年始の贈答
政治家が親族以外の人(有権者)に対してお歳暮や年始の贈答をすることは,これも公職選挙法の利益供与になりますので,アウトです。政治家はからっ手ぶらで訪問するしかありません。
また,逆に有権者の方から「お前,手ぶらで来たのか。こういう時は普通何か持ってくるものだろう。」などと言ってお歳暮などを要求することも禁止されております。有権者が求めても,ダメよ~ダメダメ!
7 お年玉
政治家の家族や親族などにお年玉を渡すのはセーフです。
一方,それ以外の客人(有権者の子供など)に対してお年玉を渡すのは,一見すると子供(未成年者)自身は有権者ではないのでセーフとも思えますが,結局その背後に有権者たる親がおり,特にお年玉となると実質的には親のものになることも多い(我が家だけか?)ことからすると,これは有権者への利益供与と判断される恐れも高いため,基本的にはアウトとなるでしょう。
また,仮にグレーであったとしても,常識的にあり得ない金額(例えば,小学生の10万円など)のお年玉を渡せば,それはさすがに利益供与と判断されるので,どのみちアウトとなります。
政治家は,正月は子供から白い目で見られるのが健全な姿なのです。
8 当選御礼や祝賀会等
衆院選が終わりましたが,当選の御礼を言うことや戸別訪問しての御礼,当選祝賀会の開催等は公職選挙法178条すべて禁止されておりますので,形式の如何を問わずアウトとなります。もちろん,落選しても同じです。
ただし,インターネット上で御礼を言うことは,いわゆるネット選挙解禁により,現在はセーフとなっております(公職選挙法178条2号で除外)。
なので,政治家はネット上で丁重に御礼やお詫びのあいさつをしておきながら,一方で直接の対人の席では一切御礼等を言わないという,一見すると義理を欠く態度こそ,公職選挙法が求める姿ということになるのです。
9 初詣
(1) 私人名義による場合
憲法20条で信教の自由もありますので,これはお好きにやってください。
(2) 公人名義かつ公費(税金)を使用する
これは,訴訟にもなっているように,憲法20条3項の政教分離に反するため,アウトとなる可能性が極めて高いです。実際,違憲判決も出ています。
ただし,参加の目的が参拝ではなく,その場所で開催している除夜の鐘やカウントダウンなど,宗教色が限りなく薄れているようなイベントに公人として公費を使って参加するのであれば,おそらくセーフになるでしょう。
ちなみに,この切り分けは結構微妙ですが,最高裁の判例では,宗教行為と言えるか否かは,行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が当該宗教の助長,援助,促進,圧迫,干渉等になるかどうかという視点で判断するとしています(目的効果論。津市地鎮祭事件。)。
したがって,例えば,神社ではない普通の広場で,地元のおじさんが適当にヌシカンさんのスタイルをして,実は普通に酒飲んでいるだけみたいなイベントに政治家が公人として参加するのであれば,そこに宗教的意義もないし,それによって神社を助長などする効果なども全く見られないため,セーフということになると思われます。
(3) 公人名義だが私費を使用する
これは今でも見解が分かれており,グレーと言わざるを得ません。
ただし,前述のとおり,参拝に宗教的意義がなく,かつその効果が宗教の助長等ではないことが明確ならばセーフになるでしょう。
見解の相違はありますが,例えば神社に初詣に行って,お賽銭を投げるくらいであれば,今の日本ではこれは宗教ではなく文化だ,ととらえる人も多いと思いますので,私費であるならセーフになるかもしれません。
いずれにせよ,ここは非常に微妙ですし,一方で公職選挙法とは全く別次元の話です。
(4) 新春祭りの寄付
政治家がお祭りに寄附をすることは,公職選挙法の寄附(199条の2)に該当するため,アウトです。これも,有権者から求めてもダメよ~ダメダメ!
政治家は,新春祭りにもからっ手ぶらでいかなければならないのです。
以上2回に渡って,年末年始における政治家のやっていいこと,悪いことについて説明しました。
活字にすると,非常に通常社会とかけ離れているというか,不義理というか,なんか実情にマッチしていないと感じる部分も多いかと思いますが,この制度趣旨の根底にあるのは,「お金のかからない,きれいで公平公正な選挙の実現」にあります。かつての選挙では,いろんな手段による買収が横行し,そのたびに逃げ道が用意されていたことから,徐々に逃げ道をなくすようにしてきており,それが現在の公職選挙法の規定につながっています。
もちろん,今でもまだまだ逃げ道はありますし,逆にその目的だとしても現実とアンマッチという部分もありますから,今後もっともっと見直す必要があるのは事実です。
とはいえ,少なくとも,同じ土俵で競争するのが公正な選挙でもありますから,政治家はこれをきちんと守ることが最低条件になります。それとともに,有権者もこうしたルールをきっちり理解し,今後政治家を選挙で判断する際の一助にしてもらえればと思います。
一方,政治家の皆様も,抜け道を探そうという姑息なことを考えず,法に従って公明正大に活動をしてもらえればと思います。
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