大分県日田市では,市役所の職員どおしが結婚しているいわゆる「共働き職員」については,給料を20%削減するという条例案を提出するそうです。目的は,市職員に対する給与が高いことへの批判対策と財政削減にあるようです。
<給料削減>共働き職員の給料2割削減 大分・日田 (毎日新聞)
あのー,これって憲法違反じゃあないのかなあ??
市長の提案趣旨は分かります。どうせ,市民から「市役所の職員は高い給料もらっているくせに,ろくに仕事しないやつばかりだ。しかも夫婦で給料もらっているとは何事だ」などという批判が多かったのでしょう。
しかし,この条例はさすがにまずい。例えば,共働きの職員の仕事を2割減らすから給料2割削るというのはまあ分からないこともないのですが,平たく言えば,同じ仕事をしているのに給料が違うわけですから,明らかに不平等です。
ざーっと考えてみて,この条例の問題点は,次のとおりです。
1 法の下の平等(憲法14条)に反する
今述べたように,同じ仕事をしているのに,給料が違うというのは,合理的区別を越えた明らかな「差別」になります。また,同じ共働き家庭でも,例えば隣町の市役所職員と結婚している場合は給料が削減されないという状態になるため,共働き夫婦間でも差別が生じることになります。
このことは,男女で定年年齢が違うという労働規約が憲法14条の趣旨に反して違法とした日産自動車事件や伊豆シャボテン公園事件と類似した状況にあるといえるでしょう。
2 労働基本権(憲法28条)に反する
公務員に労働基本権があるのかという基本的な問題があるのですが,それはともかく,全農林警職法事件で述べられたような「勤務条件法定主義」の考え方からすれば,条例で差別しても勤務条件は法定化されているということもいえるかもしれません。
しかし,ここでいう法定化とは,適正な法によるという前提にあるところ,1のとおり14条違反の可能性が極めて高い条例では,勤務条件法定主義の前提を欠き,許されないと言う可能性が出てきます。
3 婚姻の自由(憲法24条)に反する
この条例により,間接的ではありますが,「市役所職員どおしで結婚するとデメリットが発生する」という心理状態が働くことになります。したがって,自由な婚姻に対する制約が発生したとして,24条に反する条例であるということも可能かもしれません。
4 男女共同参画の精神に反する
男女共同参画社会は,男性も女性も等しく社会で働ける環境にあることという前提であり,男女差別が発生しないような社会環境整備の計画を市町村に義務づけています。
今回の条例は,男女とも給料が下がるので男女差別はないような気がしますが,共働き家庭自体に対する制約であり,これを解消するためには,どちらか一方が退職するしかないわけですから,結局のところ,男女共同参画社会の精神に大きく反してしまうことになります。
結果的に,仮にこの条例が施行されたとしても,職員から条例の無効確認と未払い賃金の支払い請求訴訟が提起された場合,市が敗訴する可能性が高く,結果的に余計な出費(弁護士費用や未払い分の金利5%など)となる恐れすらあります。
では,市長としては,どう対応するべきだったのでしょうか。
考え方としては,「全体の人員を削減する」か「全員の給料を一律削減する」か「昇進昇格基準を明確にして,徹底した人事の透明性を図る」ことが第一だったのではないでしょうか。
また,市役所職員同士の共働きが税金泥棒的な発想が起きる背景事情をよく検証してみる必要があるでしょう。例えば,銀行員どおしの共働き家庭に対して,「給料泥棒」という批判はあまりありません。なぜ,銀行員の事例の場合にはあまり批判が起こらないのでしょうか。単に税金か否かの違いだけでしょうか。いや,そうではないはずです。
一方で,この批判を避けるために,例えば共働きの一方を退職させるというのは,前近代的発想であり,問題の根本的解決策ではありません。
こういう点の検討をすることなく,職員の共働きをピンポイントで狙い撃ちするようでは,まだまだ本気で行財政改革のことを考えていないのでは,という気がしました。
頑張れ,日田市長!!
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あのー,これって憲法違反じゃあないのかなあ??
市長の提案趣旨は分かります。どうせ,市民から「市役所の職員は高い給料もらっているくせに,ろくに仕事しないやつばかりだ。しかも夫婦で給料もらっているとは何事だ」などという批判が多かったのでしょう。
しかし,この条例はさすがにまずい。例えば,共働きの職員の仕事を2割減らすから給料2割削るというのはまあ分からないこともないのですが,平たく言えば,同じ仕事をしているのに給料が違うわけですから,明らかに不平等です。
ざーっと考えてみて,この条例の問題点は,次のとおりです。
1 法の下の平等(憲法14条)に反する
今述べたように,同じ仕事をしているのに,給料が違うというのは,合理的区別を越えた明らかな「差別」になります。また,同じ共働き家庭でも,例えば隣町の市役所職員と結婚している場合は給料が削減されないという状態になるため,共働き夫婦間でも差別が生じることになります。
このことは,男女で定年年齢が違うという労働規約が憲法14条の趣旨に反して違法とした日産自動車事件や伊豆シャボテン公園事件と類似した状況にあるといえるでしょう。
2 労働基本権(憲法28条)に反する
公務員に労働基本権があるのかという基本的な問題があるのですが,それはともかく,全農林警職法事件で述べられたような「勤務条件法定主義」の考え方からすれば,条例で差別しても勤務条件は法定化されているということもいえるかもしれません。
しかし,ここでいう法定化とは,適正な法によるという前提にあるところ,1のとおり14条違反の可能性が極めて高い条例では,勤務条件法定主義の前提を欠き,許されないと言う可能性が出てきます。
3 婚姻の自由(憲法24条)に反する
この条例により,間接的ではありますが,「市役所職員どおしで結婚するとデメリットが発生する」という心理状態が働くことになります。したがって,自由な婚姻に対する制約が発生したとして,24条に反する条例であるということも可能かもしれません。
4 男女共同参画の精神に反する
男女共同参画社会は,男性も女性も等しく社会で働ける環境にあることという前提であり,男女差別が発生しないような社会環境整備の計画を市町村に義務づけています。
今回の条例は,男女とも給料が下がるので男女差別はないような気がしますが,共働き家庭自体に対する制約であり,これを解消するためには,どちらか一方が退職するしかないわけですから,結局のところ,男女共同参画社会の精神に大きく反してしまうことになります。
結果的に,仮にこの条例が施行されたとしても,職員から条例の無効確認と未払い賃金の支払い請求訴訟が提起された場合,市が敗訴する可能性が高く,結果的に余計な出費(弁護士費用や未払い分の金利5%など)となる恐れすらあります。
では,市長としては,どう対応するべきだったのでしょうか。
考え方としては,「全体の人員を削減する」か「全員の給料を一律削減する」か「昇進昇格基準を明確にして,徹底した人事の透明性を図る」ことが第一だったのではないでしょうか。
また,市役所職員同士の共働きが税金泥棒的な発想が起きる背景事情をよく検証してみる必要があるでしょう。例えば,銀行員どおしの共働き家庭に対して,「給料泥棒」という批判はあまりありません。なぜ,銀行員の事例の場合にはあまり批判が起こらないのでしょうか。単に税金か否かの違いだけでしょうか。いや,そうではないはずです。
一方で,この批判を避けるために,例えば共働きの一方を退職させるというのは,前近代的発想であり,問題の根本的解決策ではありません。
こういう点の検討をすることなく,職員の共働きをピンポイントで狙い撃ちするようでは,まだまだ本気で行財政改革のことを考えていないのでは,という気がしました。
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