「草陰さん!」「握手お願いします!!」「俺はサインを!」「草案ちゃん! 怪我しちゃったよ! 直して!」「ふざけんな! 俺が先だ!!」
何やらすごいことになってる。沢山の人だかり、その中心には中学校の制服に身を包んだ草陰草案の姿がある。そして更に言うと、草陰草案と人だかりを隔てるためのゴツい人達。
あれは所謂、ボディガードというやつである。SPといってもいい。そんなのが草陰草案にはついてた。でもそれもしかたない。なにせ……だ。なにせ登校するだけでこれなのである。
「あふー、大変だよ小頭ちゃん~」
そう言って野々野小頭の教室にやってきて抱きついてる草陰草案。それに厄介そうな顔をしてる野々野小頭である。
「こんなのわかってたことでしょ?」
「でも……想定以上だよ」
確かに……と野々野小頭は思う。ちらっと教室から外を見れば、敷地内には入ってこないが、学校を取り囲むように人がいっぱいいる。それは取材であったり、ただの野次馬だったり……それはまだいいが、けが人とか、病気持ちの家族がいる人とか、断りづらい理由を持ってる人達もいる。
更には草陰草案を神と崇めてるような人々が日々増えてる。なにせ本物の『奇跡』を行う少女である。担ぎやすいんだろう。さらにいうと、その行為を誰もが認めてる。その力を誰もすでに否定できなくなってる。
今や草陰草案は本物の『奇跡』を行使できる少女なのだ。神の御使いとか一部界隈では言われてる。草陰草案は仏教徒のはずだが、キリスト教とかの人達から『彼女こそ教皇にふさわしい』とか『キリストの生まれ変わりだ!』とか言われてたりする。
過激派は草陰草案の身柄の確保を狙ってるらしい。まあだからこそのボディガードである。今も教室の外に屈強な男たちが立ってる。そして時々教室の草陰草案をみて、インカムで何やら話してる。きっと逃走経路の確保とかしてるんだろう。それか周囲に危険人物がいないとか報告しあってる。
「けど嫌じゃないんでしょう?」
「……ふふ」
さっきまでシクシクとした演技をしてた草陰草案だが、野々野小頭のその言葉でニヤッと口角を上げる。そこには別に全然疲れたような顔なんてない。むしろ、草陰草案は今まで一番いい肌の具合をしてると野々野小頭は思った。それに人前に出るからか、化粧だって今までよりももっとちゃんとしてる。
「それはね。だって、皆私の事崇拝してるし感謝されるし、それに……ニヒヒ――」
そう言って嫌な笑みを浮かべる草陰草案。そう言って取り出した草陰草案の力の下である黄色い石……それにはいつの間にか外枠が出来上がってた。そしてなんなら、その外枠がめっちゃ豪華絢爛。メインとサイドが入れ替わってない? と野々野小頭は思った。
それだけ様々な宝石がその外枠には入ってた。眩しい。
「――ガッポガポだよ。今の私なら湯船をお金で埋め尽くすなんて簡単だよ」
めっちゃやらしい事を言ってくる草陰草案である。
(こいつを信奉してる人達はいますぐ目を覚ました方がいいね)
野々野小頭は心のなかでそう思った。