「あれ?」
野々野小頭の目には知らない天井が映ってた。それに……だ。それに何やら知らない……いや、最近はちょっとカギ馴れてた薬臭いような……そんなにおいが鼻をくすぐるってるような気がしてた。
「小頭ちゃん!! よかった!!」
「わっ!? ちょ――なによ一体? てか、あんまり引っ付くな」
そういって塩対応する野々野小頭。けどそんな風に言われて手で頭をぐいぐいとされても、草陰草案は野々野小頭の首に手をまわしてて離れようとはしなかった。それどころか――
「ぐすっ――よがった――よがったよぉ」
――とかいって泣いてる。ボロ泣きである。はっきり言って野々野小頭的には鼻水とか涎が自身に流れてきてないか心配だった。
「よかった。本当に」
そんな声を発したのはアンゴラ氏だ。彼は野々野小頭の足先の方にいて立ってた。それから――何やら騒がしい音が響いてさらに三人入ってきた。
「目が覚めたのか!!」
「おおお! よかった」
「いい実験になった」
「「おい!?」」
大川左之助、東海道馬脚、朝日倉三はそれぞれの言葉を投げかけてきた。最後の朝日倉三の言葉は冗談なのかなんのかよくわからない。なにせ一定のテンションで言ってたからだ。でも入ってくるときは三人ともに前のめりになって入ってたからきっと心配してたはずだ。
だからもしかしたら今のは朝日倉三なりの場を和ませるためのジョークだったのかもしれない。
「えっと、すまん。俺たちのせいだ……俺たちの家に君が……いや女性が入ったから……」
「うん? あの……一体全体……何がどうして私は……ここは病院ですよね?」
「覚えてないのか? いや、それはそうだな。仕方ない」
大川左之助の言葉に困惑気味にそう返す野々野小頭。彼女は現状を理解してない。野々野小頭が目を覚ました事に安心しきってた面々だが、この野々野小頭発言で「そういう事もあるよな」と納得した。だから代表して大川左之助が何があったのか――それを話そうとしたとき、泣いてた草陰草案がガバッと起き上がって野々野小頭の肩をつかんで一息に言ってのけた。
「小頭ちゃんは刺されたんだよ! おなかとかいろんな所を何回も女に刺されて血まみれだったんだよ!!」
「え? ……あ……わた――しっ――」
思い出したのか、野々野小頭の体が震えだした。それを抑えるためのなのか、体を抱えるようにして縮こまる野々野小頭。そこに草陰草案が被さってこういった。
「大丈夫……もう大丈夫なんだよ」
それは今まで聞いたことないような草陰草案の優しい声だった。それに触れ合う肌の暖かさ……自身の無くなっていくぬくもりを感じた今、野々野小頭はそれがとても心地よい……と感じた。